トム・リドル育成計画!   作:寺町朱穂

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〇1939年6月~7月 忍び寄るもの

●1939年 6月×日

 

 嫌だな。

 本格的に軍靴の音が聞こえてくる。

 

 最初の週の土曜日には徴兵令的な法案が出された。20歳と21歳の男性に適用されるみたいだから、トムには関係ないし、トムが20歳になる頃には戦争が終わっているから軍事訓練に参加することはないのだろうけど……これって、「もうすぐ戦争になりますよ」って暗に言っているようなものじゃん。

 昨日の新聞では、空軍も女性の補助部隊も創設されるみたい。

 私? 絶対に参加しないよ。グライダーを飛ばすくらいはできるけど、十数年もやってないし、いまのイギリス空軍に参加するほど命知らずではない。間違いなく撃墜される。そうなったとき、トムが一人ぼっちになってしまう。そもそも、チェコの子の里親になると決めたのだから、母親役不在は絶対的にNGだ。

 

 ロンドンの劇場で爆発事件も起きるし……いざとなったら、トムはおばあちゃんの家に疎開させる。だけど、コッツウォルズもロンドンからそこまで離れてないし、もっと田舎へ行かせるべきなのかな?

 私も疎開しようかな。

 だけど、あまり現実的ではない。おばあちゃんの家からでも仕事はできるけど、おばあちゃんは高齢だし、あまり長居するのも申し訳ない。やっぱり、どこか地方に新しい家を借りるべきなのかも。

 

 嫌な事件は続く。

 例えば、天津事件も起きた。

 日本史の授業で習った以来だったから、思い出すまでに時間がかかったけど……英国の租界で起きた問題なので、新聞ではかなり大きく取り扱われている。日中戦争も長いよな……日中戦争が起きて、すぐに真珠湾だった気がするけど、2年も離れている。数字で覚えるのと体感するのとでは、全然異なる……すでに辛い。

 

 ジョナサンのこと……こちらも進展がない。

 ジョナサンの新しい両親――つまりは祖父母とは手紙で連絡を取り合っている。何度も手紙を通して「ご家族でロンドンに亡命しませんか? 当面の住居は無償で用意しますし、仕事も探します」と呼び掛けているのだけど、こちらへ避難するつもりはさらさらなさそうだ。どうやら「我々が迫害されるのは、大昔からあることだ」と例えるなら嵐が過ぎ去るのを待つスタンスらしい。ただ今回は一般的な嵐ではなく、何万人と命を落とすことになる大災害級の嵐なのだが……それを自覚している人が少なすぎる。

 もっとも、避難とは根こそぎ生活を捨てることだ。

 すでに高齢だというのに、慣れ親しんだ住居や言語、生活を捨て、新天地でやりなおすなんて軽々しく考えることはできない。彼らが躊躇してしまうのも無理ないこと。さて、どうやって説得しよう……こういうとき、自分の頭の悪さが嫌になる。相談する相手もいないし、誰も相手にしてくれない。そもそも、フランスが一矢報いる隙もなく完全敗北することになるとは、難民救助活動している人ですら考えていないのだ。

 

 ドイツ軍がフランスに攻めて来てからでは容易に出国できないし、占領されてからは敵国に逃げるなんて不可能だというのに……。

 

 

 ……ようやく日記を書ける時間ができたけど、なんだか暗い話題になってしまった。気持ちが落ち込んでいく。

 明るいことを考えよう。

 もうすぐ、「三本の箒」で音楽グループ「死喰い人」の演奏会だ。招待状も届いた。普通の白い便箋に書かれていて、「闇の印」らしき模様が見当たらないことに安心……。

 

 きっと、トムがお世話になっている人たちも来るであろうから、手土産の菓子折りでも用意した方がいいかもしれない。ダンブルドアにはレモンキャンディーだとして、他の人たちも同じものでいいかな? うーん……でも、純血の知り合いも多いみたいだから、マグルの店で購入した品は受け入れてもらえないかも。

 

 あとはスラグホーン。お世話になっているだろうし、原作や映画から察する性格上、ちゃんと手土産を用意しておかないと……原作で甘い物が好きだった気がする。だけど、なにが一番の好物だったっけ……? 次の手紙でトムにさりげなく尋ねておくことにしよう。 

 

 

 

 

 

 

●1939年 6月△日

 

 スラグホーンの好物は、パイナップルの砂糖漬けだと判明した。

 そういえば、そんなこと原作で書いてあった……いま思い出してどうするのだ。もっと早くに思い出したかったよ……。

 トムも私がスラグホーンに手土産を用意しようとしていることを察してか、手紙の締めにはこのような一文が綴られていた。

 

『そういうのはいいよ。気にしなくて大丈夫だからさ』

 

 気にしなくても大丈夫と言われても、気にするのが私である。

 

 とりあえず、ちょっと高級な果物店へ駆けこんだ。一番高そうな――というか、パイナップルは基本的にそれなりの値段がするけど、とにかく品質の良さそうなものを購入する。パイナップルなんて初めて買ったけど、これが結構重い……散財したから根性で地下鉄乗り継いで帰ったけど、タクシー使えばよかったかな。

 あとは、レモンキャンディーとチョコレート系の輸入菓子を用意する。文句言われたり受け取り拒否されたら、自分で食べれば良い。陰で処分されたら、それはそれで仕方ないと割り切ろう。

 

 あと帰り道、雰囲気の良さそうな雑貨屋で小指サイズの鈴を見つけた。

 ピューター製の鈴の雑貨で、鈴の上に紳士風の猫がちょこんと立っている。しかも、ヴァイオリンを弾いているのだ。どことなく背伸びした猫の雰囲気がトムっぽくて、思わず買ってしまった。

 

 作業用机に飾って、眺めているだけで癒される……。

 よし、今日の日記は終わり!

 さっさと仕事に戻るかー!

 あと大きな仕事が2つ残ってるから、さっさと終わらせなくちゃ!

 

 

 

 

 

 

 

 

●1939年 7月〇日

 

 「三本の箒」でのライブは大成功!

 

 っていうか、これはロックだよ!!

 

 少なくとも、彼らの奏でる音楽は――歌はこの時代における既存のそれではない。

 

 まずは、トムのヴァイオリンの独奏から始まった。

 当然のように、「三本の箒」にたまたま来ていた客たちの目を惹きつけたあと、ロジエールによる歌が始まった。

 そう、ロジエールの歌声!

 ちゃんと食事をとっているのかと心配するくらい線の細い体型なのに、圧倒的な歌唱力は見事なものだった。いったい、あの小さな身体のどこから声を出力しているのだろう? と思うほど響く歌声は一般のお客の注目を維持し続ける。彼女は魂を揺さぶられるような声で、ドロホフの書いた詩を歌いあげる。

 端的に表現すれば、ひたすら暗い詩だ。

 極寒のロシアを描写しつつ、世界に対する諦観、恨みや憎み、怒りといった感情を重めながら綴られている。こういう詩を書くとき、どうしても厨二病っぽくなるものだが、自分に酔っている言い回し感は薄く、荒削りながらも幻想的に詩にしようと努力しているのが伝わってきた。

 

 全部は覚えていないけど、一部だけ書き出してみる。

 

《すべては無言だ。果てしなく広がる鉛色の空も、限りなく降り積もる灰色の雪も、千の針を纏った極寒の風も、何も語らない。ひたすら無言で訴えてくる。お前はちっぽけな存在だ。小枝を振り回したところで、運命を変えることなどできない。無意味なのだ。さっさと諦めろ。――それでも、俺は杖で火を灯す。何度吹雪にかき消されようとも、お前らなどに俺の生き方を譲歩するものか》

 

 たしか、こんな感じ。

 ……うん、やっぱりちょっと厨二臭がするかもしれない。まあ、12歳の男の子が書いたにしては上出来だ。

 しかし、それなりに悲嘆的な歌詞にもかかわらず、不思議と曲調はラグタイムやジャズのように明るくて聴きやすい。韻も踏んでいるし、口ずさみたくなる程度には親しみが持てた。

 

 これは……完全に時代を先取りしている。

 

 彼らがメインとする楽器はヴァイオリンだけど、これは間違いなくロックだ。

 

 さて、トムのヴァイオリンは、ますます磨きがかかっていた。

 ロジエールが歌っている間は邪魔にならない程度の大きさに抑え、間奏になった途端、トムの神技法がさく裂する。ジョナサンが書いた楽譜を見せてもらったけど、ジョナサン……随分とトムを信じた作曲をしたものだ。素人目から見ても、プロでも難しいことを要求されている。というか、これを弾ける人はそうそういないのではないだろうか。彼の頭のなかはどうなっているのだろう……? そもそも、トムはどうやってあの音を出したんだ? 重厚な音色から軽快な調子、弾かれたような演奏――それらを顔色一つ変えず、一瞬で転調していく。指と弦だけで、一体どうやったの……? ってレベル。

 これでも、トムに言わせれば「まだまだ全然。僕が目標とするヴァイオリニストの足元にも及ばない」のだから、いったいどこを目指しているのだ……と、若干恐ろしくなった。

 

 アルファードのピアノもたいしたものである。

 あそこまでヴァイオリンが完璧に演奏しようものなら、ピアノの音色は霞んでしまう。実際に霞んでいたが、ちゃんと伴奏の役割は果たしていた。ロジエールの歌とトムのヴァイオリンを引き立てる――それも、終始楽しそうに。

 これはなかなかできることではない。

 トムがプロの演奏家と協演するたび、大人たちは難しそうに顔をしかめて必死に弾いている。トムの演奏に負けないように、頑張っているのが伝わってくるときがあった。

 ところが、アルファードは笑顔だった。

 重荷から解放されたように晴れやかな顔で、ときどき身体を揺らしながら弾いている。完全に添え物なのに、あそこまで吹っ切れて楽しめるのは――大人でも厳しい。何気ないことだけど、これはとても凄いことなのだ。

 

 結論、「死喰い人」は魔法界を揺るがす音楽バンドである。

 たぶん、このままマグルの世界で売り出しても流行る。ただ、そうなると音楽史がガラリと変わってしまうことになるだろう。そりゃ、ロックの出現がちょっと先倒しになっただけかもしれないけど、マッシュルームヘアのバンドとか女王陛下の名を冠したグループに影響が出てくること間違いなしだ。それは、なんだか惜しいような気がするので、どうか魔法界だけで流行って欲しい。

 

 「三本の箒」は歓喜の渦に包まれていた。

 スタンディングオベーション。もともと「死喰い人」の演奏を聴きに来た人も、たまたま居合わせた人たちも誰もが夢中になって手を叩いていた。マグルの演奏会と違うのは、観客たちがその場で花を造り出したり、感激の火花や紙吹雪を散らしたりしていたことだろう。いやー、さすがは魔法使いである。

 

 トムたちはステージで嬉しそうに笑っていた。

 ドロホフだけ演奏に参加しておらず、ずっと前の席の端っこに座っていたけど、トムとアルファードが彼をステージの中央に引きずり出し、「僕たちの偉大なる作詞家」と紹介してもらっていた。ドロホフは顔を真っ赤に染めたものの、まんざらでもなさそうな顔で拍手喝采を浴びていた。

 

 なんというかさ……涙腺が崩壊しそうになった。

 トムに良い友達ができて良かった、と心から想う。名前こそ「死喰い人」だけど、中身はまったく別物なのだと確認することができた。本質が原作と同じ「死喰い人」だったら、トムは自分の神演奏でロジエールの歌をかき消していただろうし、ドロホフをステージに立たせなかったはずだ。アルファードも楽しそうに伴奏に徹することなどできなかったかもしれない。いや、そもそも――マグルの友だちに作曲を頼まないか。

 

 トムたちの周りには、大人もホグワーツ生も波のように押し寄せる。

 ちょっとしたお祭り騒ぎで、近づける空気ではない。

 

 もう少し熱狂的な雰囲気が冷めてから、トムに言葉をかけに行こう――そんなことを考えていると、また背後からの視線を感じた。どうせ、なにもないのだろうなと思いながら振り返り――はたっと一人の男と目が合った。帽子を被った厳つい顔の男で、うっすらと底意地の悪さが滲み出ている。どこかで見覚えがあるような気もしたが、あまり思い出せない。相手の男はといえば、私と視線が合ったことに気づくと、にやっと口の端を持ち上げる。私の方に歩み寄ろうとしたみたいだったけど、すぐに急用を思い出したかのように背を向け、逃げるように「三本の箒」から出て行った。

 

「あれは……?」

「リドル夫人」

 

 その人の名前を思い出そうとしていると、ダンブルドアの声が降ってきた。

 

「ダンブルドア教授!? いつからこちらに?」

 

 つい先ほどまで、ダンブルドアはいなかったはずだ。

 開演する前に、トムがお世話になっている人には一通り挨拶をすませ、手土産を渡すことができた。あとは、ダンブルドアだけで何度も探したので、彼がいたら気づいていたはずである。

 

「演奏は聴いていたよ。こちらに来るまでに、少々時間がかかってしまったが……」

「そう、でしたか……あっ、いつもトムがお世話になっております」

 

 そう言いながら、鞄に入っていたレモンキャンディーの袋を取り出した。

 

「これを配っているのかい?」

「いえ。学生の皆さんには、デパートで購入したお菓子を。スラグホーン教授はパイナップルの砂糖漬けが好きだと聞きましたので……えっと、他のお菓子がよかったでしょうか?」

「いや。これは大好物だからね。ありがたく受け取っておく。それにしても……彼の好物がパイナップルの砂糖漬けだとよく気づいたものだ」

「実は……トムに頼んで、事前に聞き取り調査を」

 

 私は控えめに笑ってみせた。

 

 スラグホーンの反応は予想通りだった。

 彼は私からの贈り物を受け取ると、心地よさそうに機嫌よく笑った。

 

『パイナップルの砂糖漬けは私の大好物でね。ありがたく頂戴するよ。さすがは、トムを育て上げた親御さんだ。こうした細やかな心遣いが、トムの成長に繋がったのだろう』

 

 スラグホーンとは、それから少しだけお話をした。とはいっても、ほとんど聞き役だったけど。「いままでスラグ・クラブに所属した生徒のなかでも、トムは五本の指に入るほどの人材」だということにさらっと触れたあと、「スラグ・クラブOBの輝かしい進路」や彼が教えた著名人の逸話を聞かせてもらった。演奏開始の合図が鳴らなければ、だらだらと長々続いていたに違いない。

 

 まあ、そういう話を聞かせても良いと思われる程度には、気に入られたのだろう。

 うん、そう思いたい。

 

「トムがお世話になっている上級生の子たちにも、お菓子を受け取っていただけて一安心ですわ。ホグワーツの学生さんたちは、みなさん行儀が良いですね」

「それだけ、あなたの息子さんが慕われているということだ」

「そうかもしれませんわ」

 

 私は頬笑みを浮かべた。

 アブラクサス・マルフォイを含めたスリザリン生も多くいたが、私がトムの母親だと気づくと一瞬、ほんの一瞬だけ嫌な顔をしたもの、笑顔で受け取っていただくことができた。……彼らはいわゆる上流貴族だから、貴族の嗜みでありありとした嫌悪感を前面に出さなかったのかもしれないけどね。

 

「あなたは気遣いが上手い」

 

 そんなことを考えていると、ダンブルドアがこんなことを言ってきた。

 

「アラスターにチョコを渡すとき、その場で試食してみせたのも……彼の性格をトムに聞いていたのかい?」

「……手紙でいろいろ教えてくれますから」

 

 言い訳のように答えたけど、笑顔が強張ってしまう。

 いや、だってさ……実際、トムの手紙にはムーディの奇行の数々が綴られている。必ず他の人が手をつけたものを皿に取り、さらに匂いを嗅いでから食べる。飲み物も自分のボトルを持ち歩いていると聞いた。

 うん、アラスター・ムーディなら奇行にも納得だ。

 だから、お菓子はその場で封を開けて、ひとつだけ先に食べることにしたのだ。おかげで、受け取って貰えた。

 

「それを言うために、こちらに?」

「……いや。例の予言の話だ」

 

 ダンブルドアは私から目を逸らし、トムたちの方へと視線を向けた。

 

「今回の演奏会で、トムは音楽の力を証明した。音楽の前では、純血も半純血もマグルも関係ないことを示してしまった。それを良く思わない魔法使いも多いだろう」

「……そうですね」

 

 この事態に対し、アブラクサス・マルフォイのように純血主義の生徒たちも熱狂していることが珍しい。普通に考えれば、彼らの音楽を認めずに納得しないだろう。トムの音楽は、彼らの普通を塗り替えるほど強力なのだ。そう考えると、ちょっと怖いかもしれない。例えば、グリンデルバルドはこれを良しとしないだろうなーと考えた瞬間、ダンブルドアは横目でこちらを見下ろしてくる。

 

「グリンデルバルドは既にトムの存在に気づいている」

「えっ!?」

「ベルリンでクリーデンスと会ったことがあったはずだ。あのときのクリーデンスには監視の目がついていた――私を殺す任務を果たせるか、見張るために。クリーデンスは知らなかったがね」

 

 あのとき、他に視線は感じなかった。

 私はクリーデンスと遭遇できたことに興奮して、まわりをそこまで気にしていなかったのだ。もっと気を張っていれば……監視の存在に気づいたかもしれない。

 

「あのときから、グリンデルバルドはトムの存在を頭の片隅に置いている。そして、いまは脅威だと感じているはずだ」

 

 愕然としてしまった。

 ダンブルドアから目が離せなくなってしまう。あまりにも衝撃的すぎて、わずかに震えた声でこう尋ねるのが精いっぱいだった。

 

「トムは……グリンデルバルドから命を狙われている?」

「いや、あなただ」

 

 ダンブルドアは声を潜め、囁くように告げた。

 

「あなたを失えば、トムは絶望し、すべてがひっくり返ると考えている。先ほどの男は、グリンデルバルドの刺客だ。ガナー・グリムソン……賞金稼ぎとして有名だった男で、てっきり死んだと思われていたが……グリンデルバルドの支持者として知られている」

「グリムソン……」

 

 ここで、私の記憶が繋がった。

 さっき目が合った厳つい男は、ファンタビの2でクリーデンスを襲っていた魔法使いだった。ニュートが侮蔑するような悪い魔法使いで、そういえば透明になって壁と一体化して襲いかかっていたような……と、ここまで思い出したとき、背筋がさあっと冷えた。いままで何もないと思っていた方向からの視線は、あいつから向けられていたのだ。

 

「もしかして、たったいま死の危機に瀕していた感じですか?」

 

 気がつけば、鳥肌が立っていた。ざらざらした腕をさすりながら尋ねると、ここでようやくダンブルドアが微笑んだ。

 

「君は殺されない。あの家にいる限りはね。外出するときは、護衛が守っている」

「……申し訳ありません」

「謝る必要はない。ただ、伝えておいた方が良いと思ってね」

 

 ぽんっと肩に手を置かれる。

 ダンブルドアの手は、思ったよりも温もりを感じた。

 

「引越しを検討しているなら早めに連絡を入れて欲しい。そうだな、ニュートに伝えるのが一番だろう。ナティでも構わない」

 

 添えられる手は温かいのに、ますます身体が内から凍えていく恐怖に襲われる。

 どうして引っ越すか否かを悩んでいること、知っているのだろう? そもそもの理由が空襲から身を守るためだから、誰にも相談していないのに……。

 この人は、どこまで見通しているのだろう?

 

 グリンデルバルドとは別のベクトルで……この人は恐ろしい。

 

 

 まさか、この日記を読まれている?

 こっそり忍び込まれているのか!? ってか、ダンブルドアは私の日記が読めるの!? これ、ローマ字で書いているのに!? ダンブルドアって日本語できるの!?

 

 

 いや、冷静になれ。

 普通に思考を読まれているのだ……私、閉心術なんて使えない。

 少なくとも、ダンブルドアが私がただのマグルではないと確信していると考えて、まずは間違いないだろう。ただ……今日の反応からして、ダンブルドアがトムを闇落ちさせ、ヴォルデモート卿爆誕からの英雄ハリー・ポッターの誕生を望んでいるようには思えない。

 どちらかといえば、グリンデルバルドが危険。

 グリンデルバルドはトムの闇落ちを望んでいるっぽいから。

 

 

 それにしても、私……よく自宅に帰って来れたものだ。

 ダンブルドアが現れなければ、背後からグリムソンに殺されてたかもしれない。嫌だな……いまも見張られているのかな。カーテンの向こうにいるのかな?

 

 

 あまり考えないようにしても、命を狙われているなんて気持ちの良い話ではない。

 そもそも、私なんかいなくなったところで、いまさらトムの精神に影響が出るとも思えないのだ。トムの周りには、理解のある友人たちがたくさんいるのだから……。

 

 ……ただ、私がここで命を落としたら、トムはガランサス夫人か例のリドル家に引き取られることになる。それは極めて悲惨だ。どう考えても、悪い方へと転がっていくのは明白である。

 

 うーん……里親になろうと決めていたけど、預かった子に危険が及ぶのであれば諦めた方がいいのかな。私が死んだら元も子もない。トムがホグワーツから戻ってきたら、一緒に誰を迎え入れるか相談しようと思ったのにな……。

 

 

 私が亡くなったときに備え、遺書の準備だけしておくか。

 

 

 

 

 

 




<補足>
〇グリムソンについて
 映画の舞台裏を扱っている「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生 魔法アーカイブ」によりますと、グリムソンは既に亡くなっているそうです。ですが、明確な死因が明らかになっておらず、本編でも彼の退場について詳細な言及がされていません。
 今作では「あのとき以来、姿を見せなかったから死んだと思われていたけど、実は生存していた」という説をとっています。
 あらかじめ、ご了承ください。



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