トム・リドル育成計画!   作:寺町朱穂

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〇1931年5月 ヒマワリが芽吹くとき

●1931年 5月△日

 

 

 思い出した!!

 ずーっと、セイラムの魔女裁判がひっかかってたけど、ようやく思い出した!!

 

 

 ファンタビの最初の作品で「新セイラム救世軍」とかいうのが登場していた!

 いやー、思い出せてスッキリした!

 

 たしか、マグルの女性が率いる魔法使いや魔女を排除する団体だったはず。現代風の魔女狩り団体って奴だ。物語のラストで、暴走したクリーデンスによって壊滅させられてしまう。

 

 クリーデンスの養母と義姉が死んだあと、後を継ぐような人はいない。

 

 ファンタビ1巻のラストシーンを思い出したので、そこから特定できるかもしれないけど、魔法使いによっていろいろと改ざん――もとい、魔法の存在を隠すENDだったこともあり、あの事件が起きた日にちを調査するのはすごく難しいのだ。

 これから起きる事象なら「ニューヨークに記録的大雨が降った」日を待てばいいが、過去にさかのぼるとなれば、大雨は大雨でもどの大雨なのか分からない。

 

 議員の息子が亡くなったような気がするけど、魔法で別の理由での死因になっている可能性が高いと思う。さすがに、死者蘇生はできないから、死んだ事実は変えられない。でも、議員が「息子の死因を追求する!」とかいって魔法の存在を嗅ぎつけたら、どこまでも面倒だろうし……死因の記憶改ざんは別途してそうだ。

 

 

 他に、変えることのできない事実であり、変える必要性のない事実――それは、すでに消滅した団体の存在くらいしかない。

 後継者もいない団体だし、活動内容も「現代の魔女狩り」というもの。

 普通の人は魔法の存在を知らないし、映画でも興味なさそうな人が多かった。

 

 だから、新セイラム救世軍の活動を辿ることができれば、いまが、ファンタビ以前なのか以後なのか探ることができる。

 

 

 問題は、新セイラム救世軍の足取りをたどること。

 私はロンドンから離れられないし、アメリカまで行くお金もない。そろそろ本格的に世界恐慌が訪れるだろうし、これからはトムの養育費も必要になってくる。

 

 

 

 あーあ! 本当、もっともっとハリポタに浸っていればよかった!!

 きっちり年代を覚えていれば、こんなことに頭を悩ませなくてもよかったのに!!

 

 

 ニュートの家を探して、様子を探るっていうのも考えたけど、これも現実的ではない。

 ファンタビ2の感じだと、ロンドンにあるっぽいので、トムと出かけるたびに街並みを確認はしているけど、ロンドンってそれなりに広い。東京に住んでいるという情報だけで、住まいを特定するのは難しいのと同じである。

 

 

 

 だめもとで、リドルの親戚に手紙を出してみようか。

 アメリカに渡ったわけだから、調べやすいかもしれない。

 

 

 でも、私の頼みを聞いてくれるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

●1931年 5月×日

 

 エンパイア・ステート・ビルが完成したらしい。

 

 

 いやー、古い建物だってことは知ってたけど、第二次大戦後に建築されたんだと思っていた。エンパイア・ステート・ビルは2000年代になってもバリバリ現役のビルであり、ニューヨークの象徴として活躍しているんだから、なんだか不思議な感じがする。

 

 

 

 世界的なニュースなわけだが、トムはあまり興味がないらしい。

 

「ビックベンを4つ重ねたくらいの高さのビルができたのよ」

 

 新聞に掲載された長さから計算して話してみたけど、トムはふーんっと言った。

 

「そんなことより、これを見てよ!」

 

 トムの手には、ひまわりの種が握られていた。

 ベランダのプランターに植えようと思って、このあいだ買っていたものである。

 

「いくよ」

 

 トムはひまわりの種に目を落とした。

 すると、黒い種の端っこからにょきにょきっと若々しい芽が生えてきたのである。

 

「まあ!」

 

 私は目を見張ってしまった。

 「魔法を使ったのだ」とはすぐに分かったけど、実際に目の前で魔法を見ると興奮する。

 

 

「トム、ちょっと待って!」

 

 緑の芽がどんどん伸びていく様子を見て、ちょっと思いついたことがあった。

 トムはせっかく披露した魔法を止められたこともあり、嫌そうに眉間に皺を寄せたが、わかったと肩をすくめる。

 

 私は急いでプランターと土を持ってきた。

 

「ひまわりの種を植えよう!」

 

 新聞紙を床に敷きながら言うと、トムはさらに不快そうに顔を歪めた。

 

「よごれるからイヤだ」

「ねぇ、トム。あなたは魔法の力をもっと試したいのよね?」

 

 トムは嫌そうな顔のまま頷いた。

 ここのところ、トムは本を読むか魔法を試すかのどちらかしかしていない。

 

 

 部屋で本を浮かしてみたり、ノートにペンを使うことなく文字を書いては消したり……。

 まるで「自分の力はどこまで可能なのか」を試そうとしているみたいだ。

 だから、私はふてくされている男の子に対し、こんな言葉を投げかけることにした。

 

「種を植えた状態で、同じことができるか……やってみない? これはね、とっても難しいことだと思うの。だって、手を触れずに発芽させるんだから」

「やる!」

 

 トムの表情は一変した。

 黒い瞳をぎらっと輝かせ、挑戦的に笑う。すぐに、スコップを手にし、プランターに土を入れようとする――が、トムはすぐに何か思いついたように悪戯っぽく笑うと、スコップを置いてしまった。

 

「ねぇ、この土もうごかせるよ」

「絨毯を汚さないようにね」

 

 トムは得意げに鼻を鳴らすと、両手を土に向けた。

 土はさらさらと宙に浮かび上がり、ゆったりとした動作でプランターへと注がれていく。トムはかなり集中しているらしく、いつになく鋭い目つきで土を運搬していた。

 確かにすごいことだが、4歳の男の子にプランターへの土入れをさせているのは、大人として申し訳なくなってくる。

 

「手伝おうか?」

「いらない。僕一人でやる」

 

 その言葉の通り、トムは最後までやりきってしまった。

 絨毯はもちろん、プランターの下に敷いた新聞紙にさえ、土の粒ひとつたりとも落ちていない。

 

「すごい……まったく汚れてない!」

「とうぜんだ!」

 

 トムは胸を張っていた。

 

 

 

 いや、待て待て待て!!

 いま思ったけど、よくよく考えなくても凄すぎじゃない!?

 

 だって、ハリポタ全編を通して、ハリーを含めた魔法使いは杖を使っていた。杖を使わず魔法を行使する場面なんて、滅多に出てこなかった。あったとしても、魔法の暴走として描かれていたように思える。だから、たぶんだけど、杖を使わないと魔法を使うことが難しいのだろう。

 しかしトムは魔法の訓練を受けたわけではないのに、独学で杖を使わずに魔法を完璧に使っているのだ。「物を動かすだけ」という簡単な魔法かもしれないけど、4歳の男の子が杖なしで成し遂げたということが凄すぎる!

 

 さすがは、トム・リドル。

 将来が末恐ろしい……自分が保護者として良い方向へ育てることができるのか不安になってくる。どこまでいっても、私は魔法を使えない。トムからすれば、私なんて平凡なマグルに過ぎない。

 

 

 うぅ、頑張らなければ……!!

 

 

 ……と、よけいなことを考えてしまった。

 話を元に戻すとしよう。

 

 

 その後、私はトムと一緒にひまわりの種を植えた。

 トムとしては、植えることも魔法でやってみたいという気持ちがあったようだが、私が「全部が全部、トムに任せるのは申し訳ない。一緒に植えたいし、そのつもりで購入した種なのだ」と主張した。トムは難しそうな顔で黙り込んでしまったが、ややあってから「わかった」と了承してくれた。

 私はトムと一緒に種を植えた。トムは――あまり、楽しそうではなかった。トムはちいさな指で土に穴をあけ、爪ほどの大きさの種を埋めていく。土が指に触れることを嫌がっているようにさえ感じた。

 

 

「ごめんね、無理やりやらせちゃって。私、一人でやるわ」

「いいよ。あとすこしだし。それに――これでじゅんびができた!」

 

 トムは最後まで植えきると、満足げにプランターを眺めた。だけど、よっぽど土が嫌だったのか、すぐに魔法を使わず、ハンカチで指を拭いたあと、土を動かしたときみたいに手をかざす。退屈そうな種植え作業とは打って変わった真剣な目で土を見つめ、念を送るように手に力を込めた。

 

 しかし、なかなか芽は出ない。

 

 実際に触れていないこと、土を運ぶよりもずっと高度な魔法であることもあるのだろう。

 トムの額には、次第に汗が浮かび始めていた。絹糸のように細く繊細な黒髪も逆立ち始め、マグルの私でさえ、空気が得体のしれない力(たぶん、トムの魔力)で肌がひりひりと痺れ始めたのを感じた。

 

「トム」

「はなしかけるな!」

 

 トムは叫んだ。

 

「あと、すこしなんだ!」

 

 トムはそう言うが、私には土のなかを透視することができないので、本当のところどうなのか分からない。

 

 でも、最初に提案したのは私である。

 

 魔法で種から芽が出た瞬間、日本人として「いつか見たかった光景が実現できるのでは?」と思ってしまったのである。

 

 

 そう! 「となりのト●ロ」の名シーン!

 大きな妖怪が女の子のつくった畑に魔法をかけ、不思議な踊りをしながら、植えた種を芽吹かせ、成長させていくシーンだ。あれみたいに、ぽんぽんぽんっと芽吹く光景が見られるのではないかと考えてしまったのだ。

 

「芽が出るように、こうやって手を動かしてみたら?」

 

 私はそう言いながら、アニメの彼女たちがやったように一度踏ん張ってから、ぐっと手を伸ばして見せた。トムはちらっと私に目を向ける。よほどイラついているのか、黒い眼の奥に赤い光が見えたような気がする。そんな馬鹿らしいことをやってられるか! と思っていたのかもしれない。

 

 ……って、いま思い返せば、赤い光って、かなり危険だったのかも。

 そうとう怒っていたのかもしれない……。

 

 

 だけど、この時の私は気づかなくて、小さく縮こまってから、ぐうっと伸びをするのを繰り返していた。

 

「……」

 

 

 トムは額に汗を浮かべたまま、ちいさく舌打ちをした。

 そして、どこか投げやりに――足を屈め、縮こまると、背伸びをするように思いっきり手を伸ばした。

 

 

 ぽつん。

 

 

「「出た!!」」

 

 

 トムと歓喜の声が重なった。

 

 ぽんっと、若々しい双葉が地面から顔を覗かせたのである!!

 

「よしっ!」

 

 

 トムはガッツポーズをしていた。いままでのヒリついた空気はまたたくまに晴れやかなものに変わり、ずっと過ごしやすいものになっていた。

 

「えいっ!」

 

 彼は嬉しそうに、何度も何度も伸びをした。その都度、ぽんっぽんっと芽吹き、ますますトムの笑顔が深まった。えいえいっとさらに伸びをすれば、少しずつヒマワリも成長していく。

 その姿は、とても無邪気で可愛らしい。楽しく魔法を使う姿は、4歳の男の子らしい姿に見えた。

 

「えいっ! えいっ!」

 

 私も一緒になって、背伸びをした。

 

「アイリスには魔法はつかえないよ。これは、僕の魔法だ」

「知ってるわ。でも、こうすると――私も魔法を使えているような気がして!」

 

 それからは、2人して夢中になって伸びをした。

 

「はっー! つかれた!」

 

 ヒマワリはぐんぐんぐんと茎をのばし、葉を生やし、大輪の花を咲かす頃――トムは伸びをした体勢のまま倒れ込んだ。

 

「トムっ!?」

 

 私が慌てて駆け寄ると、トムは大丈夫と笑って見せる。顔から汗を流し、はぁはぁと息をする姿からは非常に疲れていることが感じられたけど、それ以上に、眩しいくらいの笑顔を浮かべていた。

 

「どうだ、アイリス! 僕はすごいだろ!」

「ええ、とても凄いわ! 私、感動した! ありがとう、トム。私の意見を聞いてくれて」

 

 トムの額を拭いながら、心からの言葉を口にする。

 だって、トムが私の話を聞いてくれなかったら、土を移動する魔法も土から芽を出す瞬間も見れなかったわけだ。一緒に動いて、自分も魔法を使っているような喜ばしい気持ちになることもなかった。

 

「でも、無理させちゃったかもしれないわ。大丈夫?」

「むりなんか、してない」

 

 トムはそう言っても、起き上がろうとはしない。

 

「いま、貴方に必要なものはベッドのようね」

 

 私はトムを抱きかかると、彼の部屋へ運ぶことにした。

 トムは当初、かなり嫌がって逃げようと手足をじたばたさせたが、無理やり抱え込み、部屋に連れていった。

 私はトムをベッドに寝かせると、なにか食べたいものはないか尋ねた。

 

「……アイリスのつくったものならなんでも」

 

 頭まで毛布をかぶり、ぼそっと呟かれた言葉は、もともと魔法を疑似体験したことで高揚していた心にさらに火をつけた。

 だって、トムの顔は毛布のせいで見えなかったけど、黒髪の隙間から見えた耳は真っ赤に染まっていた! 恥ずかしくて顔を隠しているのが丸わかりで、それがあまりにも可愛らしくて……!!

 

 

 くー、もっと語彙力が欲しい!!

 

 なにかに火が付いた私は、ついつい調子に乗って普段以上に料理を励んでしまった。

 

 

 カツレツにコテージパイやローストしたチキン、野菜たっぷりのサラダ、リンゴのメレンゲも作ったし、ヴィクトリアケーキまで焼いてしまった。

 これには、私も反省。

 本当はトライフルやショートブレッドも作ろうとしていたし、貴重な米を炊こうとすら考えていた。

 

 でも、これは断念。

 ヴィクトリアケーキの生地を木べらで混ぜていたとき、美味しい香りに気づいたのか、起きてきたトムに、ほとほと呆れた顔で言われてしまった。

 

「こんなに食べきれない」

 

 って。

 

 そりゃそうか。

 

 

 パーティーのような料理の量に、私も苦笑いで返すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 でも、魔法を使えたみたいで楽しかったなー!

 

 

 

 

 

 

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