TS転移した男が中華マフィアの総帥に寄生しつつ異人町で生活する話   作:めいでん

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極がSwitchで発売されるの嬉しすぎる
(スジモンとドラゴンカートは許されたのか…?)


28 お久しぶりです

 

 

「秘密兵器が2個あるんです。蔵出しっすよ」

 

 

「秘密兵器と言われてもよ」と怪訝そうにしているマスターに対し「まあまあ、見てくださいよ」とおれは吹かした。

 

 自信満々のおれだったが、周りは興味もないらしい。

 どうやらおれに期待するものはいないようで、各々好きなことをして過ごしている。マスターは食器を磨いているし、店長は店から持ち出した荷物の確認、先生はカウンターに並べられた酒瓶をうっとり眺めている。

 関心を持ってくれたのはいろはちゃんだけだった。「え、なんだろ! 気になるなぁ」と瞳を輝かせてくれている。優しい……。

 

 おれはポシェットの中から紙箱を取り出すと、トンとテーブルの上に置いた。開けて中身をひっくり返すと、なんの変哲もない鉛筆がパラパラと転がり落ちてくる。

 

 

「これが秘密兵器第1号の鉛筆です!」

「百均に売ってそうだねぇ」

「まあ、ガワは百均のと同じなんすけど。でも、これはなんかスゴいチカラが宿ってるんですよ。よく分からないけど、スピリチュアルなパワーが!」

 

 

 うう、説得力が皆無なのが自分でも分かる……。

 完全に呆れているマスターはともかく、いろはちゃんですら苦笑いを浮かべていた。

 

 

「マルチにでも引っかかったんじゃねぇだろうな」

「テレビで流れてるうさんくさそうな通販かも」

「貰い物なんで騙されてるわけじゃないっすよ」

 

 

 置かれていた紙ナプキンを引っ掴むとおれはクルクルと鉛筆を回した。

 ろくに授業を受けてこなかっただけあって我ながら結構な腕前だ。問題を解くには紙に鉛筆と相場は決まっている。

 

 

「試しにマスター、適当にクイズ出してください。絶対におれが知らないようなやつ」

「絶対に、か。ならこんなのはどうだ?」

 

 

 そう言ってマスターは棚から小箱を取り出すとおれの目の前で開けてみせた。……ピアスじゃないな、イヤリング?

 華やかな見た目をした装身具はマスターとはミスマッチな代物だ。誰かへの贈り物なのかなあ。

 

 

「昔、押し付けられてな。誰から貰ったか当ててみるといい」

 

 

 まさかの貰った側だった!

 見るからに女性用、しかもヤングなアーバンガール向けである。マスターにこれを渡そうと思った人は勇者だな……。

 

 おれは鉛筆をもうひと回しすると紙ナプキン(回答用紙)に向き合った。何もない白地にボンヤリと光る文字が浮き上がる。やっぱりだ。この作戦、いけるぞ!

 

 

「ええっと、『町内会のクリスマス会で貰ったもの』……らしいです。『プレゼント交換会で、スナック嬢が用意したギフトが当たった』」

 

 

 柏木さん、町内会の行事に参加するんだ……。

 元ヤクザだし、コワモテだけど。思ったよりも陽気な人なのかもしれない。

 

 

「なんで分かったんだ? エスパーか?」

「似たようなもんですね」

 

 

 おれは持っていた鉛筆を置いて、少し叩くように指差した。

 

 

「この鉛筆を使うとどんな問題の答えも分かるんです。解答が頭の中にぱあっと浮かんできて。スゴいでしょ。全ての謎が解けるんすよ」

 

 

 産み出した当の本人は気づいてなさそうだったが、これは世界がひっくり返るほどの劇物だ。

 リーマン予想あたりのミレニアム問題だって、ラマヌジャンの如く解き明かせる。まさしく神の啓示に等しいものだ。

 

 

「だから、これを使って『趙さんを無事に助ける方法』……なんて問いを解かせたら一発ってわけですよ」

 

 

 これは本来おれなんかが持っていい代物ではない。

 おそらくは、春日さんのために(SEGA)によって作られた(創造された)サポートアイテムだ。

 

 

「そんな便利なものがあるなら逃げる前に教えてほしかったですね。ここに来るまでの間、いちいちハラハラしながら隠れてたのに」

「おれも今さっき思い出したんで勘弁してください」

 

 

 ため息をつく店長に平謝り。手のひらを合わせて拝んでから、少しばかしの言い訳を続けた。

 

 

「それに、このチカラ、1本につき1回しか使えないみたいで。あんまり無駄遣いできないんすよね」

「マスターのクイズに使っちゃうのはいいんだぁ」

「必要経費っすよ。だって、実際に披露しなきゃ信じてくれませんもん」

 

 

 信じてもらえるかは賭けだったけどね……。

 スプーン曲げも空中浮遊も、インチキだった世の中だ。鉛筆頼みの念視なんて普通の人なら真っ先にトリックだと思うに違いない。

 でも、ここには普通の人は誰一人いない。

 元極道にマフィアの身内。いろはちゃんも、平然とマスターと共に仕事ができる胆力の持ち主だ。

 社会から外れて生活していると、常識の枠も簡単に取り去ることができるのかもしれない。

 

 

「お前がやけに自信があるわけが分かった。オカルト染みてやがるが、確かに応用が効きそうだな」

 

 

 マスターはグラスに酒を注ぎながら言った。

 荒唐無稽なおれの話にも、少しは納得してくれたらしい。

 

 

「だが、いくらなんでも横浜流氓の巣へろくな装備もなく乗り込むのは無謀だぞ。上手く助ける『方法』が分かったとしても、それを正確に『実行』できる保証はどこにもねえ」

 

 

 とマスターは渋い顔を浮かべている。

 

 

「この店も護身用の(チャカ)が数えるほどしかなくてな。すまねえが貸すことはできん」

 

 

 銃、今も持ってるんだ。しかも何丁も店にあるんだ……。

 さすがは大量に反社が居座る異人町である。この街には大使館よろしく、治外法権が適用されているのかもしれない。

 

 

「そこで登場するのが秘密兵器第2号っすよ。とっておきの切り札です!」

「そういえば、武器の当てがあると話してたな。一体なんだ?」

「知り合いのコネです。正直使いたくなかったですけど、背に腹はかえられないっすね」

 

 

 しかも、今度は鉛筆と違って上手くいく保証は全くない。

 なんせ相手は生身の人間だし、会ったのだって1度だけだ。横浜流氓のことは全然よく思ってないだろうし、門前払いされかねない。

 

 それでも、可能性があるなら当たるべきだ。

 

 おれはポケットから財布を取り出すと、1枚の紙をカウンターに置いた。箔が押された代紋がなんとも楽しそうに煌めいている。印字されている黒文字は、その字体以上に重苦しい圧を放っていた。

 

『横浜星龍会 若頭 高部守』

 

 

「餅は餅屋すよ。カチコミなんて初めてですし、現職のプロに当たるのが1番です」

 

 

 マスターは名刺を目に入れると、酒をいじる手をぴたりと止めた。

 

 

「お前、星龍会とも繋がってたのか。とんだ狸だな」

「右腕は造反。愛人はスパイ。趙さん、周りに裏切り者が多すぎますよ」

「まあまあ、結局みんなグルだったんすから」

 

 

 それに、高部さんとの繋がりなんて趙さんやソンヒさんと比べたら微々たるものだ。ほとんどゼロと言ってもいい。

 せいぜい、舎弟の学力アップに貢献したお礼にハムをもらったり、車で送ってもらったり、死体の片付けを手伝ったり、人を殺すところを目撃したり。うーん、趙さんたちよりよっぽど秘密を共有している気がしてきた……。

 

 

「高部さんには個人的な貸しがあるんで。電話かけて頼んだら、カチコミ用の武器やら防具やら、ちょっとくらい融通してくれないかなあと思いまして」

「えっとぉ、佐野ちゃん。なんて言うか命知らずって感じ?」

 

 

 苦笑いを浮かべるいろはちゃんに加勢するように「個人的な貸しと言ってもだな」とマスターはため息をついて言った。

 

 

「現状、横浜流氓(お前ら)の内輪揉めで星龍会がとばっちり食らってるわけだろ。貸しなんざ、よっぽどのもんじゃなきゃそれで吹っ飛ぶんじゃねえのか」

「恩を返させるどころか老马が暴れた分を請求されるよ。賭けてもいいです」

 

 

 星龍会からしたら、ヒラとはいえ構成員が殺されたうえに、異人三のマッチポンプを勝手に暴露された挙句、内乱まで起こされたわけだ。

 ……ガチャ切りされても文句は言えないな。おれが高部さんの立場だったら、怒りのあまり横浜流氓に殴り込みに行くところだ。

 

 おれはみんなから目を逸らしながら、スマホに指を滑らせた。番号を打ち込んで少し待つと、画面の向こうのスマホを鳴らす音が聞こえる。1コール。2コール。3コールめに差し掛かろうというところで、突然ブツっと音が止んだ。

 

 

『誰だ』

「お、お久しぶりです。高部さん。1年ぶりです」

 

 

 うう、自分でも声が震えているのが分かる。

 低い男の声に気圧されながら、矢継ぎ早に「覚えてますか? 佐野です、あの。バッティングセンターで、お会いした」とおれは続けて言った。

 

 

「その、コウジさんにも。いつもお世話になってました」

 

 

 おれがヘイコラ話しても通話先は沈黙を保ったままだ。

 マズイ。やらかした。

 つい昨日、コウジは横浜流氓に殺されたんだ。久しぶりの相手に出す話題にしては、デリカシーがなさすぎる。

 

 おれがワタワタと焦っていると、高部さんはひと言だけ『覚えてるよ』と呟いた。

 どうやらガチャ切りの危機は免れたらしい。ホッと胸を撫で下ろしつつ、おれは高部さんに話を振った。

 

 

「星龍会も、さっきまで大変だったって聞きました。高部さんは無事なんですか?」

『星龍会は横浜流氓(お前ら)とは違え。親父(トップ)(右腕)が揃っていれば、あの程度の混乱ならすぐに方がつく』

 

 

 確かに、電話の向こう側からは物音ひとつ聞こえてこなかった。

 マスターが言ったとおり、星龍会での動乱はとっくに落ち着いているのだろう。極道の縦社会はマフィアよりもよほど強固なものらしい。

 

 

『御託はいい。なにが目的だ? 用がなきゃ、俺に電話なんざ掛けねえだろ』

 

 

 高部さんは長い息を吐くと、おれの言葉を待っているようだった。タバコを吸っている間に早く話せとでも言いたいのだろう。

 

 

「お世話になってる人がいるんです。その人が今、横浜流氓に捕まってるんです。それを、どうにかしたくて。高部さんの力を借りたいんです」

 

 

 おれと趙さんの関係は高部さんにも筒抜けだったらしい。

『趙天佑か』と呟いてから、少しも申し訳ないと思っていない素振りで『お前には悪いが』と高部さんは断りを入れた。

 

 

『俺はあの野郎は死んでもいいと思ってる。長年邪魔だったしな。それこそコウジのこともある。あの男が部下をコントロールできてたら、コウジは死なずに済んだ。俺はなあ、あいつのこと結構可愛がってたんだよ』

 

 

 高部さんはしみじみと思い出に浸っているようだった。感慨深そうに話す声色からは威圧感が抜け落ちている。

 高部さんは舌打ちすると、そっと極道の仮面を被り直した。画面越しにパチパチと火花が散る音が聞こえてくる。

 

 

『だが、このまま馬淵と近江に好き勝手されるのも気に入らねえ。星龍会としても、趙が総帥でいた方が都合がいいのもまた事実だ』

 

 

『なにせ貴重な共犯者だったみてえだからな』と高部さんは少し嫌そうに言った。

 たとえNo.2であっても、異人三の真実は寝耳に水であったらしい。よくもまあ、組織の長同士だけでここまで隠し通せたものである。

 

 

『多少の力なら貸してやる。うちの会長もそう言うだろう』

「ありがとうございます!」

『おい、あくまで多少だ。落ち着いたとはいえ、うちもまだまだやる事が残ってるんでな』

 

 

 ヤクザのバックアップがもらえるなんて成果としては十分だ。

 あまりにも広い懐に思わずおれは涙した。星龍会の代紋は、もしかしたら仏様に差し込む後光を表していたのかもしれない。

 

 鼻をすするおれに対して『で、総帥夫人はどんな計画を立ててるんだ?』と高部さんは声を緩めて言った。茶化されているのか嫌味なのかが分からない、絶妙に突っ込めないボケだなあ。

 

 

「はい。護身用の武器を貸してほしいんです。あと、体を守れる……チョッキとか」

『ああ、別にいいぞ。裏切り者から取り上げた分がちょうど今余ってやがるからな」

「助かります。なるべく早く奴らのアジトに乗り込もうと思ってるんで、すぐ借りに行ってもいいですか?」

 

 

 電話の先から『あ?』とひと言。それから『お前が直接乗り込むのか?』と高部さんは訝しげな声を出した。

 

 

「ひとりじゃないですよ、3人で行きます。一緒に逃げてきた趙さんの仲間が2人いるんです」

「私はここから動く気はないですよ」

「……2人で行きます」

 

 

 店長、ちょっとは頼りにしてたのに!

 救いを求める目で先生を見ると、先生は指を合わせて丸を作った。

 どうやら着いてきてくれるみたいだ。ステゴロがモノを言うこの世界で頼りになるのは、古牧師匠よろしく、やっぱり武術の達人である。

 

 3人でゴタついている間に、ぐだぐだな空気が星龍会まで伝わっていたらしい。『お前、本当に勉強できるのかよ』と呆れたように言ってから、高部さんはたっぷりとため息をついた。

 

 

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