ぼっち・ざ・ろっく! Another 後藤ふたりと本物の音 作:りら_らるらりら
──非常に、ひっじょ〜に困っている。
「いいでしょ! 後藤さん、お願いよ!」
あの後、ライブも終わって。わざわざ楽屋まで来てくれた結束バンドメンバーにsanseongのみんなが大興奮したりそれに調子に乗ったお姉ちゃんが人生初の投げキッスとかしたり色々、まあ、結束バンドのいつものわちゃわちゃがあって。『せっかくだから打ち上げしよー!』と虹夏さんの提案で、ファミレスでもいこうかな、何を食べようかなと閉店後のSTARRYを出たところで、だった。
まさか出待ちとは。
しかもこんな時間まで?
てか、同じ学校の制服。
もう熱心なファンとかのレベルでもなかった。結束バンドのファン二号さんを思い出す。
どうしよっか。
それなりにギタリストやって来て、ド下手ながらファン数はそれなりにいるつもりだ。もちろん10人もいないけど、流れのギタリストでやってるのに固定のファンがいたりするのはそれなりに鍛えているボーカルの腕によるものなのかもしれない。というか、まあ、十中八九そうだろう。ギターの音色も個性あるけど、普通の人はそんなのわからない。歌声に関しては、実際色々好みとかあったりするし。そういうわけで、追っかけ、はさすがにないがライブでよく見る客の顔とかはあったりする。んだけど。さすがに出待ちは予想外だ。しかも女の子。いかにもな地雷系ファッションだったり、バチバチのバンギャ風って訳でもなく、普通に清楚なお嬢様って感じの。
ていうか、どうすればいいのかわかんない。演奏終わりでお腹が減ってるのもあって、回らない頭にこれ以上負荷をかけたくもない。
「あー、えっと。もう夜も遅いしさ。明日学校で話そうよ。制服同じみたいだし。
アタシ、一年三組だから。昼休み、お茶でも飲んで話でもしよう?」
「一年三組ですね! 分かりました! 明日、必ずね!」
しつこいくらいに念押ししてくるお嬢様(推定)。若干引き気味に返事をすると、クルリと踵を返し、御機嫌よう、一言残してスキップで帰っていく。嵐みたいなヤツだ。というか、結局用事はなんだったんだ? 伝わってくる圧が衝撃的すぎて何も聞いていなかった。
「ふたり、今の話……受けるの?」
お姉ちゃんが聞いてくる。知らないよ。聞いてなかったんだから。まあどうせバンド組んでくれとかそんな感じかな。うん、それならいい。正式加入は無理だけど、サポートでなら日程があえば基本受ける。
「受けるって決まったわけじゃないけど。
話くらいなら聞いてあげないこともないかな」
「そそそそうなんだ……。ふたりが……」
なんか含みのある言い方をするお姉ちゃん。陰キャだから、ではないどもりよう。最近──具体的には三年くらい前から、こういう時お姉ちゃんが何を思っているのか分からない。アタシの前であんまりギターも弾いてくれなくなったし……。
「打ち上げトトスでいいかな?」
「さんせーでーす」
まあいいかと思った。お腹すいたし。予約を入れてくれる虹夏さんに感謝して、でもお腹すいたからコンビニいきたい。
sanseongと結束バンドを実際に会わせてもよかったのか? アタシは考える。昨日のアレは打ち上げというより単なるファンミーティングになってしまったから。結束バンド的には、まあ、ファン一号二号さん以外のファンとはあまり交流もないだろうし良かったのかなとか思っちゃうけれども。下北沢に限っては決して少なくないファンを持つ結束バンド目当てでアタシに群がられても困る。まあ、sanseongには全くそのつもりはなくても、この先色んなバンドでやってくにあたっての話でもあるし。
アタシが特定のバンドを組まずに流れでずっとやってるのは理由がある。というか、まあ理由もなければバンドも組まずにギタリストなんてやってられない。そこまでぼっちな訳でもないし。
アタシは進路を音楽方面に定めているわけでもなく、趣味でギターを触っているだけ。その過程で、上手くなるために色々なバンドで経験を積んでいる。言うまでもなく、バンドなんてみんなが上を目指している。つまりはメジャーデビュー。そんな中具体的にやりたいことも決めないアタシが正式加入というのは失礼だし、いざデビューとなったとき戸惑ってしまう。と思う。
『バンドって第二の家族みたいな気がしない?』
喜多ちゃんはそう言っていた。感情的なものを差し引いても、それはある意味正しい。音楽で生計を立てる以上はバンドメンバーは欠けてはならない家族のようなもの。そんな存在が、アタシにいるか?
確かに、バンドはデビュー目的の人達だけじゃない。趣味として楽しむだけの人たちも大勢いる。でもそういう層って大抵演奏のレベルも低いし向上心も薄く、とりあえずギター担いでればモテるんでしょみたいな人達しかいない。たまに高い技術を持った人がいたとして、あまり音楽に対する価値観とかスタンスが会わなかったり。
もしバンド組むとすれば歳や性別は気にしないけど、まあ、自分のニッチから遠ければ遠いほど話は会わなくなるのは道理だ。
アタシの考え方も少し特殊かなとは思う。お姉ちゃんがギターやってるしお父さんもギターやってたらしいから音楽を始めることが自然な流れだったが、普通の人はギターなんて始めようと思って始めるものだ。そりァそうだと思う。ギターなんてある家の方が少ないだろうし、買おうと思えばそれなりの値段がする。『気がつけばギター始めてたけど音楽好きだしやめる理由もない』なんてかなり少数派で。その癖音楽に対する意識だけは高い。自分で分かってはいるんだけど、中途半端な音を聞くとどうしても我慢できない。言わずもがな、これはギター限定。
と、まあ。
そんな事を考えながら、学校のお昼休みを過ごす。理科準備室。アタシも所属する科学部の部室でもあるそこは、実質的には部員達のたまり場、休憩所のようになっている。
「……という訳で、わたくし、後藤さんのギターに一目惚れしてしまいました」
「そ、あんがとね」
決して広くもない室内には他の部員もチラホラ居たりする。机を並べて昼を食べたり、持ち込んだ私物でゲームしてたり。アタシみたいに、ちょっと人の多いとこではしにくい話などにも最適な場所。
で。
今日一緒にお昼休みを食べてるのは、一学年上の先輩。
「わたくし普段はEDMやJPOPなど聴いているのですけれど、たまにああしてライブハウスやコンサートホールなどで生音を集めに行くんです。
あの日もたまたまピアノのコンサート帰りで……。当日券は少し割高ではありましたが、それ以上の価値はありました! ふたりさん、いえ、FUTARI様! あなたの演奏は本当に素敵でした。今まで様々なジャンルの音楽を聴いてまいりましたが、昨日受けた衝撃はそのどれよりも美しいものでした!
さみしさと危うさを共存させる日本刀のような切れ味のある音色に、錆びついた天使のラッパを思わせる歌声……。わたくしはもう、ステージ上で声をあげて泣くあなたに恋をしてしまいました。今まで聞いてきたどんな楽器でもあれほど心震わせる音は出せません。勝手に声をかけてしまって申し訳ございませんが、どうかあの時のことをお許しください」
──マジか。
そう思った。
や、確かに相当なファンだなーとは思ったしそんなにアタシの演奏が気に入ったなら話くらいはしてやるか、とは思ってはいたけど、まさかこれほどとはね。小さくため息を漏らす。日本刀だか天使のラッパだか知らないけど、なんでそんな独特なほめ方ができるんだろうか。文系になればアタシもそんな語彙力身に着けられるだろうか? 語彙力を抜きにしたって褒めすぎだろと思う。もはやあまりうれしくないぞ。
「クラシックとか好きそうな見た目してるけど……」
「派手な格好とかは苦手で……。よく言われます」
口元に手を当てて笑う女初めて見た。
私の周りだとSTARRYのPAさんがそのタイプだけども、彼女の場合舌のピアスを隠すためであって別に清楚だからでは無い。
じっと彼女を見つめる。ふむ。
ハーフなのか、いかにも地毛なくすんだ金髪、灰色の大きな目は僅かに青みがかっている。スっと通った鼻筋、小さく薄い唇。思いっきり外人顔なのに、なぜだか日本人形のような印象を受ける不思議な顔。首は意外と太い。ピシリと伸びた背筋はアタシの前だからでは無いだろう。胸はアタシの方がある。腰は細い。お尻も小さい。ていうか、手足も何もかもが細く華奢だ。確かに、その手じゃパソコンのマウスくらいしか触れないだろう。箸より重いものを持った経験がないと聞いても驚かない体躯だ。
これで好きな音楽はEDMとJPOP? 地雷ジャンル筆頭みたいな曲を、この風貌で? 見た目だけで判断するのは危険だけど、あまりにもイメージが違いすぎないか? 好きな音楽ってもうちょっとこう、外に滲み出してこないだろうか。好きなアーティストとかの真似とかしないのか。
「そうなんだ。……で、なんだっけ。アタシとバンド組むって話?」
「いえいえいえ! そうではありません! わたくしは作曲者ではあってもプレイヤーではありませんから……」
「作曲? あー、なんか言ってたね」
「そうなんです。とは言っても、まだボーカロイド音源でいくつか動画を作っただけなんですけれど……。ふたりさんには、その。わたくしに曲を書かせて頂けないかなと」
バンドの話なら断ろうかと思ったが、飛び出てきたのはまさかの楽曲提供の話だった。この子、アタシのギターがそんなに気に入ったらしい。sanseongの音楽じゃなく、アタシのギターを。『曲を書かせてくれ』なんてお願いされるほどに?
「アタシはまだまだそんなレベルじゃないよ……と言いたいところだけど。
話だけなら聞いてあげないこともないよ」
「本当ですかっ」
うつむき気味だった顔がぱっと明るくなる。実際、悪い話では無いと思ったから。
最近挑戦している作詞作曲はかなり難航している。ギターアレンジとかは好きだし案外簡単だろうと思っていたけど、案外難易度が高い。作詞の方も案外……これが結構ムズい。メロディすらない状況だけれども、それに沿って言葉を言い換えたりする作業は途方もない。理系のアタシには無理な話だった。
「──うん。でも、ジャンルはロックがいいかな。いきなり意味わかんないの持ってこられても歌えないし」
「勉強します!」
「──作詞作曲で悩んでるからさ。適当にノートから言葉拾って貰って、そこから曲完成まで持って言って欲しい」
「そんなに任せていただけるんですか!? ありがとうございます!」
「──ええと……これが歌詞ノートね。とりあえず曲が出来たら聞かせて欲しいんだけど……」
「一週間で仕上げます!」
無敵なんだろうか、この人。結構無茶ぶりしてるんだけど。流石にちょい怖いぞ。
どんな要求でも答えそうな子にアタシはほんの少しだけ、戦々恐々としながら「そう」と相槌を打った。ちょうどお弁当箱は空になる所だった。最後のプチトマトを一口で食べ、席を立って風呂敷を包み直す。残りのお昼休みを
「じゃ、一週間後にね……」
本当に一週間で作曲ができるのかは分からないけど、とりあえず任せてみることにする。話は終わりとばかりにそう言い残して教室を出た。なんか、あの先輩と同じ空間にいすぎるのも危険な気がして。
とはいえ、ロックじゃなかったら不採用のつもりだ。ロックとは、なんてアタシはちっとも分からないし、ロック好きという訳でもないが、少なくともつまんないボカロなんて持ってこられてもアタシは歌わないだろう。
「楽しみにしていて下さいねー!」
教室に戻れば誰かいるかも、と考えながら廊下を歩いていると後ろの方から声が聞こえる。チラリと振り返ると、マジかよ、大きく手を振ってお見送りしてくれていた。その手の平にはお弁当を食べるのに使っていた高級箸が見える。チケット五枚分くらいはあると思うが、喋ってばかりでロクに食べないからそうなる。
小さく手を振り返し、足早に教室まで向かった。
「うーん……わたしはいいと思うよ! ロックかと言われると疑問があるけど。仮歌で入ってる合成音声もボカロにしか出来ない音って訳でもなさそだし」
「私もいいと思う。でも、方向性に関しては考えた方がいいかもね」
伊地知虹夏さん、山田リョウさんだ。アタシの家、アタシの部屋に二人は座布団を敷いて座って、パソコンに繋いだスピーカーから流れる曲を聴き終わったところだった。
本当に一週間で曲を仕上げてきやがった清白先輩(アタシのつけたあだ名は『お嬢』)に疑いの目を向けてしまったが、なかなかどうしていい曲に仕上がっていた。アタシの、お嬢曰く『物悲しいサウンド』や『泣くようなヴォーカル』をイメージしたのか、かなり寂しげな曲だ。悪くないセンスだと思う。
「そんな感じですよね」
「何か気にいらないとこがあるの?」
「方向性の違いはバンド解散の兆しでもある。先輩だからって臆せず行った方がいいよ」
「わたしたちみたいに、アラサーも近くなってくると1年違いなんて無いようなもんだしね。今は先輩でも、バンドとして続けるならいずれそうなると思うよ」
「そんなもんスかね……」
アタシも、悪くない曲だと思う。ていうか良い曲だ。アタシが演奏することを前提によく考えられている。楽譜がはち切れそうなくらいに音を詰め込んだイントロ、歌いやすい音程のメロディー、共感性の高い歌詞。お嬢が今まで動画サイトにアップしていたのは地下アイドルすら歌わないようなゴリゴリの電波ソングだったけど、それがアタシに歌わせる為にここまで方向転換をした。
とても凄いことだ。何だけど。
「アタシは、もう少しテンポの早い曲がいいんです。声も出しやすいし。それと、もうちょい攻めた歌詞っていうか……。優しすぎると思うんですけど、どうでしょう」
意を決して口を開いてみた。今日二人を招いたのはアタシだから。オリジナル曲の事は発表までお姉ちゃんには内緒にしたい。喜多ちゃんに頼む訳にも行かず、店長さんはお店があり、廣井さんは定期通院の日で。
音楽的に信用できる人の中から消去法でこの二人。お姉ちゃんに内緒の関係で結束バンドのみんなには声掛けたくはなかったんだけど、仕方ない。
「ウチはぼっちちゃんが意外と攻撃的な歌詞書くからな……。ま、ロックならもう少し当たりが強い歌詞でもいい気はするんだけどね」
虹夏さん。確かにお姉ちゃんは結構強気な歌詞を書く。小さな頃それの理由を聞いた時は『ロックはこんな感じだから』と教えてくれたが。実はそれは嘘で、本当はあれがお姉ちゃんの秘めたる自我なのかもしれない。
「無理にロックにこだわる必要ないんじゃない? 気に入らなければ、アレンジして歌えばいい」
と、結束バンドの作曲担当。以外にもこの曲を推している。もっとアタシのやりたいことを、とか言うかと思ったが。
「この曲は相当考えられてるよ。展開とか、雰囲気とかそういうの含めて。1音1音が丁寧だ。完成度も高い。こういうの、大抵作曲者のクセとか強み……個性を無理やり消してでも演奏者によるものだけど、この曲はもう1段階上の所にある」
かなりの絶賛っぷりだった。結束バンドの作曲として、最近ではローカル曲のドラマタイアップもこなす彼女の言葉は、こと音楽関係に限って信用できるだろう。
うん。相談してよかったかもしれない。アタシ1人で悩んでいたら、お嬢にやり直しを命じてそれで終わりだったはずだ。
「実は、アタシがこの曲を歌っていいのかを相談したかったんです。まだまだギターは下手だし、ボーカルも手探りだから」
「でもそれだと1曲を仕上げてくれたお嬢に悪い気がして。それに、この曲がボツになって後はネットに残るだけなんて勿体ないと思ったんス」
「分かるな〜」
虹夏さんは同意するように腕を組んでウンウンと首を縦に振る。とはいえ、方針は決まった。お嬢がアタシの為に作ったこの曲を無駄にしたくない。取材だとか言って他の友達と遊ぶ時まで着いてこられたのはマジでだるかったりしたけど、この完成度ならそれも納得。アタシの好みじゃないとは言ったが、レパートリーを増やす分には問題ないだろう。この曲のレベルまでギターもボーカルも練習だ。
「……とはいえ」
そうアタシが結論づけたとき、思わず待ったがかかる。先程の絶賛コメントを前フリにして、どんなコメントが飛び出すか。アタシは身構えた。
「バンドにとってデビュー曲っていうのはとても大事なのは確か。色々言ったけど、結論としては、好きにすればいいと思うよ」
伸びっぱなしの青の長髪がエアコンの風に揺れる。あまりに動かない表情だが、手元は忙しなく動いている。勝手に指が弾いているのだ。ギターでもベースでも、新しい曲を聴くとついついやってしまう癖のようなもの。
その言葉を深く深く頷き、おもむろに立ち上がった。
「今日はありがとうございました。お二人に聞いてよかった。参考になりました。
お昼ご飯、食べていってください。両親がいないので好きな物作りますよ」
「柔らかいものがいいな」
「高校生に集るんじゃないよ……。ご馳走になるだけじゃ悪いし、手伝うよ!」
「──いえ、お二人にご馳走したいので、そこら辺で寛いでて下さい」
今日はハンバーグだ。何か特別な時はお肉と決めている。お肉を食べ、パワフルになるのだ。
曲について、1人で考えたいこともあるし。
名前:後藤ふたり Gt&Vo
好きな物:ハンバーグ、発掘ドラゴンチョコ
嫌いなもの:下手なギター、ピーマン
最近ハマっているもの:スマホのリズムゲームアプリ
備考:実は意外とお姉ちゃんのことが嫌いじゃない。