そして、みんなの愛バになった ウマ娘キタサンブラック伝 作:雅媛
1-1 キタサンブラックのトレーナー探し
トレセン学園に入学し、デビューを狙うキタサンブラックは壁にぶち当たっていた
「トレーナーさんが見つからないよぉ!!!!」
入学してしばらく経ったにもかかわらずトレーナーと契約ができていないのだ。
メイクデビューをし、トゥインクルシリーズに参加するためにはトレーナーと契約するのが必須である。
そのため、トレセン学園に入学したウマ娘たちの多くにとって最初の目標がトレーナーとの契約であった。
トレーナーと契約するためにウマ娘たちは様々なことをする。
年4回開催される選抜レースに参加して自分の走りをアピールしたり
不定期に開催されるトレーナー合同説明会に参加して話を聞いたり
チーム主催の選抜テストに参加したり
はたまた落ちているトレーナーを拾ったり攫ったり
正直契約できればなんでもアリな風潮もあり、新入生ウマ娘たちとトレーナーの攻防戦は春のある種の名物であった。
キタサンブラックの周りのウマ娘達は続々とトレーナーと契約し、チームに所属している。親友のサトノダイヤモンドは早々にカペラに所属したし、トレセン学園に入ってすぐにサトノダイヤモンドから紹介されたサトノクラウンも同じカペラに入ったと聞いた。
入学後に知り合ったドゥラメンテやシュヴァルグラン、リアルスティール、リアファル等のクラスメイト達も続々とトレーナーと契約している。
そんな中、キタサンブラックにはトレーナー契約の話が全くなかった。
「どおしてぇええ!」
無駄にコブシの効いたキタサンブラックの叫びが学園に響く。
周りはどんどん契約していくのに、キタサンブラックの現状は散々である。チームに入らないかと誘うスカウトは0。それどころかトレーナーに話を聞かせてほしいと言った声を掛けられたことも全くない。
さすがにポジティブなキタサンブラックでも焦る状況だった。
「うるさいわね、朝から何を叫んでいるのキタサン」
「スイープさん!」
「だからうるさいって」
朝一番の正門前で悩みながら叫んでいたキタサンブラックに声をかけたのはスイープトウショウだ。
入学前にも特に関係が在ったわけでもない。明るく社交的なキタサンブラックに対して我が儘で問題児なスイープトウショウは性格もあまり合わなさそうでもある。だが、巡りあわせがいいのかそれともウマソウルに導かれた運命なのか、二人は年が変わらない先輩後輩の関係として仲良くしていた。
今も突然叫びだしたので他の生徒からは遠巻きにされ、たづなさんすら声をかけるか迷うようなキタサンブラックにスイープトウショウは躊躇なく声をかけていた。
「あのですね! トレーナーさんが見つからなくて!」
「朝からうるさいって、声をもう少し抑えなさい」
「わかりました!!」
「よけいうるさくなってるわよ!!!」
正門近くで大声を出す二人。
幸い正門近くにあるのは学園以外は学生寮ぐらいなので、近所迷惑にはならない。他の生徒たちは少し気にしながらも二人のことをスルーし、たづなさんは他の生徒への朝のあいさつ運動を再開した。
「というか、トレーナーが見つからないって、良さそうなトレーナーは見つかったの?」
「いえ、まったく見つからないですね!」
「ふーん、大変ね」
「スイープさんはトレーナーさんを探すの大変でした?」
「全然。むしろスカウトがいっぱい来すぎて選ぶのが大変だったわよ」
「さすがスイープさん、すごいなぁ」
これは半分本当で半分嘘であった。
スイープトウショウにスカウトが大量に来たのは間違いない。
なんせ、トウショウ家というウマ娘レース業界での名家の令嬢であり、さらに飛び級をして学園に入ってきた天才児である。スカウトが集まるのは当然のことである。
だが、一度会話をした後に彼女が選べるほどそのスカウトが残ったかというとそんなことはない。稀代の癖ウマ娘っぷりを発揮したスイープトウショウに対しスカウトに来たトレーナーたちは続々脱落し、今のトレーナーしか残らなかったというのが正しいところである。
だが、そんな正誤はキタサンブラックにはわからない。ただ、仲の良い先輩が言ったからというだけで純粋に信じて尊敬の眼差しを送っている。若干の罪悪感を覚えたスイープトウショウは一つの提案をした。
「キタサンもうちの使い魔に会ってみる?」
「使い魔さんって、スイープさんのトレーナーさんですよね?」
「そうよ。幸い……」
「はい、スイープちゃんストップ」
「わっ?」
「何よカレン」
そしていきなり現れた芦毛のカワイイウマ娘にスイープトウショウは止められた。
一般的に美人なウマ娘の水準で見ても圧倒的に可愛らしいウマ娘だ。恐らくスイープトウショウのチームメイトだろうと推測したキタサンブラックであったが、覚えがある相手ではなかった。
「あの、初めまして! キタサンブラックです!!」
「挨拶ありがとう。私はカレンチャン、カレンって呼んでね」
「わかりましたカレンチャンさん!!」
「……」
カレンチャンが微妙な顔をする。フルネームに敬称を付けられると敬称が二重についているように聞こえるのだ。そのためできれば呼び捨てか、『カレン』に敬称をつけてほしかった。とはいえ目の前にいるのは明らかに後輩でしかもスイープトウショウの知り合い、しかもどう考えても天然だ。訂正するのは難しいかもしれないなとカレンチャンは察する。
そんな微妙な空気を一切察することなくスイープトウショウは話を進める。
「なによ。使い魔はもともとカレンとかデュランダルみたいな短距離メインのウマ娘が得意なんだし、キタサンも向いているでしょ」
「ダメだよスイープちゃん。今お兄ちゃんはオルフェちゃんの相手でいっぱいいっぱいだもの。今度凱旋門賞に行くって言ってたし」
「はあ? 今年もまた行くの!?」
「あ、あの!! 私、無敗のクラシック三冠を目指してるので短距離はちょっと……」
話が脱線し始めそうな気配を感じキタサンブラックが遮る。
おそらくチームのウマ娘の話題だろうとキタサンブラックは想像しているが、内容はまるで分らなかった。だが、短距離が得意なトレーナーという部分は聞き逃さなかった。
キタサンブラックが憧れるのはトウカイテイオーである。である以上、当面の目標は無敗のクラシック三冠であった。クラシック三冠は中長距離がメインのレースであり、短距離とはトレーニング方法からまるで異なる。
きっと目の前の二人を担当するトレーナーだからいい人なのだろうが、自分の夢と合わないトレーナーと契約してもうまくはいかないだろう。スイープトウショウの厚意はうれしいが、キタサンブラックは断ることにしたのだ。
「あら、そうだったのね。短距離走るのかと思ってたけど」
「よく言われるんですけどね」
ウマ娘には適性がある。短距離が得意なウマ娘もいれば長距離が得意なウマ娘もいる。その適性は、例外はもちろんあるのだが慣れた者が見ればで大体わかるものである。スイープトウショウもカレンチャンも多くのレースを経験し、多くのウマ娘を見てきた。その経験が、キタサンブラックは短距離向きだと語っていた。
キタサンブラックもそれを自覚していた。正確にはいまだ理解はし切れていないが他人に言われ続けて学んだ。
でも、それでも。
トウカイテイオーを目指すという夢を辞める理由にはならなかった。
「ということで、自分のトレーナーさん探しに頑張ります!!!」
「そう、応援しているわ」
「それじゃあ行ってきます!!」
笑顔で手を振りながらキタサンブラックは去っていった。
「……」
「どうしたのスイープちゃん」
「ねえ、距離適性の壁を超えるってできると思う?」
「それができなかったカレンに聞かないでよ」
スイープトウショウの問いにカレンチャンは答える。
中距離どころかマイルすらも走れない極端な距離適性を持つのがカレンチャンであった。勝ったのは一番長くても1400m。時に短距離の枠に入れられるマイル1600mすら走れなかった。
もちろん簡単にあきらめたわけではない。だが、どれだけ頑張っても、どれだけ努力しても、マイルの壁すら超えられなかったのだ。
そんな経験を持つカレンチャンである。普段ならば無理とすぐに切り捨てただろう。だが、このチームメイトの気まぐれ魔女っ娘が心配そうに後輩の背中を見送るのを見ていると、そんな冷たい反応は取れなかった。
「いい子なんだね」
「すごくいいやつよ」
「……そっか」
二人とも無理だと言うことはできなかった。それを言うには彼女は輝きすぎていた。
二人とも出来ると言うことはできなかった。それだけ距離適性の壁というのは分厚く、何人も泣いて来たのを知っているから。
だから、二人は何も言わずその背中を見送り祈ることしか出来なかった。どうか、奇跡の魔法が彼女に訪れるように、と。
【挿絵表示】
カレンチャン
作成者:ねりある様
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小ネタ
・スイープトウショウと他のウマ娘
スイープトウショウとキタサンブラックの絡みがアプリであるのはスイープトウショウの2019の父がキタサンブラックだったからでしょう。
スイープトウショウの他の相手にはウマ娘だとアグネスタキオンとドゥラメンテがいます。タキオンとの絡みはアプリでもありましたが、今後ドゥラメンテとの絡みも出るかもですね。
・ikzeクラス
スイープトウショウとカレンチャンは騎手が同じつながりです。ikzeさんですね。
キタサンブラックのデビュー前の時期だと黄金の暴君が暴れまわっているでしょうね。
カレンチャン
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カワイイヤッター
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カワイイヤッター
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カワイイヤッター
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姐御は怖いっす
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オルフェ、あとでお話ね