そして、みんなの愛バになった ウマ娘キタサンブラック伝 作:雅媛
メイクデビューレースはキタサンブラックの1着で終わった。
15人立てで比較的後ろ目につけてバ群を風除けにしつつスタミナを温存し、東京の長い直線で一気に差す。お手本のような差しを披露し、追いすがるミッキージョイを寄せ付けずに勝利をした。
上がり3ハロンも34.2とかなり良い成績である。
「はぁあああん♪」
謎に歌い始めるキタサンブラック。
「よっ、にっぽんいち!!」
「お嬢、かわいい!!」
「こっちむいてー!!」
声援を上げるキタサンブラック応援団。
あまりに騒々しい集団である。
「キタサンブラック、ライブは後だ、帰ってこい」
「あ、そうでした、歌は後でしたね!!」
このままにしておくと何があるかわからないと判断した黒沼トレーナーがキタサンブラックに声をかけ、地下通路に向かうように促す。
キタサンブラックも素直に地下通路へと戻っていった。
あまりの騒々しさに他のウマ娘たちは茫然とその背中を見送った。
その後、プレオープンの条件戦にも勝利したキタサンブラック。
次はいよいよ皐月賞トライアルスプリングステークスというところまで2連勝でたどり着いた。
トレーニングも順調で体調も良い。だが、現状一つだけ問題があった。
「……こっちに来る? ラーゼンちゃん」
「……いい」
2戦目のプレオープン戦でキタサンブラックの2着に敗れたサトノラーゼンにストーカーされるようになったのだ。
サトノラーゼン。サトノ家の一員で今期サトノ家でサトノクラウンとともに期待されるウマ娘の一人、という話はサトノダイヤモンドから聞いたキタサンブラック。
確かにレースの時、先行抜け出しをしたキタサンブラックにその後ろから猛烈な勢いで追い込みをしてきたので、実力はキタサンブラックにもよくわかっていた。キタサンブラックにミスがあったら勝っていたのはサトノラーゼンの方だっただろう。
だが、なぜストーカーされるのかキタサンブラックには意味が分からなかった。
そして、キタサンブラックはわからないことを放置できるような大人しいウマ娘でもなかった。キタサンブラックの我慢が効いたのは最初の1日だけだった。
「ラーゼンちゃん。一緒にロードワーク行くよ」
「……いい」
「拒否権はあげません!!!」
早朝にロードワークで商店街に向かう所でジャージ姿のサトノラーゼンを見つけたキタサンブラックは、そのままサトノラーゼンを小脇に抱えて走り出した。
ガタイの良いキタサンブラックに対して、サトノラーゼンは小柄な方だ。抱えることも難しくはなかった。困惑するサトノラーゼンはどうしていいかわからず、キタサンブラックによって商店街に連れ去られるのであった。
「……どうして私が……」
「おじさん、バナナの箱運んだよ!!」
そのままいつものように商店街の『お助け』を始めたキタサンブラック。なぜかその手伝いをさせられるサトノラーゼン。とはいえ彼女もブツブツは言いつつも、真面目に荷物を運んでいた。
「いやぁ、今日も助かったよ。お友達もありがとうな」
「いえいえ、情けは人の為ならず、です!!」
「じゃあこれ、お礼な。二人で食べな」
「ありがとうございます!!」
大量のニンジンとバナナを受け取る二人。先ほどパン屋さんでもらったパンをかじりながら、キタサンブラックは歩き出した。
「キタサン、あなたいつもこんなことしてるの?」
「ふが? ほうはお?」
「食べながら話さない」
そういわれてキタサンブラックはパンをもぐもぐと噛み、そして飲み込んだ。
「基本的に毎日だね」
「それが貴女の強さってこと?」
「? 単にお手伝いしてるだけだけど?」
キタサンブラックにとって馴染みのある商店街であり、だからよく手伝いに来ているだけである。
「じゃあなんでこんなことしてるの? ファンを増やす活動ってこと?」
サトノラーゼンには理解ができなかった。
サトノの最高の環境で育てられ、走ることにすべてをささげてきた彼女に、商店街の手伝いの意味が理解できなかった。だから理解できるようにさらに尋ねる。思い返すとレースでのキタサンブラックの応援団は他の参加者に比べ明らかに多かった。歓声が力を与える、などということも言われるのを考えればファンを増やすというのも有効なのかもしれないと彼女は思ったのだ。
「? みんな見に来てくれたら確かにうれしいけど?」
キタサンブラックは首をかしげる。
こうやって何かもらえたりレースに応援に来てもらえたりするのは彼女にとってはその対価ですらなかった。
「じゃあどうしてこんなことをしているの?」
苛立ちを覚えたサトノラーゼンが問い詰める。
目の前のキタサンブラックが何か得体のしれないものに見えてきたのだ。これが一般人ならわかる。だが、キタサンブラックはサトノラーゼンを下したのだ。ただのウマ娘ではないのだ。
「みんなに笑顔になってほしいからだよ」
何を当然のことを、といった雰囲気でキタサンブラックは答えた。
「え?」
その答えを聞いたサトノラーゼンは茫然とした。
言っている意味が分からなかったからだ。
「だって、練習する時間が減るじゃない」
「そんなずっと練習してないでしょ?」
「勉強とか忙しいじゃない」
「? 授業ちゃんと聞いていればそんなに難しくないし、宿題やる時間ぐらいはあるよ」
キタサンブラックの成績は良い。サトノダイヤモンドのようにトップを独走するほどではないが、優等生といえる程度には勉強もできる。同学年で、サトノダイヤモンドとも当然つながりのあるサトノラーゼンもそれは理解していた。
だからこそ理解ができなかった。昨日も坂路を3本も走り、それでも朝のロードワークに行くことから理解しがたかったが、早く起きてお手伝いに向かうことにどこまで意味があるのか。それならゆっくり休んでいた方がいいのではないか。
そんなことを考えていたら寮にたどり着いた。
「ラーゼンちゃん、ランチも一緒に食べようね」
「あ、うん……」
「あと午後なんだけど坂路併走付き合ってくれないかな?」
「……トレーナーさんに聞いてみる」
寮の前でキタサンブラックに畳みかけるように約束をさせられる。
キタサンブラックの中ではサトノラーゼンはすでに友達であった。だからもうちょっとお話したいと思ってランチと併走に誘ったのだ。
約束ができたと解釈したキタサンブラックは笑顔で部屋へと戻っていった。
サトノラーゼンは茫然とするしかできなかった。
ほぼ一日キタサンブラックに付きまとわれたサトノラーゼンは理解した。
キタサンブラックは普通じゃない、ということに。
意地になって、キタサンブラックの坂路3本に付き合って併走したため、脚ががくがく震えている。明日は完全休養だろう。だが、キタサンブラックはあれをほぼ毎日やっている。
併走相手もとんでもない。毎日友人と併走しているようだが、そうでなければ併走相手はあの『ミホノブルボン』か『ライスシャワー』だ。どちらも超一流のGⅠウマ娘である。
環境が良い、というのはもちろんある。あのトレーニングについていけるなら、サトノラーゼンもトレーナー変更すら考えただろう。だが、絶対に無理だ。坂路を毎日3本、そして徹底的なクールダウンとストレッチ。肉体的なタフさはもちろんだが同じことだけを繰り返す精神的なタフさも必要なトレーニングだ。
それを愚直に毎日繰り返すことができるキタサンブラックが凄まじいだけであり、自分は同じことはとてもできないと本能的に理解していた。
キタサンブラックは大したことがない、といったのは誰だったか。サトノダイヤモンドに並ぶ彼女を評価していたのは、サトノダイヤモンド以外にいなかった。
だが、だれの評価が正しかったのか、サトノラーゼンは理解した。
サトノの至宝ともいわれるサトノダイヤモンドに努力で並ぶウマ娘だ。そんなの勝てるわけない。
「でも……」
もしも彼女を知らなかったら、何も変わらなかっただろう。しかし知ってしまった。
「それでも……」
そこそこの才能とそこそこの努力の
「キミに勝ちたい……キタサンブラック」
それでも、サトノラーゼンは折れなかった。勝ちたいと思った。
無理を通すつもりだった。
キタサンブラックの目標はクラシック三冠。幸い自分も同じくクラシック三冠を目指す予定だった。
先日の敗北で皐月賞は難しいだろう。だがダービーなら。菊花賞なら。
きっとまだ間に合うはずだ。
サトノラーゼンは気合を入れて、
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小ネタ
・サトノラーゼン
里見氏の持ち馬の一頭。キタサンやクラウンと同い年。
1勝を挙げたのが5戦目、500万以下に勝利したのが8戦目の馬で、キタサンブラックとやったのは6戦目です。
その後のサトノラーゼンについては、お話の中でおいおい……
レース描写要る? (ストーリー描写との兼ね合いについて)
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特になくてもいいんじゃない(今回のまま)
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もうちょっとあっても(ストーリー削る)
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もっと増やしても(ストーリー結構削る)
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かなり増やしても(ストーリー半分ぐらい)