そして、みんなの愛バになった ウマ娘キタサンブラック伝   作:雅媛

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第4話 皐月賞への道
4-1 皐月賞までの道


 キタサンブラックがクラシック三冠の初戦、皐月賞に出るにはトライアルレースに出るのが確実であった。現状2勝しているので、このまま登録しても抽選の対象にはなるがくじ運が悪ければ除外されてしまう。確実を期すならトライアルレースが最適である。

 皐月賞のトライアルレースは3つ、弥生賞、スプリングステークス、若葉ステークスの3つである。

 

「トウカイテイオーは若葉ステークスから皐月賞へと行っていたが、現在はあまりお勧めしないな」

「? どうしてですか?」

「トウカイテイオーの時の若葉ステークスは中山2000mだった。だが番組改編で今は阪神の2000mだ。キタサンブラックがわざわざ関西のレースに出る必要性が低い」

 

 時代によってレースの種類は変わる。内容、距離、開催時期、トライアルかどうかすら変わることもある。弥生賞と同じ条件のトライアルがもう一つある意味はあまりなかったため、若葉ステークスは皐月賞のトライアルレースがなかった関西に移されたのだ。

 関東のレースを狙う今のキタサンブラックに若葉ステークスに出る意味はない。

 

「そうするとスプリングステークスか弥生賞ですが……どちらがいいですかね」

「スプリングステークスの方が2週間後なので間隔が短いです。中3週ですね。弥生賞は中5週です」

 

 ミホノブルボンが答える。距離以外にも開催時の差がある。その差がいろいろレースへ影響していくのだ。

 

「キタサンなら中4週でも大丈夫だろう。そして当日との差を考えるとスプリングステークスの方がいいと思う」

「どうしてですか」

「芝が劣化するからだ。弥生賞と皐月賞では、距離やコースは一緒だが芝が違う」

 

 芝は生き物だ。そしていくら管理していても、時速70kmで走るウマ娘が何度も走れば次第に劣化していく。毎週開催しているわけではないので、開催していない期間に整備・育成して芝の状態を戻すのだが、弥生賞と皐月賞の間には開催していない期間はない。つまり芝が劣化し続けているのだ。

 

「特に弥生賞の時は新品の芝だからな。本番後かなり感触が異なるだろう。2週間では大きな差ではないとはいえ、スプリングステークスのころはある程度使いこまれた芝になる。とすると距離が短いとはいえこちらの方がいいだろう。コースも一緒だしな」

「ではスプリングステークスにします」

「わかった。出走登録をしておく」

 

 こうしてキタサンブラックはスプリングステークスを目指すことになるのだった。

 

 

 

「でだ、徐々に体も出来上がってきてるし、一通りレース理論も頭に入ったようだから、今日から実践的な勉強をしていこうと思う」

「実践的ですか?」

「そうだ、そのために講師をお願いしている」

「ハイ!! 呼ばれました! サクラバクシンオーです!!!」

「ええ!?」

 

 実践的な勉強をするといわれて、何をするのかと期待していたキタサンブラックの前に現れたのはサクラバクシンオーであった。

 とても明るく学級委員長として人助けをしている先輩であり、キタサンブラックが尊敬する先輩の一人ではあるが、正直なところ頭が良さそうには思えない。「バクシン!!」とだけ考えて走っている印象だ。ミホノブルボンがわざわざ連れてきたのはわかるが、参考になるのだろうか、とキタサンブラックは不安になった。

 

「ではキタサンブラックさん!!」

「キタちゃんでいいですよ!!」

「ではキタちゃんに聞きます!! レースの時、ゲートに入ってから待機するまでに何をするか答えてください!!!」

「えっと…… 素直にゲートに入って、スタートのタイミングを計るためにスターターの人を見ていますね」

 

 今までのレースの経験や本で読んだ理論から答えるキタサンブラック。

 

「バクシン的には全く違いますね!!!」

「ええ!?」

 

 その答えをばっさりサクラバクシンオーは切り捨てた。

 

「では同じ質問をブルボンさんに聞きましょう!! ブルボンさん! お答えください!!!」

「大人しくゲートに入って、スタートのタイミングを計るためにスターターの人を確認します」

「はい、バクシン的大正解です!!! 花丸ですね!!!」

「ええええええ!?」

 

 キタサンブラックと同じ答えをしたミホノブルボンは正解といわれて余計混乱するキタサンブラック。表現の微妙な違いの部分に本質があるのかと悩み始める。

 

「キタちゃんは答えがわかりましたか?」

「ううう、ぜんぜんわからないです……」

 

 難しすぎる賢さトレーニングにキタサンブラックはいっぱいいっぱいであった。

 

「じゃあライスさんの答えを聞きましょうか。菊花賞でブルボンさんと走った時がいいですね」

「ん~、ライスは軽く準備運動で走った後、ゲート裏に集合した時からずっとブルボンさんを見てたかな。ゲートに入る前はずーっと見てて、ゲートに入っても隣だったからずっと意識してたよ。ゲートに入ると足ぐらいしか見えないけど、息遣いとか、筋肉の動きとか、そういうのは聞こえてきて、ブルボンさんの動きがすごくよくわかるんだ。汗がしたたり落ちるのとか、尻尾の動きとか、ブルボンさんがスターターさんをよく見てるのとかもよく分かったかな」

「ライスさん」

「なに?」

「さすがにちょっと、きもいです」

「そんな!?」

 

 涙目になるライスシャワー。でもさすがにそこまで注意を向けられるとストーカーのようである。

 

「ライスさんにも花丸を上げましょう!!」

「やった!」

「でもライスさん、ストーカー行為が許されるわけではないですよ」

「ライスストーカーじゃないよ!?」

 

 じゃれ始める二人を放置して、キタサンブラックは考える。

 ライスシャワーの答えもミホノブルボンの答えも正解で自分が間違いな理由がおぼろげながら見えてきた。

 

「バクシンオーさん」

「なんでしょう」

「バクシンオーさんはどうしてますか?」

 

 キタサンブラックの質問にサクラバクシンオーはにっこりと笑った。

 

「事前に出走者全員の分析をしているのは大前提ですが、ゲートに入る前から他の子たちの様子を伺います。力み過ぎていないか。リラックスしすぎていないか、気合の入り具合はどうか、そういったことを見ていきます。事前情報はあくまで過去であり、レースは今行われますから、情報の修正が必須です」

「特にどういう所を見ますか?」

「普段後ろから行くウマ娘が前に行くことがないか。もしくは前に行くウマ娘が後ろから行くことがないか、ですね。誰が先頭で誰が先頭集団を構成するかでペースや追い上げのしやすさが変わりますからね」

 

 理路整然と話すサクラバクシンオーにキタサンブラックは驚きを隠せない。

 いつものあれは何なのか、擬態なのか。いや、あれも彼女の一部であり、そしてこれも彼女の一部なのかもしれない。前者を表に出して、後者は表に出さない。そういうことだろうか。キタサンブラックは目の前のウマ娘に得体の知れなさを覚えた。

 

「ゲート内での様子も重要です。ゲート内が苦手なウマ娘は案外多いです。訓練である程度改善しますが、それでも緊張している子は要注意です。出遅れれば全体の展開に影響しますからね。耳をすませば案外多くの情報が入ってきます。」

「な、なるほど……」

 

 言っていることはわかっても、それを理解するのはかなり難しそうな話が続く。

 

「ただ、ゲートに入ってしまうと音しか分かりませんので、目視も使えるようにゆっくり入るのを私は基本としていました」

「そこまでするんですか」

「そこまでしないんですか?」

 

 キタサンブラックの疑問にサクラバクシンオーが答える。

 絶対勝ちたいという炎が桜色の瞳の奥に見えた。

 

「失言でした」

「もちろん物事には限度もありますし、違反行為をするのは言語道断です。ですがゲートインの順番ぐらいなら多少調整しても怒られないでしょう」

 

 ゲートインの順番はある程度決まっているが、その場その場で大きく変わる。さっさと入る子もいれば嫌がる子もいる。嫌がる、までしなくともちょっと観客に手を振っていればスタートを遅滞させなくともゲートインは後の方になる。その程度は許容範囲だと言っているのだ。

 

「もちろんライスさんみたいなストーカー能力があれば音だけでも他の人を把握できるのかもしれませんが」

「ライスストーカーじゃないもん!!!」

 

 涙目のライスシャワーが反応した。

 ミホノブルボンもサクラバクシンオーもちょっと楽しそうだ。まあかわいいな、というのはわかる。

 

「さでずむ……」

 

 ライスシャワーが嘆いた。

 

 

 

 サクラバクシンオーの話を聞いてキタサンブラックはさらに成長するだろう。

 当然ながら虚実を使ってきたサクラバクシンオーに対して、キタサンブラックは王道を走るだろうから全てが同じようにできるわけではない。だが、参考になるものはミホノブルボンやライスシャワーと比べても多いはずだ。

 

「でも、よかったんですか? バクシンオーさん」

「何がですが?」

「いつもバクシンと叫ぶ委員長キャラ、というのもあなたの武器の一つだったはずです」

 

 バクシンオーのそれに騙されたウマ娘は少なくない。現役時代にそれを見抜いていた相手など、スプリントで唯一彼女に土をつけた天才少女、ニシノフラワーぐらいだろう。ミホノブルボンだって引退後本人から聞くまでそんなのはわからなかった。

 

「そろそろ潮時ですからね。どちらも私ですし、あえて片方に偏らせるのも面倒になってきました」

「それなら構いませんが」

「あとね、キタちゃんを見るとなぜか知りませんが自分に重ねてしまうんですよ」

 

 短距離しか走れなかった自分(サクラバクシンオー)と短距離適性が高い彼女(キタサンブラック)は全然違うのだが、それでもなぜか重ねてしまうところがあるのは否定できなかった。ウマソウルが悪さでもしているのか。

 

「彼女は走れますかね」

「今まで1800mと2000mのレースは勝ちました。次のスプリングステークスでいい成績が残せるなら、勝負はできるでしょう」

「楽しみにしています」

「さて、ライスさん、そろそろ帰りますよ」

「ライス、ストーカーじゃないもん」

 

 ライスシャワーは隅で拗ねてお餅のように膨れていた。




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小ネタ
・賢いバクちゃん
参考にしたのは以下のお話です。
道化を演じるサクラバクシンオーとホラ吹きトレーナー
https://syosetu.org/novel/330259/
よそ様のですがとてもいいですよ。

そもそも賢さ補正のあるバクシンオー(ノーマル10% 体操着8%)が頭悪いわけないんだよな。
シャカール「そうだな」(30%)
ネオユニ「アファーマティブ」(30%)
ハヤヒデ「まあそうだな」(20%)
ウンス「のんびり行きましょう」(20%)
タキオン「えっ?」(0%)

皐月賞トライアル

  • 若葉ステークス
  • スプリングステークス
  • 弥生賞
  • きさらぎ賞
  • 朝日杯フューチュリティステークス
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