そして、みんなの愛バになった ウマ娘キタサンブラック伝   作:雅媛

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4-2 スプリングステークス

 重賞ともなると盛り上がりが一気に変わってくる。

 今まで参加したメイクデビューや条件戦は1日にやるレースの中でもメインではないレースであったが、重賞はその日のメインレースである。

 このレースだけを目当てに見に来る人も少なくないため、観客が何倍にも膨れ上がるのだ。さらに、キタサンブラックが参加するスプリングステークスはクラシック初戦の皐月賞のトライアルレースである。有望なウマ娘が集まるレース故、そういったウマ娘を一目見ようと集まる人数もすさまじい。

 

 スプリングステークスで1番人気になったのはリアルスティールだった。

 前走共同通信杯でドゥラメンテを破って1着になった実力のあるウマ娘だ。

 そして2番人気が朝日杯フューチュリティステークス覇者のダノンプラチナ。

 3番人気は前走京成杯で1着になったベルーフである。

 キタサンブラックは京成杯で2着だったブラックバゴに続く5番人気であった。

 

「ちっ、なんでうちのキタサンブラックが1番人気じゃねーんだよ」

「他のウマ娘の方が実績がありますからね」

「なあ、投票券買い占めて1番人気に……」

「やったらだめですからね」

 

 相変わらず親バカを発揮するキタサンブラックの父親にくぎを刺す黒沼トレーナー。

 いつものようにキタサンブラック応援団がキタサンブラックを応援しているが、他のウマ娘たちへの応援も強く、今までのように応援で圧倒することはできない。これが重賞だった。

 

 

 

「みんな強そうだなぁ……」

 

 バクシン的理論を習得したキタサンブラックは、パドックで他のウマ娘たちをじっくりと観察する。

 今まではなんだかんだ言っても同じような実績のウマ娘だけで走っていたが、今回は違う。なんせ、GⅠをすでに制覇しているダノンプラチナに、重賞を制覇しているリアルスティールとベルーフ、他にも重賞レース経験者がいるようなレースだ。

 6番人気のミュゼスルタンだって新潟ジュニアステークスに勝利した重賞ウマ娘だし、油断できない相手ばかりだった。

 

 事前に分析したレース展開をキタサンブラックは頭に浮かべる。今回のレースは逃げウマ娘がいないレースである。なので最内の1枠1番を取ったキタサンブラックが先頭を切ってペースを握り、スローペースでスタミナを残し、そのまま戦闘で押し切る、これが基本戦術のつもりであった。

 だが……

 

「うーん、なかなか読めないなぁ」

 

 この戦法をとる場合警戒するべきは1番はイレ込んで暴走するウマ娘がいないかである。暴走したウマ娘についていくと絶対にスタミナが持たない。素直に先頭を譲って自分なりのベストポジションを探しながら走る必要がある。

 5番のブラックバゴがイレ込んでいるように思えるが、彼女は完全に差し追い込み型なので、暴走する可能性はあまり考慮しなくてもいいだろう。全体的にレース経験が多いウマ娘ばかりなので、今までのレースより歓声が多いにもかかわらず落ち着いた雰囲気が流れていた。

 キタサンブラックも落ちつくために応援団に手を振り、一曲父親の歌を歌い始める。周りが少しぎょっとしているが、それでも動揺は誘えるほどではなさそうである。

 

(さて、こっちに注目している子はと……)

 

 もう一つ警戒するべきは、戦法として先頭をとるのを狙うウマ娘がいないかどうかである。こちらの方が計画的である以上厄介だ。それをあぶりだすためもありキタサンブラックは注目を集めた。

 キタサンブラックの前走は2番手追走抜け出しである。今回1枠1番を取った以上前に行くのは容易に想像できる。このレベルのレースに出てくるウマ娘のトレーナーならそれくらい分析していて当然である。

 そして前に行くことを検討しているウマ娘なら、キタサンブラックの動きは常に気になるはずだということをキタサンブラックは理解していた。

 

(こっちに特に注意を向けているのは4番のタケデンタイガーさんと、11番のフォワードカフェさんかな。これはあまり前に行くのを争うのは得策ではないかも)

 

 前に行くことを考えているウマ娘が自分以外に二人もいると先頭争いは難しくなるだろう。先頭争いで消耗するのは本意ではないので、先頭争いはしない方針に切り替える。

 

(でも後ろに回るのも得策じゃない。リアルスティールさんやダノンプラチナさんみたいに後ろから行くのが得意なウマ娘が多いから、バ群に飲まれかねない。1枠1番は一度バ群に飲まれると抜けられない可能性があるから……)

 

 大内というのは必ずしも有利ではない。特に追込みなどしようと思った時には前が詰まってどうにもならないことがある。

 なので差しや追込みに切り替えもしない。誰も先頭に行かなければ自然と先頭に立ち、だれかかが前に出たら譲ってその後ろで脚を溜める先行抜け出しにするという作戦に頭の中で切り替えた。

 

 一曲を歌い終わると観客席から拍手が送られる。キタサンブラックは笑顔で手を振り歓声にこたえた。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 キタサンブラックを応援に来ていたサトノダイヤモンドは、知り合いを見つけて声をかけた。

 

「ラーゼンちゃんも観戦?」

「ダイヤちゃんも?」

「私はキタちゃんを見に来たんだけどラーゼンちゃんは?」

「私もキタサンを見に来たんだ」

「へぇ」

 

 サトノダイヤモンドは意外に思った。

 サトノダイヤモンドにとってキタサンブラックは間違いなく親友(ライバル)なのだが、サトノ家の中ではそう思っているものは他にいない。

 サトノラーゼンだってキタサンブラックなど眼中になかったはずだ。

 それがわざわざ中山レース場まで見に来るなんて…… 条件戦で走ったときに思うところがあったのか。それとも別の何かか。

 

「キタちゃんにも困っちゃうなぁ。人たらしなんだから」

「ははは」

 

 人たらし、確かにそうだろう。

 一般人にとってはとてもいい子だ。友達としてもとてもいい奴だ。

 だけど、あれと肩を並べるのは本当にヤバい劇薬である。

 きっとサトノダイヤモンドはそれを知っていた。

 そしてサトノラーゼンもそれを知ってしまった。

 並びたい。そして勝ちたい。その意味を分かってしまった。

 サトノダイヤモンドはサトノラーゼンがそれを分かったことを分かって笑顔になった。

 

「だから、キタちゃんは私の親友(ライバル)だっていつも言ってるでしょう」

「そうだね、やっとその意味が分かったよ」

「で、どうするの?」

 

 サトノダイヤモンドはサトノラーゼンに尋ねた。

 彼女がどこで勝負に出るつもりか、聞きたかった。おそらく自分よりそれは先だから。質問には先に気づいたことに対する自慢と先に勝負する相手への嫉妬が漏れていた。

 

「ダービーだね。どうにか間に合いそう」

「勝てるの?」

「わかんない。でも、勝ちたいな」

 

 勝てるかどうかなど重要ではない。競いたい。そして勝ちたい。それだけが本当だった。

 

「ラーゼンちゃんが勝っちゃったら、サトノのジンクス破り、先を越されちゃうね」

「……あ、そうだね」

 

 間が抜けたように答えるサトノラーゼンにサトノダイヤモンドは笑う。

 

「忘れてたでしょ」

「実は」

「でも、分かったでしょう」

 

 キタサンブラックにサトノダイヤモンドが執着する理由。

 それはまだ、本当に一部の者にしか分からないだろう。

 でも一度知ってしまえばもう逃げられない。

 それはお互い分かっていた。

 

「ええ、とても。でも先に走るのは私です」

「いいなぁ」

 

 本当にうらやましそうに言うサトノダイヤモンドにサトノラーゼンは笑った。

 

 

 

「で、今日のレースはどうかな」

「みんな強そうだよね」

 

 実績で見ても、実力で見ても強いウマ娘ばかりだ。

 キタサンブラックの上を行くウマ娘も何人もいる。

 

「これはさすがに厳しいかな?」

「うーん、そうかもね」

 

 冷静な目はウマ娘レースで常に求められている。

 実力的にキタサンブラックがそう劣っているわけでもないが、厳しいなというのが正直な感想だった。

 

「謀多きは勝ち、少なきは負け候」

「毛利元就だっけ?」

「そう。準備を多くしてきた者が勝って、少ない方が負けるっていう話だよ」

「ふーん」

 

 突然歌いだしたキタサンブラックをよく観察するサトノラーゼン。

 

「なるほどね。よく見てる」

「結構面白くなってきたよね」

 

 キタサンブラックに手を振る二人。

 キタサンブラックは嬉しそうに二人に手を振り返した。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 キタサンブラックはスプリングステークスを勝利した。

 ここまで無敗の3連勝である。

 

 キタサンブラックが警戒していたように、スタートから何人かが先頭をうかがう展開になり、4番のタケデンタイガーが先頭に立った。2番手につけていたキタサンブラックは、そのまま2番手追走からの直線に出て抜け出すことでかなり優位な位置についた。

 追いすがるダノンプラチナをどうにか撒き、猛追するリアルスティールから逃げきることで勝利を収めたキタサンブラックであったが、限界ギリギリであった。

 

「バクシンオーさんのアドバイスがなかったら完敗してたね……」

 

 作戦の妙による勝利であった。

 そしてキタサンブラックは気づいた。スタミナが持たないと。

 メイクデビューの1800m、条件戦の2000mはどちらも余裕があったとまでは言わないが、ここまで限界ギリギリではなかった。

 だが今回は1800mでも限界ギリギリである。最後少しバテて垂れたせいでクビ差まで迫られた。重賞における雰囲気から感じる負担や、ライバルの強さはキタサンブラックの想像以上だった。

 

「本番は2000mかぁ」

 

 さらに200m伸びるレース。有力なウマ娘もさらに増える。

 キタサンブラックの不安は増すばかりであった。




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小ネタ
・スプリングステークスと弥生賞
 レース間隔が広く距離も本番と同じ弥生賞がトライアルレースに最適であり、現に2010年ぐらいは弥生賞上がりの勝率が優勢でした。
 一方スプリングステークスは間隔が短いのもあるのか、2000年まではあまり多くなありませんでした(多分ブルボンとナリブぐらい)。それが2000年に入ると急にスプリングステークス上がりの割合が増えます。
 そして2012年のゴールドシップが共同通信杯から勝って以降は、弥生賞からの勝ち上がりが一切いなくなりました。ほとんど共同通信杯から、去年のソールオリエンスは京成杯からですね。コントレイルみたいにホープフルSから直行、なんていうのも珍しくないです。
 弥生賞から勝てなくなった理由はいろいろ言われていますが、説の一つは2回連続開催の末日の皐月賞と開催初めの弥生賞では芝の荒れ具合が違うというのがあります。あとは調教技術の発達とか、弥生賞が少数でスローペースになりやすいとかですね。ちなみにドゥラは共同通信杯から直行です。

バレンタインのチョコレート

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  • あまりもらえなかった
  • 0です(威風堂々
  • 翌日チョコを買って食べます
  • 配る方です
  • カフェのチョコが欲しい
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