そして、みんなの愛バになった ウマ娘キタサンブラック伝   作:雅媛

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第6章 初めてのG1勝利
6-1 止まる者 進む者


 日本ダービーの嫌な恒例が存在する。

 ダービー終了後、何人がけがをするか、という話である。

 

 今回は5着まで入ったうちの3人、一着ドゥラメンテ、二着サトノラーゼン、五着コメートが骨折をした。

 コメートは引退。ドゥラメンテとサトノラーゼンは長期休養となり、少なくとも菊花賞は絶望と泣いてるから

 

 

「もうちょっとウマ娘の福利厚生とか考えてほしいよな」

「な、なんですかゴルシさん!?」

 

 そんなこととは関係なく、キタサンブラックはゴールドシップに絡まれていた。

 

「お前もさー、テイオーテイオーって鳴いてるからスピカに来てくれると思ったのに、結局キタサン組傘下の黒沼組の舎弟になっちまうから寂しいんだよ」

「人のチームと実家を組織みたいに言わないでください!!」

「いやだって、ライブで参加者より目立つ観客って初めて見たし」 

 

 ダービーでは14着だったキタサンブラックであり、バックダンサーになったキタサンブラックであったが、終わりごろ、ダービーに娘が出ていると感極まったキタサンの父親が歌いだしたのだ。別に観客が参加者に合わせて歌うこと自体は珍しい話ではないが、その声と声量に、有名な歌手である彼に気づいた周りが、ライブ終了直後にライブ舞台を占拠して、一曲願ったのが今回話題になっていた。

 

「菊花賞に娘が勝ったら親子で歌う」

 

 そんな宣言がダービーの勝敗以前に一面を飾ってしまうほど有名になってしまっていた。

 とはいえ、だれも本気にしてはいない。今回のキタサンブラックの走りを見る限り、悪いわけではないがやはりスプリンターだ。2000mでぎりぎり、2400mでは明らかにスタミナ不足という結果が出ている中、それが夏を挟むとはいえ3000mの日本有数の長距離レースを走れるわけがない。

 だから、親バカのほのぼのした話題として世間ではとらえられていた。

 

「ま、そんなことはどうでもよくねえけどどうでもいいんだ」

「なにがですか!?」

「ちょっと面貸してもらおうかと思ってな」

「カツアゲ!?」

「冒険だよ! いくぞ!!」

「なんでぇえええええ」

 

 キタサンブラックはゴールドシップに連れ去られた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「ゴールドシップさん」

「よー、サトイモじゃねえか、久しぶり。マックちゃんが寂しがってるぜ」

「別にそんなことありませんわ。いらっしゃい、サトノさん」

「ほら、すねて冠名でしか呼ばねーじゃん。というかサトノ多すぎてサトノさんで判別つかねーだろ」

 

 久しぶりに来たスピカの部室は、今までのようにちょっとくたびれていて、しかし楽し気な空気が流れていた。

 

「同じ冠名が多いと困りますよね。メジロさん」

「ほら、サトイモが拗ねた。マックちゃん、謝るなら今だぞ」

「貴女の呼び方の方が失礼だと思いますけどね。こほん、で、ダイヤさん、いかがしたのですか?」

「ゴールドシップさんに少し相談が……」

 

 サトノダイヤモンドがスピカの部室を訪れたのはゴールドシップに会いに来るためだった。

 訝しむメジロマックイーンに察したゴールドシップがめんどくさそうに手を振る。

 

「あーマックちゃんならいても大丈夫だろ」

「それなら…… しばらくキタちゃんのこと世話を焼いてくれませんか」

「なんでだよ、あいつなら米とサイボーグが子猫育てるみたいに世話焼いてるじゃん」

「今後何が起きそうか、ゴールドシップさんならわかるでしょう」

「?」

 

 わかっているかのような二人に対して、メジロマックイーンはまるで想像がつかなかった。

 キタサンブラックが友人が少なく浮いている、とかならゴールドシップのような変わった人物をぶつけてみるのはわからなくもないが、黒沼トレーナーにミホノブルボンとライスシャワーという先輩に恵まれ、友人も目の前のサトノダイヤモンドを筆頭に数多い彼女が交友関係に問題を抱えているとは思えない。

 首をかしげるメジロマックイーンに、ゴールドシップはため息をついた。

 

「彼女が今年の壊し屋か」

「ッ、ゴールドシップさん!!!」

「そういわれるでしょうね」

「サトノクラウンじゃなくてか」

 

 壊し屋、ダービーで怪我が続出すると現れる一種の呪いである。

 怪我が続出したのは誰かのせいだという理由の後付けからかかってくる、本当の意味での呪いの一つである。今年はなんせ3人も骨折したから誰かが言われるようになるだろうとはゴールドシップも予想していたが、それがキタサンブラックになるというのは少し予想外だった。

 

「クラちゃんは真面目ですし、今回のレースではあまりそういう風に見える振る舞いではなかったですからね」

「アタシは追込みでも壊し屋って言われたけどな」

「ゴールドシップさん!!! 私はその言い回しは好かないとあれほどいったでしょ」

「わりーわりー、マックちゃん」

 

 ゴールドシップの時も壊し屋といわれたのを思い出す。1着から3着まで屈腱炎などを発症し、その原因がなぜか5着のゴールドシップだと言われたのだ。自分よりフェノーメノの方がよほど黒くて悪者っぽいのにと不満に思ったのは今でも覚えている。

 

「キタちゃんは華がありますし、逃げる姿が印象に残ります。そして、今度の菊花賞、キタちゃんが勝ちますから、その評判がきっと固まるだろうなと」

「すげー自信だな」

「間違ってるとでも」

「いや、アタシが同世代だったら黒沼トレーナーに会えないようにしてるわ」

 

 言外に認めるゴールドシップに、話題が変わったと思ったマックイーンは紅茶を入れ始める。

 

「スプリンターミホノブルボンが勝てなかった菊花賞を同じスプリンターキタサンブラックでリベンジしないとどうしていえる? 黒沼トレーナーも周りも、そこを第一目標にしているに決まってるだろう?」

「キタちゃんが無敗の三冠って言っていたからそれに惑わされているのかなと」

「その辺含めて盤外戦か。バクシン理論、すげーな」

 

 言える評判から盤外戦、出走直前、直後の心理戦すべてを含んだ戦法、かつてシンボリルドルフが派手にやっていたそれと似たような結論に達したのがサクラバクシンオーだったというのが明らかになったのは最近のことだ。

 バクシン理論、脳みそまで筋肉にして全力で走ることと思わせるところから始まる、緻密な情報戦、王を名乗るだけある理論である。それの正式な継承者であるキタサンブラックが、フルで情報戦から挑んでいるのだ。ドゥラメンテが落ちた今、勝負になる相手はいてもごく少数だろう。

 

「まあやってるのは周りみたいですけどね。主に黒沼トレーナーとか」

「素直だからなぁ…… キタサンは」

「でもその仕立てに乗るだけの度量と機転はありますから」

「で、どうして私のところに?」

「かばってくれそうなの、ゴルシさんぐらいしか思いつかなくて」

 

 壊し屋の評判が立ってキタサンがどうなるかまではサトノダイヤモンドにはわからなかった。案外気にしないかもしれないが、かばってくれそうなつながりに声をかけておくのも重要だろう。

 そう考えて頼れそうなのは目の前のゴールドシップだった。同じ境遇で破天荒な彼女ならどうにかなりそうである。

 ライスシャワーあたりなら共感はしてくれそうだが、頼りがいはまるでないし、良いからさっさと走りなさいなミホノブルボンや黒沼トレーナーにフォローは期待できそうになかった。

 

「ま、そうだな、ひとまず遊びに行こうぜ」

「え?」

「ただで助けてもらえるとは思っていないよな。懇親しねーと。最近お前らが構ってくれねーからマックちゃんが寂しがってるしな」

「私は関係ありませんわ」

「なんだよ、昔はテイオーさんマックイーンさんってうるせーぐらい引っ付いて来たのに、自分たちのレースが始まればそっちが大事かよ」

「というか寂しがってるのゴールドシップさんですよね?」

「わりーか!」

 

 むくれるゴールドシップに二人は笑った。

 

「では、サトノ家の別荘でも使いましょうか、もともと海賊の拠点だったともいわれているので宝探しもできますよ」

「さすがサトイモ! わかってるじゃねーか! ほらマックちゃん、早速行くぞ」

「え、ちょっと待ってくださいまし!?」

 

 基本的に愉快犯な二人は、アクセルを踏むとスタートが早い。

 こうして仲良く二人で宝探しツアーの準備を始めると、メジロマックイーンはついていくのにいっぱいいっぱいであった。

 

 なお、別荘では宝は見つかったし、孤島で殺人ミステリー的な事件は起きたし、最後は爆発で落ちたのは念のため述べておく。

 




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小ネタ
・壊し屋
強そうな異名だがライバルがどんどん怪我していく馬。本人は大丈夫なのも条件の一つ。単なる理由の後付けでしかない。
・呪い
悪いことがあったときに後付けで理由をつけて説明することという解説をどこかで見たことがある。
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