そして、みんなの愛バになった ウマ娘キタサンブラック伝 作:雅媛
「やっぱりトレーナーさんが見つからないよぉ!!!!」
キタサンブラックはまだトレーナーと契約ができていなかった。
いろんなトレーナーとお話して、授業でいっぱい頑張ればスカウトが来るとある種の脳筋的思考停止で頑張っていたキタサンブラックであったが、周りはどんどんスカウトされ、一方で自分には何も来ないのはおかしいとさすがに思い始めた。
しかしその原因がキタサンブラックにはまるで分らなかった。スカウトに関する知識がまるでないからだ。
大抵の学生はこういった知識を得てからトレセン学園に入学してくる。
卒業生である親や姉そのほか親戚から得た情報や、名家なら家で共有されている情報、関係者であるトレーナーからの情報などを予め仕入れてくるのだ。
だがキタサンブラックの家は名家といえるような家では全くなかった。確かに歴史は非常に古い。非常に古い家系であり、メジロ家などともそう変わらない古さを持つ。
だが、ウマ娘関係で輝かしい歴史など全くない。キタサンブラックの父は有名な歌手であり、社会的に成功をしている一家ではあるが、ウマ娘関連では全く実績がなかった。そのためトレセン学園卒業経験のある親戚もおらず、親族などからトレセン学園の情報などまるで入ってこないし、親族以外にトレセン学園やトゥインクルシリーズなどを知っている知り合いもいなかった。
完全に情報戦に敗北していたのである。
もちろんキタサンブラックにも全く伝手がないわけではない。
幼馴染で親友のサトノダイヤモンドなど、サトノ家の情報網があるのだからかなりいろいろ知っている。
他にも幼馴染で先輩のコパノリッキーも、聞けば先輩ゆえにいろいろ教えてくれただろう。
また、朝に会話していたスイープトウショウなど、キタサンブラックの社交的で利他的な性格ゆえに入学後に仲良くなった友達は少なくはない。
だが、その社交的な性格も災いしていた。まさか、これだけ知り合いが多いキタサンブラックが何も知らないということに、本人含めて誰も気づいていなかったのだ。
そして、それに初めて気づいたのがサトノダイヤモンドとサトノクラウンであった。
「ダイヤちゃぁん、クラちゃぁん、トレーナーさんが見つからないよぉ」
「うーん、どうしてだろうねぇ」
サトノダイヤモンドは不思議に思っていた。
確かに今の時点でもトレーナーが決まっていないウマ娘はそう少なくはない。だが、そういう子たちはのんびりしていてトレーナー探しを始めたのが遅い子か、性格に難がある子ばかりだ。
入学直後から積極的にトレーナー探しをしていて、性格も社交的で優しいキタサンブラックがトレーナーを見つけられないというのが不思議でしょうがなかった。
「少し現状確認した方がいいんじゃないかしら。よく考えたらキタサンが今どんな状況かわからないわ」
サトノクラウンがそう冷静に提案する。
サトノダイヤモンドと違い、サトノクラウンがキタサンブラックと直接知り合ったのはトレセン学園入学後だ。確かにキタサンブラックの性格がよく、レースにも積極的なのは知っているが逆に言えばそれしか知らなかった。もしかしたら何か重大な欠点、見落としがあるかも、と考えたのだ。
サトノダイヤモンドも原因がわからない以上それに賛成した。
「そうだね。キタちゃん、いくつか聞かせてもらっていい?」
「もちろんだよ!!」
泣いたカラスがもう笑う。嘆いていたキタサンブラックは二人が手伝ってくれると分かってすぐ笑顔になった。
「じゃあまずキタサンのRKSTポイントを教えてもらってもいいかな」
「……RKSTポイント?」
「もしかして取ってない?」
「……」
「キタちゃん?」
「聞いたこともないかも」
「「えっ?」」
サトノダイヤモンドもサトノクラウンも驚いた。
RKSTポイント。Rookie Knowledge,Stats,and Talentポイントの略であり、毎年算出されるデビュー前のウマ娘の評価ポイントだ。トレーナーが担当ウマ娘を探す時にも参照される重要な数値である。最もその評価方法には様々な意見があり否定的な者も少なくはない。そのため入学時に測定を拒否すれば算出されないが…… この感じだとキタサンブラックは拒否していないだろうと二人は察した。
「それってどこで見れるの?」
「スマホで見れるよ。スマホ借りてもいい?」
「はい、ダイヤちゃん」
キタサンブラックからスマホを受け取ったサトノダイヤモンドは、パスワードを解除し操作を始める。
他人のスマホのロックを当然のように解除したサトノダイヤモンドにサトノクラウンは驚くが、サトノダイヤモンドに非常識なところがあるのは昔からだし、キタサンブラックも気にしてなさそうなので見なかったことにした。そうして少し経つと、サトノダイヤモンドの指が止まる。
「見つかった? ダイヤ」
「見つかったけど……」
「……うーん、これは……」
「え、どれどれ?」
スマホにはキタサンブラックのRKSTポイントは350万と表示されていた。
万という単位が唐突に出てきて、キタサンブラックは面食らう。事前知識のない彼女には数値の意味がまるで見当つかなかった。
だが、サトノの二人はこの数字を見て渋い表情をする。
「これってどれくらいなの?」
「うーん」
キタサンブラックに聞かれてサトノクラウンは迷った。正直何となくサトノクラウンが予想していた数字よりも圧倒的に低い。だが、それを正直に告げていいのか判断ができなかった。
「正直言って、すごく悪いよキタちゃん……」
「ええ!! そうなの!?」
「ダイヤ!?」
一方サトノダイヤモンドは全く隠すことなく話すことにした。それだけの信頼が二人の間にあると信じているからだ。案の定大きく驚くキタサンブラック。だが、彼女のためには正直に説明するのが親友だと考えいるのだ。
サトノクラウンの咎めるような声を無視してサトノダイヤモンドは話を続ける。
「大体、メイクデビューに勝利できる水準が1000万、GⅠを狙うには最低3000万といわれているんだよ」
「じゃあ私はGⅠを狙える才能の10分の1の才能しかないの!?」
「数字はあくまで参考だからあまり真に受けない方がいいと思うけど、トレーナーさんにはそう思う人もいるだろうね」
さらに言えばトレセン学園入学の最低ラインが500万といわれていて、それすら下回っているのは正直トレセン学園に入学してくる生徒ではかなり珍しい。
RKSTポイントはある程度事前に予想ができるので、これならば測定してもらわない方がよかっただろう。メジロやシンボリなどの名家も測定拒否をしているし拒否することが低能力というわけでもないのだから。とはいえ歴然と数字が出てしまっては今更である。もう少し、入学前にちゃんとお話しするべきだったとサトノダイヤモンドは後悔した。
「ちなみにダイヤちゃんとクラちゃんは何点ぐらいなの?」
「えっと……」
「私は2億3000万、クラちゃんは6000万ぐらいだっけ」
「ちょっとダイヤ、他人の数字言うのは失礼よ!!」
「ほえええ、二人ともすごいんだね!!」
安直に聞くキタサンブラックに、安直に答えるサトノダイヤモンド。二人に振り回されているのをサトノクラウンは自覚した。
そもそもRKSTポイントはあまり他人に話すものではない。競争能力を明確に数字化するものである以上、どうしてもトラブルが生じやすい。特に圧倒的に差があると、友情関係が壊れてしまうといったことも珍しくないため、余程の間柄でないとお互い教えないものである。だからサトノクラウンは聞くときも慎重に聞いたし、聞かれたときも言を濁したのだが、サトノダイヤモンドは一瞬たりとも躊躇しなかった。
サトノクラウンはキタサンブラックを見る。
サトノダイヤモンドが親友と言ってはばからないのがキタサンブラックだ。
確かに明るく社交的でとてもいい子である。お助けキタちゃんを自称していろんな手伝いをしているのも見かけるし、人が好いのも間違いない。友人になるにはとても気持ちの良い娘であるのは疑うこともない。
だが、サトノの期待と使命に釣り合うだけの才能を持つサトノダイヤモンドと、キタサンブラックが釣り合っているかといわれるとかなり疑問であった。今回ポイントの話を聞いてその思いがより深まる。
しかしサトノダイヤモンドは疑っていない。キタサンブラックが親友であると、自分と同等と疑っていないのだ。
サトノダイヤモンドはその親友という席に今まで誰も座らせることはなかったのに。彼女以外には誰も、そう、自分にも座らせてくれなかったのに。
そこに仄かな嫉妬を覚え慌てて首を振るサトノクラウン。
不満ならば努力し振り向かせるべきだ。嫉妬などして立ち止まるべきではない。
だが、仲が良さそうににああでもない、こうでもないと話す二人を見ていると、どうしてもサトノクラウンは心からの笑顔になれなかった。
【挿絵表示】
キタサンブラック
作成者:ねりある様
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小ネタ
・RKSTポイント
サトノダイヤモンドのアプリストーリーにだけ唐突に出てきた落札ポイントです。史実の落札価格はサトノダイヤモンドは2億3000万円、サトノクラウンは5800万円だとか。
一方キタサンブラックは全く売れずに生産牧場と関係が深かった北島三郎氏が目を気に入って350万円で購入した馬です。正確にはセリで落札されていないので落札ポイントか怪しいですがそこはご愛敬。
ちなみに安いといわれるタマモクロス・メイショウドトウが500万、テイエムオペラオーでも1050万ですのでその安さがわかるかと思います。
なお、ドゥラメンテは一口馬主で250万×40口=1億円、シュヴァルグランは庭先取引なので不明ですが、同母の初年度産駒は3885万円だそうなので、もうちょっと高いかな、ぐらいだと思われます。
・キタサンブラックの出自
北島三郎氏の馬主歴は長く、1960年代から馬主をしていました。
もっとも重賞馬は2001年のキタサンチャンネルが初めてですし、あとはG3勝利のキタサンヒボタン、地方年度代表馬になったキタサンミカヅキぐらいで、G1を勝ったのはキタサンブラックしかいません。そんな北島三郎氏が一目見て気に入ったキタサンブラック。彼だけの愛馬が何時しかみんなの…… というのがキタサンブラックのいいところなんです(オタク特有の早口
サトノダイヤモンド
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ダイヤちゃん
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ダイヤ
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サトノさん
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