そして、みんなの愛バになった ウマ娘キタサンブラック伝   作:雅媛

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1-3 キタサンブラックと風水

「やっぱりトレーナーさんが見つからないよぉ!!!!」

 

 キタサンブラックはまだまだトレーナーと契約ができていなかった。

 

 

 

 サトノダイヤモンドとサトノクラウンと相談し、自分が思っていた以上に評価されていないことに気づいたキタサンブラックであるがその打開策は3人で考えても思いつかなかった。

 なんせ、二人ともサトノ家がいろいろ用意してくれる環境に慣れ切っている。トレーナーだってサトノ家の懇意にしているチームカペラのトレーナーと契約したのだ。トレーナーが一般的にどういう基準で評価をするのか、といったものまではわかるが、ではこの評価だとウマ娘はどう動くべきか、といった能動的にトレーナーを探す方法はまるで知らなかった。

 とはいえ、今までのようにただただ努力して当たって砕け続けるだけではあまりいい結果は出ないだろうという結論は出たので他の方法を考える必要があった。なのでキタサンブラックは、別のウマ娘に相談することにしたのだ。

 

「ということでこんにちはリッキーさん」

「お久しぶり、キタちゃん」

 

 キタサンブラックが訪ねたのはコパノリッキーであった。

 

 

 

 コパノリッキーはキタサンブラックから見ると小さいころから知っている年上で幼馴染のウマ娘である。

 家が近かったり、通っていたちびっ子ウマ娘向けの練習場も一緒だったりと何かと付き合いが多く仲が良かった。コパノリッキーが先にトレセン学園に入学し、しばらく交流がなかったがトレセン学園にいるのは知っていたため今回訪ねることにしたのだ。

 

 コパノリッキーがどこにいるかはすぐに見つけることができた。なんせ、学園の一角に「★ラッキー★リッキー★風水★」と看板のかかったテントが立っていたからである。一瞬、コパノリッキー以外にも風水が大好きなウマ娘がいる可能性もキタサンブラックの頭によぎったが、当然そんなこともなく、テントの中にはコパノリッキーが滞在していた。

 

「そっかー、キタちゃんも今年入学かぁ。大きくなったねぇ」

「えへへ~」

 

 コパノリッキーが座ったキタサンブラックの頭を撫でる。

 昔のキタサンブラックは小さくてコパノリッキーとの身長差もかなりあったので、コパノリッキーがキタサンブラックを膝にのせて抱きしめる、といったこともしていたが、今はもうほとんど身長差がない。本当に大きくなったなぁとコパノリッキーがしみじみしていると、キタサンブラックが話をし始める。

 

「それで、リッキーさんに相談したいことがあって」

「何々? 何でもコパっと風水で解決するよ! あ、お金と勉強と病気のこと以外はね!」

「あはは、どれにも当たらないから大丈夫です! あの、トレーナーさんとの契約ってあるじゃないですか」

「うんうん、あるね」

「私もトゥインクルシリーズを走りたいので契約してくれるトレーナーさんを探しているのですが…… 全然契約できなくて」

「なるほどなるほど。それって、お目当てのトレーナーさんは見つけたけど契約してくれない感じ? それともお目当てのトレーナーさんが見つからない感じ?」

「お目当てのトレーナーさんが見つからない感じですね」

「キタちゃんのことだから既にやっていると思うから一応聞くだけだけど、説明会とかには参加してるよね?」

「はい、全部参加してます!!」

「なるほど……ひとまずこれ、部屋に帰ったら窓際に置いておいて」

「ありがとうございます!!」

 

 縁結びの効果がある白い小さな招き猫を渡して、コパノリッキーは考える。

 風水は有効だが万能ではない。ちゃんと自分で考え、結論を導き出す必要がある。だから相談をちゃんと聞き考える必要があるのだ。

 付き合いが長いコパノリッキーはキタサンブラックの性格をよく知っている。確かにトレセン学園に自分が入学してから会ってはいないが、その程度の期間でそう性格が変わっているとも思えない。お目当てのトレーナーさんとの相性が悪い、というならまだしも、性格の問題でトレーナーが見つからない、というのは考えにくかった。

 だが、性格以外の問題なら思いつく。コパノリッキーもキタサンブラックもシンボリやメジロ、トウショウなどといったウマ娘名家のウマ娘ではない。そういうウマ娘は実績がなく評価されないなんて言うことも少なくない。きっとそのあたりに問題があるのだろうと考え、もう少し話を聞こうとコパノリッキーは姿勢を正す。

 

「そういえばキタちゃんのトゥインクルシリーズの目標は?」

「テイオーさんみたいな無敗の三冠です!」

「……そうだったね」

 

 昔からキタサンブラックが掲げていた夢を思い出したコパノリッキー。それだけとは限らないが、トレーナーが決まらない大きな原因をコパノリッキーは見つけた。

 無敗の三冠を目指す、これ自体は珍しい話ではない。実現できるのが10年に一人ぐらいだが、大きな夢を持つことは悪いことではないのだ。だが、それはあくまで芝の中長距離に適性があるウマ娘に限った話である。

 キタサンブラックはどう見ても短距離系のウマ娘だ。マイルでぎりぎり、甘く見て頑張れば2000mは走れる、ぐらいが距離適性だろうことはコパノリッキーですらわかる。そしてトレセン学園の優秀なトレーナーが、キタサンブラックの距離適性をわからないわけがないのだ。

 三冠を目指すには、3000mの菊花賞を走らなければならない。長距離の適性があってもクラシック時期で経験がまだ比較的浅い時期に行われるそれは、適性があっても苦しい距離だ。それを明らかに短距離適性のウマ娘が目指すというのだからトレーナーとしては責任が持てない、というのが正直な話だろう。意地悪をしているのではなく、それがトレーナーとしての誠意だ。むしろ、適性を無視してひょいひょい引き受けるトレーナーに大事な幼馴染を任せる方が怖い。

 

 手元にある羅盤を見つめながらコパノリッキーは考える。

 ここで、短距離向けのトレーナーを薦めるのは容易だ。自分も何人も知っているし、今まで足繁く説明会などに通っているキタサンブラックも把握しているだろう。

 そして、先輩として自分がそう進めれば、キタサンブラックも諦めて短距離の道を目指すように思える。だが、だからこそそれでいいのだろうかという疑問がコパノリッキーの頭をよぎる。他人にアドバイスするというのはいつも難しいが、今回は幼馴染の運命すら変えるものだ。本当に難しい話だった。

 風水的に見れば一つの答えは出る。だがその答えが正しいのか。そう迷っている時点で風水に頼るのも違うと悩む。

 

「キタちゃんはどれだけ頑張れる自信がある?」

「どれだけ……?」

「私は三冠ウマ娘の練習風景は見たことがないけれど、三冠ウマ娘を目指すウマ娘の練習風景は見たことがあるんだ。すごいんだよ。私たちがいたあのちびっ子向けの練習場での練習なんて遊びじゃないかと思うぐらい」

「やっぱりすごいんですね!!」

「キタちゃんは短距離が適性だろうから、そういう子たちよりももっと頑張らないといけないと思う」

「なるほど!! じゃあすごいすごく頑張ります!!!」

「……」

 

 予想ができた回答にコパノリッキーは苦笑する。普通ならその場かぎりの、何も考えていない勢いだけの発言に聞こえるだろう。だがコパノリッキーは知っている。キタサンブラックはやると言ったらやる子だ。きっと文字通り地獄のようなハードトレーニングでも弱音一つ吐かずに楽しそうにやるのだろう。

 そして努力は必ず報われる、という父の言葉をコパノリッキーは思い出す。ならば、アドバイスは決まった。

 

「じゃあキタちゃんにもう一つアドバイス♪ ここから北北西に行くと坂路コースがあります」

「あの長い坂道ですね!!」

「そうあれあれ。あそこに今から30分後に行くと風水的に相生だね」

「なるほどわかりました!!」

「お茶でも飲んで、一息ついてから行くといいよ」

「わーい、リッキーさんと久しぶりのお茶だ♪」

 

 嬉しそうに座るキタサンブラックに、コパノリッキーはお茶の葉を取り出し和紙の上に置く。

 ろうそくに火を灯して、ゆっくりとお茶の葉を焙じ、ほうじ茶にしていく。

 

「この香り、リッキーさんのお茶って感じ♪」

「キタちゃんこれ好きだよね」

 

 ただのお茶もいいが、こうやってその場で焙じることにより香りを漂わせ厄を払う、というのも父から教わった方法だ。コパノリッキーは入学から今まで散々苦労をしてきただろうキタサンブラックの苦労を労うつもりだった。

 

「うーん、いい香り」

「あまり顔近づけないでよ。それでくしゃみして吹き飛ばしたの、一度や二度じゃないんだから」

「も、もうしませんよ!!」

 

 慌てて顔を蝋燭から離すキタサンブラック。キタサンブラックがくしゃみしてコパノリッキーの顔面中がお茶葉まみれになったのもいい思い出である。

 あのころと変わらないモノも変わったモノもある。

 これからもどんどんキタサンブラックは変わっていくのだろう。

 ぞれが寂しくないと言えば嘘になる。だけど、変わるのは必然だ。風水も変化を常に基本としている。ならばキタサンブラックの変化のために少しでもいいモノを。コパノリッキーが選んだのはそういったモノであった。

 

 短距離適性のウマ娘が三冠を目指し菊花賞を走る。それは確かに過去あったことだ。

 ミホノブルボン。スプリンターといわれた彼女は、あと一歩及ばなかったがクラシック三冠のうち二冠を制し、菊花賞も二着にたどり着いた。狂気的ともいわれるハードトレーニングでなしたそれは、多くのウマ娘が憧れ、しかし彼女以外誰もなしえなかった方法であった。

 だが、もしかしたらキタサンブラックなら。

 ミホノブルボンとそのトレーナーはこの時間だと坂路でトレーニングしているのは有名な話だ。

 あとはキタサンブラック次第。でもコパノリッキーは何となくうまくいく予感がしていた。

 

 そんなことを考えていたら、ほうじ茶が少し焦げた香りが鼻を突いたのだった。





【挿絵表示】
コパノリッキー
作成者:ねりある様

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・キタサンブラックとコパノリッキー
 ウマ娘だと幼馴染設定がありますが、馬としては同じヤナガワ牧場生産、初期の育成も日高軽種馬共同育成公社で同じ、という縁があります。年齢的に同じ時期に一緒にいたことはないでしょうが、幼馴染という設定ができる程度には関係があります。

・短距離ウマ娘キタサンブラック
 母父サクラバクシンオーなので短距離馬だと思われていたと思われます。
 サクラバクシンオー産駒は重賞はマイルまでしか勝てず、母父サクラバクシンオーの馬も1頭重賞で鳴尾記念2000mに勝っているだけで、基本短距離からマイルしか走れない馬ばかりです。
 サクラバクシンオーの血統についていろいろ言う人はいますが(サクラバクシンオーの母は天皇賞春と有馬記念を勝ったアンバーシャダイの全妹、父父はトウショウボーイを出したテスコボーイなので結構長距離血統だったりします)、サクラバクシンオーというだけですべて短距離に染まる実績です。バクシンはすべてを染め上げる。
 ちなみに父はディープインパクトの全兄で代用種牡馬ですが、ディープインパクト産駒は3000m以上のGⅠで勝てないジンクスがあったので(これを破ったのもサトノダイヤモンドの菊花賞)中距離向けと思われていたでしょう。
 となると中距離が限界+短距離なので、中距離が走れればいい方、ぐらいの血統です。

コパノリッキー

  • コパコパしてきたぁ!!!
  • コパぁっ!?
  • コーパッパッパ!!!
  • ☆リッキー☆ラッキー☆みんなでハッピー☆
  • 風水でリッキー!!!
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