そして、みんなの愛バになった ウマ娘キタサンブラック伝   作:雅媛

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第2話 キタサンブラックのトレーニング
2-1 キタサンブラックのトレーニング


 キタサンブラックはミホノブルボンの紹介を受けて黒沼トレーナーと契約し、正式にチーム黒沼(仮)に加入した。

 ミホノブルボンに紹介された黒沼トレーナーは、帽子、サングラス、ひげという強面で、上半身裸ジャージという威圧感たっぷりの人であった。ジャージから覗く胸筋と腹筋は鍛えられていて、その筋の人なのか、それともただの変な人なのか、キタサンブラックの判断がつかなかった。

 少しビビりながらもキタサンブラックは気になったことを尋ねる。

 

「そういえばなんでチームの名前は『チーム黒沼(仮)』なんですか」

「それは複雑な理由があってな……」

「マスターがチーム名を何も思いつかなかったので、仮の名前のままなだけです」

「うむ、そういうことだ」

「どこが複雑なんだろう……?」

 

 自信満々にそれっぽく述べた黒沼トレーナーに、ミホノブルボンの冷静な説明が入る。

 チームの名前はスピカやリギルのように星の名前にすることが多いが、トレーナーが決めるものであり余程おかしな名前でなければ何でも許される。

 そして決めるまではトレーナーの名前が仮の名前として付けられるのだが…… 何も思いつかなかった黒沼トレーナーは仮の名前のまま、今の今まで来てしまったというだけのようだ。

 

 見た目と話し方に反して意外とおちゃめな人なんだな、とキタサンブラックは理解した。

 

 

 

「あと1本行きますよ!!」

「はいいいい……」

 

 今日も坂路でミホノブルボンの掛け声にキタサンブラックが力ない声で答える。

 チーム黒沼(仮)に所属することになったキタサンブラックは日々ハードなトレーニングに励んでいた。

 坂路を1日3本。一般的には坂路2本でもかなり厳しいトレーニングだがそれを毎日3本行う。

 しかも1本1本、今のキタサンブラックの実力的にギリギリの速さで走っている。黒沼トレーナーが毎日今のキタサンブラックの限界のペースを計算し、ミホノブルボンが併走で黒沼トレーナーが決めたペースをキープをするというかなり手厚いサポートをもとに行われている。怪我の危険は少ないがキツさという点では他のウマ娘と比較にならないぐらい厳しかった。

 

「3本目もお疲れさまでした」

「ひぃ、ひぃ……」

 

 タフさと元気さが売りのキタサンブラックとはいえ、限界まで追い込まれて息も絶え絶えである。

 だが、これでトレーニングは終わりではない。

 

「クールダウンをやりますよ」

「ふわぁい……」

 

 クールダウンが残っているのだ。

 これがまた結構きつい。基本は俗にいうストレッチなのだがこちらも限界ギリギリまで動かされる。

 キタサンブラックが両足を開いて、徐々に広げていく。俗にいう股割りだ。

 こういった柔軟体操をあまりしてこなかったキタサンブラックはそう柔らかい方ではない。

 120度ぐらい開いたら限界なのだが、ここからがきついのだ。

 

「うぎぎぎぎぎ」

「呼吸を止めないでください」

「でも裂けちゃうううう」

「大丈夫です、支えていますから」

 

 ミホノブルボンがキタサンブラックの足を少しずつ外にずらしていく。限界だと思っていたラインを少しずつ超え、本当の限界に近づく。一応内ももをミホノブルボンが手で支えているため、ひどいことにはならないがきついのは変わらない。

 

「そのまま大きく呼吸して、30秒ほどキープです」

「ひー、ふー」

 

 初日よりはかなり柔らかくなっているがまだまだ先は長い。

 ミホノブルボンの方はキタサンブラックを見ながら自分も股割りをする。きれいな180度開脚だ。

 

「柔らかいですね」

「怪我をしないようにするには大事ですから」

 

 クールダウンを念入りに行うことは、ミホノブルボンの現役時代にはしていなかったことだった。

 だが、ミホノブルボンが菊花賞後怪我をしたため、不足していたのは何か、を考え直した結果に追加されたものでもある。

 

「ブルボンさん」

「なんですか?」

「毎日同じことをしていて、いいんですかね?」

 

 キタサンブラックは尋ねた。

 クラスメイトに話を聞くと、今日はプールだ、明日はダートコースだ、などとその日によっていろいろなトレーニングをしている。一方キタサンブラックは毎日執拗に坂路トレーニングだ。甘いトレーニングではない、どころか毎日限界ギリギリだが、どうしても他と比べてしまった。

 

「大丈夫です」

「ブルボンさん、そういう時はもっとお話しした方がいいと思うよ」

 

 自信満々に断言したブルボンに対し、通りすがりの小柄なウマ娘がツッコむ。

 

「ライスさん……」

「お知り合いですか?」

「ライスはライスシャワーだよ。よろしくね」

 

 小柄なウマ娘が自己紹介をする。その名前を聞いてキタサンブラックは思い出す。

 ライスシャワー、親友のサトノダイヤモンドが大ファンのメジロマックイーンの天皇賞春三連覇を阻止した……

 

「レコードブレイカー……」

「彼女をそう呼ぶのはやめてください」

 

 思わずつぶやいたキタサンブラックにゾっとするほど冷たく注意するミホノブルボン。

 彼女がここまで感情的になるのをはじめてみたキタサンブラックは思わず硬直する。

 

「ブルボンさん、後輩をいじめちゃだめだよ」

「ダメです。それだけは許せません。それはライスさんだけではなく負けた私やマックイーンさんすら侮辱するものです。そもそもライスさんは私のヒーローなんです。それを……」

「あ、あの、ごめんなさい!!」

 

 慌てて謝るキタサンブラック。

 いいんだよとキタサンの頭を撫でるライスシャワー

 

「うちのチームメイトを甘やかさないでください」

「ブルボンさんが厳しすぎるんだよ。あともっとお話しした方がいいと思うんだよ」

「じゃあライスさん、一緒にストレッチしましょう」

「ライスは遠慮しておくよ……」

「そんなことを言わずに」

 

 逃げようとしたライスシャワーを一瞬にして捕まえたミホノブルボンは、そのままライスシャワーに股割りをさせるが…… 90度も開いていないんじゃないか、ぐらいのところで脚が開かなくなった。

 さすがに硬すぎるんじゃないか、キタサンブラックは思った。

 

「ライス壊れちゃうよぉ!!」

「硬すぎて別の意味で壊れそうですね、相変わらず」

「ぐぎぎぎぎぎ」

 

 楽しそうに戯れる二人を尻目にキタサンブラックもクールダウンを続けようとして…… ミホノブルボンに肩をつかまれる。

 

「キタサンもまだ余裕があるのはわかりました。今日は念入りにやりましょうね」

「ひ、ぎゃあああああああ」

 

 キタサンブラックとライスシャワー、二人の悲鳴がトレセン学園に響くのであった。

 

 

 

「それで、同じ練習ばかりでいいのか、ですか」

「みんないろんなトレーニングやっているので……」

 

 地面に倒れ伏すキタサンブラックとライスシャワー。ライスシャワーの方は念入りにほぐされてピクリとも動かなくなっていた。

 そんな中、ミホノブルボンは練習の意義を説明し始める。いいからさっさと走りなさい、がミホノブルボンの信条だが、他人がそれと同じとは限らないということは最近すこしは学んだのだ。よく忘れるが、ライスシャワーにツッコまれて思い出したので説明をする。

 

「本来トレーニングは同じものをやった方が効率的です。トレーニング自体にも練度がありますから、同じものを繰り返した方がより効果的になります」

「なるほど」

「もちろん同じものばかりやっているとバランスの良い鍛え方がしにくい、という欠点もありますが基本的には有効だと思ってください」

 

 純粋に効率を求めるなら、トレーニングを繰り返した方がトレーニングそのものがより上手くなっていく。もちろんやり方によっては鍛え方が偏るが、今のキタサンブラックはまず基礎を作る方が大事であるし、同じものを繰り返すのが効果的であった。

 

「あとは、負担の問題もあります。キタサンは丈夫ですからこれだけやっても大丈夫ですが、大体のウマ娘は足の負担が耐えられません。なので限界まで追い込むのに、他の方法、例えば脚の負担がほぼないプールトレーニングなどを行います」

「ほえ~」

「最後に、同じものばかりだと飽きてしまうウマ娘も多いです。キタサンはまじめですから同じトレーニングでもちゃんとやりますが、同じものだとやらなくなるウマ娘の方が多いのです。そういったやる気対策でもありますね」

「やっぱりちゃんと考えられているんですね」

 

 どうにか起き上がったキタサンブラック。

 ライスシャワーは倒れたままである。

 

「ライスさん、動けそうですか?」

「む~り~」

「だらしないですね」

 

 ライスシャワーを米俵を担ぐように抱き上げるミホノブルボン。

 お米様抱っこをされてもライスシャワーは動かない。

 

「さて、食事に行きましょうか。食べることも大事なトレーニングです」

「はい!!」

「ライス、ニンジンハンバーグがいいな」

「ライスさんは食べすぎに注意してください」

「大丈夫だよぉ」

 

 ライスシャワーとミホノブルボンが食べ過ぎに関する話をしているのを見て、キタサンブラックは首をかしげる。ライスシャワーはどう見ても小柄だし、食べ過ぎると言ってもたかが知れているように思えるからだ。もちろん競技者として太ってしまうと大変なのはそうであるのだが……

 

 

 

 食べることまでトレーニング、ということで少し早めの夕食をとるため、ブルボンに連れられて学食へ向かうキタサンブラック。好きなものを好きなだけ食べられる食堂はまだ時間が早く人が少ないが料理は並んでいた。

 

「何を食べようかな」

「ライスはこれとこれとこれとこれかな」

「……よく食べますね」

 

 降ろされたライスシャワーは元気よく料理を取っていく。

 ニンジンハンバーグに厚切りベーコン、目玉焼きが乗ったハンバーグに野菜スープ。和風おろしハンバーグとサラダと特盛ライスである。ハンバーグとハンバーグとハンバーグがかぶってしまったな、などというレベルではない量である。

 

「そんなに食べると太りますよ」

「今日はハードトレーニングだったから!!」

「柔軟体操ではカロリーはあまり減りませんよ」

 

 そんな会話を聞きながら、キタサンブラックも料理をとっていく。タンパク質は大事なのでまずは焼き魚。あとニンジンハンバーグとニンジンサラダ。みそ汁とごはんと漬物。これくらいで十分である。サイズはどれもアスリートウマ娘用のサイズなのだから。

 

「ブルボンさん、これでどうでしょうか」

「もう少したんぱく質と糖質が欲しいですね。冷奴と、あとデザートに甘いものをとってください」

「わかりました~」

 

 キタサンブラックにアドバイスするミホノブルボンもそこそこの量の料理をとっていく。キタサンブラックよりは量が多いが、それでもライスシャワーの方が量を上回っている。

 やっぱりいっぱい食べないと速くなれないのかな。

 ライスシャワーの健啖っぷりを見ながらキタサンブラックは思った。





【挿絵表示】
 お米を食べるお米
作成者:ねりある様

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・レコードブレイカーライスシャワー
 レコードブレイカーは初期から言われていたライスシャワーの異名です。ただ、これを勝利を望まれていない、とするのは違うように思っています(2期アニメではそう解釈されていましたが)。
 的場騎手の記事などを見ると、最初にメジロマックイーンに勝ったことについて質問を受けたことに不満を表明していますが、これはあくまで勝ったライスシャワーが主役なのになぜメジロマックイーンが主役のように言われるのか、でしかなく、その勝利が望まれていなかったというと違うように思います。そもそもマックイーンは、2連覇で当時初の歴史的快挙ですし、3回目は明らかにピークを越えているというのが一般的な認識でした(杉本氏の実況が「もう一度頑張れメジロマックイーン」などというあたり、絶対王者とは認識されていません)し、勝利を望まれていないというのを前面に出すと、勝ちを譲ってやれというすごい話になってしまいますからね。
 それがThe WINNER 天皇賞(春)のキャッチコピーのせいでどんどん拡大解釈されているように思います。

・カチコチライスシャワー
 ライスシャワーの父リアルシャダイは繋(つなぎ・人でいう踵の部分)が硬かったといわれています。この馬を種牡馬として導入したのは、当時リーディングをとって牝馬が多くいたノーザンテーストの特徴、繋ぎが柔らかすぎるというのを中和できるのではという期待があったようです。
 ライスシャワーが特に硬かったという話は聞きませんが、父の話題からそうなったんだと思います。

・大食いなウマ娘
 馬で大食いの逸話があるというとやはりオグリキャップでしょう。
 ウマ娘だとスペシャルウィークもネタとしてありますが、スペシャルウィークは470kgを超えると負けるというジンクスがあっただけで、別に大食いだったという逸話はないと思います。普通、クラシック時期よりも古馬になれば適正体重増えるので、絞らないと走らないのはちょっと変わった点でしょうね。
 ライスシャワーは飼葉食いがあまり良くなかったという話しか見ませんね…… 小さいし一杯食べてほしかったという願いもあるのかも。
 あとはメジロは牧場の草が栄養ありすぎて放牧に出すとみんな太りすぎるという問題があったようです。ラモーヌ姉さまお労しや…

ライスシャワー

  • 奇跡の青薔薇
  • 大食いでかわいい
  • 花嫁衣装もかわいい
  • カチコチおこわ
  • 雑穀
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