ゲゲゲの謎 龍の花嫁ルート(旧題:龍の花嫁) 作:負犬惜志夢
私は水木さんが優しいことを知っている
「...すいません、折角のお休みなのに。お騒がせしてしまい。」
「いえいえ、休日だからこそできることをしたいんです。」
優しい彼はこんな至らない私にも、花壇にある花に水を注ぐようにほしい言葉をくれる。
私はそんな言葉が欲しくて、わがままなことを言ってしまう。
「ご注文をお伺いします。」
「ココアで。」
「ブラックで。」
私は彼が忙しいことを知っている。
彼は一度ならず二度もすべてを失った。
そんな彼でも世界は容赦をくれない。
『なんでこんなに空しいんだ。』
押しつぶれそうな彼にとって私は
彼の拠り所でありたい。
だが、私の力では彼の支えることがない。
あの時の私はただの場所と金を取る置物に過ぎなかった。
もし私が花であったなら。
彼の邪魔にはならない。が、その花であっても生きるには水が必要だ。
その水を与えられる存在になるために、花には美しさが必要だ。
水を注いでくれるだけの価値が必要だ。
「…ココア、好きなんですか?」
「ん、ぁ。はい、私はまだこーひーが飲めないので似たもので。」
水を注ぎ続けるに足りえる花であるには、美しさの次に愛おしさが必要である。
美しさが最初に存在を認識するときに必要なものであるとするなら。
愛おしさは、水を注ぎ続ける存在になるために必要なことである。
「そろそろ行きますか。」
「ええ。」
花は咲く時が美しい。
そして、花はいつか枯れてしまう、それと同じように美しさにも限りがある。
「久しぶりですね、ここにくるのも。」
「そうですね、一年前私がここに来たいと言ったきりですね。」
「っ。すいません、去年の冬は。」
「いえいえ。」
「もう一度、あの美しさを。」と思う者は種から育ててくれる。
そうすれば、美しい花開かないこの過程にすら水は与えられる。
これが愛おしさであると私は思う。
『そばに、いてくれ』
下腹部が疼く。
あの夜ですでに私の美しさは枯れた。
もう一度花開くには、あなたに求められるしかない。
「わたしは あなたに、生かされていますから。」
私は花になれない。だから、花のような美しさであなたの目にうつることはない。
私は花ではない。だから、根を張る。あなたの心に。
あなたのいない時には、あなたの好きな色、あなたの好きな香り、あなたの好きな味を。
料理、洗濯、掃除も覚えた。
いつか、置物だった少女はもういない。
それでも、私はあなたの傍にいれるかがわからない。
だって、花ですらない私に水を与えてくれたのはあなただったから。
「ありがとう。沙代さん」
───赤い鉄塔は黒くなり始めた。
「帰りましょうか。」
「そうですね。今日はありがとうございました。」
また、夜がくる。
暗い夜がくる。
「水木さん。」
「はい。」
私は彼の手を握った。
「今日、は何が食べたいですか。」
水木さん、私
「そうですね。たまには私が作りますよ。」
水木さんの手料理?!それは、、、食べたいけど
「私は、いなくても大丈夫ですか?」
そばにいても、いいですか
あなたの、隣に
「沙代さんは休んでいてください。」
少しでも休みたい
そのはずなのに。
「そう、します。楽しみです。」
歩道に映る二人の影は長く、伸びていった。