ゲゲゲの謎 龍の花嫁ルート(旧題:龍の花嫁)   作:負犬惜志夢

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夜明け

嵐が去ったのは十五の時だった。

私の心の暗雲が晴れたのは十五の時だった。

日の光を知ったのは十五の時だった。

あなたと出会えたのは十五の時だった。

あなたが私を連れだしたのは十五の時だった。

 

期待を、した。

期待、してしまいますよ。

私じゃなくとも。

 

────────────────────

 

祖父が亡くなった。

私は龍賀家の一族という国内の財閥の中でも一際幅を利かせている家だった。

その本家の大本である祖父が亡くなり、龍賀の親族と分家が遺産相続の件で屋敷に集まっていた。

二部屋の両側の襖に人が詰め並ぶ姿は、異様という一言である。

少しでも自分の家に遺産の相続が受けられないか、他は受けられなくとも自分はと。

にらみ合いを制したら相続の件が受けられるわけでもないのに。

あの場所にできる限り長居したくなくて外に出ていた。

 

屋敷の表玄関を出てまっすぐ歩いた。

幼い頃から、幾度と歩いた変わり映えのしない道を歩いた。

じりじりと強い日の光が身を包む喪服と相まって身体に熱を籠らせる。

このまま溶けて、どこか知らない場所へ飛んでいけないだろうか。

 

ブチッ

 

「っ、ぁ」

 

花緒が切れてしまった。

これではまともに歩けない。

私は足を引きずりながら近くの木陰に移動して、ぼーっと切れた花緒を眺めていた。

このまま、葬式に出席せず居座っておこうか。

などと考えてはみるもののおそらく私の監視役が時間になれば私を連れていくだろう。

それまでここで待つことにした。

ふと、顔を上げると遠くから黒いスーツに身を包んだ男の姿が見えた。

一見、親族や分家の一人に思えるのだが、腐っても龍賀と関係者が徒歩で屋敷に来るとは考えにくかった。

男がこちらに気づき駆け寄ってきた。

沙代は少し身構えたが、予想とは反する言葉が返ってきた。

 

「あぁ、花緒が切れてしまっていますね。どうぞ、肩に手を置いてください。」

 

近くで見た青年は若く、家の関係者のほとんどは戦前からの付き合いがあった。

そのため沙代は、ここまで年の近い大人の男の人に新鮮さを感じていた。

 

「あの」

 

「あぁ、私は水木といいます。どうぞここに、足を置いてくれても構いませんよ。」

 

「...///し、失礼します。」

 

なんだか今日は暑い、こんなに暑つことはあったことあっただろうか。

 

「あれ」

 

いますぐここから逃げ出したいのに、ここから離れたくなくて。

 

「すいません。ちょっと直せそうにないですね。」

 

「ぁ、いえいえ、ありがとうございます。」

 

後ろ髪をひかれながら、相手の膝から足を離す。

あぁ、終わってしまった。もうすこし。

もう少し?

 

「お屋敷ってどこにありますか?」

 

「えっと、この道を真っすぐ行けば。」

 

「失礼します。」

 

「ぇ」

 

水木は沙代を抱きかかえた。

 

「...ふぇ?」

 

「すこし、揺れますがすぐ着きますので。」

 

ちかい、ちかい、かおちかい

 

「え、あ、いえ、ここまでしなくても。」

 

「口閉じて、舌噛みますよ。」

 

水木は、前を見据えて。

 

「人さらいだあ!」

 

「えっ?」

 

聞き覚えのある幼い声が聞こえた。

 

「時ちゃん!」

 

「お姉ちゃんを離せ!」

 

「いや、俺は人さらいじゃ」

 

事態の収拾がつかなくなったところを

 

「沙代様に触るな。」

 

監視役の長田をんが水木さんに手刀をお見舞いし、水木さんは牢屋に放り込まれてしまった。

 

─────────────────────────────

 

その後の事だが、葬式は荒れに荒れた。

考えてみたら、当然で龍賀家の長男と長女が実質的な支配下に置かれてしまったのだから。

祖父の存在は死してなお周りを縛り付けている。

結局、変わらない。

 

「はぁ」

 

天井を見ながらため息をついた。

水木さんはどうしているのだろう。

あの時は声すら出せなくて、葬式中もその後もずっと胸の奥がつっかえてて。

もうどうしようもないほどに

 

「あいたい」

 

葬式中、地ならしが起きて里の全員が家から出ない。

今なら、誰にも見つからないかも。

わたしは部屋を出た。

 

おそらく、彼は寺の側にある倉に閉じ込められているはず。

そこにいけば。

暗い道を進む。

歩きなれた道とはいえ、その時の私は目がさえていた。

無我夢中に進み気が付くと寺についていた。

 

「...。」

 

心臓が高鳴る。胸が苦しい。

それは、急いできたからなんて理由じゃなくて

 

「沙代や。」

 

ぞくり。

声がした。

恐る恐る振り返るとそこには。

 

「時、麿さま。」

 

「麿に、あいに来てくれたのか。」

 

声が出ない。

 

「麿もお前に会いたかった。」

 

......いやだ

 

「麿らの二人だけだ。」

 

やめて

 

「麿らはおじいさまの寵愛を受けられた選ばれた二人なのだから。」

 

────────────────────────

 

冷や水をかけられたような錯覚に陥った。

そうだ。

たとえ、時貞さまが死んだとしても過去は消えない。

 

「二人で慰めあおう。」

 

時麿さまの手が頬に添えられる。

 

それから────。

 

(花緒が切れてしまっていますね。)

 

「...沙代?」

 

「...時麿さま、今日はもう」

 

「嫌じゃ」

 

男は沙代を抱きしめた。

 

「沙代、わしはさびしいんじゃ」

 

背筋が凍る。

 

「だから、ええ、じゃろう?」

 

「ッ」

 

沙代は男を突き飛ばした。

寺の中に逃げ込んだ。

でも、逃げ場はほとんどなくて。

 

「沙代ぉ、何故、何故逃げるのじゃ」

 

その声の恐ろしさに足がすくんで。

 

「一人にしないでくれぇ」

 

すぐそこまで迫ってくる男に沙代はどうしようもなかった。

 

「沙代ぉ、さよやぁ、お前は美しいのぉ」

 

暗い夜に密室で男に女覆す手立てなし。

ついに、沙代は。

 

(もう、いっか。どうでも────。)

 

全てを投げだした。

 

ゴッ

 

「・・・!」

 

迫ってくる男を鈍器で殴りつける音が響く。

 

「・・・大丈夫ですか?」

 

その声は、沙代が今一番聞きたい声であって。

 

「水木さん?」

 

「あ、昼間の子か。」

 

弱ったなと暗がりでも困った様子がうかがえる。

そんな仕草一つ一つが今の沙代にとって愛おしくて。

 

「その、できれば内緒に。」

 

ガバッ

 

「うぉっ?!」

 

「...ぅぅぅ。」

 

 

嫌だった

 

辛かった

 

怖かった

 

でも、耐えるしかなくて。我慢するのが普通で。

それでも怖くて泣いても誰も来てくれなくて。もう泣き方も忘れてしまって。

訳が分からなくなった沙代は水木の胸元に顔を押し付けることしかできなかった。

 

水木は、泣いている子の慰め方なんて知らなかった。

でも

 

「っ」

 

不安が少しでも和らぐように行ったその行動だけで。

 

沙代は今までのすべてが救われる気がした。

 

────────夜が明ける。




へたくそな泣き方という表現が好きです。
そんな泣き方をする子に下手糞な慰め方をする子も好き好き大好きです。
長くなりました。書きたいこと一つようやく書けました。
あともうすこし。
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