ゲゲゲの謎 龍の花嫁ルート(旧題:龍の花嫁) 作:負犬惜志夢
沙代は目を覚ました。
「・・・。」
左右に目を向けても、人の気配がしない。
あったのは、水の張ってある桶と濡れた布
「・・・むぅ。」
目の腫れが引いていることから、あれから泣き疲れて寝てしまったのだろう。
そして、ここに沙代を寝かしこの桶を用意した人物は。
「用意したのは使いの子なのでしょう、が」
指示はあの人でしょう。私の────。
沙代は枕に顔をうずめた。
私は彼に助けられた。それだけで十二分に救われたのに。
「起きるまで、そばにいてほしかった。なんて言えるわけないじゃないですか。」
「お嬢様~」
使いの少年が声を聴き、体を起こした。
「克典様がお呼びです。」
「お父様が?」
「なんか、沙代様を攫おうとして牢に入れられた男について話があるみたいです。」
攫われたい、その人になら
沙代は少年の話を聞いて思った
そんな妄想に耽ってる場合ではない
「お父様は、なんと」
「龍賀家との結納が決まったみたいです。」
「────ぇ?」
自分の家と自分の家の危害を加えた疑いのある人物が結納。
話が飛躍しすぎである。
しかし、沙代は結納という甘美な響き、その上この話に件の彼が関わっているとなってはあまりに理想的な出来事であったため、受け入れることは容易であった。
「式は形のみですが、明日ですね。それにしても、祖父さまが亡くなって間もないことで驚きです。」
「・・・ぇえ、そうね」
「すいません、無粋でしたね。」
「丙江さんのめでたい話に水を差すのは」
「────はい?」
──────────────
「いやあ、君には期待をしていてよかったよ水木君。」
ガッハっハと豪快に笑いながら、克典は水木を評した。
「恐縮です。」
す、す、すーーー。
沙代は襖をあけ、入室した。
「────失礼します。」
「おぉ、きたか。」
「おはようございます。」
傍からみた彼女はいつも通りの大人しく雅な少女に見えた。
「沙代さん」
今、彼女はこの声に。
どれほど心揺さぶられているのだろうか。
「────」
その声は、今一番彼女が聞きたかった声であったと同時に、一番聞きたくなかった声だった。
「水、木さん」
「あ、すぐ済みますから」
今の沙代にとって、昨日あんなことがあってから、男と話すのも酷であろうという水木の気遣いは痛く、苦しいモノだった。
「ケガとか、」
「は、い、大丈夫です。」
痛い
「よかった。」
痛い、
「ただ、無理がたたるといけませんから。」
辛い
「今日はゆっくり、してください。では」
今すぐ、昨日の夜みたいに、いますぐ
「沙代ちゃん」
────丙江さんに呼ばれた。
水木さんの話を聞くに、水木さんは私が襲われたことは伏せて、時麿の身柄を克典に引き渡しにきたそうだ。
そこで、身柄と引き換えに「M」についての話を持ち出した。
偶然、その話を聞いた丙江さんが「M」と引き換えに水木さんとの結納を提案した。
そして断れば、乙米に言いつけると。
丙江の条件を克典と水木は飲まないわけにはならなかった。
「このたび、は、おめでとうっ・・・ございます。」
沙代はできる限り、震える声を抑え、声を発した。
「あら♡ありがとう」
丙江は上機嫌に話しかけてきた。
と思ったのもつかの間
「沙代ちゃん、よかったわね 昨日は?」
耳元で囁く
「昨日の水木さんはかっこよかったわよねぇ。まるで、王子様みたい とか考えちゃったりした?」
丙江は沙代を胸に抱き、腹を撫ぜた。
「残念ね、龍賀は強いものが勝つの。よぉく 教えられたでしょう?」
「・・・っぅ」
「────まだ、お子様ね。」
丙江は沙代にそう言い捨てその場を去った。
沙代は呆然としているしかなかった。
────────────
日が暮れ、あたりがすっかり暗くなったころ。
とある、小屋に一室に明かりが灯されていた。
「~~~」
「───」
こえが、する。
「ーーー」
「───」
声が、する。
沙代は水木と丙江のいる部屋に聞き耳を立てていた。
眼はすでにすっかり暗くなったあたりに慣れて。
手は赤くなるほど、握りしめていた。
この行為の虚しさを彼女は知っていた。
でも、耐えられなかった。
知らない場所で、二人が何かをすることが。
沙代はあたりを見渡しながら
彼に救われた夜もこんな感じだったなとふと思い返し、苦しくなった。
心がすさんでいくのを感じる。
あぁ、もういっそのこと、なかったことになれば。
なかったことになっちゃえばいいのに。
ふと、耳を澄ますと、話し声が聞こえなくなっていた。
わずかな、衣擦れと息遣いしか感じられなくなっていた。
ぷつんと
何かが切れた気がした。
沙代は持ってきた、鋏をもって襖を少しあけた。
そこには浴衣姿の彼の後ろ姿と彼の胸元あたりに顔を鵜詰めている丙江の姿があった。
っ、っ、ぐっ
沙代は、耳を、澄ました。
「ひっぐ、ぅぅうっぐ、ぅぅ」
泣き声だった。
丙江の泣き声だった。
沙代は固まってしまった。
泣いている丙江を黙ったまま抱きしめる水木に目を奪われていた。
その姿が昨日の自分と連なった気がして。
────────
翌日、丙江は姿を消した。
すいません。
難産でした。