殺気と幕末とシャンフロと   作:荒ぶるバスタブ

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たのしいなかよし幕末乱世

 

 幕末の世界において出会い頭に脳天に向かって刀を振り下ろす、背中目掛けて銃をぶっ放す、深刻そうな話をしている場に花火ドロップinは日常茶飯事であり、常に幕末の江戸には「天誅」という二文字が飛び交っている。

 

 だからこそ顔が引きつりながらも緑茶を口に運ぶ男と優雅にティータイムを楽しむ小柄な新選組の少年の居る茶屋は異質な空間だった。プレイヤー同士のコミュニケーションツールが殺し合いというどこの異世界の世紀末?と聞きたくなるようなこのゲームにおいてこの茶屋だけは誰も近づかないという傍目から見たら何故かプレイヤーが避ける初心者にとってセーフティゾーンとも見られる場所。

 

実態はPVPを前提として作られた箱庭型のオープンワールドにて今現在その場所は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

返答をミスるだけで首が飛ぶ、一番リスキーな場所であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「饅頭いる?」

 

「……団子で」

 

「団子……いいね」

 

 刀を握りいつでも動けるように警戒しつつそれをおくびにも出さない男と完全に刀を手放し饅頭を美味しそうに頬張る少年。奇襲天誅が常の男にとってこの状況は初めての経験だった。刀を手放してなお勝利のビジョンが全く見えないその少年を前に男、夕日はいつでも迎撃できるようにし、団子の串さえも一つの武器として警戒していた。

 

「初めてなのに…凄いね」

 

「それほどでも」

 

 三日前に初めてログインした夕日はログイン天誅にて訳もわからずリスキルされていたがなんとか宿舎から出てチュートリアル(初心者出待ち天誅)を潜り抜けたと思った矢先にこのゲームにおける極致、最高到達点とも言える少年に出会っていた。

 

「……やる?」

 

「……フッ、もちろん。だが、ここで会ったのも何かの縁だ。ここは穏便に──」

 

 饅頭片手に抜いた一閃は、間一髪のところで首を横にスライドさせた夕日の頬にダメージエフェクトを起こすだけだった。その時ずっとのほほんとしていた少年の顔は一瞬だけ驚きの色を見せた。

 

「……イ、イッカイ落ち着こ?ア、争いは何も生まないんだよ?」

 

「……君、面白いね」

 

 上段の首を横に叩き斬ろうとする不可避の一閃はすんでのところで屈伸した夕日によって回避された。

 

「正当防衛天誅ゥゥ!!」

 

 体勢を崩すことが目的の足払いは、この少年の前ではまるで無力かのように目の前の机の手を支点として勢いのある回し蹴り。それと同時に利き手である左手を狙っての一閃。左手が使えなくなるも、それなら右手でと頭を狙って刺突する。

 

そんな足掻きも刀の持ち手部分の柄を刀で強く打ち、相手の刀を遠くへ弾くという曲芸じみた技術によって軽くあしらわれた。

 

「……容赦なさすぎない?」

 

「…………楽しくてつい」

 

刀が持てなくなった夕日に勝ち目は僅かにもない。

 

「辞世の句」

 

「…………えっっ、何それ?」

 

「……君、本当に始めたばっかなんだね」

 

「ちょっ待って!今すぐ考えるから!う~ん、季語は入れたいしな……」

 

「五……四……三……」

 

「ちょっ!出来た!出来たっ!」

 

「……辞世の句」

 

「いつかまた、此処で会おうぞ、奈落にて………」

 

「…………(スッ)」

 

「あ、それと天誅って何なの?」

 

「……いつも心の中にある」

 

「あれ、ちょっ会話がッッ!?」

 

 

夕日が言い終わる前に少年の刃は彼の首を切り飛ばした。暗転し、また視界が明るくなり布団の上で目を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ス────…………もうあの人と関わるのはやめよう。辞世の句で大見得切った手前申し訳なさを感じないこともないが、あれはだめだよ.....。

 

 初天誅で興奮しきった中、介錯でランカー1位のレイドボスさんのことは聞いていて二つ名がプレイヤーじゃなくてラスボスやん、って思ってたのも束の間、角でばったり会ってしまい、封印されし最強の手札「いやー、今日良い天気っすね。…………っす」と穏便に事を済まそうとしたが何故かティータイムに誘われてしまった。不意打ち天誅が常のこのゲームで何故か会話の選択肢をミスらないギャルゲーをさせられたが、結局寿命を延ばしただけだったな。お団子おいしかったな。

 

 「歩く災害」とはよく言ったもので手も足も出なかったな。台風とか地震とかと同じカテゴリとしてプレイヤーから認知されてるぞ。そういや、二週間後くらいに台風来るって言ってたな。レイドボスさん(暫定大型台風)に会ったからかちっぽけに見えるぜ!

 

 それにあの人まだまだ底が見えないしな。過去に百人規模でレイドボスさんを襲撃したが全て迎撃されたらしい。いや、一人対百人で一人が勝つゲームってなんなん?運営さーん、ゲームバランスおかしいんで調整お願いしまーす

 

「リスキル天誅ゥゥ!」

 

「殺気が漏れすぎだァ!!」

 

 襖の陰から殺気がだだ漏れだったリスキル狙いの馬鹿を襖ごと蹴り飛ばして迎撃する。動けない同じ幕府側のプレイヤーを見下ろしながら陣営など関係ないこのゲームの世紀末さに引く。いや世紀末を売りにしてるゲームに失礼だな。そもそもコミュニケーションが「こんにちは!死ね!」じゃなくて「死ね!(こんにちは)」なのおかしいよ....。自分が幕末に汚染されるたびに何かが壊れそうな気がするが....ま、まあそん時はそん時だろ。だ…だ…大丈夫でしょ。タブン…………。

 

 まずこのゲーム「辻斬・狂想曲:オンライン」を勧めてきたバイトの先輩には後で絶対に見つけ出して天誅するか。勧められたときは「へえ、時代設定が幕末なんだ。珍しいゲームだな」と思い、公式サイトとか攻略サイトを見たら「みんな和気藹々と仲良くゲームしています!」という文字とともに満面の笑みを浮かべたプレイヤーのスクリーンショットが出てきて楽しいゲームなんだな、と思ったのが運の尽きだ。ログインし布団から目を開けるとニコニコと先輩共がチュートリアル天誅を延々とやってきてログイン時の宿舎から出るのも一苦労なのだ。

 

 それに偉大なる先輩達(カス共)に僕からプレゼント天誅も送らないといけないから辞めるに辞められないのだ。いやー僕はね全然怒ってないけどね。あのカスど……げほんげほんッッ先輩達にお礼を言わなきゃいけないからしょうがないね。

 

 

 後思ったのだが、殺気に敏感な僕だからリスキル連鎖から抜け出せたのだがあまりプレイヤースキルが高くない人はこのリスキル連鎖(チュートリアル)から抜け出せずに辞めていった人も多いのではないだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 おやおやぁ....?

段々とこのゲームが過疎ゲーでクソゲーと言われる所以が何となく分かってきたぞ。あとログイン天誅を考案した奴は性格がひん曲がってるから一度精神科に行くべきだ。それか死んでくれ

 

「質屋交渉を……」

 

「初心者なんで無理です^^」

 

すまねえな。天がやれって言ってるんだ。

 

 

 

 




知らないところで罵倒されるサンラクくん.....

ちなみにですが、夕日くんは殺気を感じ取る能力は異次元に高いですがそれを「避けられる」かはまた別の話です
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