殺気と幕末とシャンフロと   作:荒ぶるバスタブ

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始まりの街にて

 

 第一の街、ファステイア。

 このファステイアには「始まりの街」といえるチュートリアルとしての役割があるがそれと同時に開拓を進めたプレイヤーが戻ってくる要素はほとんど無く、始めたばかりの新規プレイヤーでごった返している。

 

 また初期支給の装備も各ジョブの内、せいぜい二、三種類の中から選ぶことになるので多少のカラーリングの違いや系統の違いはあるにしろパッと見同じような装備をしたプレイヤーが集まっている。

 

 そんな中で一際目立っている集団が、溢れ返る混雑的な喧騒ではなく一種の騒めきを作り出していた。

 

 そのプレイヤー達は初々しさで構築されているような最初の街にしては不釣り合いなステータス、明らかに新規ではない慣れ、そして何よりネームが赤いレッドネームという初心者ならばまず逃げる状況にも関わらず周りの新規プレイヤー達は観客として何か(・・)を見ている異常な光景であった。

 

 

 

「くっ........メイド服の夢が.....!」

 

強敵(とも)よ。お前のメイド服推し、メイドカフェに一緒に行ったときから感じていたぞ。だが俺はルティアちゃんにこそメイド服は似合うと思う」

 

「悔しいがバニーガールであるなら俺的にも大勝利なんだよ........託すぞ、俺の夢を.....っ!」

 

 そうして砕け散りポリゴンが溢れる槍使い、片手剣使いのネームが赤に染まりPKの烙印が押される。

 

 シャングリラ・フロンティアにおいて搭載された「カルマ値」。それはシステム側が悪質と感じた行いに対して与えられる値であり、街中でのPKにおいては非常に高いペナルティが下される。

 

「おっ、一人抜きで出てくるか。運が良いな......おい来るぞ!」

 

「トゥールはやめろトゥールはやめろトゥールはやめ.......」

 

 何故か跪き天に祈り始めた片手剣使いの前に、それはまるで空高くから降ってきたかのように着地した。ストッと着地したその人物はその着地の軽い音に相応しい小柄な身体をしており、その目はガラス玉のように静かに透き通っていた。

 

 唐突に現れた幼女。しかしその片手剣使いと周りのメンバーにとっては待望の人物だったらしい。

 

「ティ......」

 

「「「ティーアスちゃんだぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

「おいおい!いつぶりだ!?」

 

「大当たりじゃねえか!」

 

「ティーアスちゃんのバニーガール姿だと.......!カメラ10個くらい買ってくるわ」

 

「くっ、俺がジャンケンで勝ってれば.......スク水の夢が....!」

 

 楽しそうな彼らの前に立った中で無言を貫く賞金狩人(バウンティハンター)ティーアスの片手に持つは小さな剣一つ。決して大きくはないが彼女が持つと普通の剣のように見えてしまう。

 

 新規プレイヤー達は目の前の光景に驚く。ただ構えてもいない剣一つを持っただけの見た目が幼女のNPCに、先程まで熾烈な戦いをしていた片手剣使いは緊張した面持ちで剣を構えていた。

 

これから何が始まるんだ、という淡い期待は次の瞬間にはいとも容易く崩れる。

 

「ぐっ.....!?」

 

 何も見えない。何かあったのは分かるがその一瞬の間に片手剣使いの彼の右手にはダメージエフェクトが広がっており、すぐ近くの地面には片手剣が転がっていた。

 

「勝てねーんだから、さっさとくたばれ!」

 

「うるせー!せめて挑戦くらいさせろ!」

 

「ティーアスちゃん可愛いよ!」

 

そのことに慣れているのかメンバーの多くは顔色を変えず野次を飛ばす。

 

 片手剣を失った片手剣使いはなおも素手で立ち向かうが彼女は面白くなさそうに避けたと同時に剣を一振りする。

 

「スクショだ!スクショ!ティーアスちゃんが出てくるのなんて珍しいぞ!」

 

「今の攻防、撮影したかスクショ担当!」

 

全方位体制(バッチリ)だ!」

 

「流石はスクショの速さならあのSFーZOOにも引けを取らないと言われただけあるな」

 

「誰かメガアザラシがやられたことになんか言ってやれよ」

 

 先程まで高レベルな戦いをしていたプレイヤーが簡単にキルされたことに新規プレイヤー達は衝撃を受ける。

 

 

 

 そんな中、世界観からなのか西洋風のテーブルにパフェを置き、その光景を眺める者が居た。

 

「ふっ、奴がやられたか。だが奴は四天王の中でも最弱.......」

 

その意味深な言葉に疑問を持った新規プレイヤーの一人はその人物に声を掛ける。

 

「あの、何か知ってるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パフェ食べながら強キャラムーブしてたらなんか話しかけられたんだが。

 デスゲームで強キャラムーブする奴は大抵の場合二回目の参加者だがあいにく僕は30分前に始めたビギナーもビギナーなので「全然初心者っす」って言ったらなんかドン引かれた。そんな現役の厨二病を見るような目で見るな!見世物じゃねえぞ!

 

 

 ここはシャングリラ・フロンティア初ログイン時に転送される所謂、初期位置と呼ばれる街。始めの選択のジョブによっては初期スポーンが近くの「跳梁跋扈の森」になる場合もあるが、ほとんどが初期装備のためゴブリンに倒されて「夢オチ」という形で街中にリスポーンされるらしい。流石は神ゲーだけあってやけに凝った設定となっている。

 

 そんな街の広場には大勢の開拓者(プレイヤー)の群れがわちゃわちゃとまだ見ぬ冒険へと胸を踊らせていた。

 

 比較的過疎っていた幕末と世紀末をプレイしていたからかこのプレイヤーの大群に少し身が引く。これでも夏休みシーズン前だからまだ少ない方らしい。0.1%でも幕末に来て欲しいんだが。そこら辺に歩いてるプレイヤーに勧誘してみようかな?

 

 そして今僕の手には近くの露店、つまり露店型の店員がNPCのショップにて売られていたスイーツがあった。

 

 やっぱ観戦はスイーツを食べながらに限るな。ゲームだからかなんか甘いような微々たる味が再現されているがこういうのは気分だ。

 

「あっ、それ!」

 

「フッフッフッ、羨ましかろう。1日10個限定の『ストロベリームーンパフェ』だ!」

 

「あれ本当に買う人居たんだ。新規ならほとんどお金溶かしましたよね?」

 

「………まぁ」

 

 1日10個限定という言葉に惑わされて勢いで買ったことがこうも簡単に見破られるとは.....。

 

「そんなことより自分始めたばっかりなんですよ」

 

「うんうん(モグモグ)」

 

「夕日さんがもし良かったら一緒にパーティ組みませんか?」

 

「いいよー(モグモグ)」

 

「……なんかめっちゃ軽いんですけど、よろしくお願いしますね」

 

 ストロベリームーンパフェを味わって食べてたらなんか知らんうちにパーティ組めることになったらしい。

 

 

 ふと目線をその着せ替え隊と幼女へと向けると幼女はそこには居らず、ポリゴンが体から溢れている着せ替え隊のメンバーが倒れているだけだった。勝負は呆気なく着いたらしい。

 

「………ん!?」

 

 勝負も終わったことだしパフェに手を伸ばそうとしたら何故かテーブルから消えてなくなっていた。

 咄嗟に隣のプレイヤーに目を向けると彼は物凄い勢いでブンブンと首を横に振っている。

 

 じゃあ誰だ?!好きな物は最後まで残す派の僕が取っておいた大きな苺が乗ったパフェを取った奴は!!?

 

「あっ!あの!夕日さん!」

 

「ん?」

 

 ふと彼が指さした方向へと顔を向けるとあの幼女がパフェを美味しそうにスプーンで食べてこの場から去ろうとしていた。

 

「ちょっと待とうか、お嬢さん」

 

「…………」

 

その肩へ手を置くと幼女は面倒くさそうに此方を向いた。

 

「食べるなら半分の料金を支払ってもらおうか?」

 

 僕と幼女のやり取りに気づいたのか周りの新規プレイヤー達と着せ替え隊のメンバーも此方へと注目する。

 

「おいおい、あいつ誰だよ」

 

「新規か?もしかしてティーアスちゃんのこと知らないのか」

 

「どっちにしろ死んだな」

 

 周りがごちゃごちゃ言ってるがこちとら並んで買ったストロベリームーンパフェの一番良い部分をティーアスか誰だか知らないが料金を払ってもいない幼女に食べられたのだ。このまま引き下がる訳にもいかない。

 

「まあ謝罪があるならこちらもッ!?」

 

 ティーアスが腰に携えてあった剣を流れるような動作で抜いたと思ったら首筋へと向けてきたので咄嗟に避ける。

 

この幼女物騒過ぎないか!?

 

「幕末だったらッ、歓迎するよッッ?!」

 

なおも此方に向かってくるティーアスの正確に致命傷を狙ってくる攻撃を避ける。

 

「あいつどうやってんだ!?」

 

「お前得物なしであそこまで避けられるか?」

 

「無理に決まってんだろ、サバさんならワンチャン........」

 

 クッソ、初期装備の耐久値がクソ雑魚だから避けることしかできないぜ。幸いにも小柄な相手は幕末最強のプレイヤーで慣れているので避けやすい。

 

 剣舞ともいえる美しい流れるような剣筋はこの化け物みたいなTAS性能によって実現している。流石はTAS(ティーアス)だ。

 

「剣筋が綺麗なレイドボスさん、ってところかな」

 

 正確だが避けきれないほどでもないしあのデタラメな剣の振り方をしているレイドボスさんを普段から相手取っているからか幾分やりやすい。

 

 ティーアスの目まぐるしいモーションの動きを避けつつ、その切り替えの時にそれ(・・)を拾う。

 

「っしゃ!武器ゲットォォ!!」

 

 拾った片手剣は予想通り初期装備とは比べ物にならない耐久値をしていた。メガアザラシ!僕が仇を取るぞ......!

 

ティーアスが剣を素早く大上段に振ってくるが片手剣で受け流す。

 

剣で受け流すことで先程より有利に戦いを進める。

 

「あいつ未来でも見えてんのか!?」

 

「一撃も当たってねえぞ.....」

 

「サバさんの友達かな?」

 

「誰かあいつ知ってるか?」

 

「どこの鯖の奴だ?」

 

 攻撃を徐々に防ぎ始めた僕にティーアスは薄く笑う。そして剣を逆手に持ったと思ったらその小柄な身体をさらに速くして此方に向かってくる。

 

「ぐっ.......!?」

 

突如として始まった超接近戦に受けが遅れる。その隙を的確な剣筋は見逃さない。

 

 こっちの出来る選択肢を減らしてくるような超スピードの猛攻を無理やりバク転して回避する。多分この後、幼女恐怖症になりそうだ。

 

「このッ.......!」

 

 手を地面に置き身体を横に回転させて避ける。そしてその回転の勢いそのままティーアスを勢いよく蹴る。

 

「ハッ!スイーツの恨みを教えてやるぜ!!」

 

 予想外の反撃に周囲から歓声が聞こえるがぶっちゃけそんな余裕はないので、体勢を立て直し次の攻撃に備える。

 

 

しかし来ない。

ティーアスは顔に笑みを浮かべ此方をじっと見ている。

 

「なっ!?ティーアスちゃん行動記録(ログ)係!」

 

「あの行動は初めてだ......!」

 

 あの、うるさいんでちょっと黙ってもらえると。楽しそうな着せ替え隊の声をBGMに警戒は目の前の幼女から外さない。

 

 ティーアスは此方を見る。

 その目は先程までのガラス玉のような興味が無い目ではなく、見た目相応の純粋な目をしていた。

 

何だ?飛び道具か?

こっちは幕末で日常茶飯事ねちっこい名狙撃手の攻撃を受けている。遠距離攻撃の対応は大丈夫だ。

 

目の前の薄く笑みを浮かべてるティーアスと互いに目を合わせる。

殺気が来たら避ける。

 

殺気が来たら

 

 

超越速(タキオン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が膝をついてることが分かる。だがその状況に理解が追いつかない。

 

 自分は何をされた?突然ティーアスが何か言ったと思ったら地面に膝をつき自分の胸にダメージエフェクトを散らしている。初心者の自分でも分かる、これは即死級の攻撃だ。

 

「意外に粘ったがやっぱり無理か」

 

「いけると思ったんだけどなぁ」

 

「一撃当てただけでも凄いって」

 

「ていうかネタ装備だから1耐えてるじゃん」

 

 完全にノリで選んだネタ装備の特性でHPが1耐えてる。だが周りは完全に諦めムードだ。さっきの攻撃がもう一度来たら完全に負けると誰もが思っている。

 

「よくやった方じゃね?」

 

「最初にでしゃばったからだろ」

 

「最強のティーアスちゃんに勝てる訳ないじゃん、あの初心者分かってるのか?」

 

一部では自業自得、因果応報という言葉まで飛び交っている。

 

色々な言葉が聞こえる中、自分の中の何かが崩れる。

 

 

幕末とあの世紀末を思い出せ。

レイドボスさんとあの数多のプレイヤー達と戦った後だぞ。

たかだかAIごときに「初心者」だから勝てません?舐めてるのか?

 

足元に転がっている片手剣を拾う。

 

そして剣を片手に体を極限まで低くして構える。いつもの幕末の構えだ。

 

 

この感情はなんだ?

レイドボスさんとまともに戦えたことで自分が強いとでも哀れに勘違いしてたのか

 

幕末、世紀末とプレイしてシャンフロでも通用すると思っていた自分の力が空回りしていることへの焦燥か

 

そんな驕りから大量の新規プレイヤーの前で負けを晒すのはなんか気に食わないという子供じみた思いか

 

あるいはストロベリームーンパフェの金返せよ、というスイーツ魂からか

 

 

どちらでもいい。これでPK判定を貰おうがBANされようが、ただ今この場で勝てさえすれば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「潰す」

 

 大きく踏み込んで剣を振るう。そして剣で受け流すティーアスの脚部にローキックを放つ。体勢を崩したティーアスの顔面に回し蹴りをする。

 

吹っ飛んだティーアスに向かって一番殺気が薄い瞬間、薄い部位に剣を振るう。

 

「接待プレイで腕が鈍ったか?舐めプは終わりだ、ロリAI」

 

傷が見える表情が読み取れないティーアスに向かって剣を引きずりながら歩く。

 

なおも速度が衰えないティーアスの攻撃を避けながら殺気の隙間に攻撃を入れる。

 

 さっきのまともに受けた攻撃の影響か徐々にかすり始める攻撃にティーアスは初めて顔を歪ませる。

 

自分のこの感情が何か自分でもよく分かっていないが、ただ目の前にいるティーアスを跪かせて上から見下したい。

 

嘲笑いたい。

 

ただ

 

ただこいつの首に剣を振るってその顔に絶望の色を浮かばせたい。

 

後ろに勢いよく下がりながら剣で受け流しているがティーアスの腹部にまともに攻撃が入る。

 

 それと同時にティーアスはバックステップで勢いよく後ろに下がる。

 そして止まる。奇しくも数分前までパフェがあったであろうテーブルにティーアスは立っていた。

 

「…………」

 

来るか。

 

さっきのあれが来ることを直感で感じる。

あの力がどういう原理かはさっぱりだ。だけど絶対に避ける。

 

避けてその首筋に剣を振るう。

 

 

目を閉じる。

 

ティーアスの殺気を感じる。

 

来てからでは遅い。少しでも動いたら体を動かせ

 

殺気が一つの意思の塊となって感じる。

それの変化を待つ。

 

 

 

 

 

「え?」

 

目を開ける。

 

テーブルから降りて此方まで静かに歩いてくるティーアスを困惑しながら見る。

 

今この瞬間、ティーアスの殺気は無い。殺気どころかこれは温かいときの感情だ。何故?

 

 そのままティーアスは静かに自分の剣の間合いに容赦なく入る。殺気がない相手を前に動きが止まる。

 

彼女は何かカードのような物を取り出すと僕の足元へと投げつけた。

そして顔を僕の耳元に近付けると

 

「─────────」

 

 一言言い残し、殺気のない相手ティーアスは始まりの街ファステイアを颯爽と去って行った。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

一同沈黙。

 

 この場の異常な状況に興味を持ったのか今初ログインしたであろう初期プレイヤー達も此方に来始める。

 

フー...........

 

 

 

「あ!ユニークモンスターッッ!!?」

 

そして全力で逃げる。

 

  このゲームを始める前に目にした存在だけ知ってる名前を大声で叫ぶ。要は希少(ユニーク)なモンスターってことだ、目を逸らさせることくらいは出来ただろう。

 

 

 

 

 

 

その場から全力で去りながら先程言われた言葉を思い出す。

 

 

 

 

…………カフェ「蛇の林檎」、合言葉は『林檎の花に誘われて』

 

 

 




 書きたいものを書くPart2
 原作の設定の中で無理やりそれっぽい合理的虚偽をひねり出して楽しむのが二次創作の醍醐味っちゅうもんやねん!(錯乱状態)
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