殺気と幕末とシャンフロと   作:荒ぶるバスタブ

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カップケーキを一つ

 

 

 カフェ「蛇の林檎」。

 裏通りのならず者達を受け入れる......という設定で、道行く親切なプレイヤーによるとほぼ全ての街に存在するらしい。

 

 そんな訳で急ぐ用事もないが、ファステイアで騒ぎを起こしてしまった以上トンズラこくのが最適解。規模が大きい街「サードレマ」まで爆速で攻略した。

 

「ハア...ハア...ハア......」

 

 割とマジで本気で攻略を進めたからか目がイッちゃってるし、疲労が限界で足も引きずってるからか周りのプレイヤー達がマジで寄ってこない。あれ?悪目立ちしてないか?

 

 一回街の中に入り、休憩を取る。対人戦ばかりのゲームをやっていたので最初は慣れなかったがモンスターの特性を頭に入れながらやると割と攻略できた。

 

 殺気云々はゲームの電気信号としてゲームの中では表面化するため、モンスターの場合その個体ごとに攻撃の数瞬前にそれが放たれる。人間と違って規則的なモーションのため予測はしやすい。所詮は体系化されたプログラムよ。

 

「お、これか?」

 

その設定から推測して裏路地を中心に探していたがどうやらビンゴだったらしい。

 

 「蛇の林檎」と書かれた看板と恐らくその存在を知っていなければ目視することも出来ない地味な扉を開く。

 

「……いらっしゃい、注文は?」

 

 店の中に居るのはマスターと思わしきNPCが一人と身なりから荒くれ者と判断できる者達が奥の席には居た。カウンターに座ってそれっぽくやってみるか。

 

「林檎の香りに誘われてね、カップケーキを一つ」

 

「………ウチの『隠しメニュー』、どなたから?」

 

「ティーアスっていう可愛らしいお嬢さんから頂いたよ」

 

 あんなに心がビクビクと揺れ動いた淑女は初めてだったね。一歩間違えれば物理的に身体が真っ二つだったよ。そんな軽口を叩きながらその幼女から受け取ったアイテム「鍬形紋(スタッグエンブレム)の紹介状」をマスターに渡す。

 

「……………なるほど、確かに。それではお客様、あちらの個室にどうぞ」

 

「あ、ども」

 

 数秒の沈黙の後、何事もなかったかのように紹介状を仕舞ったマスターはおもむろに店の奥にある個室を示す。これが仕事人か、ゲームで目撃するとは.......

 

「それとカップケーキで御座います」

 

このマスター?!できる....!

 

 個室に向かう途中、荒くれ者達に睨まれたがマスターの無言の圧で絡んでくるようなことはなかった。あ?何こっち見てんだ?僕の後ろにはマスターが居るんだぞ、そこんとこ弁えろや。やるか?

 

「さて、何が起こるか」

 

 この展開が普通のシャンフロのテンプレだとは流石の僕も思ってはいない。何かしらの特殊ルートに入ったってことだろう。

 

蛇が出るか、はたまた───個室の扉を開ける。

 

「………わっ!?」

 

 一瞬の無重力空間の後、急に何処かに飛ばされたような感覚が来る。これは転移魔法というやつではないか?

 

「うわあっ!?」

 

浮遊感から急に重力が襲ってきたため無様に転倒する。

 

 

 おーっと!転倒と同時にカップケーキ選手、素晴らしいカップとケーキの自然分離の最中にもスピードを落とさないパフォーマンス。転移魔法という意図せぬアクシデントにも柔軟に対応してきましたね。解説の夕日さん、ここまでご覧になってどうでしょう?

 

 非常に素晴らしい、弧を描くような美しい軌道でしたね、思わず見入ってしまいました。これは高得点が期待できますよ!

 

 

 さて脳内での現実逃避という名の茶番はここまでにして、そろそろカップケーキ選手の着地点でも直視するとするか。

 

(ひさ)しぶり、ってほどでもないわね」

 

「あっ、ティーアスさん.....」

 

「パフェに(つづ)いてカップケーキまでご馳走(ちそう)になって(わる)いわね」

 

転倒の勢いのままカップケーキを顔にぶちまけられた目の前のティーアスは愉快に笑う。

 

「すぅいませんでしたぁぁぁ!!」

 

 素早くティーアスの足下にスライディング土下座をする。幕末で培った、土下座した状態で前進、後退、跳躍などのアクションに繋げる高等技能「土下座ドライブ」、「土下座トランスフォーム」が役立つ時があるとすればそれは今だ!!

 

「まあ、そんなことはいいわ。()いてきて」

 

顔のカップケーキを拭き取りながら歩くティーアスの後を追う。

 

もちろん、土下座姿で芋虫が如く。

 

途中で振り返ったティーアスがギョッとしてた。やったぜ!

 

そしてしばらく歩いたあと大きな扉の前に立つ。

 

(いま)から(わたし)のことは先生(せんせい)()んで」

 

「………カップケーキ先生」

 

「……………」

 

「ティッ、ティーアス師匠!!」

 

危ねえ、目がマジだったぜ。あの目は()る目だぜ......

 

「それと見苦(みぐる)しいからそれもやめて」

 

「あっ、はい」

 

ティーアス師匠に言われて土下座をやめる。

 

「あの師匠、これって認められたってことですか?」

 

「………正直(しょうじき)()うと貴方(あなた)(おそ)い。(おそ)すぎるし、何百回(なんびゃっかい)やろうと(わたし)()つ」

 

「うぐッ.....!」

 

 唐突にダメ出しされて心に傷を負った。え?ここ褒めるパートじゃないの?カップケーキのことまだ怒ってる?

 

「…………でも、(はや)さだけが(すべ)てじゃない。実際(じっさい)(わたし)(きず)をつけたのは貴方(あなた)(はじ)めて。あそこまで()こずったのも貴方(あなた)(はじ)めて」

 

「あ、はい....」

 

 なんか褒められたら褒められたでなんか照れるな。ティーアスという存在が嘘をつかない性格って分かってるからこそ純粋に嬉しい。

 

貴方(あなた)()づいてないようだけど(わたし)貴方(あなた)(おも)ってるより貴方(あなた)評価(ひょうか)してる。……………()()でやれば一回(いっかい)くらいは(わたし)()てるんじゃない?」

 

 無気力な美幼女の貴重なデレ.......だと!?何か別の扉を開きそうだったが無理やり突貫工事で埋め立てる。まだ着せ替え隊に入るのは早い(時期尚早)

 

「ありがとうございます、師匠!後でカップケーキでも奢りますよ!」

 

「………カップケーキはもう十分(じゅうぶん)

 

ティーアス師匠は照れ隠しのつもりなのか目の前の扉をそそくさと開ける。

 

 そこに居たのはこの世界の貴族とはイメージが違うドレスを纏っている女性.....なんというか、現実世界のキャバクラの元締めみたいなボス感が雰囲気から漂う女性だ。

 

「貴方がティーアスが招待したという人ね」

 

その女性はにまぁと笑いながら此方を品定めするように見る。

 

「……まあ、ティーアスが言うのならば実力に疑いはしないワ。私は此処で頭領をやってる者よ」

 

そう言い、横のティーアス師匠を一瞥すると歩き出す。

 

 ティーアス師匠が付いていくので自分も窓も扉もない不思議な場所を見回しつつ、後ろを歩く。

 

「ここは仇討人(あだうちびと)のギルドのようなもの......と言っても、そこまで所属者は多くないのだけれど、ネ?」

 

唐突に言われた「仇討人」という単語。要はここは特殊なギルドということなのだろう。

 

「この世には、成し遂げられない願いがある。例えばそう、その難易度の高さ故に王国の騎士団すら黙殺せざるを得ない獣の討伐依頼であったり。採取の困難さ故に非常に高価な薬草を求める貧しい少女の願いであったり」

 

「御大層な思想だけど、要はボランティアってことでしょ?」

 

そう問いかけると頭領は扇子を揺らしながら首を振る。

 

「それは理由の半分、もう半分は貴方達のような方々に戦う場を与える事……」

 

「………理屈は分かった」

 

 つまり戦闘狂などの国が制御できない危険因子に「賞金狩人(バウンティハンター)」の役割を与え、結果的に手綱を握ろうって訳か。

 

「え?僕そんなヤバい奴って思われてる?」

 

「………実際(じっさい)やばかったけど、あの(とき)格段(かくだん)(うご)きが()くなった」

 

 あれは幕末のスイッチがONになったときだけだし、自分一般ピーポーですよ!社会保険入りたいです!!

 

「………少し質問」

 

ティーアス師匠の言葉を聞いた頭領はそう言う。

 

「ある所に三代は栄えたそれはもう立派な王国がありました。しかしその国の皇子が一つの失敗を犯して、それを一人の少女に被せました。その少女は寝る間もなく暗殺者に狙われてその王国の国民からは嫌われ迫害までされていました。さて、貴方ならどうする?」

 

「どうするってその子のために動くかな」

 

「暗殺者を殺したって迫害は続くわよ」

 

「そのクズがやった証拠を集めて白日の元に晒す」

 

「クズはクズでもその王国の中心を担ってるのよ。貴方はその行為を正しいと信じてる善良な民まで狂わすのかしら?」

 

「たかがそんな奴一人いなくなって国そのものが傾くぐらいの脆弱さなら何もせずとも滅びるよ。いっそのことその王国、滅ぼした方が良いんじゃない?」

 

「手厳しいわね」

 

 意地悪な問題を抜き打ちで出してきた、自称進学校もビックリの頭領は何故か薄く笑みを浮かべる。そして急に真顔になって話し始める。

 

 

 

「………この世界には醜い争い、他者を省みない弾圧、自分勝手な横暴、嘘偽りの権力、犠牲を伴った虚栄が常にある。この世界は死ぬのは簡単で生きるのはとてつもなく難しい」

 

 頭領は手元の古い写真を見る。もう殆ど色褪せていて顔の部分は認識できない。写真としての役割を放棄したそれは、でも確かに名前も知らない彼女にとっての大切な人が存在していた証拠であり、証であり、彼女にとっての何よりもかけがえの無いものだろう。

 

「そんな世界でただ生きたいと、そう願う叫びがある。その叫びはいつの時代も誰にも聞き届けられず消えていった」

 

頭領は僕の顔を、目を初めてちゃんと見る。

 

「それでも貴方は、貴方ただ一人だけはその声に耳を傾けてそのか細き願いにすぐ手が届く場所に居てほしい。この世界がどんな状況になろうと弱き者を助けるために振るわれる刃があると、そう私は信じたいのです」

 

そう言葉を切り頭領は満足そうに何処か遠くを見ると改めて此方を向く。

 

「………いいワ。カフェ『彷徨(さまよ)(つるぎ)』は貴方を歓迎するワ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『隠し職業クエスト「か細き願いを叶える者(リベンジ・デッド・エッジ)」をクリアしました』

 

『ジョブチェンジ! メイン職業が「仇討人」に変更されました』

 

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