殺気と幕末とシャンフロと   作:荒ぶるバスタブ

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な、長い.....
あばばばばばば


厨二病のゴルドゥニーネ

 

 静寂が辺りを包みこんでいる深い森でその少女は傷を押さえてノロノロと何かから逃げるように足を進ませていた。

 

「ハア、ハア.......」

 

 腹部の大きな傷口から垂れている多量の血は歩いてきた軌跡を顕著に現すかのように一本の道のような血痕を残していた。お腹にある一部の感覚はもう感じられず自分の命の粒子があと少しでなくなることが予想できた。

 

 しかし何故まだ歩く?何故背を向け少しでも生き永らえようと足を動かすのか?自分はもうあのとき絶望したはずだろう?絶望して諦めて惨めったらしく逃げて逃げて。そんな自分には分相応の最期で、もう十分だろう?

 

もう十分やった。だけど私は

 

 

 その少女はその傷による身体が引きちぎれるような絶叫したい痛みに顔を強張らせそれでも歩く。

 薄青色の奇妙な髪色と所々が破れた服、そして口から覗かせるのは狼やライオンとかとは明確に違う妙に発達した二つの犬歯。いや鋭すぎる明らかに哺乳類のものではないそれは牙と呼ぶのが正しいか。

 

 その少女は人間ではなかった。爬虫類として分類されるその姿はしかし人と似ていて事情が分からない人が見ればただの少女と形容するだろう。

 

 そんな少女は後ろから迫ってくる自分の背丈の三倍はあるかのような純白の緋熊(ひぐま)を見る。自分の血の跡を辿ってきたことは明白で半ば諦めていたことだ。しかし身体は生きようと意思とは逆に足を動かしていた。

 

 ただ少しでも死に抗えば希望の光の一筋とは言わないが薄い月明かり程度は見えるだろうとどこか期待でもしてるのだろう。

 そんなものは来ない。それは自分が一番よく分かってることだ。あの絶望を一身に受けて諦めて隠すために虚勢を張って、今さら何を恐れている?何もかもに絶望してその先に期待はしないと決めたはずだろう?

 

足を止める。

 

 手のひらサイズの此処まで一緒に付いてきてくれた小さな蛇が裾の方から頭を出す。この子にも悪い事をした。自分の身勝手な行動に文句も言わずあまつさえ助けてくれた。

 その小さな蛇を森の遠くに投げる。この子は関係ない。私と違い賢いからきっと生きられるだろう。この子にきっと救いがありますように。

 

 

 四足歩行の物凄い速さの獣は獲物が逃げないと感じたのか速度を落とし此方に向かう。荒々しい呼吸音を撒き散らしながら手の届く場所に来る。そして少女に向かってその強靭な爪で仕留めようとする。

 

 

 

「………だれか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の絶命を予想し目を閉じたが何も感じないためまた目を開けその光景を見る。

 命を断つはずだった白い緋熊の右腕は数メートル離れた地面に落ちており、緋熊の目の前には真っ黒な外套をした男が立っていた。

 

 その男が持っている刀から血がポタポタと落ちており何があったのかは明白だが、恐怖の対象であった獣の攻撃があっさり防がれたことに私はただただ驚く。

 

 純白の毛を逆立たせて緋熊は左の拳で殴りかかる。

 その男は触れるか触れないかのギリギリの所で身体を反らし避ける。緋熊の強靭な拳は近くの巨大な木に当たる。大木は拳に接触した部分からヒビ割れ大きな音とともに倒れる。

 

殴った拳を引いて緋熊はもう一度今度は爪で傷を与えようとする。

 

 不意打ちとはいえ私がやられた一瞬の爪の引っかく攻撃を腕の側部に刀の鞘を当てて軌道を変えると、攻撃の間合いに踏み込む。

それは同時にその恐ろしい純白の緋熊の間合いへと入ることなのだが、その男は表情を変えず涼しい顔で懐に入る。

 

 そして指を少し握り手のひらは開けた変な拳の握り方で緋熊の顔へと突き出す。それは不思議にも向かい合っている緋熊の拳の形に似ており当の緋熊は衝撃で五、六メートル吹っ飛んでいた。

 

 キレたのか息を荒くして四足歩行で突進してくる緋熊にその男はただ刀を鞘に収め、低く構える。

 

低く低く、そして目を瞑る。

 

距離が一メートルになった瞬間に緋熊は巨大な爪を振りかざす。

 

 

だけど私は何故かその人が大丈夫だと感じていた。理由は分からない。

 

 その人は低い構えから軽く跳んで避けると同時に刀を振るう。その刀はまるで元々そのためにあったかのように緋熊の純白の毛を斬り込み、首へと刃を通す。

 

緋熊を断首してその死体の上に立つ彼を見る。

 

 

 

月の明かりに照らされて時折輝く刀と真っ黒な外套に身を包んだその人。

 

私は彼に何故か目を奪われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まただ夕日(ゆうひ)。お(まえ)はモンスターのことを(なに)()かっていない」

 

 エリア「奥古来魂の渓谷」の奥にある、いわゆる隠しエリア「水晶巣崖」にてティーアス師匠は言う。

 

 

 

 事の発端は数十分前。近くのリスポーン地点を更新できる宿屋のNPCが此処で貴重な素材があると言ってたので行くことにした。聞いた場所によるとついさっき攻略してきた奥古来魂の渓谷の上空、つまり崖の上部にあるらしい。

 奥古来魂の渓谷は今の人類が現在の文明レベルまで達していなかった頃に起きた戦争の決戦地であり、史上最大の国家間戦争が行われていたがモンスターの介入によって戦いは中断を余儀なくされ、大量の死者を生み出したことで土地に瘴気が蔓延、生者を憎むアンデッドの巣窟となった。

 

 そんなこの渓谷を人類が火を見つけた時代から国家間での醜い争いにより死と呪いが蔓延して近づかれなくなった時代までの途方もない時間の流れにも我関せずとばかりに変わらないものがある。

 

 僕は目の前の巨大な水晶がまるで森のように生えている幻想的な光景を見上げる。この水晶巣崖はずっと昔から、いや人類が観測出来るような微々たる年月ではなく生物がこの地で活動を始めたような時期からこの光景は形成されており、その生態系も完成されていた。

 

 そんな足場が最悪な水晶へと足を踏み入れる。

 その瞬間、どこかから水晶が砕かれるような音がしたと思ったら巨大なキラキラした物体、水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン)が現れる。四体。

 

「ちょっ!?複数は話がちがッ」

 

そしてただでさえレベル100オーバーの触れたら即死の塊が大質量で潰しに来て死んだ。

 

これが一回目。

 

 

 

 そして八回目、僕の手にはアロンカレス瑠璃硬晶と呼ばれる他のやつとは名前が違うなんかレアそうな鉱石を見つけた。やっとの収穫にゲヘヘと下衆な笑いが漏れるがまたしても現れる超巨大蠍(殺戮兵器)の大きな音によって遮られる。

 

 これまでの戦闘で得たスキル、アクセル、イグニッション、ニトロゲインなどを発動させる。体力二割減少。えっ?体力なんて概念あったの?

 

 此方へと向かってくる水晶群蠍の他プレイヤーでも即死の攻撃を読んで避けながら逃げる。うおおおぉぉ!!速さで押し切れ!

 

あっ、行き止まり......

 

壁と水晶群蠍でぺしゃんこになって死んだ。

 

 

 

 

(かんが)えろ。お(まえ)()間際(まぎわ)(なに)()た?」

 

何を見た?最後に見たのは突進してきた水晶群蠍が他の水晶群蠍に当たって.....

 

 え、ちょっ師匠?!そんな帰り支度してもう行くんすか?もっとこうヒントなんかを教えてもらえたり......あっ無理?え、もしかしてこれだけ言いに来たの....?

 

 

 

 そして再挑戦。僕は根本から間違ってたのかもしれない。

水晶群蠍が姿を現す。しかし逃げない。逆に複数の水晶群蠍に向かって全速力で走る。

 

 攻撃を避け、その攻撃してきたどデカい鋏に乗る。見方を変えれば包囲されている、袋の鼠だ。他の奴なら。

 

 尻尾の針での尋常じゃない殺意の攻撃を避ける。その攻撃が避けた先にある他の水晶群蠍に当たる。当たった水晶群蠍の部位が爆砕しやっとダメージとしてのポリゴンが出る。まずは1ヒット。つまり攻撃は水晶群蠍同士で潰し合って後は避けようという訳だ。さっきから一方通行で直線で逃げていたが水晶群蠍の中に飛び込むのが最適解だったという訳だ。後でwikiに書こ

 

 

 

「大漁だぜ!」

 

 水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン)纏晶殻(てんしょうかく)を手に持ちニヤニヤする。後で師匠に自慢しよ

 

 そんな風に落ちているアイテムを拾っていたら後ろからの新しい水晶群蠍からの慈悲のない攻撃で死んだ。おい!アイテム回収中はタイムだろうが!

 

 

 

 

 

 死に戻りのプレイヤー特権の力で水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン)纏晶殻(てんしょうかく)断晶鋏(だんしょうきょう)踏晶爪(とうしょうそう)靭晶脚(じんしょうきゃく)などの水晶群蠍の身体の部位はほとんどコンプしたようなアイテムを見て満足気に帰ろうとする。

 

そこで奴は現れた。

 

「またいいカモ(素材の塊)が.....あれイメチェン?」

 

 そこには通常の水晶群蠍の薄透明な色ではなく神々しさすら感じるような煌めく緑色をした水晶群蠍が立っていた。多分カテゴリーは水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン)なのだろうが骨格以外の色、鋏や尻尾の構造が違う姿に圧倒される。色違いみたいなもんか?

 初めて会う変異体なのと常に群れている通常個体と違い一人で居座る孤高とも呼べるような姿にその異様さが際立って見える。通常個体よりも鋭利で巨大な鋏、そして何より三つの尻尾の針の明らかに戦闘特化という外見。

 

針の三方向からの攻撃を身体を限界まで反らして避けてバックステップで距離を取る。

 

距離を取っていて思ったのだがこれって、倒すの無理くないか?

 

「うわッ!?」

 

桁違いのスピードの鋏での攻撃を避ける。ヤバい、万事休すか?

 

「ん?」

 

 その緑水晶群蠍が突然ゆっくりと此方に体を進めてきたのでふと下を見ると周りの水晶と違って奴と同じ薄い緑色の水晶をしている。水晶群蠍の習性か何かだろうが、この勝負受けて立とう。

 

横の大振りな鋏での攻撃をかがんで避ける。

 

 そして横に急いで体を動かし後ろからの通常個体の攻撃を特殊個体に当てる。通常個体は何故か少し高いこの水晶には登ってこない。縄張りみたいなものだろうか?

前と後ろからの攻撃を捌く。ふっ、絶対に倒してやるぜ!通常個体がな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず一つ言いたいのはこのモンスターを作った奴は絶対殺すということだ。

 

「はい、殺す!ギャハハハ!!」

 

薄緑色の水晶という特設リングの上での死闘は二時間にも及んでいた。

 

 特殊個体とはいえ種類としては水晶群蠍なのだから、という安直な考えが失敗だった。まずスペックが全然違っていて攻撃してみて分かったのだが、全身の緑色の水晶が通常個体のものと比べてなんか柔らかいのだ。それだけだと通常個体の方が硬度は高いが一番のクソポイントはその身体にある水晶の特性にある。なんと空でこの死闘を明るく写し出している月の光を受けることで時間経過するごとに傷をどんどん修復していくのだ。

 

 そのおかげで途中心が一回折れそうになったがなんとか強く持ち、後ろからの通常個体攻撃と前からの機動力が上がった再生能力持ちの攻撃を避けていた。難易度設定間違ってない?

 

ティーアス師匠に貰った刀を手で持つ。この刀はクリティカルが出たら耐久値が減らないという長持ち便利武器だ。

 

「いい加減死ねえぇぇぇぇ!!!」

 

 それはこいつを作った運営への怨念か、刀を緑水晶群蠍の頭部へと振る。緑水晶群蠍はそれでも腕を大きく空に上げなお立ち向かおうとしたが、もう一度とどめを入れると大きく痙攣をする。そして振り上げた右剣鋏は力を失い重力に従って落ちていく。

そのまま緑水晶群蠍は崩れ落ち、パキパキと破片となる緑色の水晶と共にポリゴンを巻き散らす。

 

「しゃあ!クソ運営が!二度とやんねえ!!」

 

 約二時間の水晶ダンスに疲れ過ぎてその場でうつ伏せになる。途中で新しく入場してきたあんだけの水晶群蠍達を独りでぶちのめすとか絶対設定間違ってる。

 

今はただこの余韻に浸らせてくれ

 

『変異個体「苔晶独蠍(エメラルド・スコーピオン)」を倒しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きく発達した爪の攻撃を横から腕ごと切り落とす。このエリアのモンスターである冠雪緋熊(スノー・ベアー)は純白の毛色をした野生のモンスターだ。現実でもヒグマは攻撃力半端ないからな

 

 僕の邪魔に激昂したのか此方へと左の拳で殴ろうとするので避ける。その攻撃は後ろの木に当たり太い大きな大木はいとも簡単に倒れる。強くない?これ野良で居るの?

 

 緋熊は今度は爪で引っ掻くような攻撃をしてきたので刀の鞘を当てて軌道を変える。攻撃の予備動作が長過ぎるな。苔晶独蠍(エメラルド・スコーピオン)だったら三つの尻尾の針と剣鋏で連続攻撃をしてくるし、散弾型の毒液は避けるのがめっちゃきつかった。まあ単発型とレーザー型はボーナスタイムで刀でどれだけクリティカル出せるか遊んでたけど。

 

横に爪の攻撃が掠った後、緋熊の懐へと踏み込む。

 

「こうだったか?」

 

後ろの大木を難なく倒した緋熊の拳の攻撃を真似る。確か拳はあまり深く握らないでこうやって

 

緋熊の眉間へと当てた攻撃はモロに入り、少し吹っ飛ぶ。あまりダメージは入っていないが衝撃は凄いな。

 

『スキル「紅焼熊掌(フレムインパクト)」を獲得しました』

 

うわ!こんな感じでスキルってできるんだな。これまでのモンスターへの攻撃動作にあったスキルってことなのかな?

 

 

吹っ飛んだ緋熊は脳内ピキピキなのか此方へと四足歩行で凄いスピードで迫ってくる。

 

右手に持つ刀を鞘に収め低く構える。幕末でやっていく内に自然と身についた構えであり、今ではこの構えをしてる時は何故か狙われなくなる。

 

緋熊との距離が一メートルとなったとき、緋熊の明確な殺気が線となり行動経路として感じる。

 

そして振りかざしてきた緋熊の攻撃を軽く跳んでそのまま刀を振るう。

 

 

 

 

 呆気なく勝負はついた。

森で師匠から指示されたモンスター討伐の依頼をしていたら追われてる少女を見かけたので助けたのだが、当の少女は何も言わずじっと此方を見てる。

 

怖がらせたのか一瞬不安になったが不意に近づいてきたので見る。

 

 

「倒してくれて助かったのじゃ。妾はゴルドゥニーネのヴァニテ、蛇神として旅してる者。妾の右手に封印されし強大な力の制御ができずに危ないところだったのじゃ」

 

 なんかめっちゃキャラ濃い奴来たぁ。蛇と人間のハイブリッド?まさか人体実験!?うっ、頭が.....錬金術.....勘のいい.....

いや普通に人寄りの種族とかシャンフロ居たな。

 

「それは良かった」

 

「ひィッ」

 

 出血が酷いので近づこうとすると足ガクガクさせて怯えられた。キャラブレブレ過ぎない?厨二病でビビリとか相殺し合ってるぞ。

 

刀を地面に捨てる。ようやく構えを解いて警戒を少ししつつも近づけるようになる。

 

「妾、強い従者が居なくて困ってた所だったのじゃ。特別にお前を従者にしてあげてもいいんじゃよ」

 

足震えてんぞ。汗ダラダラだけど大丈夫そう?水分補給とかする?

顔に貼り付けた不器用な笑顔をするヴァニテと目の前のウィンドウの表示を見る。

 

 

 

 

 

 

 

・二十七人目のゴルドゥニーネをパーティに加入しますか? はい・いいえ

 

 

 

 

 

実際どんなもんか分からないが、

 

「……………」

 

にやりと笑う。これに乗らない奴はゲーマーじゃねえ!

 

 

「いいぜ、乗ってやるぜ」

 

えーと、二十七人目の…………ん?

 

 

 

 

「二十七人、目……?」

 

「妾、割と高いのじゃよ!ふんッ」

 

ドヤ顔をしてるヴァニテをよそに考える。こいつの他に後二十六人居んの?これなんか特殊なやつ?

 

「ちょいと待て。ヴァニテ、お前の目的はなんだ?」

 

「目的……?いや、妾を守ってくれればそれでいいのじゃが」

 

そんな簡単なクエストなのか?いやただ単に深読みしてるだけか?うーん、でもなんか引っかかるんだよなぁ

 

「ど、どうするのじゃ?!」

 

「そりゃ、もちろん」

 

ヴァニテからのパーティ申請を承認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

『NPC「二十七番目のゴルドゥニーネ」がパーティに加入しました』

 

『ユニークシナリオEXの条件を達成しました』

 

『ユニークシナリオEX「果て亡き我が闘争」を開始しますか?はい いいえ』

 

 

二度見した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってな訳なんですよね」

 

事情(じじょう)()かったわ」

 

 場所は変わって蛇の林檎。あの後気を失ったヴァニテを此処まで運んできた。そしてさっき目を覚まして事情を説明してるのだ。

 

(きず)大丈夫(だいじょうぶ)そう?」

 

「ひ、ひゃいッ!だ、大丈夫なのじゃ!」

 

 説明中もだったのだが僕の後ろに隠れており、ヴァニテが予想以上にビビりだったことが判明した。具体的にはティーアス師匠じゃなくてカウンターに居るマスターにビビっており、マスターがグラスを拭く度にビクッという振動が背中越しに伝わる。

 

「ふむ、私は席を外しましょうか?」

 

「あー、いや大丈夫。その代わりさ」

 

マスターに手招きをして耳の近くで一つ頼む。

 

「………それは良さそうですね。すぐ準備致します」

 

流石はマスターだぜ。あ、それと僕にも頼みます。

 

 

 

「……ヴァニテ、お(まえ)(なに)から()げてるんだ?」

 

「…………」

 

師匠からの質問にヴァニテは何も言わず、マスターが準備してる音を除くとただ沈黙が辺りを包む。

 

 

気まずい........ん?

 

「すいません、師匠、ヴァニテ、ちょっと立ってもらえますか?」

 

急な指示に困惑する二人だったが渋々従う。

 

そこでやっとヴァニテが来てからのモヤモヤしていた違和感の正体が分かる。

 

ティーアス師匠と頭一つ分くらい高いヴァニテを交互に見る。

師匠が椅子に座っていて分かりにくかったが、ヴァニテと比べると師匠の方が…………

 

 

「………ふっw」

 

夕日(ゆうひ)、そこに()て。『超越速(タキオン)ビンタ』をお見舞(みま)いしてやる」

 

「パワハラだ!超越速(タキオン)パワハラだぁ!マスター見てましたか!?タキハラですよ!」

 

「ヴァニテ様、此方プリンで御座います」

 

「それ今じゃない!ちょっまッ?!」

 

 

 

 

 

 

超越速(タキオン)ビンタタイム☆

 

 

 

 

 

「ヴァニテ、此処が安全な場所ってことが分かったか?」

 

「瀕死の奴に言われても説得力が無いのじゃ.......」

 

「ちょっと近づかないでね。今転んだだけでポックリ逝くから」

 

「えぇ......」

 

なんか引いてるヴァニテだったが気まずい空気は霧散して僕がヤバい奴であるという誤解だけが伝わった。ま、まあこれで良しとしてやろうじゃないか。

 

「………(べつ)(わたし)貴方(あなた)のことを()めている(わけ)じゃない。」

 

ティーアス師匠はヴァニテを見据えて言う。

 

(わたし)はこの世界(せかい)(そこ)()てきて絶望(ぜつぼう)(ふち)()たされたときの感情(かんじょう)()っている」

 

ヴァニテはそんな師匠をじっと黙って見ている。

 

 

(わたし)は………(わたし)(よわ)かったんだ。ただ()ぬことを()(のぞ)んでいた弱者(じゃくしゃ)だったんだ」

 

ただ過去を想い最速の賞金狩人は言う。

 

「……夕日様、少し仕込みを手伝って貰って宜しいでしょうか?」

 

「え?うん....」

 

少し気になるがここは師匠に任せるってことだろう。マスターから仕込みなんて初めて聞いたよ。

 

 

マスターに導かれカウンターの裏に回る。

 

「昨日、アルクトゥス・レガレクスの幼体が入荷しまして大変だったのですよ。」

 

「アルく……それが好きな人も居るんですね」

 

「それこそティーアス様がお好きな様ですし、その淡白な味わいは常連の方にも好評なのですよ。」

 

すげえ、料理も抜かりが無いのか?流石シャンフロ、さすシャン

 

「これを運んでほしいんです。」

 

「あー……はいはい」

 

 想像より三倍くらいデカいそのリュウグウノツカイを巨大化させたような魚類?モンスターを見る。いくらシャンフロだからってここまでデカいとは思わないじゃん....。

 

気合いを入れ直して持つ。

 

「床が水浸しなので気をつけてくださいね。」

 

マスターの注意を聞いて気をつける。

 

 

 

 

(スロー再生)

 

0秒 床に気をつけて歩く。

 

1秒 水浸しの床のヌルヌル具合を舐めていてギャグみたいにすっ転ぶ。

 

1.5秒 意地でもマヌケな死に方はしないと、アルクトゥス・レガレクスを投げて無理やり足を地面に先に着地させて落下ダメージを0にする。

 

1.7秒 華麗に着地。

 

2.1秒 ドヤ顔。

 

2.8秒 上から降ってきたアルクトゥス・レガレクスによって死ぬ。

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

直前のリスポーン地点である蛇の林檎のカウンターの隣の部屋にて目覚める。

 

カウンターに行く。

 

「なんにせよ、夕日(ゆうひ)はふざけた(やつ)だが、やるときは」

 

ティーアス師匠と目が合う。

 

「あっ、ども」

 

「…………」

 

「……ふっ、変な奴なのじゃw」

 

 なんかヴァニテが僕を見てめっちゃ笑ってる。け、計画通りだぜ。来たときは怯えていたが師匠と話してだいぶ落ち着いたみたいだ。これなら一安心

 

「うおおぉぉぉぉ!!リセマラ8回目でやっと条件達成だぜ!」

 

凄い勢いで扉を開けたのは結構久しぶりのサバイバアル(変態)

 

「ティーアスちゃん、俺こそがその名もサバイバアル………」

 

「ひぃッ!」

 

あ、ヴァニテに気づいた。

 

「お嬢さん、お名前を聞かせてもらってもよろしいかな?」

 

「夕日、こやつをどうにかするのじゃ!」

 

あーあ、また背中に隠れちゃった。此処に慣れるのももう少し時間がかかりそうだ。

 

 

 

 




 「ヴァニテ」という名前はレプティカ4になってまだ自我が芽生えてない頃に瀕死になったゴルドゥニーネを助けてくれたあるおじさんがつけてくれた名前。結構直球なネーミング。4、5年一緒で親のような関係性で、ヴァニテがこの性格なのはそのおじさんがやってる古本屋にて色々な英雄譚を見たことが大きく影響してる。分かりやすく言うとジークヴルムみたいな拗らせ方をしてる。一番好きな英雄譚は旅する兎が竜退治の旅に出る話で、ジークヴルムと話が合う。ちなみにそのおじさんはボスドゥニーネに殺されてヴァニテも交戦したが戦いにすらならず付き従っていた三匹の蛇の内の二匹を亡くした。ヴァニテはその一件で行動理念がかなりマイナス寄りになっている。人も蛇も生きてりゃ大きな挫折くらいあるもんさ。





 その根底にある感情は諦観と虚栄。
 同胞が散っていく中、逃げ続けることに多少の罪悪感を胸に秘めた蛇は今日も壊れかけの仮面を被って生きていく。仮面を被るのは何も人間だけではない。

 トラウマとなった強大な敵から逃げることは悪いことではなく自然界ではどんなときでも見られた行為であり、それが生き抜く最善なのだろう。しかし己と敵の塞ぐことが出来ない差を知ってなお過去に囚われず歯を食いしばって一歩踏み出したならば、その飾った虚栄は蛮勇くらいには呼べるのではないだろうか。




仮に、もし仮に旅の中で魂を重ねるに足る同伴者を得たならば───
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