殺気と幕末とシャンフロと 作:荒ぶるバスタブ
辻斬・狂想曲:オンライン……通称「幕末」。
大体のクソゲーは運営が調整ミスった仕様をプレイヤー側が悪用し生まれるものだが、こと幕末においては頭のおかしい制作陣がプレイヤー同士のバトルロワイヤルを前提にして作った生粋のPVP専用ゲームである。そして「斬れば斬るほどハイスコア」というシンプル過ぎるコンセプト故にこのゲーム内においてモラルは世紀末のモヒカン(?)が出てくる世界線より壊滅的で、爆殺、謀殺、裏切り、袋叩き何でもありで「二人であいつボコボコにしようぜw」という袋叩き天誅の際に後ろから刺されるなど日常茶飯事である。
一応陣営もあって維新陣営になると銃器が使えて幕府陣営になると刀のステータスに補正がかかる。ちなみに僕は幕府陣営だ。えっ?僕維新陣営の人から刀でボコボコにされたの?何ソレウケる
またそんなゲームだからPKした後の僅かな余韻すら致命傷になりうり、初めて天誅した時に「初天誅だぁ……」と感極まってたところを後ろから火縄銃で容赦なく撃たれた。ワイ初心者なんですけど?んん?
「さっきは災難やったね」
「唯一剣...!お前ェ!さっきはよくもォ!」
宿舎から出たところを出待ちされた、プレイヤーネーム「メタルマシュマロ」ことランカー大体三位の唯一剣さんは「死んでリスポーンするまで一本の刀しか使わない」というトチ狂った縛りを己に課していることからこの二つ名がつけられている。
ちなみに三十分くらい前に初めて会って(関西弁のお姉さんだ!中学の頃の夢が叶ったぜ!見てるか2年前の俺!)とテンションが上がったり、(一本の刀しか使わないのか...このゲームでも刀一本のロマンに気付く人がいたのか...!)と思っていたら、普通に刀ぶん投げてきて素手で右ストレート放ってきた。頭イカれてるんか?そしてリスポーンした後に食パンくわえた女子高生よろしくレイドボスさんにばったり会って僕の最強手札も虚しく
「まあ、あの人に天誅されるのは通過儀礼みたいなモンやから」
「…………」
刀一本を持った唯一剣さんを前に神妙な面持ちで愛刀をギュッと握りしめる。そしてクルッと旋回してダッシュで逃げる。
「えっ!嘘やろォ!」
「逃げれば勝ちなんだよォ!」
ぶっちゃけ一対一でやったところで天誅される未来しか見えない。
しかし、逃走に切り替えた場合には生存率は大体七割くらいまで跳ね上がる。最初の刀の頭を狙った天誅を避けさえすれば「刀一本」という謎縛りのおかげで一定時間は素手のみのインファイトしか出来なくなるのである程度距離を離して長屋の街を駆け抜ければ大体逃げられる。
ちなみに素手状態でも真正面からやったら勝てる気がしないし、投げた刀を回収できるように計算して投げてくるので少し時間が経てば刀を持ってて巷では素手状態が第二形態と呼ばれている。
「脳天天誅ゥ!」
「よっと」
頭を正確無比に狙ってくる刀の投擲をギリギリで避ける。
「またや!なんでや!」
「正確すぎて助かりまぁす!」
点での攻撃は僕と相性がとても良い。殺気が放った部位を動かすだけだからな。だからかランカーの正確な攻撃を避けてるうちに何故か粘着されるようになった。いや、自分初心者っす!
「あっぶねぇ!」
長屋エリアの角を抜けて後ろを確認する一瞬の隙に脳天目掛けて弓矢が飛んできた。こんな芸当ができるのは奴しかいない。
プレイヤーネーム「摩天郎」ことランカー大体六位のあいつ(上を指差しながら)は極めて珍しいパターンとして上を指差す、というゼスチャーとセットの二つ名(?)を持つプレイヤーだ。というのも、幕末では珍しい弓矢を扱い、高所に登って上から不意打ち狙撃をするプレイヤーなため、ランカーの中でも群を抜いてヘイトが高いのが理由だそうだ。遠距離武器の弓矢だが曲射軌道を計算出来なければ使い物にならないので使っている人はあいつ(くいっ)含めて少数。
正確さもそうだが、何より厄介なのは意識外を狙っての攻撃だ。人はどれだけ周りを警戒していたとしてもそれが緩む瞬間がある。あいつ(↑)はその音楽で言うところの休符に攻撃を叩き込むのが異常なほど巧い。僕が他人のドヤ顔天誅失敗を「プフッッww」って遠くで笑っていたら横から殺意マシマシの弓矢が放たれていて訳もわからず毎度よろしく布団へとリスポーンされた。そこから警戒を怠らずに何回かねちっこい弓矢を避けていたところ確実に狙われるようになった。
ランカーって全員こんな奴らなん!?避けられたなら大人しく別のやつを腹いせ天誅しろよォ!
何はともあれ僕とあいつ(↑)の相性は抜群だ!(僕目線)気を緩ませたり煽り中指天誅して油断したりしない限りこいつの正確過ぎる点での弓矢の攻撃は感じ取ってから十分に避けられる。
天誅対応が特殊なパターンはあいつ(↑)の他に二パターンあり、
一パターン目は別に攻撃することは直前で分かるが本人も予測出来ない刀の落下軌道のため見てから素速く避ける必要がある、対「刀雨」パターン。
リスキル、闇討ちなどで集めた刀を屋根の上からブン投げまくるプレイヤーで、何が厄介かって「ここら辺かなー」と避ける場所にも刀を投げてきてそれが正確過ぎずアバウトなため刀の到達点が殺気を読み取っても分からないのだ。ちなみに幕末の天気予報が「晴れ時々脳天狙いの斬馬刀」などになる元凶。
二パターン目は殺気とか関係なくそのプレイヤーネームが見えた瞬間に一目散に逃げる必要があるパターン。
点ではなく面での範囲攻撃を主としているため僕と限りなく相性が悪い。またランカーというこのゲームに人生を捧げた狂人集団の一人なだけあって、逃げた先に爆発寸前の大玉花火が転がっていることなどザルである。
余談だが、始めた一日目に「ランカーの中に爆発オチめっちゃする奴いるんだよw」と初心者の僕を前に雑談天誅してきたやつがいるが、地獄耳の本人が来てピンポイントでそいつは爆破された。ニコニコと感情が怖いくらい読み取れない顔でこちらに顔を向けてきたので、「自分最近難聴なんすよねぇ。近いうち病院行った方がいいかな?」と言うと見逃してもらえた。これがビギナーズパワーだ...!
「二射線天誅や!」
やっべ!刀を拾い上げた唯一剣さんがあいつ(↑)の弓矢の軌道を軸に避けやすい軌道上に刀をブン投げてきやがった!しかもブン投げた勢いそのままに素手で殴る気満々にこちらに迫りくるんですけど!?
「ぐっ...!」
まず正確無比の弓矢を頭を横に傾けることで対処。そして避けると同時に抜刀した刀で迫りくる殺意という名の刀を弾く。僕みたいな初心者にランカー二人で袋叩きにして恥ずかしくないのか!!?(錯乱状態)
落ちつけ...!こんな人間の善意を踏み躙ってぐちゃぐちゃの肉片にしたものを土に蒔いて耕したような世紀末ゲーの中で僕の常識は一片たりとも通じないぞ...!なんとかしてこの状況を打開する策を講じなくては。
「…………ん?あれは?」
来た来たキターァァ!!天は僕を見捨ててはいなかったぞ!
「針千本!返品不可のお届け物だよ!!」
「あ?唯一剣!?」
団子屋で団子を頬張っていたランカー大体四位の針千本は僕に気づくと同時に、僕の後ろから爆走してきた唯一剣さんにも気づいたようで食べていた団子の串を両手に臨戦態勢に入る。
「邪魔やァ!」
「この前の借りを倍返し天誅ゥゥ!」
計算通りィィ....!この三日間で分かったことがある。それはランカー大体三位、四位の唯一剣と針千本は何かの宿命があるかの如く熾烈な争いを繰り広げる関係で、大体かち合えば天誅合戦になるということだ。
理由は知らないが存分に利用させてもらうぜ!
串と徒手空拳というあまり見られない凄まじい攻防を背に下町長屋エリアを抜ける。
ランカーにはランカーをぶつけるのが正攻法だってな!ぶっつけ本番にしては中々上手く出来たのではなかろうか。
◆
城下町エリアに向かう道すがら、昨日当千に言われたことを思い出していた。
僕と似たようなプレイスタイル....か。昨日初めて知ったイベント限定でのレアエネミーと呼ばれているイベント
ぶっちゃけ僕と同じ殺気を読み取って避けるプレイヤーというのも世の中には居るにはいると思うのだが......、僕と相性抜群のあいつ(↑)に何度も天誅されているという情報からそれは違うと判断する。
十中八九反応速度が異次元に速いとかか?....いや当千の言い方的にその仮説なら攻撃を
んー.....。思考が飛躍し過ぎたな。何はともあれ二日後の初イベントにてどんな人か見てみたいな。
二日後のイベントに思いを馳せながら僕は布団の中にリスポーンした。
◆
「……………」
「リスキッッ?!」
リスキルキル天誅をしながらあいつ(↑)だけは絶対に天誅してやると心の中でドス黒い炎を燃やした。
ちなみに夕日くんは大体の攻撃をドヤ顔で避けるけど、殺気とか関係ない流れ弾に当たって死ぬタイプ。傍から見ると死ぬほど滑稽
余談ですが、唯一剣さんが執拗に夕日くんを天誅しにくるのにはちょっとした理由があったりします。なんとかどこかに入れたいと思ってるのですが、自分の記憶力がカス過ぎて忘れる可能性もあります。