殺気と幕末とシャンフロと   作:荒ぶるバスタブ

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隠忍月下 其の一

 

「仲良く協力……ねえ」

 

 

『隠忍月下』

 やあ侍のみんな!今日も元気に天誅してるかな?

 今回のイベントではイベント期間中に「服部冷鬼半蔵」が出現するからプレイヤー全員で撃破する、プレイヤー協力型のレイドボスゲームだよ!

ただ服部冷鬼半蔵の部下の下忍が町のそこかしこに隠れて手裏剣で攻撃してくるから気をつけてね!レイドボスに倒されたプレイヤーは幽霊状態になりイベント終了まで戻れないよ!レイドボスが撃破された時点で下忍は全て消滅して、レイドボスは五分後に消滅してイベント終了となるよ!

 イベント終了時での貢献率とデスしたペナルティからランキングが決定、上位ランクイン報酬は今イベ限定飛び道具「寂滅軌跡」をゲットできるぞ!そして上位5名にはさらに特別なアイテムが....!?

 

 

 

 

 

 

 

 イベント開始一日前になり、運営からイベント告知がきたのは向かい合った二人の侍が今まさに刀を握りしめんとするときだった。

 

「……ん?」

 

「オラァ!よそ見天誅ゥ!」

 

システム側からの通知に気を取られた男を躊躇なく斬り伏せた男、夕日もロストしたアイテムを拾いながらその告知に気がついた。

 

「フッ、僕に目を離すとは天誅しがいがあるものよ」

 

 最近分かったのだが、僕は殺気に敏感なだけでなく殺気が放たれていない、要は相手が自分を意識の外に追いやっている瞬間が何となく分かる。まだ細かい隙などは読み取りにくいが、完全に何かに気を取られている瞬間ははっきりと感じ取れるのだ。これで先生の魔の手「誰に当てようかなー?」の回避率も上げることができるぜ!

 

 それより外道みたいな天誅を勢いでやっちゃったけどイベント告知中に動いちゃいけないとかいう暗黙のルール無いよな...?最近幕末の空気というか遅延性の毒が効き始めている気がする。幕末に限っていえばこれ(・・)で正解どころか正常なのだろうが、この世界を一歩飛び越えたら僕は間違いなく異常者扱いだ。

 

 これは有名な話だが、ランカーの大体半分が幕末一本に専念しているがそれと同時にもう半分は別ゲーをやってたりする。なぜこの話が有名なのかと聞いてみれば揃って「別ゲーでランカーに会うとなんか凄く気持ち悪い」と言っていた。

 さっきは冗談で言っていた幕末での暗黙のルールこと掟だが、幕末プレイヤー全員が共通して認識しているたった一つのことがある。それは「他ゲーに幕末のノリは持ち出さない」という単純明快なものだ。まあ、掟という大層な物言いをしているがぶっちゃけ幕末の勢いそのままのノリで他のゲームに参加したら一発レッドカードで退場(BAN)である。

 

 そんな訳で金魚鉢の中の鮫ことプレイヤーからは「歩く災害」扱いされている、幕末重度の廃人達も他ゲーでは流石に破壊(天誅)衝動を自分の胸の奥底に封印してほのぼの(幕末比)ライフを楽しんでいるわけだ。ただし体が無意識に幕末を起動するらしい。「ここが、僕の故郷なんだよね....。」という感動的(サイコパス)な言葉を聞いたときは流石の僕も引いちゃったよね。まあそれ故に彼らはトップテンなのだろう。

 

 そんな別ゲーでの別人のような彼らは幕末プレイヤーから見たら、それはそれは(おぞ)ましいものだろう。なんか怖いっていうより気味が悪いよね。幕末で出会い頭に石ころを蹴飛ばすかのような軽さで天誅してくる奴が別のゲームで「あらさっきはお久しぶりです」って感じでフレンドリーに接してきたら初手困惑するもん。

 

 別ゲーで幕末ノリをオンオフできるか結構心配な自分は十分に笑えないが。今は幕末オンリーでプレイしているが別のゲームもやりたいなぁ。…………非常に遺憾だがランカーに別ゲーノリ講座でも伝授してもらうか?

 

 

「それはさておきっと.....」

 

 うーん……、今回の僕にとっての初イベントを見たところ、妨害ありで強いレイドボス(本家)を協力して倒せって内容か。これさ、本当に言っちゃいけないやつなんだと思うけどさ、レイドボス(人力)さんに全部任せれば良くね?見た感じ最終的にプレイヤー同士で天誅合戦が起こってランキング変動がありそうなイベントだな(レイドボスさんを除く)。 

 本家の方がどのくらい強いのか実際分からないが人力の方は異次元に強いからまあ大丈夫やろ。そもそも運営もそこまで鬼畜な難易度調整はしないだろうし。運営がイベントを企画する系のゲームはそこら辺(難易度調整)に詳しい制作陣の人が一人はいるって聞いたことがあるしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まあ大丈夫やろ」という根拠のない自信を胸に無機質な布団の中にリスポーンした。奴と別ゲーで会っても僕は幕末ノリで殴りに行くと、そう心の中で誓った。

 

 

 

 

 

 イベント当日、僕が予想した通りみんなレイドボスはレイドボスさんが倒してくれるやろの精神で他のプレイヤーのデスを増やす…………これイベントとか関係なく通常営業だ......!

とても重大な事実に気づいた僕は今の自分の状況を思い出し、思考を現実へと引き戻した。

 

「しつっこいなぁ!」

 

「今度は逃さないで!」

 

おそらく本気であろう業物の刀を握りしめながら巧みな体捌きで入り組んだ路地を超えて僕に刀を向ける者。ていうかあの人本気なのか知らないけど刀一向に投げてこないんだけど!まさか僕の力のからくりが分かったというのか?ランカーだから有り得るな。

 

「僕のこと好き過ぎじゃないですかぁ!?いちゃいちゃするのはイベント後のみ対応しまぁす!」

 

「抜かせ!」

 

 普段はランカー内の身内で共食いしてるが、キルスコアで報酬が変わる系のイベントの場合は本気で格下を狩りに来る廃人達の一人から全力で逃げつつ距離を離す方法を考える。

…………うん?僕始めたばかりのときにランカーにめっちゃ狙われたんだけど。そのことについて何か弁明はありますか?

 

「有罪判決天誅ゥ!」

 

 見様見真似の頭を狙った串飛ばしも一瞬驚きながらも慣れているのか難なく避けられた。うん、間違いなく実刑判決で死刑だな。

だが、策がないわけではない。前々から考えてはいたことだがこの土壇場でやれるか....?いややるんだよ!

 

 

軽快なステップで長屋の屋根に駆け登る。薄々感じている奴の殺気、僕と死刑囚(推定)の位置取り、後はタイミングだけだ。

 

 

 

警戒を極限まで無くせ。奴はその隙を逃さない。ふぅ、心を穏やかに────

 

「ここ!」

 

「!?」

 

 ギリギリだったが、脳天を狙ってきた正確無比な弓矢を半ば強引に体を動かして避ける。

なんか後ろの唯一剣さんの腕にダメージエフェクトが見えるがどうしたのだろうか?たまたま(・・・・)僕が避けた弓矢に当たってしまったのだろうか?

 

「大丈夫ですか!唯一剣さん!!おのれあいつ(↑)め.....!」

 

「後でほんまに覚えとけよ」

 

 ほらほら言われちゃってるよあいつ(↑)くぅん?不慮の事故とはいえ当たっちゃったならきちんとごめんなさいしなきゃ。

そんな事故現場を背中に爆速で去っていく。

 

 

 

 

 

 

 ここまで来れば大丈夫か?

姿が見えなくなるところまで離れて後ろを確認する。あの人いっつも僕を天誅しにくるな。僕のことが好きなんか?純粋無垢な男子高校生の心を弄びやがって。実刑五年だ!

 

 まあ冗談はさておき、このイベントにおいて僕が順位を上げるためにはレイドボスへの貢献率、最小限のデスの二つが主だ。貢献率の判定基準がよく分からないがヘイトを買うとかも判定に入るなら、遠くからクソ煽って後は逃げに徹するんだが。

 

「……ん?」

 

なんか変な格好した奴.....確かあれ狂犬だな。また誰か犠牲者が生まれてしまったのか。南無南無(‐人‐)

追われているやつは初めて見る顔だけど、誰だあの般若。

 

「祭囃子だ...!」

 

「それ誰?」

 

近くに居たやつが何か知っているようだったので話しかけたら驚かれた。なんで?

 

「あ、ああ...イベントのときだけ顔を出す野郎だ。ずっと前に二番隊の切り込み隊長まで上り詰めたけど今はあんま見ないからレアエネミーって呼ばれてんだ」

 

「ありがと天誅!」

 

 ふーん、あのプレイヤーがそうか。狂犬からの攻撃をスレスレで躱す般若は確かに僕のスタイルに似てないこともない。まあ今回のイベントでは極力デスしないのが目標だから友好的にいこう。やっぱ時代はラブアンドピースだよな。

 

「………新入り、いいことを教えてやろう」

 

「ん?まだ何かあるの?」

 

瀕死状態の親切な知らない人が何か言ってきたので耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………なるほど。

刀を手に、般若の面を被ったプレイヤーネーム「サンラク」へと明確な殺意を持って走り出す。

 

 このゲームのチュートリアルさえも乗り越えられなかった名も無き同志たちよ!僕が仇を取るぜ!

 

 




ログイン天誅が存在しなかったら割と良いゲームだと個人的に思うんだけどな。

結論、サンラクくんは極刑
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