殺気と幕末とシャンフロと 作:荒ぶるバスタブ
荒廃した世界で三人のプレイヤーが向かい合っていた。
「……で、そいつが助っ人なの?」
「ああ、腕は確かだ」
「安心してくれ!全員天誅すればいいんだろ!!」
「………あのゲーム出身なのはいいけど意思疎通できるのが条件って言ったよね?」
「あー……でも今回に限っていえば
「いや、まあそうだけどさ」
明らかな初心者装備である彼に向かって強奪を目的としたプレイヤーが奇襲してくるが、当の本人は欠伸でも噛み殺すかのように面倒くさそうに避けて剣を振り下ろしそのプレイヤーは呆気なくキルされた。
「……まあ実力はありそうだね」
「俺の知る限り幕末の中だったら二番目に強いと思ってるプレイヤーだ」
「確かにそれならいけそうだね」
「ねえ、それって二人じゃ無理なの?」
「いや暗殺とかだったらやれないこともないけど」
「だったらなんで」
「ん、そりゃあ」
「なんでってそんなの」
二人の外道は口を揃える。
「「その方が後で煽れるじゃん」」
◆
あのレイドボス戦の後、何故か唯一剣さんに凄い剣幕で追いかけられて「やーいw線香花火ぃぃ!ww」って煽ってたら狂犬も来て二人で天誅された。
なんでなん?僕そんな恨まれるようなことした覚えはないんだけどなぁ。天誅も大体がカウンターだし、僕はね争いたくないんですよ。こんな聖人君子を具現化したような僕を狙ってランカーが揃いも揃って恥ずかしくないんですか?現実だったら切腹案件だよ。
「はい、380円」
「安っ!」
場所は変わってとあるゲームショップにて僕は店主と思われる女性と向かい合っていた。
一店目、二店目に探し求めていたものはなく半ば諦めていたところ、ふらっと立ち寄ったこの個人経営のゲームショップでなんと見つけたのだ。
気持ちはツチノコを見つけたかの如く本当に売ってあるのか....という若干失礼な感情でそのゲームを購入した。だってどこで聞いても「そんなゲームあったかな?」っていうぐらいの知名度だよ。幕末買ったときの可哀想なものを見るような目とは大違いだったよ。ここにきて予想外の幕末知名度を知ることになるとは......。店員さんの間でも噂になってんのかな
「いやあ、まさかこのゲームを買いたいと思う人がいるとはね。君で二人目だよ」
「それほどでも。この店も変なゲームばかり置いてますね」
「ちゃんと人気のやつもあるよ。それとそういうゲームは私の趣味半分、物好きな偏食家のためが半分だからね」
変な人も居るものだな、と隣で山積みになっている世間一般的に「良作」ではない部類のゲームを見ながら思う。
これは余談なのだが、僕の経験からこの手の偏食家とはある程度の実力あってこその「偏食」なのであって、大体こういう偏食家は普通のゲームやるとめっちゃ上手いことが多い。
そもそもこういうゲーム、「クソゲー」とはどう定義するのか?難易度が異常なほど高いゲームは良作ではないのか?否、世界観がしっかりしたものやギミックが絡んでいるものもあり、その「激ムズ難易度」という要素が一つの魅力となっているものもあるだろう。
僕が思うに「クソゲー」とはプレイスキルではどうにもならないゲームシステム、バグ、加点方式にならざるを得ないストーリー性など様々な理由によって「理不尽」という要素が極めて
そんな「くだらない」、「つまらない」、「苦しい」といった本来娯楽としての一般使用がされるゲームとは真逆の方向性を突き進むものを
「ま、ここには色んなゲームがあるから何かお探しだったらまた来な」
「次は普通のゲームでも買いに来ますよ」
別に僕のVRゲームデビュー作と二作目がこんな変なゲームなのは仕方がないのだ。全てはバイト先の先輩と幕末で出会った物好きなプレイヤーのせいなのだ。
次この「SHOP ロックロール」の扉を通るときは極めて普通のゲームを買いに来ようと心に決め、この店を後にした。
◆
「おっ、時間通り来たか」
「なんか幕末とは違うってだけで緊張するな」
待ち合わせ場所で待っていたサンラクは僕を見て苦笑する。
「そう緊張すんな、少なくとも幕末よりかは平和でのどかなゲームだぞ」
「初対面で会ったらこんにちは、笑顔で何もしない、大丈夫だ落ち着け、我が心臓よ」
「うーわ、末期じゃん」
うるさい!しょうがないだろ!幕末だったら挨拶なんて音以上の意味を持たないし、全員頭のネジ吹っ飛んでるから道端に落ちてる色とりどりのネジ見て安心して天誅できるんだよ!待って、僕もしかしてネットしかしてないからリアルで会ったらドギマギする奴みたいになってる?ネットの文面ではイキってるから黒歴史生まれるやつじゃん。クッソォォ!幕末運営め!コミュ障を増やしてそんなに楽しいか!他ゲーで変な空気になってる幕末プレイヤー見て絶対爆笑してるぞ!許せねえ!!
「………人の字は一回でいいぞー、聞いてるかー?」
そういやサンラクって意外とコミュ力あるよな。色んなゲームしてるからか?それとも素か?………案外ゲームしてない人生でも成功してそうだな。
これだからコミュ強はよお!はぁ......
「まあいいや、そんなことよりここがどんなゲームか調べたか?」
「協力型MMOVRでしょ?パッケージに書いてたよ」
滅びに瀕した王国を救うためにプレイヤー達は騎士となって襲い来るモンスターと戦うゲームであり、キャッチコピーは「剣を重ね、結束せよ」。そのゲームの名は「ユナイト・ラウンズ」。大まかにパッケージを見た印象としてはプレイヤー同士の協力を想定したファンタジー系の王道RPG、って感じかな。子供の頃、おじいちゃん家でVRじゃないレトロなRPGのゲームしてたから懐かしいな。あれ全クリした後に色々な場所を散策するのが楽しいんだよな
「………よし、一回最初に受けられる依頼受けてこい」
「??分かった?」
急にどうしたのかと思ったが、まあチュートリアルは大事だよなと最初のログインした座標に向かう。やはり何事も初心者にとっての救いであるチュートリアルは欠かせない。
チュートリアルが充実しているゲームは良いゲームが多いしな。幕末のチュートリアル(笑)は一回真剣に運営が公式のやつ作った方がいいぞ。毎時間新規プレイヤーの断末魔(爽やかなBGM)が響くのは流石に心が痛いしな
幕末運営にメールでも送ろうかな、と少し真剣に考えていたところそれは見えた。
あれが上官っていう設定のNPCか?筋肉モリモリやん
「あのぅ、依頼を受けたいんですけど」
「む?お前が新しく入った新人か。近頃モンスターが増加して薬草が不足してんだ、何個か森で採ってきてくれないか?」
「了解っす」
近場の森で薬草採取.......最初の依頼として相応しいな!やっぱチュートリアルはこうでなきゃ!このゲーム、もしやまともなのか...!
幕末プレイヤーの中でも、プレイするゲームはゲテモノが多いとして噂されてるサンラクだがたまにはまともなゲームもするんだなあ、と少し見直して拠点のすぐ近くの森へと足を踏み入れる。
こんなチュートリアルちょちょいと終わらせてやるよ!
────2時間後────
「薬草ゲットだぜ☆」
なるほどなるほど。僕は2時間森で四つん這いになって手に入れた薬草1個を見つめる。そして眼前に広がる森の中央に生い茂っている逞しい草を見る。
いっけなーい//たまたまバグの修正がまだだったみたい///
私ったら不運不運♡
薬草1個という、2時間の対価とは決して見合わないものを手にしながら街に戻る。
「アイテム収集ご苦労ゥゥ!!」
「カツアゲだァ!新人!!」
建物の陰から明らかに高装備のプレイヤーが武器を手に此方に迫ってくるので避けながら徒手空拳で対応する。こちとら徒手空拳のスペシャリストと日々殴り合ってるからね
「なるほどね」
僕は2時間前の考えを思い直す。
あのクソゲーハンターのサンラクが普通のゲームなんてするはずないよなぁ。するならばどこかしらにクソ要素があるはずだ。そして多分だがそれは……
僕は近くに落ちてある石ころを拾う。
『この石は投げるのに適さないようだ……』
「いや嘘だろ.....」
たかが石ですら入手困難なのか?世紀末すぎんだろ......。
だがこれではっきりしたな、要はこのゲーム最大のクソ要素とはアイテムの圧倒的なドロップ率の悪さなのだ。ゲームというものはプレイしたときの快適さが満足度に直結する。要はこういうRPGのゲームはよほどのレアアイテムじゃない場合、ドロップ率は安定していて大抵入手できる。しかしこのゲームはというと、プレイヤーガン無視の忠実な設定。そう、この世紀末のような荒廃した世界観に忠実
そう考えるとめっちゃ運が悪いと思っていた初期装備の剣の破損も説明がつく。どんなもんかなって素振り何回かしてたら急にぶっ壊れるのおかしいと思ってたんだよ。
では何故このゲームが過疎ゲーではなくそこそこ成功を収めているのか?たかが薬草1個に2時間、石ころですらあり得ないレベルのドロップ率の悪さ、装備の破損度合い、普通プレイしたならばとてつもなく時間をかけてするような過疎化一直線のゲームだろう。そう、
「狙いが甘いな」
後ろから放たれてきた弓矢を軽く避けながら言う。あいつ(↑)だったらこんな警戒してる状態のときは狙わないし、狙うなら迷いなく脳天一択だ。
ログイン直後を思い出す。すれ違うプレイヤーの多くが殺気とまでは言わないが暗いものを此方に向けていたのだ。
ユナイト・ラウンズにおいて正解とは何か?
薬草にクソ時間がかかるからしたくない?なら
要は協力なんて謳っているが、このゲームの本質とは「世紀末略奪ゲー」なのだ。そして今現在このドロップ率が修正されてないことから運営もそれを容認している可能性が高い。
では、幕末とは違いそこそこ人が居るのは何故か?
僕の予想だが、多分このゲームは立ち回り次第でプレイスキルがなくとも上に立てるのだ。幕末ではキルすることが目的であり、結果的に幕末内では殺傷能力が異常なほど高いプレイヤー達が生まれる。一方でユナイト・ラウンズはというとキルすることにさほど意味はなく最終的に奪い取ることができれば勝ちなのだ。
よって評価は見なくとも低いのは分かるが、この世紀末と表現するに相応しいこのゲームの評価理由などから蜜にむらがる虫の如くコアなユーザーがやってくるというわけなのだ。幕末に1%でもいいから分けてほしい。
「おっ、割と早かったな」
「2時間で早いんだ....」
これでも早いくらい薬草のドロップ率って低いんか......。サンラク、もしかしてもっと時間かかると思ってたのか?この鬼畜め!
「そういえばさ、なんで僕をこのゲームに誘ったの?」
もう一人のプレイヤーに向かう道すがらサンラクに聞く。
「あれ、言ってなかったっけ?」
進みながらサンラクが答える。
「このゲームのラスボスって知ってるか?」
「うん、ロマニス十八世ってやつでしょ?NPCから聞いたよ」
「本来のラスボスはな。俺たちが倒すのはもっとヤバい相手だよ、しかもプレイヤーのな」
ゲームのラスボスよりヤバい1プレイヤーってどんな奴だ?
「そいつはたった一人で王国を掌握してこのゲームそのものをコントロールしてる」
「ほうほう」
「だから」
サンラクは此方をチラりと見て笑う。
「その絶対王政をぶっ壊すんだ。面白そうだろ?」
始めたばっかの初心者なんですけど
先に言っておきますが、幕末ノリを他のゲームに持っていくことは決してありませんので安心してください。
「他ゲーに幕末ノリは持っていかないけど、プレイスタイルなんかで周りの人から幕末プレイヤーだって薄々勘付かれてほしい」という個人的願望のもとやります(宣戦布告)