鬼滅の刃二次創作の『それでも私は死にたくない』が想像以上に反応が大きく、鉄は熱いうちにうての精神で完結させてきました。
ボチボチ此方も更新再開していきます。
僕は、アルス・グレイラット。
母様、ルーディア・グレイラットの長男。
父様はエリオット・グレイラット。
僕の赤毛は父様譲りのもので、この燃えるような赤毛は自慢の一つ。
家族は他に父様が三人、お祖母様が三人にお祖父様がいる。
そして姉さんが二人、妹が七人、弟が一人。
更にペットが三匹いる。
大家族だ。
少し普通とは違うけど、皆大好きな家族だ。
けれど僕は今、そんな家族から一時的に離れようとしていた。
「アルス、気を付けてね」
腕に青髪の赤ちゃん、リリを抱えた母様が笑みを浮かべて見送ってくれる。
母様の隣にはルーシーとララもいて、二人とも……程度の差はあれど眉を下げて僕を見ていた。
ルーシーに抱き抱えられているジークはあまり良くわかっていないようで、此方をただじっと見つめていた。
今日僕は、ラノア魔法大学に入学する。
そして、卒業するまでの時間を、魔法大学の寮で過ごす事になるのだ。
「お兄ちゃん本当に行くの……?」
「うん、でも長期の休みには帰ってくるよ」
「ちょーきのやすみっていつ?明日?明後日?」
「半年後くらいっぽいよルーシー姉」
「半年!?やだあ!」
ルーシーは悪戯っ子だけど凄く甘えん坊だ。
これまでずっと、ルーシーが産まれてから僕はルーシーのそばにいた。
懐いてくれてるのはわかっていたし、僕なりに可愛がってきたつもりだ。
そんな僕が長い間いなくなることを、ルーシーが嫌がるのは当然だった。
「ルーシー……何度も話しただろう?
家にいたらどうしても誰かに甘えちゃう。
せめて、自分のことは自分で出来るようになりたいんだ。
そうじゃなきゃ、僕はいつまでも一人前の男になれない」
「むぅー……」
そう、家に居ると身の回りのことを全部やって貰うことになってしまう。
ここいらで一度、やらざるをえない状況に自分を追い込むべきだと思って寮生活を希望したんだ。
それでもまだ甘えてるのかもしれないけど……流石にこの歳で旅に出る程考えなしでもない。
だから、学校に通うという話が出た時点で、僕は寮生活を希望していた。
母様も父様も、心配を滲ませつつも、僕の考えを尊重して許可をしてくれた。
長期休みには帰ってきて、10歳を祝うことになっているから、それまで大体半年の間、完全に皆と離れて生活することになる。
……家族と離れて生活するのは産まれて初めてだから、正直僕だって寂しい。
僕に身を擦り寄せ、瞳を潤ませるルーシーに思わず苦笑が浮かぶ。
それでも僕は決めたんだ、ちゃんとアイシャ姉に相応しい、立派な男になるって。
これはその第一歩なんだ。
眉を下げるルーシーとララをそれぞれ撫で回し、可愛い妹達を諌め続けていた。
「アルス、君はしっかり者だから大丈夫だと思うけど、体には気を付けてね」
「うん、ありがとう白父様」
白父様は優しく微笑んでくれた。
ジークをルーシーから受け取り、顔を埋めるルーシーを撫でて、小さく頷いていた。
優しい言葉に、胸がじんわりと温かくなる。
「これからは学校で、ですね。ちゃんとロキシー先生と呼ぶんですよ?」
「わかってるよ。いや、わかってますよロキシー先生」
「い、今はまだ良いんですよ……?」
胸をはって得意そうな青父様にそう言えば、困ったように笑っていた。
青父様とは学校でも会うことになるだろうから、少し気持ちが楽だった。
「ちょっとでも嫌なことあったら、すぐに帰って来て良いのよ?いつでも待ってるわ」
「心より、アルス様の無事のお帰りをお待ちしております」
「もう独り立ちか……あんなに小さかったアルスが……。
時が経つのは早いな……頑張れ、アルス。あたしも待ってる」
「ありがとう、お祖母様方。ちゃんと元気に帰ってきます」
お祖母様三人に代わる代わる頭を撫でられる。
正直言えばこれからの生活に不安はあった。
けれど、改めて帰る場所はあるのだと、安心して行けと激励を貰ったような気がした。
「気張ってこいよ!いつかは旅にでも出るつもりなんだろ?
勉強も必要だが、ついでに必要な知識、ガッツリ仕入れてこい!」
「えっ、あっ……うん、はい!」
お祖父様は見透かしたように笑った。
実際旅に、修行の旅に出ることは考えてはいたけれど、誰にも言ってはいなかった。
得意気にニヤリと笑ったお祖父様に、動揺しつつもどうにか頷きを返すことが出来た。
うーん、やはりお祖父様は油断ならないお人だ。
「よくわかんニャいけどがんばるニャ」
「アル兄羨ましいミャー。俺も早く学校に入っていっぱい勉強したいミャ。帰ってきたらお話聞かせて欲しいミャ」
「ミィ……おにい……さみしい……」
「うん、ありがとう皆。僕も寂しいよ……元気でね」
からりと手を振るシャロン、羨望の眼差しで身を擦り付けてくるシャルル、いつも通り涙目で見上げてくるシャーレ。
三人を順番に撫でて、特にシャーレを丁寧に宥める。
堪えきれずポロポロと涙を溢し始めたシャーレを、二人が抱えてお祖母様のところに連れていき……更に泣き声が大きくなっていた。
それを苦笑して眺めていると……僕の髪色と同じ赤が、視界に写りこんだ。
視線を向ければ、僕と同じ赤毛の妹、クリスを抱っこした父様が口をへし口にして、僕を見返していた。
「…………アルス」
「はい、父様」
何処か言い辛そうに、自分にひしと抱き着くクリスの背中を撫でながら、父様はゆっくりと口を開いた。
「……鍛練を、怠るなよ。剣の腕は……直ぐに錆び付くから、な」
そうして差し出されたのは……ずっと父様が腰に帯びていた片刃の魔剣。
鳳雅龍剣……。
「魔法大学で使うことなんざないだろうが……あって困るもんでもないだろう。いざという時は躊躇いなく使え」
その言葉に様々な沸き上がる思いがあった。
まだ未熟過ぎる僕が、とか、父様はどうするのとか。
いくらなんでも、ここまでの業物を使う場面なんてこないとか。
でもそれら全てを飲み込んで、父様なりに僕に与えられる餞別がこれなのだと理解して……僕は両手で差し出されたそれを恭しく受け取った。
「……ありがとう、父様。暫くの間、借り受けます」
けど、借りるだけだ。借りるだけ。
僕はまだ、仮に数年鍛えたとして、この剣を持つのにまったく相応しくない。
「…………」
「いつか、僕がこの剣に相応しい程になれたと思った時は……改めて父様から奪います」
だから、あえて挑戦的に笑って、父様を見上げてやった。
父様は虚を突かれたように目を見開いた後、獰猛に、まるで猛獣のように笑った。
「はっ……その時を楽しみにしてる」
その迫力に、少し前の言動を取り消したくなったのは、僕だけの秘密だ。
父様の目、獲物を見る猛獣の目だった……。
本能的な恐怖に身震いしていると、父様と立ち代わり……僕が家を出る理由の一つ……アイシャ姉が僕の前に立った。
「……えと……うん。なんか言いたいこといっぱいあったんだけど……忘れちゃった。
だから、一つだけ。……元気に、帰って来てね」
「うん……アイシャ姉も、体に気を付けてね。
僕、アイシャ姉に相応しい良い男になって帰ってくるよ」
「うん……待ってます」
途端に美しい花が咲いた。
僕のプレゼントの髪飾りが、本物の蝶のようだ。
そう錯覚する程に綺麗な笑顔を浮かべたアイシャ姉に、僕は暫し見とれていた。
けれど、いつまでもこうはしてられない。
僕は気を取り直して咳払いし、鞄を背負い直した。
そうして、そこに並んだ家族を改めて見回した。
個性豊かで大好きな、心底愛しい家族。
そんな皆に、僕は満面の笑みを浮かべた。
「行ってきます!」