シャリーアにあるグレイラット邸。
フィッツ・グレイラットを家主として、老若男女、沢山の家族が幸せに暮らす温かな家。
中心にいるのはルーディア・グレイラット。
彼女を中心にして集い、子供を増やし、日々を楽しく幸せに過ごす、そんな家族が過ごしていた家の一室で今。
「ごめんなさい」
「すみませんでした!」
そのルーディア・グレイラット本人と、黒髪の青年が床に座り込んで土下座をしていた。
2人の前に立つのは、白髪の青年、フィッツ・グレイラット。
その青年は表情になんの感情を浮かべる事もなく2人を見下ろしていて……。
「あぅー……」
その腕の中には、産まれたばかりの
昨日、ルーディア・グレイラットが産んだ赤子である。
「……おかしいなぁ、誰の子かなぁ」
フィッツは頭を下げたままの2人に、静かに問い掛ける。
ルーディア・グレイラットの4人の夫の中に黒髪はいれど、その夫(♀)とは生物学的に子供をつくることは今のところ叶っていない。
では誰がその子の父親なのかと言えば、ルーディアと最も近い黒髪の男性……。
「…………ぼ、僕の子供……です………………」
北神三世、アレクサンダー・カールマン・ライバックだ。
冷や汗を垂らし、床に頭を擦り付けたままのアレクが、絞り出すように告げた。
「ッ……!」
ゴゥッ!
瞬間、フィッツから放たれた風の礫を、アレクは避ける事なく受け入れ……。
ガシャーン!
窓をぶち破り、家の外へと吹き飛んで行ったのだった。
何故こんな事になったのか、それは約一年前、いくつもの偶然が折り重なった結果だった。
まず、その頃ルーディアは端的に言って暇だった。
体は本調子を取り戻していたものの、虚弱だった時期の記憶が強く、オルステッドの命じる任務につく事が許されなかったのだ。
故にリリとクリス、二人の世話をしながら過ごしていたものの、家事の殆どはアイシャと嫁入り前の練習としてノルンが中心になってやってしまう。
子守りも、アルスがいなくなってからはルーシーが張り切ってお姉さんをしている為に、まったく苦にならない。
自然とシャロンやシャルルの悪戯も減り、シャーレも姉離れし始めていた。
なのでルーディアは、子供達と遊びそのまま日を終えるような日々を過ごしていた。
そんな平和で平穏で……けれど少しだけ退屈な日々。
多少感じる、どうしても溜まり続けるフラストレーションは、夜に夫を吸い尽くすことで発散していた。
なのだが……その時は本当にタイミングが悪かった。
フィッツはアリエルの護衛として遠出……一月程帰ってこない。
エリオットはオルステッドからの任務で同じく遠出、一月前に出発しており、二月程かかる見通しとのこと。
シズカは転移魔法陣について可能性を潰すために試したいことがあると、空中要塞に出かけてしまってこれもまた一月程帰ってこないという。
そしてロキシーは、学園でトラブルが多発したらしく、直接は関係していないものの、後始末に追われ、帰れもしない日々が続いていた。
そんな疲労困憊の夫に性行為を迫れる程、ルーディアは残酷ではなかった……。
エリナリーゼから吸収した呪いの事もある為に、いずれは性行為をしなければならないが、クリフの残した呪いを軽減する魔道具もあり、何よりエリナリーゼ程短期間で切羽詰まる訳ではない。
呪いから考えれば大体一月二月は、性行為をしなくても平気な筈であった。
だが、計算外だったのは……ひどく単純。
パウロ譲りの性欲の強さであった。
その日は夫は誰も帰ってくる予定はなく、アイシャはこちらの家の家事を終え、ノルンと共に買い物、そのままパウロ宅の家事をするとの事だった。
故にこの後、ルーディアは一人だけで子供達の手綱を握って過ごさなければならないのだが、元気だけは有り余っている彼女にとって、そんな事はお茶のこサイサイだった。
愛する可愛い子供達に囲まれて、幸せに過ごしていた。
だが。
端的に言って……ルーディアは非常にムラムラしていた。
一月程の禁欲生活によって、発散仕切れない性欲は募りに募り、夫のベッドに代わる代わる飛び込んで自分を慰めるのも限界を迎えていた。
「ロキシーには悪いですけど、帰ってきたら滅茶苦茶にします」
そう断言したルーディアを、ララが顔を強張らせて見つめていた。
そんなメスの獣と化したルーディアのいる家に、哀れな獲物が迷い込んでくる事になる。
家を訪れた人の気配を感じ、ルーディアは玄関へと向かった。
扉の向こう、強く感じる若い男の気配、知らず生唾を飲み込み開けた扉の先にいた男に、ルーディアは息を飲む。
肉体は若く、精気に溢れた男。
以前の一件とその後処理、スペルド族とビヘイリル王国の和平に奮闘し、見事平定する事に成功し、人として男として、一皮も二皮も捲れ、非常に脂ののった男。
「ごきげんよう、ルーディアさん。お久し振りです」
そう言ってアレクサンダー・カールマン・ライバック三世は、笑顔を浮かべて花束を差し出した。
玄関で対面したその瞬間、ルーディアに電撃が走った。
それは、性欲を溜め込みすぎたという事もあったのかもしれない。
けれど、以前はまったく感じなかった、かつて媚薬を盛られた時でも微塵にも思わなかった、『格好いい』という感情。
お腹の奥の疼き、渇く喉と唇。
そして……目の前の獲物に対して知らず知らず、値踏みするように細まる瞳。
ちろりと渇いた唇を舌が濡らし、それを受け取った花束で隠しながら、ルーディアはアレクを家へと招き入れた。
「お邪魔します」
ペコリと頭を下げて家へと入っていくアレクを見送りながら、ルーディアは後ろ手に扉へと手を翳す。
ガチャン
鍵のかかる無情な音が響き、哀れアレクはこの時既にルーディアの胃袋に収まってしまったのだろう。
アレクの不運、それはいつかの『貴女に相応しい男になったら』という言葉を、よりにもよって性欲の獣となっている時期に実行しにきたこと。
漸くビヘイリル王国の王を納得させる事が出来て、以前の事件でのアトーフェとの死闘も踏まえ、自分に自信がついたアレクは、ルーディアにフラれる為に、一世一代の告白をしに来たのだった。
本来なら、アレクの渾身の告白をルーディアは真っ向から断り、アレクもそれを当然として新たな一歩を踏み出す……等といった一幕があっただろう。
それを互いに、美しい思い出とすることが出来ただろう。
だが、現実は違った。
性欲の権化となったルーディアはアレクの告白をのらりくらりとかわし、食事を勧め、子供達と交流させ……。
「もう遅いですし、泊まって行って下さい。
……今日は、誰もいませんから」
「え、えぇ……そう、ですね。お言葉に甘えますね。
……ほーら、たかいたかーい!」
ちろり、ルーディアの赤い舌がちらつき、原因不明の悪寒が襲うも、アレクは気のせいだと切り捨ててジークを抱えあげた。
……そしてそれが、運命の分岐点となった。
「ルーディアさん……僕は、貴女の事が好きです!」
「…………アレク……立派になりましたね」
「はい、ルーディアさんを始めとした、皆さんのおかげです。
だから……届かないとわかっていましたが、貴女に想いを伝えたかった……僕は、満足です。これで……っ!?」
ぺたり
「うふ…………本当に、立派に……えへ、えへへ」
「る、ルーディアさん……!?まさか、また媚薬を……!?」
「アレク……もう、我慢出来ない!
こんなオスの臭いプンプンさせて!ブチ犯す!」
「やめっ!あっ」