ルーディアによる大騒ぎ。
警備隊やエンド傭兵団まで出動する騒ぎになったものの、どうにか場を収め、関係者揃ってフィッツ宅の居間に集められていた。
議題は中心は二つ。
なぜルーディアは大騒ぎを起こしたのか、と……。
「…………」
椅子にちょこんと座る、見知らぬ少女の素性の詳細だった。
白と黒の珍しい髪色をした少女は、瞬きをすることなくじっと一点を見つめている。
その先にいるアレクは、居心地が悪そうにしていた。
「えっとね、ルーディア、落ち着いて聞いてね?」
先刻コミュニケーションを失敗したと感じているシズカは、ゆっくりとした落ち着いた口調で話しかけた。
その少女の背後に立ち、その肩に手を乗せて、絞り出すようにゆっくりと。
「この子は、貴方と私の子よ」
瞬間ギュルンと、その場の顔がルーディアを見た。
そこからゆっくりと件の少女を見て、再度ルーディアを見つめた。
少女の歳頃は一桁から二桁になるくらいだろうか。
そうなると、ルーディアの子供の最年長であるアルスと同年代ということになってしまう。
いや、そもそもシズカとルーディアは同性なのだが……。
皆が困惑しし視線を彷徨わせているなか、至極真面目な顔でフィッツが口を開いた。
「……ルディ、もしかして
パァンッ
ドガンッ!
突拍子もない事を言うフィッツの頬を張り、壁に吹き飛ばしたルーディアを後目に、ロキシーが苦言を呈した。
「えーっと、シズカさん……ルディと貴方では子供を作れませんし、もしその子が本当にルディと貴方の子供だとしても、そこまで育ってるのはおかしく感じているしまうのですけど……」
ロキシーの言葉に何処か誇らしげだったシズカの表情が少し陰り、小さくため息をついた。
「……まぁ、そうね。わかった、正しく言うわ。
この子はアリス。私とルーディアの子供、という体で作った
皆が驚きの表情を浮かべるなか、シズカはポツリポツリと、話し始めるのだった。
そもそものきっかけは、ルーディアが7人目の子供、アレクとの子供アレクシアを妊娠出産したことだ。
シズカは自分の立ち位置に悩んでいた。
元より皆の温情で存在していられる立ち位置なのは知っているけれど、それでも愛しい人との愛の結晶に憧れはあった。
それがアレクシアの誕生……黒髪のルーディアの娘が産まれたことでタガが外れてしまった。
どうにか自分とルーディアの子供が出来ないか、悩んだ末に思い至ったのが、ザノバが研究していた自動人形だった。
まだまだ目処の立っていなかったそれを、シズカが全面的に協力したことで一気に完成度は高められていき、いくつかの失敗も経つつ完成したのだという。
「いてて……ああ、この家にあったアレかぁ……ザノバ完成させたんだね」
ルーディアに吹っ飛ばされたフィッツは何事もなかったかのようにひょっこりと席に戻った。
頬には赤い跡がクッキリ残っているが、失言の自覚はあるので何か言及することはなかった。
「ええ、サイレントの全面的な協力とペルギウス様の教えもあり、どうにか完成したのです。
苦労しましたが、どうですかなアリスは?師匠とサイレントの特徴をほどよく受け継いだ容姿に出来た自負があるのですが……」
ルーディアに襲撃されたザノバは治療を受け先程目を覚ましていた。
声色に疲れは見えたが、多少興奮している様子で、何処か誇らしげでもあった。
そんなザノバの言葉に、皆の視線がアリスと呼ばれた少女……自動人形へと向けられた。
確かに良くよく見てみれば、顔立ちはルーディアとシズカ、2人の面影を感じる。
アレクはやはり勘違いじゃなかったと、自分を納得させていた。
「……えぇと、つまり、シズカがザノバとっていうのは……」
「この子を作る為にずっと2人で研究してたから、長時間一緒にはいたけど、それだけね。なんにもないわよ」
そう断言されてしまえば、ルーディアは自分がひどい勘違いから暴走してしまった事を自覚し……頬を染めて恥ずかしそうに俯いた。
「えと……ザノバ……申し訳ありませんでした」
「いえいえ、此方も怪しい動きをしていたのは確かですからな。
ご心配するのも理解出来ますし、あまり気にはしておりません」
頭を下げるルーディアに、ザノバはやんわりと答える。
気にしていないのは本当で、相手がルーディアである事と、その行動の裏にあるのはシズカへの愛情である事を理解しているので、誤解が解けたのであればそれ以上何も言う気はなかった。
……けれど。
「ただ……些か疲れましたな……申し訳ありませんが、帰って休ませていただきたく……」
ザノバは疲労の残る顔で絞り出すようにそう呟いた。
自動人形作りに熱中し、かなり疲労していたところにルーディアの襲撃だったので、ザノバは正直さっさと眠ってしまいたかった。
ルーディアに呪いを吸収されて以降、怪力の神子としてのバカげた耐久力は喪われてしまっているので、ザノバの中で自分の認識との差もあって精神的にも疲れてしまっているらしい。
「あ……はい、すみません……あの、エリオット、送ってあげてください」
「ああ」
それもまたルーディアのせいとも言えるので、ルーディアは気まずそうな顔でエリオットにザノバの送迎を頼む。
フラフラと覚束無い足どりで去っていくザノバを見て、ルーディアは悪いことしたなぁと心の底から反省するのだった。
「えーっと、それでアリスちゃん?は、なんで僕に襲い掛かったのでしょうか」
そんな多少部屋の空気が淀んだところで、ずっと気まずそうだったアレクが口を開いた。
なお、アリスの視線は今もアレクを見つめている。
「あー、それはアレね……アリスを起動させてから私が貴方の悪口を言ってたから、自発的に行動しちゃったみたい。
ごめんなさいね、嫉妬よ嫉妬。私より後に夫になったのにルーディアとの子供作った貴方に嫉妬してたの。
一発ぶん殴ってやりたい!とか言ったからかな……アリス、私は本気で望んでないから大丈夫よ」
「……把握。アレクサンダー・カールマン・ライバック様をぶん殴る……優先度を下げます」
その言葉にアレクは複雑な心境だった。
多少の納得もあったが、一発ぶん殴ってやりたい!をあんな巨大なハンマーでやられてはたまったものじゃない。
どう見ても人間の子供にしか見えないアリスだが、自動人形ということで融通は効かないのかもしれない。
「…………あれ?」
それはそれとして、アリスの言葉に引っ掛かるものを感じる。
その言い方では、ぶん殴るのを諦めてはいないのではないか……?
アリスの視線はアレクから外れたが、アレクはその疑念が拭えず、この先もアリスに対して警戒し続ける羽目になっていくのだった。
「さて……さぁアリス、この人が貴方のお母様よ」
戦々恐々とするアレクを後目に、シズカはアリスの背に手をあて、ルーディアを指し示した。
その顔には笑みが浮かび、達成感が見てとれた。
「ルーディア、どうかしら?私達の娘……アリスよ。
あの……事後承諾になっちゃったけど……認めて……くれる?」
だがそこで突然、シズカの笑顔が翳った。
勝手な行動をいくつもした自覚もあり、ちゃんとルーディアがアリスを娘として認知してくれるか、心配になったのだ。
不安から視線を彷徨わせていると……気付けばルーディアは立ち上がり、アリスとシズカの前に立っていた。
恐る恐る、シズカはルーディアの顔を見上げた。
そこに浮かんでいたのは、満面の笑みだった。