『氷狼』蛇足編   作:如月SQ

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アリス・グレイラット

 私は、アリス。

 マスターザノバ、個体名ザノバとマスターシズカ……お父様、個体名シズカ・グレイラットに作られた自動人形。

 私が目覚め、私という個を認識した時、マスターザノバとお父様は非常に喜んでおられました。

 お二人に感謝を告げていると、お父様は自身を「お父様」と呼ぶ事を言い付けられました。

 そして、お二人と同等の命令権を「お母様」が有すると設定されました。

 お母様、個体名ルーディア・グレイラット。

 まだ会っておらず設定は完了しておりませんが、私を作成した二人と同等の命令権を与えられるお方。

 お二人とも、お母様をとても慕っておられるようでした。

 

 私が目覚めて聞いた個体名はあともう一人、それが北神三世アレクサンダー・カールマン・ライバックでした。

 お母様はお父様を含めて五人の夫を持っており、一番新しい夫が北神三世という事でした。

 北神三世に対して、お父様は怒っていました。

 

『新入りの癖にルーディアを孕ませてるなんて、忌々しい妬ましい……羨ましい!いつかぶっ飛ばしてやるわ!……ふふふ、でももう私にはアリスがいる……うふふふふ……私とルーディアの可愛い可愛い愛娘……』

 

 怒りながらも、私を抱き締め頭を撫でてくださいました。

 なので私はお父様に喜んで貰うために、北神三世をぶっ飛ばす事にしたのでした。

 ……残念ながら私の力不足でその願いは叶いませんでしたが。

 お父様にもやめてと言われてしまった為に、北神三世をぶっ飛ばす命令は保留となりました。

 ですが、いずれはあのお顔に槌を叩き込んで差し上げたいと思います。

 

 ただ心配だったのは命令ではないことをしてしまったことで、私が廃棄されてしまうのではないか、ということです。

 お父様はそんなことしないと思いますが、未だに面識がないお母様がどう考え、答えを出すかは情報が足りなく判断が出来ません。

 なので話し合いの席にいた私は、廃棄されるならせめてぶっ飛ばしてやろうと考えて北神三世をじっと見つめていました。

 

 ……その心配は結局、杞憂に終わりましたが。

 

「初めまして、私が貴方のお母さんのルーディアです」

 

ぎゅう

 

「…………初めまして、アリスです」

 

 私の前に立ったお母様は、笑みを浮かべて私を抱き締めてくださいました。

 私に体温はありませんが、温度を感じる機能は搭載されております。

 お母様の温もりが、触れた部位から伝わってきます。

 

「……不思議な感情です。言語化出来ません。

 私が学習した中にはこの感情を表現するものがありません。

 最も近しい感情は喜びと苛立ちだと思われます」

 

 お母様は私の後頭部に手を回し、頬を擦り付けてきます。

 体の身動きが取れませんが、忌避感はありませんでした。

 

「ふふ……大丈夫、これから学んでいけばいい。

 貴方はまだ赤ちゃん、私が色んな事を教えてあげる。

 可愛い可愛い、私とシズカの娘……」

 

 優しい手つきで頭を撫でられます。

 撫でられた部位の温度が突然上昇したように思いましたが、実際には変わっていませんでした。

 

「……不思議です。私の感じる状態と実際の状態に著しい差異が存在します。

 原因の模索……原因不明……私の学習状況からこの状態を解明するのは不可能と判断します。

 お父様、お母様、私はどうしてしまったのでしょうか?」

 

 お二人に問い掛けますが、お二人は微笑むだけです。

 周囲を見回しても、個体名がまだ不明な皆様が微笑むだけでした。

 原因不明のエラーを抱えたままの状態、本来なら好ましくありません。

 すぐにでもお父様かマスターザノバのメンテナンスを受けるべきです。

 ……ですが、私は。

 

「……お母様」

 

「これからよろしくね、アリス」

 

 気付けば私はお母様の背中に手を回し、抱きついていました。

 自分の行動に驚愕しなからも、触れた部位が温かく、柔らかくて……。

 まだこのままでいたいと、そう思ってしまいました。

 その間もお母様が優しい手つきで頭を撫でてくださっていて、とても……心地よく感じていました。

 

 そうして、私はお母様に抱きつき、抱き締めて貰いながら、その温もりの中で自然と視界情報を閉ざしていました。

 視界情報がない中、お母様の体から聞こえてくる鼓動が心地よく、暫くそのまま、温かな時間を過ごしたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕はフィッツ。よろしくね、アリスちゃん」

 

「……本当に人形なんですね。人にしか見えない……。

 あ、僕はロキシーです。よろしくお願いします」

 

「俺はエリオット。ルーディアが受け入れたなら俺から言うことはない。他の子供達とも仲良くしてやってくれ」

 

「……あの、獲物を見る目で見るのはやめていただけませんか……?」

 

 その後、お母様の他の夫の方々と改めて自己紹介をさせていただきました。

 白髪のフィッツお父様。

 青髪のロキシーお父様。

 赤髪のエリオットお父様。

 そして私のお父様、シズカお父様。

 それと北神三世。

 

 いくつか他愛もないお話をさせていただいた後、お母様の子供達とも対面させていただくことになりました。

 ……私のお兄様、お姉様とのご対面です。

 ただ長兄であるアルスお兄様は現在、ラノア魔法大学にて勉学に励まれているそうです。

 なので対面は次の長期休暇の時になるとの事でした。

 

「むふふ、ルーシーお姉様って呼んでいいからね!」

 

 茶髪のルーシーお姉様は大変興奮したご様子でした。

 お母様同様に私を躊躇いなく受け入れてくださり、胸を張って背伸びをし、私の頭を撫でてくださいました。

 なので私もその歓迎に応えて……ん?頭部に違和感です。

 確認すると、動物の耳……犬のような耳が頭につけられていました。

 ……いつの間に……成程、ルーシーお姉様なりの歓迎ということでしょうか。

 私は嬉しく思い、今日はつけたままにしておくことにしました。

 

「……ふむ、合格。これからよろしく」

 

 続いてララお姉様はいきなり私の胸部を掴み、揉み始めました。

 そうして満足したご様子で頷き、声を荒げるロキシーお父様から逃げるように、真っ白い毛並みの犬、レオ様に跨がり逃げていきました。

 私の胸部はお母様程豊満ではありませんし、あまり膨らんで作られておりませんが、ルーシーお姉様のお眼鏡には叶ったご様子でした。

 

 そして……緑髪のジークハルトお兄様。

 左右には青髪のリリお姉様とクリスティーナお姉様が手を繋いで立っていました。

 最初はただ普通にご挨拶をしたのです。

 

「アリスといいます。これからあなた方の妹になります。よろしくお願いいたします」

 

「ほぇー」

 

「あぅ……」

 

 リリお姉様はぼんやりと、クリスティーナお姉様は涙目でそれぞれ見上げてきました。

 あまりご理解していないご様子でした。

 

 そして、続いて言葉を発したジークハルトお兄様。

 その言葉に、私に正体不明の衝撃が走りました。

 

「じゃあ、これからはアリスもぼくがまもるね!」

 

 よろしくね!そう言って笑みを浮かべるジークハルトお兄様の姿は、とても輝いて見えました。

 計り知れない喜びの感情が私を満たしていきます。

 その時に私は感じたのです。

 私が、アリスが、今こうして存在している理由を。

 アリスの存在理由を感じたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリスはついて来なくても良かったのに」

 

「いいえ、アリスの居場所はジークハルトお兄様のいる場所です。何処までもついていきます。身の回りのお世話はお任せください」

 

「……ありがとう、アリス」

 

 アリスは、自動人形(オートマタ)アリス・グレイラット。

 この世で最も幸運で、幸せで、恵まれて、満ち足りた、自動人形(オートマタ)です。

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