『アルス・グレイラット』
ルーディアの子であるアルスは、エリオットとの初めての行為で出来た、初めての子供である。
父親譲りの赤髪を揺らし、鍛練に励む日々を送っているのだが、彼は今悩んでいる事があった。
それは、先日の戦いにおいて、誕生日プレゼントをいくつも消失してしまった事だった。
「…………はぁ」
アルスの手には洗っても取れない程の血の跡がついたコートとマフラー……コートには穴まで空いている。
更には父親から貰った剣は折れ、オルステッドから貰ったブローチも砕け……。
「何より、アイシャ姉からのプレゼントのペンダントが……」
首に下げる為の紐だけとなってしまっているペンダントを、アルスは悲しげに見つめる。
目を覚ました時には既にその赤茶色の石のついたそれは跡形もなく、気付いた時には酷く肩を落とした。
「……多分身代わりにになってくれたんだろうけど」
あの時、アルスは胸を大剣で貫かれ、致命傷を負った。
仮に生きていたとしても、出血で間も無く死ぬ、そんな状態だった。
不意にその時の恐怖がぶり返し、アルスは身を震わせた。
実際の所アルスの予想通り、アイシャからのプレゼントは致命傷を一度だけ引き受ける、そんな魔法のかかった物だった。
だが、それだけではあの負傷は肩代わり仕切れなかった。
そこでアルスを助けたのは、オルステッドの用意したブローチ。
一時的な守護魔獣の召喚魔法が刻まれていて、起動するとその守護魔獣が現れて振りかかる災いをはね除ける、そんなアイテムだった。
故に装着者のピンチに起動し、その命を守り、傷を癒した。
だが、自動発動ではあるが、タイムラグがある為に召喚迄に装着者が即死してしまえば効果はない。
その時間を、アイシャのペンダントがアルスの命を繋ぎ、ギリギリで稼いでいたのだ。
どちらが無くとも、アルスの命はなかっただろう。
「アイシャ姉にも、母様にも泣かれちゃったし……白父様と青父様には怒られて……」
アルスには無茶をしてしまった自覚はある。
けれど同時に、同じ場面に遭遇したら同じ事をしてしまう確信が、アルスにはあった。
それは後に、助けた女の子が親を伴ってお礼を言いに来てくれた事で、更に強くなっていた。
顔を真っ赤にして花を渡してくれた女の子の頭を撫で、アルスは心が満たされるのを感じていた。
「アルス君、君の行いは尊ぶべき、素晴らしいものです。
君に剣を教えてる一人の剣士として、誇りに思います。
ただ、一人の大人としては……子供である君には自分の命をもっと大事にして貰いたいですね」
自分の不甲斐なさを棚上げして申し訳ないですけどね、とアレクは苦笑していた。
それはそれとして、ダメにしてしまった剣は、後で見繕うとも約束してくれた。
「例え勝てなくても、大事なものを守る為に強大な敵に立ち向かわなければいけない時は来るもんだ。
その歳で経験するとは思わなかったけどな。
……アルス、俺はお前が息子で誇らしいよ。
俺も、もっと強く、お前が自慢出来る父親にならないとな」
エリオットは穏やかに笑い、アルスの頭を撫でた。
アルスは嬉しく思いながらその手の温もりを感じていた。
「お前の行動に恥ずべき事は何もない。胸をはれ。
……だが、生きてて良かった……あまり、家族を悲しませるな 」
強く抱き締めながら、ギレーヌは泣きそうな顔でアルスに語った。
アルスは幼い頃に何度も世話して貰った記憶が甦り、目を瞑って受け入れていた。
「プレゼントがダメになったからと怒るような奴は誰もいない……っつーか、役目を果たしたんだから上等だと思うんだが、自分が納得出来ねえんだろ?
なら自己満足でもなんでもいいから、アイシャになにか贈ってみたらどうだ?
どんなもんでも喜ぶとは思うが……そうだな、髪飾りなんかどうだ?
金?お祖父ちゃんが立て替えといてやるよ。いつか返しにきな」
パウロは、髪飾りを買うには少し多いくらいの金額を手渡す。
それをキリッとした顔で受け取り、口を引き結んで、アルスは髪飾りを買いに行くのだった。
「アイシャ姉!」
「んー?どしたのアルス君」
「これ、プレゼント。いつも、ありがとう!」
「わっ……嬉しいな、開けていい?」
「勿論!」
「わぁ……綺麗な髪飾り……真っ赤な、蝶、かな?」
「うん、アイシャ姉に似合うと思って」
「ふふ、じゃあ早速……んしょ、っと……どう?」
「わぁ……アイシャ姉、綺麗……すごい似合ってるよ」
「そ、そう?あはは、ありがとう、アルス君!」
「……アイシャ姉!僕、もっと強くなる!
もっと強くなって、もう心配かけないようにする!
そんでそんで、アイシャ姉の事、ずっと守るから!」
「ほぇっ!?」
「それじゃ!また走ってくる!頑張るから!」
「あ、うん、いってらっしゃい……」
「……もう、ビックリした……。
お姉ちゃんの子供だなぁ、人たらし具合が……」
アルスの後ろ姿を見送るアイシャの顔は、二人の髪色よりも真っ赤に染まっていた。
『ルーシー・グレイラット』
ルーシーは密かに悩んでいた事がある。
それは、自分のパパとママ、どちらとも髪の色が違う事だ。
例えば兄のアルスならば赤パパと同じ、妹のララなら青パパと同じ。
それなのに自分のパパ、白パパと違い自分は白くない……。
ママも真っ白で、なんで自分だけ違うんだろうと、自分の髪が茶色である事に気付いた時から密かに考え続けていた。
ただそれも、自分と同じ白パパの子供、弟のジークが緑色の髪をしていた事で、ママとパパが子供の頃髪色が違っていて、緑色と茶色だった事を教えて貰えた事で疑問は氷解していた。
……していたのだが、それはそれとして、もしかして……と思いながらルーシーはお祖父ちゃん……パウロへと、家族で唯一同じ髪色の人物へと爆弾を投げつけた。
「お祖父ちゃんって、私のパパ?」
ピシリ、空気に亀裂が入る、そんな音がしたような気がした。
冷静になれば、ルーシーを妊娠した頃、ルーディアとパウロは年単位で会っておらず、しかも絶縁状態だった。
どう足掻いても有り得ない話、なのだが……。
「……あなた?どういう、事……?」
ゼニスの目がビカリ、と光る。
ルーシーが冗談では言っていない事を読み取り、更にその頃迷宮に囚われ意識がなかったゼニスは、その可能性を端から否定する事は出来なかった。
「ご、誤解だ!いくら俺でも娘に手を出さねぇよ!なぁ!」
同意を求められたリーリャとギレーヌだが、リハビリを終えて疲れて眠ってしまったルーディアを二人で介抱していて、聞いてもいない。
「る、ルーシーちゃーん……?君のパパはフィッツだろう……?俺はお祖父ちゃんだぞー……?」
「うん、でもママが、お祖父ちゃんと私、同じ髪の色してる家族なんだよ、って」
それはパウロがルーシーにいつも「じいじ違う」と言われていたからこそ、ルーディアが言い聞かせててた事だった。
だが、聞きようによっては……。
「パウロ?」
「ひっ」
ドスの効いたゼニスの声が響き……その部屋には二人だけが残される事となる。
原因となったルーシーはアルスに抱き抱えられながら、頭の上にハテナマークを浮かべていた。
『ララ・グレイラット』
ララはとある計画をたてている。
姉であるルーシーの胸を日常的にまさぐる事で、いずれ育った時に存分に楽しむ計画。
ひいばぁばを見るに、恐らく姉はそこまで育たない。
でもだからこそ、揉む価値がある。
おっぱいに貴賤なし!
姉の平たい胸を隙あらばまさぐる、恍惚とした表情のララの姿がそこにあった。
平和である。