『氷狼』蛇足編   作:如月SQ

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ミグルド族の村

 キシリカキシリスが姿を消した直後、何かされたらしいルーディアへと、皆の視線が集まった。

 けれど当の本人はきょとんとした顔で、自分の体を見下ろしているようだった。

 パチパチと、何度も瞳が瞬き、右手を見て、義手の左手を見て、何かを確かめるようにしきりに動かしていた。

 

「……不調が、消えた」

 

 ポツリと呟かれた言葉。

 その言葉の意味を理解する前に、ルーディアはその場ですくりと立ち上がった。

 

「ルーディア!そんな急に立ち上がったら……?」

 

 先刻までのルーディアであれば、そんな風に動けば直ぐにふらりとバランスを崩していたのだが、今はその兆しすら見せない。

 その体はブレず、思わず支えようとエリオットが伸ばした手にも、まったく負担はない。

 エリオットの手に自らの手を重ねて、ルーディアは穏やかに笑った。

 

「ありがとうエリオット。多分、もう大丈夫」

 

 ぎゅっとエリオットの手を握る手から伝わる力は少し痛いくらいで。

 この一年、いっそ怖いくらいに力の無かった姿を見てきたからか、エリオットにとってはその痛みすら嬉しかった。

 

「そうか、そうか!」

 

 エリオットの顔が喜色に染まる。

 よく理由や理屈はわからない。

 でも目の前で最愛の人が元気になった、ならそれを素直に喜ぶだけで良い。

 エリオットはそう考え……その喜びの感情のままにルーディアを引き寄せてそのまま強く抱き締めたのだった。

 

「エリオット……」

 

ゴキッ

 

「うぶっ」

 

「あわわっ、ごめんエリオット!」

 

 ルーディアの腕がエリオットの背に回され……嫌な音をたてた。

 どうやら、久々で力の制御が上手くいっていないようだった。

 一気に顔を青ざめさせたエリオットに気付き、ルーディアは慌てて治癒魔法を施すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーディア達はミグルド族の村を目指して移動していた。

 

 街での用事はキシリカキシリスが去った事で終えたので、リニアに激励の言葉だけ残し、翌日には町を出る事にしていた。

 夜にはロキシーが旧友に会ってきた、と少し嬉しそうにしており、逆にルーディアとエリオットはエンド傭兵団の拠点予定地から出る事はなかった。

 当時に比べて成長しているし、大丈夫だとは思うが、その時の事を覚えてる輩がいないとも限らない為に、余計な騒ぎは起こさないように……と。

 そうしてリカリスの町での一日を終え、翌日町を後にしたのだった。

 

 その道中、本調子になったルーディアははしゃいだ。

 それはもうはしゃいだ。

 具体的にはアシッドウルフの群れにその身一つで突っ込んで行った。

 確かにルーディアにとっても、エリオットやロキシーにとっても大した相手ではないが、少し前までの様子と妊娠してる事を加味すると、見ている方は堪ったものではない。

 返り血一つ浴びずに戻ってきたルーディアだったが、真剣な顔をしたロキシーに頼むから大人しくして欲しいと、懇願される事となった。

 

 それでも何処か暴れたりない様子でウズウズとしているルーディアの腕にララを抱かせ、エリオットが本気で威嚇し続ける事で魔物を寄り付かせず、見つけた魔族は即座にロキシーの魔法で追い払う事を続け……。

 どうにかルーディアを抑制し続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミグルド族の村では歓待を受けた。

 産まれたばかりの幼い子供であるララは、物珍しいのか大人気だった。

 集まる……見た目は少年少女なミグルド族は、口々に可愛い可愛いとララを愛でるのだった。

 そんなミグルド族の方々の()も聞こえるルーディアは、自分の愛娘が可愛がられている事にご満悦。

 

「可愛いですよね?自慢な愛娘です!」

 

『大人しくて良い子ねー。可愛い』

 

『お母さんが大好きみたいだね、可愛い』

 

 ニコニコと愛想よく笑うミグルド族達。

 ただ、見知らぬ顔のミグルド族達に少し驚いたのか、ララはルーディアの胸元にすがり付いた。

 

『ララいないよ、ママ、いないって言ってー!』

 

 隠れたつもりなのだろう、小さな手で自らを隠すララ。

 そんな娘が可愛くて、愛おしくて、ルーディアはララに頬擦りをして愛でた。

 親子のそんな微笑ましいやり取りに、周囲のミグルド族達が小さく声をあげた。

 

「ふふふふ……ごめんなさい、この子緊張しちゃって。まずおじいちゃんとおばあちゃんに挨拶させて下さいね」

 

『あら、邪魔しちゃったの、ごめんなさいね。それにしても可愛い』

 

『良ければ後で抱っこさせて欲しいなー。可愛いし』

 

「この子次第ですけど、また後で顔を見せには来ますね」

 

 朗らかに笑うルーディアの言葉に、周囲のミグルド族達も笑みを返す。

 そうして今度は口々にまたねと伝えながら、ゆっくりとその場を後にしていく。

 そんな、穏やかな、長閑な光景だったが……。

 

「…………なぁ」

 

「そういう種族なので……」

 

 見た目少年少女の集団が笑顔で集まり、何も喋らない……。

 ただただ集まり、ルーディアの抱く子供を見つめている……。

 ルーディアは嬉しそうで、朗らかに会話(?)していたので、悪い事を言ってる訳ではないのだろうが……。

 

「……ちょっと、なぁ」

 

「そういう種族なので……」

 

 ミグルド族の()が聞こえない二人にとって、その輪に入るのは勇気のいる行為だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「孫、かぁ」

 

「ふふふ、ララちゃんって言うの?お祖母ちゃんですよー」

 

 ロキシーの実家にて……。

 ロキシーの両親、ロインとロカリーと再会したルーディアは、ロキシーと結婚した事を改めて告げ、ロキシーとの子であるララを二人に見せた。

 ぺこりと頭を下げて挨拶したララを、ロインは感慨深げに、ロカリーは嬉しそうに、二人とも笑みを浮かべて受け入れたのだった。

 

 ロカリーに抱かれ、その胸の感触を然り気無く楽しんでいるララもご満悦である。

 

『おっぱいに貴賤なし……』

 

 ララはミグルド族特有の、けれど確かにある小さな胸を揉みながら呟く。

 その様子を甘えているのだろうとロカリーは判断し、可愛らしい孫をその胸に受け入れてぎゅうと抱き締めるのだった。

 ……祖母に対して甘える孫……という光景にしては、ララの表情はあまりに邪であった。

 

(……家族以外にするようになったら……折檻かな)

 

 その光景を見て……笑顔のまま密かに思い始めたルーディアの意思を感じたララ。

 その弛んだ表情は突如固まり、ロカリーの胸を揉む手も動きを止めた。

 ルーディアの様子には気付かなかったようで、ロカリーは頭に疑問符を浮かべつつも、愛らしい孫の頭を撫でるのだった。

 

「よくやったな、ロキシー。幸せにするんだぞ?」

 

「はい、言われるまでもありませんよ」

 

 一方で孫が産まれていた事に……ロキシーが結婚していた事に感慨深いものを感じていたロインは、微笑みを浮かべてロキシーへとそう告げた。

 ロキシーも微笑みを返し……その様子にロインは満足げに頷いたのだった。

 

「さて、今日は張り切ってご飯用意しないとね!可愛いお嫁さんと可愛い孫の為にね」

 

 そう意気込んだロカリーはララを解放すると、ゆっくりと立ち上がる。

 

「あ、お義母様、私も手伝いますよ」

 

 ルーディアのそんな殊勝な言葉にロカリーは、首を横に振る。

 お義母様、という響きに笑みを深めて、けれど譲る事なくその申し出を断った。

 

「ゆっくりしてて頂戴。私に皆をもてなさせて欲しいわ」

 

「でも……」

 

「いいからいいから」

 

 食い下がるルーディアを押さえて、ロカリーはその場を後にする。

 その後ろ姿は非常に嬉しそうで……気まずそうだったルーディアの頬は自然と弛んでいた。

 

「じゃあ……ご馳走になります」

 

 そうして、ミグルド族の村で、ルーディア達はゆったりとした時間を過ごすのだった。

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