先週から既にえって思ってましたけど、なんでよりにもよって父の日に……。
スタッフは本当に人の心がわかってますね……。
自分も人の心ないんか?ってよく言われましたけど、本物には負けますねぇ……。
迷宮での思い出……ですか?
ふふん、そりゃ色々ありますよ!
これでも僕は様々な迷宮を攻略した冒険者としてそこそこ有名な自信が……。
……え、ベガリットの転移迷宮の話、ですか……?
……うーん、いや、そう、ですね。
転移迷宮で僕は、パウロさん達の足を引っ張ってしまった自覚があるので、なんとも……。
僕は攻略中に転移罠を踏んでしまって、一時的に孤立してしまったんですよ。
そんな僕を助ける為に、攻略が止まってしまって……。
しかも、救助された後はパーティに『泥沼』が臨時で加入してましたから……僕の活躍は殆どありませんでしたね。
……ええ、『泥沼』は本当に優秀でしたよ。
僕より若いのに、遥かに格上な魔術師でした。
魔法の取捨選択や使い方のセンス、敵に近接されても自衛出来る程の身体能力……。
羨望を……いや、強い嫉妬を抱かざるを得ませんでした。
あれでまだ力を隠してたというんだから、途方もないですよね。
ですが、迷宮攻略に最も貢献していたのは、パウロさんでしたね。
彼のモチベーションは常に高く、素晴らしいリーダーシップを発揮していました。
タルハンドさんやギースさんは過去パーティメンバーだった事もあり息ピッタリだったのはわかりますが、僕や『泥沼』の事もほぼ完璧に活用していましたよ。
勿論、彼自身の剣技の冴えも素晴らしかったです。
迷宮のボスであるヒュドラは……
それでも彼は前に立ち続け……『泥沼』の援護と機転もありましたが、真正面から打ち倒したのです。
……男として、正直憧れちゃいますよねぇ……。
その時、パウロさんと『泥沼』は抜群のコンビネーションを発揮してました。
打ち倒した時……思わず、といった様子で手を打ち付けあった二人は……その時は知りませんでしたが、本当の兄弟のように無邪気な笑顔だったと思います。
……まぁ、『泥沼』の顔はあまり見えませんでしたけど。
雰囲気が、そんな感じで。ええ。
パウロさんはその時、ルディに胸を張って再会出来るように、と張り切ってましたよ。
迷宮内でそれが空回りする事もなく……本当に立派でした。
その後、あんな事があって……。
……ルディ、本当にあの時の傷は大丈夫でしたか?
なんの、って。僕が刺した傷ですよ。
この辺りをこう、ぐりぐりって……。
んっ、違います、お誘いじゃないです。
というか今日はもう出ませんよ、さっきで絞り尽くしたじゃないですか……。
それにしてもパウロさん、迷宮攻略の時には既に強かったですが、ルディと仲直りしてからは飛躍的に強くなりましたよね……。
失礼ですが、人間種があの歳からあそこまで強くなるとは思いませんでした。
ええ、凄いです……愛、なんですかね。
……むぅ、でも!ルディへの愛なら、僕だって負けてませんよ!
ルディの為にこれからも色んな事を学び続けて、研鑽を怠らず、ルディの先生として恥ずかしくないように……。
……え、ルディ、あの、目が怖……。
あっ、無理です無理です、今日はもう出ないですって!
たす、たすけてー!フィッツー!エリオットー!シズカー!
だ、だれかっあっ。
あ―――っ!
ルディが、光のない目で此方を見つめる。
身体中に夥しい火傷を負って、四肢を喪って。
リーリャが頭から血を流して倒れていて。
ノルンとアイシャが口から青い粘体を吐き出して倒れて。
ゼニスが……俺の目の前で砕け散って……。
そして俺も……あの、ヒュドラに体を噛み千切られて―――――。
「ッ!」
そこで、急速に意識が浮上した。
右手で思わず額に触れば、ぬるりとした感触がする。
「ふぅーっ……夢か……」
悪夢を見るのは久し振りだ。
家族を捜索していた頃……フィットア領捜索団を率いていた頃ぶりか。
あの頃は本当に夢見が悪かった……。
家族にもう会えないんじゃないか。
もう皆生きてないんじゃないかと、ずっと不安だった。
「……だんなさま……」
大きく息を吐いていると、不意にそんな声が聞こえてきた。
左のほうを見れば、リーリャが俺の左腕を枕にして寝息をたてている。
あどけなく笑みを浮かべる姿に、頬が弛む。
そんな中で、リーリャがアイシャを連れて合流してくれた時、本当に安心したんだ。
俺のバカさ加減のせいでルディに愛想尽かされて、にも関わらずルディは家族を見つけて、助けてくれた。
「んむ……」
見下ろせば俺の胸にすがり付いたままのゼニスが身動ぎをした。
その頭を優しく撫でてやれば、眠りながらも嬉しそうに笑ってくれる。
だからこそ、残る家族のゼニスは俺の手で助けたかった。
あの時ビタに寄生されてる中でも、それは間違いなく自分の意思でやると決めた事だと断言出来る。
……ただ、正直に言って、ルーデウスがいなきゃ攻略は無理だった。
業腹だがな。
「んー……」
くすぐったさに右を見れば、至近距離にギレーヌの姿がある。
首に手を回されていて、ゴロゴロと喉が鳴る音が響いていた。
そんな俺がまごついている間、ルディの心を癒してくれていたのはギレーヌだ。
ルディの側で、側にいられない俺らの代わりに親をやって、守ってくれた……。
感謝してもしきれねえよ。
そんないい女が俺を求めてくれた……断れっかって話だよな。
まぁ……その時はまだゼニスがちゃんと目覚めてなかった頃だったから、悪いことしたとは思ってるが。
三人の妻の温もりを感じて、ついでに柔らかさも感じて……悪夢の余韻なんざ吹っ飛んじまった。
あの頃の俺の願いが叶った……いや、それ以上の未来を手に入れたんだ。
幸せ過ぎて、悪夢になんざビビってられねえよな。
それぞれ静かに寝息をたてる妻達を順々に撫でていき、胸から込み上げる愛しさに自然と笑みが浮かんだ。
まだ外は薄暗い……。
今日は仕事も何もない日だ。
もう少しこの温もりと愛しさに埋もれて……眠るとしよう。
俺はゆっくりと目を閉じて、微睡みに身を任せるのだった。
ドスンッ!
「ごふっ!?」
「おとーさん!ごはんニャー!」
「お父様、朝ご飯ですミャ」
不意の衝撃に本日二度目の覚醒を果たす。
腹のところを見れば、まだまだちまっこい猫耳の二人、ギレーヌとの子供であるシャロンとシャルルがニャーミャーと鳴いていた。
左右を見渡せば妻達は誰も隣にはいなかった。
ちと、寝過ごしたか。
「あ゛ー……了解……」
ぐでーっと脱力してからのー……。
「起きるぞー!」
ガバッ!
「ニャー!」
「ミャー!」
一気に体を起き上がらせて、二人を抱き抱える!
耳をピンとたてて驚く二人だが、直ぐに尻尾をたててうねうねと揺らし、俺に頬を擦り寄せてくる。
可愛い奴等め……よしよし。
抱えながら首元を擽ってやれば、嬉しそうに喉を鳴らしてくる。
そんな二人を肩に乗せてベッドから降りれば、足元には白い影。
そこには、目を潤ませたシャーレがいて、ふるふると震えながら、俺に小さな両手を伸ばしていた。
「よー、おはようさん」
「ミー……おとう……おはよう……」
誰に似たんだか臆病な子だが、それもまた可愛い。
驚かせないようにゆっくりと、肩の二人も落とさないようにシャーレへと手を伸ばす。
脇に手を入れてひょいと抱き上げて、背中を優しく擦ってやる。
それでもプルプルと震えて涙目になるんだから、困ったもんだぜ。
まだまだ子供とはいえ三人も乗せれば流石にある程度重いが……まったく苦にはならねぇ。
俺は思わず笑みを溢し、三人を乗せながらゆっくりと歩きだす。
幸せの重みを噛み締めながら。