異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~   作:東郷しのぶ

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4話 猫族の村

 僕と猫族少女は、お互いの名前を教え合った

 

『はじめまして。僕は、サブローと言いますニャ』

『アタシはミーアにゃ!』

 

 ミーアちゃんって名前なのか。最初は人間に近いタイプの獣人で無いことに衝撃を受けてしまったが、落ち着いて見てみると、ホントに可愛い子だ。

 もちろん、〝猫っぽい〟可愛さという意味だが。

 

 小柄な身体は俊敏そうで活力に満ちているし、黒い毛並みも今はちょっとボサボサ気味だけど、洗ったらツヤツヤになりそう。

 

 そして彼女の1番の特徴は、何にも増して瞳の色だ。金色に輝いており、神秘的な印象を受ける。

 ちなみに真美探知機能で観察した際も、容姿はあたかも日本の女子中学生ながら、虹彩は黄金色だった。猫耳や尻尾以上に人間離れしていて、そのあまりにも異質な美しさに〝ああ、異世界の少女なんだなぁ〟と感慨を覚えたものだ。

 

 近寄ってみても、あまりケモノっぽい臭いがしない。

 

 あ~、そうそう。猫と犬、どちらもペットとして飼っていた友だちが居たけど「猫は犬より臭わないんだよ。体臭が殆どしないんだ」って言ってたな。

 

 いや。むしろ、僕の嗅覚を微かに刺激するのは……。

 気のせいか? ミーアちゃんから、人間の女の子が身にまとっている〝甘い匂い〟が漂ってくるような……。

 

 香りに誘われて、先程の彼女の姿が脳内に蘇る。真美(しんび)探知(たんち)機能(きのう)によって現出した、つかの間の幻影。

 ショートボブの黒髪に、黄金の瞳。しなやかな手足。そして猫耳と尻尾。

 

 あれが、この少女の〝真の美しさ〟なのか。

 何と言う、説得力!

 

 もし真美探知の能力が無かったら、ミーアちゃん……ミーアに親近感を覚えるのに、もっと時間が掛かっていたに違いない。

 

「さて、カニを運ぶとするか」

 

 僕は巨大蟹(ジャイアントキャンサー)の胴体を持ち上げた。

 

『ふぉぉぉぉぉ。スゴイのニャー。サブローは力持ちだニャー』

 ミーアはカニの胴体を頭上高く掲げる僕を見て、感心しきりだ。

 

 ふっふっふ。レッドによる、地獄の体力特訓を受けたからね。筋力には少しばかり自信があるのさ! 

 でも、カニの胴体を両手で頭の上に掲げたまま歩くのって、なんか格好悪いな。けれど無駄に大きい物体だから小脇に抱える訳にはいかないし、引きずったらせっかくの食材が傷んでしまう。

 

 アレコレ思い悩んでいる僕に、ミーアは『待っててニャ』と告げるや否や、すぐ近くに生えていた大樹にスルスルと登っていってしまった。

 何をしているんだろうと眺めていると、アッと言う間にスルスルと下りてくる。手に、幾重にも巻かれた蔦を持っていた。

 どうやら樹の上にあった蔦を、装備していた小刀で何本も切り取ってきたらしい。

 

『これで、巨大蟹を縛って村まで持っていくニャ!』

 

 カニを素手で運ぼうとした僕に対して、道具を使用しての運搬を提案する猫族のミーア。

 なんだか、人間として負けた気分。

 

 カニの胴体を蔦で縛り上げて背中に負っていると、ミーアはいつの間にか僕が戦闘で切り離したカニの脚をかき集めてきて、蔦でグルグル巻きにしている。

 

『脚も、持って行くニョですか?』

『もちろんだニャ! 巨大蟹は脚の部分の引き締まった中身が特に美味しいのニャ! サブローは知らないのかニャ?』

 

 ミーアが金色の瞳を(すが)めながら僕を見た。

〝コイツ、可哀そうなヤツにゃ〟みたいな雰囲気を、彼女から感じる。

 

 悪かったな! 日本(あっち)ではカニは高級食材で、滅多に食べられないんだよ! 

 カニの美味しい部分や食べ方なんて、知るもんか!

 

 ついでながら、僕がカニの食材と聞いて真っ先に連想するのは、カニ缶だ。

 

 カニの脚の梱包巻きはミーアが背負った。僕が持とうとすると、『これくらいはアタシが運ぶニャ』とミーアが譲らないので、代わりに運搬の邪魔になる弓と矢筒を持ってあげることにする。

 

 2人でテクテクと村の方角へ歩いていると、ミーアが僕という人間の存在が珍しいからか、盛んに質問をしてくる。

 

 弱ったな。ウェステニラの人間たちがどんな暮らしをしているかなんて、詳しくは知らないぞ。ブルー先生の訓練で知識としては教えてもらったけど、実感は無いので、自信を持って答えられない。

 それに僕自身のことについても、あんまり探られると思わぬところでボロが出る可能性もある。

 

 よし、ここは〝秘技! 訊かれて困る前にコッチから訊いてみよう〟作戦発動だ。

 

 ミーアとは少し仲良くなれたっぽいし、砕け気味の口調で尋ねてみる。

『ところでミーア。猫神様って、どんな神様なのかニャ?』

『サブローは、猫神様に興味があるにょ?』

 

 ミーアの声が弾んだ。

 人間である僕が、自分たち猫族の神様に関心を示してくれることが嬉しいのだろう。

 

『猫神様は、素晴らしい神様ニャン! 眠っているときに夢の中で猫神様に会うと、目覚めたあとに必ず良いことがあるのニャ』

『へぇ、どんにゃこと?』

『右手を掲げた猫神様に会ったら、猟で獲物をいっぱい捕まえられるようになるのニャ!』

『猫神様は、いつも右手を上げた姿で現れるのかニャ?』

 

 僕がそう尋ねると、ミーアは首を横に振る。

 

『左手を掲げてるときもあるニャン。左手を上げてる猫神様に会ったら、キノコや木の実をたくさん見付けられるようになるニャ』

 

 ふ~む。猫神様って日本の招き猫みたいな存在かと思ってたけど、少し違うようだ。招き猫は、何より〝金運〟ってイメージだからな。

 でも、ミーアの話だと猫神様は金貨を抱えてなかったっけ? 金は自分が独り占めってヤツか。

 

 ……イヤイヤ、神様がそんなに心が狭い訳ないよね。

 猫族にはあまり貨幣経済が浸透してないっぽいし、今は狩猟採集の神様でも、おそらく猫族がもっとお金に興味を持つようになったら、金運の神様にバージョンアップするんだろう。

 

『それで、猫神様は常に右手か左手を上げている格好で夢に出てくるのかニャ?』

『違うのニャ。両手を下ろしてる場合も、あるそうニャン』

『そしたら、何が起きるのかニャ?』

『何にも起こらないニャ』

 

 え!? さっき、ミーアは〝猫神様に会ったら必ず良いことがある〟って言ってなかったか?

 

『アタシはまだ、猫神様を夢に見たことが無いニャ。1度で良いから、お会いしてみたいニャン』

 

 ミーアがうな垂れ気味だ。

 僕はミーアに元気になって欲しくて、慌てて話を先に進める。

 

『そ、それじゃ右手と左手、どっちも上げた猫神様を夢に見たら何が起こるのかニャ? 獲物も木の実も、手に入れ放題にニャるとか?』

 

 それとも両手を掲げてるんだから、片手より2倍幸運に恵まれるとかかな。

 

『お手上げ状態になるニャ』

『ハ!?』

『お手上げ状態』

 

 お手上げ状態って、アレだよね。追い詰められた挙げ句〝もう降参しますから許してください。ヘルプ・ミー〟ってヤツだよね。

 猫神様って本当に幸運の神様なの? まさか、邪神じゃないよね!?

 

 

 30分ほど歩くと伐採された木が目立つようになり、やがて森が開けている場所に出た。どうやら猫族の村に着いたようだ。

 周辺を簡単な柵で囲っており、門らしき出入り口を2人の猫族が守っている。1人は弓を、もう1人は槍を持っていた。

 

 ミーア以外の猫族獣人に会って分かったのだが、男の猫族と女の猫族では明らかに体つきが違う。

 ミーアの身体からは猫特有の弾力性に富んだ柔らかさを感じるのに、2人の門番の身体は筋肉質でガッシリしている。身長も僕と同じくらいの高さだ。体毛は1人が茶褐色で、1人が黄色。猫と言うよりも、虎か豹の獣人のように感じる。

 

 門番2人は、近づいてくる僕らを見て困惑していた。

 

 うん、気持ちは理解できるよ。もしミーアだけだったら『良く帰ってきたニャ』と歓迎するだろうし、僕だけだったら『人間! 貴様は何ものニャ!』と警戒するだろう。それが人間の僕と猫族のミーアが仲良く連れ立って歩いており、しかも各々(おのおの)がカニの胴体と脚を背負っている。

 どう反応したら良いのか、判断がつかないに違いない。

 

『あー、ミーア。無事に帰ってきて何よりだニャ』

 弓を持った茶褐色の猫族男性が、ミーアに声を掛けてきた。

 

 やはり男の猫族獣人も、ニャ及びニャン言葉を話すのか。

 別に悪いことでは無いけど、誰も得しないことだけは確かだね。

 

『ただいまだニャ!』

『また、勝手に村を抜け出して狩りに行っていたのかニャ。リルカが心配していたぞニャン』

『アタシは、もう14にゃのに。ママは、いつまでもアタシを子供扱いするニャ』

 

 ミーアが不満そうに頬を膨らませる。ミーアの母親の名前はリルカさんと言うのか。

 

『それで、こっちの人間は何なんニャ?』

 

 黄色の猫族男性が、鋭い眼で僕を睨む。さすがに持っている槍の穂先を向けるまでには至らないが、あまり友好的な態度では無い。

 

 さて、どうしようか? 素っ気なく振る舞って『無礼な人間ニャ!』と打ち掛かってくる猫族男性を制圧し、『な、なんて強い人間ニャン。惚れたニャ!』と掌を返させる展開が一瞬頭をよぎったけど、無論そんなことはしない。惚れられても、困る。

 僕はノーマルで、安全第一主義なのだ。

 

 ミーアに〝猫族の村に迷惑は掛けない〟と約束したしね。

 

『僕は、サブローと言いますニャン。猫族の方にお会い出来て光栄ですニャ』

 

 腰を折り曲げて、手を揉みつつヘコヘコする。

 

『サブロー、カッコ悪いニャ……』

 ミーアが隣で呆れたように呟いているが、無視する。

 

 子供のミーアは分かっていない! トラブルを回避するためには、下手に出るのが最も有効な方法なんだぞ。

 

『お、お前。人間のくせに、猫族の言葉が喋れるのかニャ!?』と茶猫が驚く。

『もちろんですニャ。仲良くしたい方々の言語をマスターするのは常識ですニャ』

 

 胸を張る。

 まぁ、僕が猫族の言葉を話せるのは、ブルー先生の特訓のおかげなのだが。

 

『そうニャのニャン! サブローは良い人間ニャ。この巨大蟹も、サブローがくれたのニャ』

 ミーアがフォローしてくれる。

 

 ミーアはホントに良い子だね!

 

『そうなのかニャン』『美味そうだニャ!』

 

 カニの話題が出た途端に、門番たちの友好度が急上昇した。

 やはり、お土産には美味しい食べ物が1番のようだ。もしくは、石鹸みたいな消耗品。高価な花瓶や皿を貰っても、置き場所の確保が……箱入り状態で戸棚の奥へ押し込んで、そのまま家人全員がスッカリ忘れてしまいかねない。

 

『それじゃ、サブローを村の中に入れても良いのニャね』

 

 ミーアがそう言うと、門番は2人揃って困った顔になる。

 

『いや、安易に見知らにゅ人間を村の中に入れる訳にはいかんのニャ』

『サブローは、もうアタシの知り合いニャ! それにサブローには、猫神様に誓いを立ててもらっているから安心にゃん』

 ミーアが門番たちに言い返す。

 

『にゃんと、猫神様の!』『猫神様に誓ってもらったのなら、心配無用だニャ』

 

 門番たちの対応が一変した。

 猫神様の御威光が凄すぎて、少しビビる。

 

『まず、最初に長老と会ってもらうニャ』

 そう述べたミーアは、門番の1人である茶褐色の猫族男性とともに、僕を長老のもとへ案内してくれる。

 

 ミーアに、すぐに家族に会わなくて良いのかと訊くと『後で行くニャ』と言葉を濁した。

 おそらく村を勝手に抜け出したために親に怒られることが分かっているから、問題を先延ばしにしているんだろう。

 

 猫族の村はそれなりに広い。世帯数は、3ケタに達しているのではなかろうか? 

 所々に建っている家は草や藁めいた物に覆われており、どれも平屋だ。外観は正直みすぼらしいが、僕の感想なんて大きなお世話だよね。

 

 住居の住みやすさと外観は、あまり関係が無い。例えば湿気の多い日本だと洞穴暮らしは最悪だけど、沙漠のような乾燥地帯での洞穴暮らしはけっこう快適で人気があるそうだ。

 

 僕らが歩く光景を、村の猫族たちが大人子供関係なく、物見高く遠巻きに眺めている。

 

『なんでミーアが人間と歩いているニャ?』

『にゃんか、しょぼくれた人間ニャン』

(にゃに)を背負ってるニャ?』

『カニにゃ』『巨大蟹(ジャイアントキャンサー)ニャ!』

『美味しそうニャン~。カ~ニ~み~そ~』

『ひょっとして、ミーアが巨大蟹を狩ったのかニャ?』

『ミーア、凄いニャ!』

『これからは、カニ狩り(カニハンター)ミーアと呼ぶニャ!』

 

 なんか猫族たちの間で、人間である僕よりも既にお亡くなりになっているカニのほうが、注目度が高いんですけど? 

 あと、〝カニハンター・ミーア〟なんて呼び名は、ミーアもイヤだと思います。




 少しは異世界ものっぽくなってきたでしょうか。
 話題はカニ缶や招き猫ですが……。
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