異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~   作:東郷しのぶ

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 後半は、ミーア視点です。
※他者視点は3人称になります。


11話 一本角熊との戦い

 現在のところ、狩り訓練団における僕の相場は最低値だ。

 

 茶と黄の大人猫族は『サブローには、ガッカリだニャ』という眼で僕を見ているし、少年少女猫族は『意外に使えねーヤツだニャ』『人間は、やっぱり信用ならないニャ』『カニハンターには相応しくないニャン』などとコソコソ話している。 

 いや、僕としてもカニハンターの称号返上は願ったり叶ったりなんですけどね!

 

 白猫少女が言う。

『水を突然ぶっかけてくるなんて、酷いニャ! これからは〝カニハンターサブロー〟と呼ぶのは止めて、〝ぶっかけサブロー〟と名付けることにするニャ!』

 

 そのあだ名だけは勘弁して! 僕の社会的生命が終わってしまう!

 落ち込む僕を、ただ1人ミーアだけは懸命に慰めてくれる。

 

『大丈夫ニャ。サブローは、やれば出来る子なんニャ』

『サブローの良さは、アタシがちゃんと分かってるニャ』

『たとえ村の(みんにゃ)がサブローを嫌っても、アタシだけはサブローの味方にゃん』

 

 うう、ミーアの気持ちは嬉しい。嬉しいんだが、慰めるならもっと言葉を選んで欲しい。

 ミーアが僕を励まそうと語りかけてくるたびに、僕のライフポイントがガンガン下がるんですけど。

 

 狩りの訓練は、仕掛けた罠の見廻りなど地味な作業が主だった。

 罠の点検や修理、周辺の見張りなどばかりやらされている少年少女組が少し退屈そうにしている。

 

『あの、こんニャに大勢で移動してたら、獲物が逃げてしまうんじゃニャいですか?』

 

 僕が大人の黄猫に尋ねると、彼は『普段は指導員1人に訓練生2人で行動するんだがニャ、ダガルさんに「西のほうの懸念が(にゃ)くなるまで、大勢で固まって動くようニ」と言われたんだニャン。まぁ、罠での捕獲も大切な狩りニョやり方だから、今日は基本の勉強をさせているわけだニャ』と教えてくれた。

 

 ヒュッと音がしたので振り向くと、サビ猫少年が宙に向けて矢を放っていた。

 

『こら! 何を勝手ニャことをしてるんだニャ!』と叱った茶猫に、サビ猫少年が『だって、樹の上にポケットバードが見えたんだニャ』と言い返している。

 

 ポケットバード? 何だろうと首を傾げていると、ミーアが『あれニャ』と別の樹の枝にとまっている鳥を指さした。

 

 でっかいハトみたいな鳥が2羽、並んでいる。

 あれが、ポケットバードに違いない。

 

 よし、ここは名誉挽回だ! 

 僕はコッソリ懐に忍ばせていた石つぶてを2つ取りだし、目にもとまらぬ速さで続けざまにポケットバードへ投げつけた。

 

 石つぶてによる打撃を受けて、2羽のポケットバードはたまらず落下してしまう。

 

 猫族が驚きの眼で僕を見つめる中、すぐに鳥が落ちた場所へ駆けていったミーアが『やったニャ、サブロー! ポケットバードを捕まえたニャ』と歓声を上げた。

 

 戻ってきたミーアの両手には、それぞれ太った鳥がぶら下げられている。

 フクフクとした、食いでがありそうな鳥だ。何故か、お腹の部分に袋がある。

 

 あ、だからポケットバードと呼ぶのか。

 

 少年少女猫族5人が、僕とミーアを取り囲んだ。5人の眼はミーアが持っているポケットバードにくぎ付けだ。

 

『もちろん、ポケットバードのお裾分けはもらえるんニャよね』

『サブローは、やると思ってたニャ』

『気前が良いのは、イイことニャン』

『これからは、兄貴と呼ばせてくださいニャ』

『ポケットバード・ハンター――略して〝ポケバド・ハンター〟にゃん』

 

 凄い(てのひら)(がえ)しである。清々(すがすが)しいほどの豹変振りだ。

 これこそ、猫族が生き残るための知恵なのか。

 

『サブローは石投げも得意ニャのか。棒を使ってダガルさんとも互角に渡り合っていたし、底が知れんヤツだニャ』

 茶猫が感心してくれる。

 

 ブラック、貴方の教えは正しかったよ。石は役に立つ武器だった!

 

 猫族たちが、ミーアが手に持っているポケットバードを見ながらワイワイ騒いでいる。それを微笑ましい気持ちで眺めていた僕の背筋に、不意に寒気が走った。

 

 森の空気が変わっている!

 

『何か変だニャ!』

 叫んで注意を促すと、『皆、周囲を警戒するニャン!』と黄猫も即応して身構える。

 

 見まわすと、どの猫族も全身の毛を逆立てていた。

 さすがに狩りを生活手段としている部族だ。反応が早い。

 

 バキバキバキッ! と木々をへし折りつつ現れたのは、全長4メートルはあろうかと言う巨大な熊だった。

 赤い眼球、口元からはみ出す鋭い牙、容易に獲物を切り裂くであろう鉤型(かぎがた)の爪、そして額に生えた一本角。

 初見の僕でも分かる。熊族なんかじゃない。普通の熊とも違う。明らかに、凶悪なモンスターだ。

 

『くそ! よりによって、一本角熊(ユニコーンベア)ニャのかよ!』

 黄猫が悪態を吐いた。

 

〝ユニコーンの(ベア)さん〟って、とってもメルヘンなネーミングなのに、名前と容姿が全然一致していないよ! 

 今からでも、ブラッディベアに改名しませんか?

 

 黄猫や茶猫の焦り具合を見ると、どうやら可愛い名前とは裏腹に手強いモンスターらしい。

 

『子供たちは下がるニャ! サブローは年少組を守ってやってくれニャン!』

 そう言いつつ茶猫が一本角熊に向けて矢を放つが、太い腕でアッサリ払われてしまった。黄猫はスキを見付けて山刀で切りつけようとしている。しかし、接近自体が困難なようだ。

 

 僕はどうするべきだろう? 大人組が時間を稼いでいる間に、少年少女組を連れて逃げるか? いや、一本角熊の強さを見る限り、茶猫と黄猫だけでは敵わないに違いない。

 あの2人がやられてしまう。

 

『みんにゃ、アタシたちも戦うニャ!』

 ミーアが叫びながら、一本角熊へ向かって弓を引き絞る。立ちすくんでいた年少組もミーアの声で我に返ったのか、それぞれ武器を構えた。

 皆、僕より年下だろうに勇敢な子たちだ。

 

『馬鹿!! お前たちは逃げるニャ! ダガルさんでも居なきゃ、一本角熊には勝てないニャ』

 

 年少組を必死に逃がそうとする茶猫へ、ミーアが自信満々に告げる。

 

『大丈夫ニャ! サブローが居るニャ!』

 

 茶猫と黄猫は朝方の僕とダガルさんの模擬戦を思い出したのか、ハッとした顔で僕を見た。年少組の目にも、僕への期待がこもっているのを感じる。

 

 ミーアの声援もあるし、ここはいっちょ頑張りますか! 

〝ぶっかけサブロー〟なんてあだ名は、早めに撤回して欲しいしね。

 

 僕は山刀を抜いて、片手でブランとぶら下げる。そのまま、スタスタと熊に近づいていく。

 

『お、おい……』『しっ! サブローに任せるニャン』

 背後より、僕を案ずる猫族とそれをたしなめるミーアの声が聞こえてくるが、今は無視させてもらう。

 

 ふぅ。

 

「戦う前に、一呼吸」がブラックの教えだ。

 

 ブラックは常々〝戦いの際は、身体がどれほどの興奮状態になっても、脳みそは冷静じゃなきゃいけない〟って言ってたっけ。

 

 まずは、一本角熊を落ち着いて観察。

 

 なんかこの熊、さっきから立ち上がりっぱなしだし、2足歩行っぽいんだよな。巨大な体格を後ろ足だけで支えてるけど、そこが狙い目のような気がする。

 

 無防備に近づく僕に対し、一本角熊は即座にリアクションを起こさない。少しばかり、呆気に取られている様子。

 が、さすがに熊との距離が5メートルを切ると僕を明確な敵と認識したのか、猛烈なうなり声を上げて襲いかかってきた。

 

 集中。

 モンスター熊の動きが、遅く見える。あたかも、スロー再生されている動画の如く。

 

 余裕で対処可能。しかし、油断はしない。

 

 前足の爪による攻撃をかいくぐり、山刀で熊の後足に斬りつける。毛皮が頑丈なため大きな傷にはならないが、それでもノーダメージとはいかないだろう。

 

 案の定、熊がぐらつく。体勢を崩した熊は前屈みになり、顔面が低くなった。

 

 良い標的だ。

 熊の鼻筋に真っ向から刀を叩きつける。

 

「ギャ――!」

 吠え猛る、一本角熊。返り血がプシャッと僕の顔に掛かった。

 

 一本角熊はメチャクチャに暴れるが、傷を負う前と比べて隙だらけだ。

 一旦離れた僕は、風魔法を発動した。

 

「《風刃(ウィンドカッター)》」

 

 狙い目は首筋と脇腹だ。

 太い血管の切断に成功したらしく、熊より大量の血があふれ出す。

 

 勝てないと知った熊は逃げだそうとするが、許さない。

 動きが鈍くなっている一本角熊に、僕は山刀でトドメを刺した。

 

 

 サブローと一本角熊との戦闘は、一瞬で終わってしまった。

 

 一本角熊(ユニコーンベア)は森に生息するモンスターの中でも特に凶暴なことで知られている。もちろん、猫族は狩りの対象にしていない。

 

 個体数が少ないのが幸いだが、万が一森の中に猫族が1人で居るときに襲われたら、ダガルのような手練れでもない限り、生存は絶望的だ。

 そんな凶悪なモンスターを、サブローはあっさり片付けてしまった。

 

『終わりましたニャ』

 そう述べつつ振り返ったサブローは、戦闘の後であるにもかかわらず、高揚しているようには見えない。特に得意気になることもなく、いつもどおりのノンキな顔をしていた。

 自分がどれほど凄いことをやってのけたのか、全然気付いていないらしい。

 

『サブロー……』

 

 ミーアにとって、サブローは初対面から訳の分からない存在だった。

 

 巨大蟹(ジャイアントキャンサー)をやっつけて、ミーアにプレゼントしてくれた人間。

 猫族の言葉を流暢に話す人間。

 おっぱいの数を訊いてくる人間。

 魔法が使えて、武器を取っても父のダガルと互角に戦える人間。

 

 知れば知るほど、サブローという人間の謎は深まるばかりだ。

 

 サブローと一緒だと、何故かミーアは嬉しくなって、無性にはしゃぎたくなってしまう――

 サブローといると、ドキドキするのだ。

 

 出会って、まだたったの2日。

 なのに、ミーアはこれからもサブローの側に居たい、その姿をずっと見ていたい――――そう思うようになっていた。




 一本角熊はあくまでモンスターであって、地球の熊さんとは別物です。
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