異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~   作:東郷しのぶ

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13話 チュシャーさんの忠告

 狩り訓練団の一行が一本角熊(ユニコーンベア)を土産に凱旋すると、猫族の村は大騒ぎになった。

 

 猫族の皆さんのフィーバー振りが凄い。昨日の巨大蟹(ジャイアントキャンサー)持参の時とは、比べものにならないほどの歓声だ。

 熊に圧倒的な差を付けられたカニを、チョットばかり哀れに思ってしまう。

 

 長老やチュシャーさんはもちろん、自分の家で仮眠を取っていたダガルさんもわざわざ起きてきて、一本角熊の遺骸に見入っていた。

 

 茶猫や黄猫はコトの詳細を長老らに報告し、白猫少女ら年少組が僕の活躍を村人たちにやや大袈裟に吹聴(ふいちょう)して回る。

 おかげさまで、村人の僕への好意は増すばかり。

 

『サブローは狩りの達人にゃ』

カニ狩り(カニハンター)からランクアップして、熊殺し(ベアキラー)になったのニャ』

『ひょっとして、サブローは猫神様の御使いじゃニャかろ~か』

 

 あだ名は……うん、もう〝ぶっかけ〟関連じゃなきゃ、どうでも良ーよ。

 あと、猫神様の御使いになったら語尾が「ネコガミ」に強制変換されそうなので、遠慮させていただきます。

 

『サブローは狩りの道具も上手に扱えて、しかも魔法も使えるんニャ』

『少し怖いニャ』

『サブローは猫神様に誓いを立ててくれてるんだから、大丈夫ニャ』

 

 少し気になるのは猫族たちの会話の中に、僕への懸念が垣間(かいま)()えること。

 軽い畏怖といった感じで恐れや嫌悪じゃないけど、念のためこれからの行動はなるべく慎重にするようにしよう。

 

 長老やチュシャーさん、ダガルさんが変わらぬ態度で接してくれたことにはホッとした。

 

『ニャッハッハッハ。サブローは、たいした男だニャ』

 ダガルさんが豪快に笑いながら、僕の背中をバンバン叩く。

 

 ダガルさん、痛いです。

 

 騒ぎが一通り落ち着いたのを見計らって、僕とチュシャーさんは一本角熊より得られる利益をどのように分けあうか話しあった。

 チュシャーさんは人間語に堪能なので、僕としても言葉のキャッチボールがスムーズに進んで助かる。

 

 最初僕が〝狩り訓練団のメンバーみんなで仕留めたのだから、利益も9等分しよう〟と提案したところ、チュシャーさんは苦笑した。

 

「一本角熊を倒したのは実質サブロー1人であるとの報告は受けています。サブローが申し出るなら、獲物から得られる上がりを全てサブローにお渡ししても構いません」

「でも、訓練団の皆が村までの運搬もやってくれたし」

 

 少女組はサボってたけどね! 

 

 帰途の際に『手伝わニャくて良いの?』と僕の両腕にぶら下がりっぱなしの白猫と灰猫に尋ねたら、『男は働くニャ』『女は男を励ますのが仕事だニャ』『それで男は、やる気を出すニャ』『そして稼ぎは2等分にゃ』との返事。

 

〝女って怖い〟と実感してしまった。

 これって白猫少女と灰猫少女の個人的意見だよね? お願い、猫神様! そうだと仰って!

 

「訓練団にも分け前を」との僕の返答を聞いた、チュシャーさんの猫の瞳が細められる。

 その目は、僕を褒めているようでもあり、叱っているようでもあった。〝年下の男の子を見るお姉さん〟的な雰囲気が、今のチュシャーさんからは感じられる。

 

「サブローは良い人間ですね。サブローの育った環境がよほど恵まれていたのか、師の教えが良かったのか……。『一本角熊の脅威より猫族の子供たちを救ってやったんだから、熊から得られる利益の他に、更に追加の報酬を寄越せ』と述べても構わないのに」

「そんな酷いことを言う訳が……」

「別に、酷くなんてありません。サブローが冒険者だったら、ごく普通の要求です」

 

 僕の反論をチュシャーさんは、ピシャリと抑える。

 

「サブロー。個人的にはサブローの人柄は大変好ましいですし、猫族の1人として子供たちを助けてくれたことに深く感謝しています。けれど、これよりサブローが猫族の村を出て旅をしていくのなら、その甘さが場合によっては命取りになってしまうかもしれません。自分の働きに相応しい要求は、どんな時でも遠慮無くするべきです。多少強引と思えるくらいが丁度良いでしょう。そうで無ければ、欲深者(よくぶかもの)が溢れているこの世界で生きてはいけませんよ?」

 

 チュシャーさんの忠告が身に染みる。

 

 確かに元の世界でも日本人特有のナイーブさは海外から舐められる原因だと、お父さんが新聞を読みながら良く怒っていたな。

 まして、ここは異世界ウェステニラ。モンスターが闊歩する世界で、人々は必死に生きている。僕も自分の身は、自分1人で守っていかなくちゃならない。

 

 ただ謙虚にしていても、つけこまれてしまうだけだろう。

 

 でも、黙っていれば僕から思う存分搾り取れるだろうに、わざわざ助言をしてくれるチュシャーさんこそ、僕なんかよりはるかに優しい人だ。

 

「分かりました。アドバイス、ありがとうございます」

 そう言って頭を下げると、チュシャーさんは「ホントに分かってるのかしら」と呆れたように呟きつつ、それでも微笑んでくれた。

 

 僕とチュシャーさんの交渉の結果、一本角熊の肉と内臓はそのまま猫族の村に寄付し、角・爪・毛皮に関しては換金して得た利益を僕と猫族で折半することになった。

 

「まったく、サブローは欲が無い……けれど、性格はそう簡単に変わらないわね。それに村の経理担当としては大助かりだわ。ありがとう、サブロー」

 

 チュシャーさんからの感謝の言葉に、「いえ、僕としても充分稼がせてもらいましたので」と返事する。

 何しろ一本角熊の角は金貨10枚、毛皮は金貨5枚程度で商人に引き取ってもらえると言うのだ。

 爪も、それなりの値打ち物らしい。

 

 ウェステニラの金貨1枚はだいたい日本の10万円に相当すると、ブルー先生の授業で習った。

 一挙に70~80万円程度の収入を得たことなる。

 

「4日後に来る行商人が買い取ってくれるわ。さすがに全額即金払いは無理でしょうけど、金貨数枚と残額分の手形とに交換してくれるはずよ」

「手形は、ナルドットの街に行けば、お金と引き換えてもらえるんですよね」

「もちろんよ」

 

 ナルドットの街へは行商人と一緒に行く予定なので、何の問題も無い。一文無しを脱する目途が立って、心底安心した。

 

〝金が無いのはクビが無いのと同じ〟ってセリフがあるけど、手元金ゼロは本当にシャレにならないよね!

 

 あと、訓練団のメンバーにも小遣い金が特別支給されることになった。チュシャーさんに一生懸命頼み込んで、彼らへ渡す額を少しばかりアップしてもらう。

 

〝取り分が少なかったら、白猫と灰猫が文句を言いに来そう〟なんて思っちゃいないよ!

 

 

 その日の晩、猫族の村では熊鍋パーティーが開かれた。

 

『昨日はカニ鍋パーティーで、今日は熊鍋パーティー。2日連続鍋パーティーとか、信じられないニャ!』と猫族の子供たちが楽しげに騒いでいる。

 

 あれ? 昨晩の宴会は〝サブロー、良く来たにゃパーティー〟じゃなかったの? どうして、カニ鍋パーティーになってんだ。

 やっぱ猫族皆さんにとっての僕の価値って、カニ以下なんじゃ……いや、疑心暗鬼はいけないね。

 

 ミーアのご機嫌斜めは、日が暮れても続いている。熊鍋パーティーの間もミーアは意図的に僕を避けていた。

 

 何故ミーアが怒っているのか分からないから、迂闊(うかつ)に近づけない。ミーアとは仲良しになれたと感じていただけに、ミーアに嫌われたのかと思うとショックだ。

 

 落ち込んだ僕は熊鍋パーティーより離脱し、ゲストハウスで寝ることにした。

 

 よし、明日こそミーアと仲直りしよう! と決意したら、少しだけ心が安まった。

 寝台に身体を横たえ、眠りに入る。

 

 

 ……ゴソゴソと音がする。

 真夜中であるにもかかわらず、何者かが無断でゲストハウスに入ってきたようだ。

 

 猫族には、家の戸に鍵を掛ける習慣は無い。けれど他人の家に入るなら、外から一声かけて家主の許可を得るのが普通だ。

 

 目を覚ました僕は、どんな事態にも対応できるように体勢を整える。

 特訓地獄における不眠不休の生活のせいで、僕の眠りは常に浅いのだ。疲労回復には問題ありだが、寝込みを襲われる心配が減るのは有り難い。

 

 侵入者の正体を見極めようと、目をこらした。

 暗闇の中に金色の瞳が2つ浮かびあがる。

 

『サブロー、話があるニャ』

 

 夜の訪問者は、ミーアだった。




「金が無いのはクビが無いのと同じ」は近松作「冥土の飛脚」の歌舞伎バージョンから来ているセリフだそうです。身につまされる……(涙)。
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