異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~   作:東郷しのぶ

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 後半はミーア視点です。


16話 ミーア、迷子になる

 ホワイトカガシ討伐隊に参加する猫族20人は、皆ベテランの狩人だ。門前に集結した彼らは、それぞれ弓矢や槍、山刀など使い慣れた得物を手にしている。

 これより強敵との戦いに向かうにもかかわらず誰もが落ち着いており、頼もしい限りだ。参加メンバーの中で1番ビビっているのは、僕かもしれない。

 

 僕の武器は山刀だ。遠距離攻撃には魔法を使用するつもりなので、弓矢は持たない。

 それから、予備の革鎧を拝借した。金属製の鎧より防御力の点では劣っているものの軽くて動きやすいため、気に入っている。

 

 門の側に立っている木の陰に、1匹の動物がうずくまっていた。

 マルブーだ。

 地球のダチョウが爬虫類化したみたいなヘンテコな姿をしている。森に住む獣人が移動する際にしばしば乗用する生き物だ。猫族の村でも、何匹か飼育している。

 

 ムシャムさんが木陰で休んでいるマルブーに近寄っていって、(いと)おしそうに長めの首を撫でる。

 

『このマルブーで、犬族の村からやってきたのですかワン?』

 尋ねると、ムシャムさんが振り返った。

 

『ああ。コイツが全力を出してくれたから、こんなに早く猫族の村にたどり着くことが出来たんだワン。犬族の村の他のマルブーたちはホワイトカガシの襲撃に怯えて使い物にならなくなったのに、コイツだけは勇敢にも自分と一緒に森に飛び出してくれたんだバウ』

 

 ダガルさんもやってきて、ムシャムさんへ語りかける。

 

『良いマルブーだニャン。ちゃんと、猫族の村で面倒を見ておくから心配するニャ』

『宜しく頼むワン、ダガル。コイツの頑張りのおかげで、猫族の助けを借りることが出来たバウ。しかも、魔法使いがたまたま猫族の村に滞在していて共闘を申し出てくれたバウ。ホワイトカガシに襲われはしたが、まだまだ犬族の運は尽きちゃいない証拠だワン。今日中に、必ずホワイトカガシを倒してみせるワン』

『その意気ニャ。猫神様も犬神様も、この戦いを見守っていてくださるニャ。慢心は禁物だが、必要以上に恐れることは無いニャン』

 

 ダガルさんとムシャムさんがガッシリと握手を交わし、決意を固め合った。

 僕も改めて気を引き締める。

 

 出発前に一度で良いからミーアと話をしておきたかったが、これだけの騒ぎになっても姿を現さない以上、ミーアは多分村の中には居ないのだろう。

 森に出て、何か危ない目に遭っていなければ良いのだけど。

 

 ミーアとの仲直りは、ホワイトカガシを倒して村に戻ってくるまでお預けだな。

 

 

 ミーアは森の中をズンズン歩く。頭に血が上って、自分でもどこへ向かって進んでいるのか良く分からない。

 

 さすがに暗いうちより森に入るような無謀な真似はしなかったものの、夜が明けるやいなや、ミーアは村を飛び出してしまった。

 何か深い考えがあった訳ではない。ともかく、サブローから少しでも遠くの場所へ行きたい一心だった。

 

 ミーアの脳内で、先程の会話の最中にサブローより投げかけられた言葉の数々が何度も反響する。

 

『そもそも、ミーアは本気で村を出たいと思ってるのかニャ?』

『ミーアは猫族にしては体力が無いよね』

『先の見えない現状より逃げ出す理由が、ミーアは欲しいだけなんじゃないのかニャ?』

 

(うるさいニャ、うるさいニャ、うるさいニャ――――!)

 ミーアは心の中で絶叫し、ピタリと立ち止まった。

 

 そして樹木に寄り掛かりつつ、なんとなく空を見上げる。時刻は昼近いのに、頭上から降りそそいでいるはずの木漏れ日がよく見えない。

 涙で、目が霞んでいるためだ。

 

 サブローの言葉は痛かった。心に痛かった。

 

 ミーアにとって、叔母のスナザは幼い頃より憧れの対象だった。

 単身で村から旅立ち、人間や他の種族に交じって冒険者として働いている。それも普段は日雇いの仕事をしながらたまに低級モンスターを狩るような〝名ばかりの冒険者〟では無く、ギルドで高ランクに位置づけられている〝立派な冒険者〟としてだ。

 

〝スナザのようになりたい。スナザのように生きたい〟という願望は、成長するにつれミーアの心の内で強くなるばかりだった。

 

 母親のリルカのことは大好きだし、尊敬もしている。自分と5人の弟妹(ていまい)を大切に育ててくれている母だ。

 けれど「リルカと同じような生き方をしてみたいか?」と問われたら、ミーアは即座に「否」と答えるだろう。自分はリルカの娘だが、同時に村1番の狩人であるダガルの娘であり、冒険者スナザの姪なのだ。

 

 頑張って訓練に励めば、自分もスナザみたいになれるとミーアは信じて疑わなかった。

 

 しかし体質によるものなのか、ミーアは筋力が弱い。腕立て伏せや腹筋運動をしても、すぐにヘタってしまう。

 男の子はもちろん同い年の女の子でさえ、みんなミーアより体力がある。

 だから敏捷さやテクニックを磨いて、自分の弱点をカバーしようとした。

 

 実際ミーアは近くの的なら弓矢の狙いを外すことは無いし、小刀の使い方も巧みだ。狩りでの成績は、猫族少年少女の中でずば抜けている。

 もっとも、獲物の運搬などで仲間の足を引っ張ってしまうことも多いが……。

 

 けれど、ダガルはミーアのことを認めてくれない。

 

 ミーアは、知っている。

 スナザが顔を見せるたびにダガルはその勝手な行動を怒っているが、本当はスナザの活躍をダガルは喜んでいるし誇ってもいる。そんなダガルがミーアの冒険者志望を頑なに認めようとしないのは、ミーアの力量に不安を抱いているためだ。

 

 ミーアは悔しかった。もどかしかった。

 

 そんな時、ミーアはサブローに出会った。

 

 ミーアから見たサブローは、まさに夢の具現だった。

 武術の腕前は一流で、しかも魔法使い。どんな手強いモンスターも、やすやすと倒してしまう。冒険者になれば、成功は確約されたも同然だ。

 

〝この人と一緒に行けたら!〟

 ミーアは思った。旅の間に戦いの訓練に付き合ってくれるだろうし、人間の言葉も教えてくれるに違いない。「サブローと一緒に行く」と言えばリルカも安心するはずだし、ダガルも許してくれそうだ。

 それほどサブローの力は圧倒的だった。

 

 サブローの指摘通り、ミーアにも打算はあったのだ。

 

 でも、それだけじゃ無い。

 出会って僅か2日足らずのうちに、ミーアはサブローに対し特別な感情を抱くようになった。

 

 別に夫婦(つがい)になりたいとか、そんなんじゃ無い。

 それにサブローは人間で、ミーアは猫族の獣人だ。そもそも、互いに恋愛対象にはなり得ない。

 

 しかし種族の垣根を越えて、ミーアはサブローに惹かれた。

 

 あんなに強いのに何故か自信なさげで、いつもとぼけたことを口にして、人間なのに獣人に対する偏った見方を少しもしないサブロー。

 

 サブローと一緒に居たかった。

 サブローと一緒に村を出たかった。

 サブローと一緒に旅をしたかった。

 サブローとの出会いは〝運命〟なのだと思った。

 

(それニャのに、それニャのに、それニャのに)

 

『ミーアを連れてはいけないニャ』――サブローのあの言葉を思い出すたびに、ミーアの胸はキリキリ痛み出す。耳を塞いで、しゃがみ込んでしまいたくなる。

 

(にゃん)でサブローは断ったのかニャ?)

 ミーアは、再び歩きだしながら考える。

 

(アタシが弱いからかニャ? 足手まといだからかニャ?)

 

 だったらこれから一生懸命訓練して強くなり、人間語もマスターすると誓えば、サブローは連れていってくれるのだろうか?

 

(それとも、アタシ以外に気に入った猫族の子が居るのかニャ?)

 

 一本角熊退治の帰り道、ブリンデとモッケはズッとサブローの両腕にぶら下がっていた。

 その光景を想起するたび、ミーアはムカムカしてくる。

 

 やけに甘ったるい態度だった、ブリンデとモッケ。そんな2人を払いのけようとはせずに、くっついてくるのを寛容に受け入れていたサブロー。なんか、妙にウキウキそわそわしてて……。

 3人の後ろを歩きつつ、ミーアは何度も「ブリンデ! モッケ! 2人とも、サブローから離れるニャ!」と叫び出しそうになるのを必死に我慢した。

 

 ブリンデとモッケ以外に、サブローがチュシャーと仲良さげなのもミーアには腹立たしい。

 これは、さすがに理不尽な怒りであることはミーアにも分かっている。

 

 でも、イヤなものはイヤなのだ。

 

(それとも……それとも……)

 

 ミーアは最悪の結論にたどり着く。

 

(サブローは、ただアタシという存在に興味が無いだけニャのかな?)

 

 それは、ミーアにとって怖ろしい想像だった。

 だが、どうしてもその考えを頭から振り払えない。

 

〝サブローは、ミーアが単に邪魔なので同行を断った〟――そうなのだろうか?

 

(そんなはず無いニャ!)

 

 ミーアは、出会ってからのサブローの言動を思い返す。

 少なくともサブローはミーアを気に掛けてくれてたし、嫌ってもいなかった。サブローが本心を隠して上手に演技できる人物とも思えない。

 

(けど、アタシはさっきサブローに我が侭放題を言ってしまったのニャ。アタシの方から「もうサブローの顔なんか見たくないニャ」って叫んじゃったニャン。これまでは嫌っていなくても、さっきのことで嫌われてしまったかもしれないニャ。愛想をつかされたに違いないニャ)

 

 ――サブローに嫌われてしまった。

 

 サブローが自分に背を向ける。

 手を伸ばしても届かない。

 走っても走っても追いつけない。

 無言のまま、闇の中へ消えていくサブローの背中――

 

 ミーアは頭がフラフラするのを感じた。

 

 そう言えば村を飛び出して以降歩きづめで、水を一滴も飲んでいない。メチャクチャに進んだせいで、いま自分がどこに居るのかも分からない。

 

(マズいニャ。迷子になってしまったニャ)

 

「森の中で道に迷うのはとても危険ニャ」「自分が森のどこに居るのかは、常に把握しておくようにするニャン」と日頃ダガルより、口が酸っぱくなるほど注意されていたというのに。

 

(どうするニャ)

 取りあえず周囲の状況を再確認しようと、ミーアは集中力を取り戻す。

 

 意識をハッキリさせたミーアの目の前に、まるで行き止まりを告げるかのような巨大な樹木が立っていた。

 

(ファァァァァ。こんな大きな樹は、初めて見るニャ)

 

 幹の太さがミーアの身長2人分くらいはありそうな巨木だ。

 桁外れの存在感に、ミーアは圧倒されてしまう。

 

 その時、異変が起きた。

 

 神秘的なほど太く、チョットしたことでは微動だにしないであろう巨木の幹が、ミシミシと音をたてのだ。

 パラパラと木の葉がミーアの周辺に舞い落ちる。

 

(え? こんなにでっかい樹が、にゃんで揺れてるニョ?)

 不思議に思ったミーアは、樹の上のほうへと視線をずらしていった。

 

(にゃに? あれ)

 

 樹の高いところに、白くて太い綱のようなものが幾重にも巻き付いている。

 こんな巨木をグルグル巻きに出来るなんて、とてつもなく長くて太い綱だとミーアが考えているさなか、その綱がズルリと動いた。

 

 ミーアの全身の毛がそそり立つ。

(綱なんかじゃないニャ。あれは――)

 

 綱の先端部分が、露わになる。

 信じられないほど巨大な蛇の頭だった。チロチロと、口先より赤い舌を出し入れしている。

 

 蛇の頭が樹の根元を見下ろした。

 白蛇の緑色の目と、ミーアの黄金の瞳が向かい合う。

 

 とっさの事態に動けないミーア目がけて、巨大蛇が落下してきた。

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