異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~   作:東郷しのぶ

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17話 白い大蛇の鎌首

 ムシャムさんの案内に従って、僕と猫族の狩人20人は森の中を進む。

 目的地は、現在ホワイトカガシが居座っている場所だ。

 

 歩きつつ、巨大蛇であるホワイトカガシに有効な魔法攻撃について考える。

 僕が〝風と水の魔法使い〟を称している以上、ホワイトカガシにダメージを与えやすい火系統の魔法は使用できない。ならば《風刃(ウィンドカッター)》のような切断系の風魔法が良いんじゃないかと思うのだが……犬族のムシャムさんの話によると、ホワイトカガシの表面を覆っている皮は異常に分厚い上に滑らかで、下手に斬りつけてもスベったり(はじ)かれたりして、あまり効果が無いらしい。

 

 つい数刻前にホワイトカガシと戦った経験があるだけに、ムシャムさんの発言には重みある。

 

 犬族と猫族が立案した作戦は、日常彼らが森の蛇退治に使っている毒を矢の先端や槍の穂先に塗りつけて、ホワイトカガシに撃ち込もうというものだった。これなら、浅傷(あさで)でもホワイトカガシへ確実にダメージを負わせることが出来る。

 毒の影響によりホワイトカガシが弱ったところで、一斉に頭部を攻撃するのだ。その時に用いようと、槍や山刀以外にも蛇の頭をぶっ叩くための大槌(おおつち)を持ってきている。

 

 う~ん。

 ムシャムさんの話を聞くと、土系統の魔法である《岩石落下(ロックフォール)》とか、闇系統の魔法である《精力吸収(エナジーアブソーブ)》なんかも、ホワイトカガシには有効っぽいんだよね。

 

 つくづく考えもなしに〝風と水の魔法使い〟を名乗ったのは、失敗だった。

 

 でも、風と水の魔法だって捨てたもんじゃ無い。

 近距離から放てば切断系の風魔法もそれなりに効きそうだし、水系統の変種である氷魔法には《氷槍(アイスジャベリン)》がある。空気中の水分を冷却しつつ集めて鋭い針状の物体を構成し、敵へと撃ち放つ魔法だ。

 蛇は変温動物だし、体温低下も狙えて一石二鳥ではなかろうか?

 

『ムシャムさん。ホワイトカガシは、毒蛇ではないんですよねバウ?』

『ああ。正直ホワイトカガシが毒蛇だったら、我々の手に負えなかったかもしれないワン。しかし、毒が無くてもホワイトカガシが怖ろしいモンスターであることには変わりないバウ。大人の獣人を丸ごと呑み込んでしまう、大きな口。鋭い2本の牙。胴体を軽く左右に動かすだけで、数人の獣人が吹っ飛ばされてしまうバウ。巻き付かれでもしたら、アッと言う間に全身の骨が砕かれて、お陀仏だワン』

 

 僕とムシャムさんが話しているうちに、一行はホワイトカガシの占拠場所に到着した。

 先着していた犬族村の狩人たちが、僕たち猫族村からの応援を見て一様に喜色を浮かべる。

 

 ホワイトカガシ討伐のために集まった犬族と猫族の狩人の数は、総計で50名を超えているだろう。

 敵に感知されないようにある程度離れた距離にいるのだが、さすがにこれだけの大人数になると悟られてしまうかもしれない。

 

 攻撃開始は早めのほうが良い。

 僕とムシャムさん、ダガルさんの3人が、ホワイトカガシの様子を確かめに先行することにした。

 

 巨大蛇のモンスターへ接近するにつれ、僕の中の緊張感が徐々に高まっていく。

 

 ホワイトカガシを遠目に見張っていた犬族の2人の男性のところまで、やってくる。1人が振り返り僕たちに現状報告をしていると、もう1人が突然焦ったような声を発した。

 

『おい、なんだワン? 猫族の子がホワイトカガシの側に寄ってくバウ。マズいワン! あの子、ホワイトカガシの存在に気が付いてないワン』

 

〝猫族の子〟という発言内容に驚いた僕は、思わず身を乗り出してホワイトカガシの居る方向へ目を()らした。

 

 とてつもなく巨大な樹木の上のほうの幹に、これまた信じられないほどの巨体を有する蛇の怪物が絡みついている。

 遠くより眺めると、それはまるで目印用の白いロープが木に無造作に巻き付けられているかのような、奇妙な光景だった。

 

 そして、その樹の側にボンヤリとたたずむ猫族の少女――黒い毛並みに、黄金の瞳。

 

 ――ミーアだった。

 

 心臓が止まるかと思った。

 

 なんで、ここにミーアが!?

 大声を上げようとして、危うく思いとどまる。ホワイトカガシを下手に刺激しちゃマズい。

 

 隣でガリッと大きな音がした。ダガルさんが歯を強く噛みしめて、声を押し殺したのだ。

 

 どうする? どうする? 心を静めろ。パニックになるな!

 頭の中がグルグルして、考えがまとまらない。僕はミーアとケンカ別れしたままだ。まだ仲直りをしていない。ここで、ミーアに何かあったら、僕は……。

 

 僕は――

 

 気付くと、駆け出していた。無言で全力疾走する。巨大樹の影響で、ここら一帯は草木がまばらな状態になっているので走りやすい。

 ともかく、いざという時にミーアを助け出せる距離まで近づかないと――

 

 ミーアが、ふと上を見る。ホワイトカガシの存在を認識したのか、硬直した。目が見開かれ、尻尾の毛が逆立ってボワッ太くなる。

 

 次の瞬間、巨大蛇が凄い勢いで樹の幹を伝いながら滑り落ちてきた。口を大きく開き、ミーアを丸呑みにするつもりだ。

 

 ダメだ、間に合わない!

 

「《氷槍(アイスジャベリン)》!!」

 

 無我夢中で魔法を放つ。

 発射された水魔法は空気中で氷の槍に変質し、今にもミーアに襲いかかろうとしていたホワイトカガシの頭部に命中した。

 

 大きなダメージにはならなかったみたいだが、意外な攻撃を受けて驚いたホワイトカガシが頭をこちらへ向ける。

 よし! 蛇の関心がミーアから逸れた!

 

 尾の部分がまだ樹の幹に巻き付いたままだったのが幸いしたのか、巨大蛇の落下がミーアの頭上で止まった。

 

『ウォォォォォォ!』

 すぐ背後で、野太い声がする。ダガルさんが僕を追ってきたようだ。いや、飛び出したタイミングは、ほぼ同じだったかもしれない。

 

『ミーア!』

 

 僕も絶叫する。

 ホワイトカガシの注意を、少しでもコチラに引きつけなければ。

 

 鎌首をもたげた白色大蛇は僕らとミーア、どちらを襲うべきか迷ったようだが、急速に接近してくる僕とダガルさんを無視できなくなったのだろう。尾を幹に絡めて巨体を支えつつ、滑空しながら僕へ攻撃を仕掛けてきた。

 

 目前に迫る、上下に開かれた大きな口。呑み込まれたらアウトだし、あの鋭い牙で貫かれても多分即死するに違いない。

 とっさに蛇の頭を避けて大地に転がると、間髪入れずに立ち上がり、未だ呆然と突っ立っているミーアのところへ走り寄る。

 

 ようやく、ミーアのもとにたどり着いた。

 

『サ、サブローにゃ!?』

 

 混乱状態のミーアを、思わず力の限り抱きしめてしまった。

 ドッドッドッと、鼓動が聞こえる。自分の心臓の音なのか、ミーアの心臓の音なのか分からない。

 

『ニャアァァァァァァ!』

 耳をつんざくようなダガルさんの叫びに、我に返る。

 

 振り向くと、山刀を振り回しながらダガルさんがホワイトカガシと戦っているのが見えた。更に、ムシャムさんと1人の犬族が矢を放ってダガルさんに加勢している。

 もう1人の見張り役は、討伐隊を呼びにいったのだろう。

 

 いきなりの戦闘状況突入だ。

 猫族と犬族の狩人たちがやってくるまで、時間を稼がないと。

 

 ミーアの手を引き、大樹の周辺より急いで離れる。そして、ミーアに出来るだけここから遠くへ行くように言い聞かせた。

 

『で、でも、パパが!』

『大丈夫ニャ! 今より僕とダガルさん、それから猫族と犬族の(みんにゃ)であの蛇野郎をやっつけるんニャ。ミーアは、安全なところまで逃げるんニャ』

『でも、でも!』

 

 気が動転しているミーアを落ち着かせようと、僕は腰を屈めてミーアの目をジッと見つめた。

 ミーアの背の高さは僕の胸に届かない。普段は元気が溢れているから、なかなか気付かないけど、ミーアはこうして見るとホントに小っちゃいな。

 

 ――そして黄金の瞳。

 

〝ああ。ミーアの瞳は、とてもキレイだ〟なんて、場違いな感想を抱く。

 

『ミーア、僕は強いんニャ。僕もダガルさんも傷一つ無く勝ってみせるから、ミーアは安心して待っていてくれニャ』

『本当に? 本当にニャ? サブローもパパも、大丈夫なんニャね』

 

 すがり付くように尋ねてくるミーアのホッペタをギュッと両手で挟んで、グニグニする。

 

『もちろんニャ。約束するニャン』

 

 ミーアも自分がこの場に居残ると僕らの迷惑になることを、察したらしい。〝あの巨大蛇は何なのか〟〝どうして、僕やダガルさんがこの場に居るのか〟など訊きたい疑問はいくらでもあるだろうに、何も僕に問おうとはしなかった。

 

 ミーアはシッカリと頷いて、僕を見つめ返す。

『頑張ってニャ。サブロー』

 

 ミーアの声援を受け、僕は自分を奮い立たせた。




 次回、vs.ホワイトカガシ。
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