異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~   作:東郷しのぶ

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22話 行商に来た男たち

『アタシは一緒には行けないニャ』

 

 思いも掛けぬミーアからの拒絶に、僕は戸惑う。

 

『……どうしてニャン?』

『アタシはズッと村を出たい、スナザ叔母さんのようにゃ冒険者になりたいって思ってきたニャン。けど、分かったんニャ。アタシはまだまだ弱くて、力不足だって。今、サブローに付いていっても足を引っ張ってしまうだけニャン』

『僕は、そんなこと気にしないニャ!』

『優しいサブローは気にしニャくても、アタシがそれじゃイヤなんニャ。サブローにおんぶにだっこの冒険者生活になっちゃうかもしれニャいんだよ? そんにゃの、〝立派な冒険者〟とは呼べないニャ……』

 

 ミーアの葛藤を突きつけられて、言葉に詰まってしまった。

 肩を落とす僕を見て、ミーアが(はかな)げに笑う。

 

『アタシよりサブローが落ち込むなんて、変だニャ。大丈夫ニャ、サブロー。アタシは冒険者になるのを諦めた訳じゃないニャン。パパに武芸や狩りの訓練をいっぱいつけてもらって、チュシャーさんに人間の言葉を習って、一人前の冒険者になれると思ったら、必ず村を出るニャ。サブローに「待ってて欲しい」ニャんて言えないけど、後を追いかけて、いつかは追いついてみせるニャン』

 そう述べて、ミーアは今度は自分から僕の手を握ってきた。

 

『ミーア……』

 

 ミーアが村を出るとき僕がどこに居るかなんて、予想もつかない。

 

 ナルドットの街はもちろんのこと、ひょっとしたらベスナーク王国にも居ないかもしれない。だから「何があっても、待ってる」などといった無責任な約束は出来ないのだ。

 

 僕は無言のまま、ミーアの手を強く握り返した。

 ミーアにしてやれることは、それだけだった。

 

 

 翌朝、僕は行商人の一団と顔合わせするためにゲストハウスを訪れた。

 

 僕の素性に関しては、事前にチュシャーさんを通して彼らに説明を行っている。〝たまたま猫族の村に立ち寄った、旅の武芸者。一本角熊(ユニコ-ンベア)退治を手伝ったが、その際に負傷し、村で手当てを受けている〟という設定だ。

 

「おお。貴方が、サブローくんですか。思っていたよりお若い方で驚きました」

 僕を出迎えてくれたのは理知的な眼差しをした中年男性で、名前はマコルさん。いぶし銀のベテラン商人といった感じの人だ。

 

 行商人の一団は、リーダーのマコルさん(40代)、副リーダーのキクサさん(30代)、身体が大きくて力も強そうなモナムさん(20代)、見習いで僕と同世代のバンヤルくん(10代)の4人編成となっている。

 

 クールな雰囲気のキクサさんが、やや冷たい口調で訊いてくる。

「ケガをしたと聞いたが、俺たちは今日出発するんだぞ。一緒に行けるのか?」

「ええ、もう回復しました。療養に集中するため、昨日はご挨拶できなくてスミマセンでした」

 

 僕は今朝目覚めたあとに、一通り身体を動かして調子を確かめた。

 多少脱力感やぎこちなさは残っているものの、特に支障は感じなかった。余程の強敵で無い限り、モンスターとの戦闘も可能だろう。

 

「それは良かった。サブローくんは一本角熊退治でもなかなかの活躍だったと、猫族の方より伺っています。これからの道中、頼りにしてますよ」

 

 リーダーのマコルさんがそう言って僕の肩に手を置くと、バンヤルくんが反発した。

 

「マコル様。俺たちはみんな身体を鍛えてますし、何より戦い慣れているモナムさんが居るんだから、こんなヤツ、同行させなくても!」

「バンヤル。失敬なこと、言うな」

 

 モナムさんが、バンヤルくんを(たしな)める。

 大柄なモナムさんはあまり商人っぽく無い風貌で、寡黙な武人といった印象だ。腰に、剣も提げている。

 

「いえいえ。僕は皆さんに付いて行かせてもらう身ですから。オマケと思ってもらえれば」

 

 バンヤルくんは、血気盛んなお年頃らしい。数日間はともに旅をするんだし、揉めたくないため、ここは下手に出ておこう。

 ……いや、〝血気盛んなお年頃〟って、僕も同年代だよね? 時間の観念が無い特訓地獄で過酷な生活を続けたせいか、自分が何歳なのか時々分からなくなるな。

 

 ところで、それより気になる点がある。

 行商人の皆さんが、ことごとく男性であることだ。

 

 憤慨を覚える。

 嘆かわしい! 何たる手抜き、何たる怠慢だ! 

 

 ここはお約束として、女性の商人が登場するシーンでは無いのか? 

 

 10代の格別美少女では無くても〝ちょっと可愛い系〟の女の子が、何故か怪しげな関西弁を喋りながら強引に商品の売り込みをしてくる展開を期待していたのに。

 

 例えば…………。

「お兄さん。これ、ウチの店の自慢の商品なんやで~。お安うしとくから()うてや~」

「え~。僕はお金、持ってないしな~」

「嘘を吐いたら、あきまへん。ウチの目は誤魔化されまへんで~。お兄さんからは、臨時収入のニオイがプンプンしますねん」

「どうして気付かれた!?」

「こう見えて、ウチは凄腕の商人やさかい」

「負けた!」

「勝った!」

「負けたから、まけてね」

「お兄さん、上手いこと言うな~」……………………みたいな。

 

 しかし、現実はヤロー4人。別に、行商人の皆さんに不満がある訳じゃ無いんですけど。

 

 眼前の男性たちに、女性の商人は居ないのか、それとなく探りを入れてみる。

 

「もちろん街で商売をしている女性は大勢居ますが、わざわざ獣人の森に来るような物好きな女の方は存じ上げませんね」とマコルさん。

「獣人の森への行商は、危険な上に稼ぎも少ないからな」とキクサさん。

「…………」とサイレントモードのモナムさん。

「なに、くっだらね~こと訊いてんだよ。人間の女なんかが、俺たちの行商についてこられる訳ねーだろ」とバンヤルくん。

 

 ん? 引っ掛かる発言がチラホラ。

 

「それなら、なんで皆さんは獣人と商売をしてるんですか?」

 

 苦労が多い上に、実入りが少ないんだよね?

 

「獣人の方々との友好のためです。少しでも、獣人の皆様のお役に立ちたいですからね」と誇らしげな表情をする、マコルさん。笑顔が、慈愛と謙譲の精神に満ちている(ように見える)。

「たくさんの獣人と触れあうためだ」と真面目顔のキクサさん。

「獣人ラブ」と(いか)つい顔をほころばせる、モナムさん。

「んなもん、決まってんだろ! ケモノっ()の可愛い姿を、目にするためだよ。ケモノっ娘と比べたら人間の女なんてカスだよ、カス! あぁ、モフモフたまんね~。耳のピコピコ、尻尾のフリフリ。ハァハァ。考えるだけで俺は、俺はぁぁぁぁ!」と興奮状態のバンヤルくん。

 

 身もだえするバンヤルくんを、先輩方3人が袋だたきにする。

 

「失礼しました、サブローくん。若い者はまだ、本心を上手に隠す(すべ)を身につけていないのです」

 マコルさんが微笑しつつ、慇懃(いんぎん)に僕へ頭を下げた。

 

 うわ! マコルさん。一見爽やか風だけど、もはや犯罪行為の隠蔽(いんぺい)に慣れたギャング団のボスにしか見えないよ! 

 間違いない。この人たちは、ケモナーだ! 〝獣人の村への行商人〟と見せかけた、〝ケモナー様ご一行〟だったのだ。

 

 どうする? チュシャーさんへ通報するか?

 

「サブローくん、誤解しないでください。心配は無用です」

 

 マコルさん、その〝出来る男〟風の笑みは止めて! 背筋が寒くなるから。

 心配なのは、猫族たち獣人の身だけじゃ無い。アンタたちの頭の中身も心配だよ!

 

「我々は獣人の皆様を愛しているからこそ、決して迷惑をお掛けしたりはしません」とマコルさん。

「猫神様を始め、各獣人の神様にも誓いを立てている」とキクサさん。

「ノータッチ。マインドピュア」とモナムさん。

「ああ~。ケモノっ娘とお近づきになりて~な~」と本音丸出しのバンヤルくん。

 

 バンヤルくんは、先輩方3人に再び制裁された。

 

 

 後でこっそり、チュシャーさんに注意を促す。

 猫族の村における庶務・経理担当の赤猫さんは、「承知してはいるんですが、あの人たちが獣人に好意的で融通(ゆうづう)をきかせてくれるのも事実なんですよね~」と難しい顔をしていた。

 

 確かに〝利益をもたらしてくれる友好的な変態〟って、扱いに困る存在だよね。




 次回が、2章の最終話です。
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