異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~   作:東郷しのぶ

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5話 ブルー先生の勉学特訓&イエロー様の魔法特訓

 レッドによる『体力の特訓』の結果、僕は使い古された()れ雑巾のようになってしまった。

 

 腕立てやら背筋やら上下の屈伸運動やら、あらゆる方法で身体をイジめまくった挙げ句、とどめはウサギ跳びグラウンド100周である。

『ウサギ跳びは、身体に良くない』とのスポーツ科学の研究報告は、未だ地獄には届いていないらしい。

 

「取りあえず、今回はここまでだ。あんまり待たせると、ブルーの機嫌が悪くなるからな。次回はもっとハードにするので、楽しみにしていろ」

 レッドはそう言って、ヨレヨレ状態の僕を肩に担ぎあげた。

 

 しばらくボロ布(ぼく)を運んで、どこかの室内へ放り込む。

 

「良く来ましたね。サブロー」

 

 涼やかな声がする。

 床に転がりつつノロノロと顔を上げると、ブルーが教壇のような所に立っていた。ブルーの背後には黒板がある。

 あと、何故かブルーは眼鏡を掛けていた。

 

 あれ? 5人の鬼が揃っていたときは、眼鏡なんか掛けていなかったよね? 

 目が悪いのか、それともキャラ付けのつもりなのか。

 

 ブルーは語り口も紳士的だし、眼鏡を掛ければインテリイメージがアップするとの考えがあるのかもしれない。でもそれなら、眼鏡を掛ける前に、腰巻き一丁の半裸姿をどうにかするべきだと思う。

 現在のままじゃ、良くてインテリ・バーバリアンだ。

 

 ブルーは未だに身体を起こす気力が湧かない僕をヒョイと持ち上げて、教壇の前にただ1つある机とセットになった椅子に座らせてくれた。

 

 僕の中のブルーへの好感度が1ポイントアップする。現在のところ、レッドの好感度はマイナス100ポイントだ。

 ちなみに好感度がプラス100ポイントに達すると、その相手にデレる予定となっている。対象が男の場合、50ポイントが上限の安心設計デレメーターを僕は装備しているのだ。

 

 対象が女の子なら、ポイントアップが2倍になる期間限定サービスもあるよ!

 

「自分が貴方に施すのは『勉学の特訓』です」

 ブルーが眼鏡をスチャッと掛け直しながら、僕に教えてくれる。

 

 勉学か……。体力特訓よりはマシかもしれない。

 こう見えて、僕はテスト前の一夜漬けに関してはベテランだった。

 

 しかし、どうして一夜漬けに必死こいてる最中に息抜きのために読む漫画って、あんなに面白いんだろう? ついつい、あと数ページと思いつつ漫画に没頭し、気が付いたら部屋へ朝日が差し込んでいる瞬間に覚える恐怖感は、心霊写真を見た際の比じゃないよね。

 

 それにしても、地獄に来てまで勉強とは……やる気を急降下させながら、ブルーに質問する。

 

「何を勉強するんですか?」

「サブロー。貴方は、異世界のウェステニラへ行くことを希望しているんですよね? では、ウェステニラについて勉強しましょうか」

 

 僕のやる気は急速回復する。

 

「ウェステニラへ(おもむ)くとして、貴方が最初に学ばなくてはならない事柄(ことがら)は何だと思いますか?」

「ウェステニラの地理とか歴史とかですかね?」

「違います。正解は、言葉と文字です。特に言葉が分からなければ、ハッキリ言って、生きていけませんよ」

 

 ブルーが厳しく指摘する。正論だ。

 でもなぁ……何だかなぁ……。

 

「サブロー。何やら、不満そうですね」

「異世界転移したら、なんでだか良く知らないけど、現地の人たちと言葉が通じるのがデフォだと思っていたので」

「自動翻訳というヤツですね。ウェステニラに魔法は存在しますが、どちらかと言うと物理系統に(かたよ)っています。言語を自動変換するような魔法はありませんよ」

「翻訳道具とかありませんか?」

「お腹にポケットが付いた猫型ロボットがウェステニラに居れば、プレゼントしてくれるかもしれません」

 

 ブルーはウェステニラと現代日本、どちらの事情にも詳しいらしい。

 ウェステニラへ行った途端(とたん)、路頭に迷うのはゴメンだ。僕は真面目に『勉学の特訓』を受けることにする。

 

「ウェステニラには人間が治める5つの大国と無数の小国がありますが、人間の話す言語は、どの国でも同じです」 

 

 ブルーの教えに、少しホッとする。地球みたいに国によって話す言葉が違っていたら、何かと大変そうだと考えていたためだ。

 例えば日本語を一生懸命に覚えた異世界人が、インドとパキスタンの国境に転移してきたらどうなるだろう? せっかく習得した日本語を活かせる機会なんて、殆ど無いに違いない。

 

 ……ん? ブルーの発言の中に、気になる表現があるね。

 

「あの……〝人間が〟治める国ってことは……」

「そうです。ウェステニラには人間の他に、エルフ族・ドワーフ族・魔族・獣人族など、様々な種族が存在しています」

 

 ヤッタ――! これぞ、まさしくファンタジー。ありがとう、ウェステニラ!

 

 僕は一刻も早くウェステニラへ行きたくて(たま)らなくなった。この目でエルフやドワーフ、獣人を見てみたい。

 

「やる気が出てきたようで何よりです。では早速、ウェステニラの人間語を勉強しましょう」

「ハイ、先生!」

「いきなり〝先生呼び〟ですか……。サブローはホントに現金ですね」

「それが取り()なので」

「褒めている訳では無いのですが……。人間語の後にはエルフ語、ドワーフ語、魔族語、獣人語と、主要な言語を覚えていってもらいます。ああ、獣人は猫族、犬族、(うさぎ)族、馬族、(いのしし)族その他と、各々の部族によっても言葉が違いますけど、全てマスターしてもらいますので()しからず」

 

 ブルー先生の宣告を受け、硬直する。

 え? 種族ごとに言語が違う? 特に獣人は、犬と猫と兎じゃ言葉が通じないの? 生前は英語という1つの外国語すら、ろくに覚えられなかった僕に、先生は何を期待しているの?

 

 ブルー先生の肌色に負けないくらい青ざめている僕へ、先生が言う。

「ま、ウェステニラでは人間語が共通語とされていますから、人間と敵対関係にある魔族以外の種族には人間語が浸透していますがね」

 

 ウェステニラにおける人間語は、地球における英語みたいなもんか。

 

「だったら、覚えるのは人間語だけで良いんじゃ……」

「ダメです。人間語を知っているのは各種族でも上層階級に属する者か、日頃より人間と交流のある者たちだけです。下層民や人間と接触のない者たちは、自分たちの言語しか話せません。それに、それぞれの種族の言語で語りかければ、相手も無用な警戒をせずに好意的に接してくれますよ」

「けど……」

 

 口籠もる僕に、先生は顔を厳しくする。

 

「忘れていませんか? サブロー。ここは『特訓地獄』です。勉強内容の省略は許されません」

 

 眼鏡を掛けようと、鬼は鬼だ! ブルー先生の本質も、結局は脳筋(のうきん)なのだ。

 この似非(えせ)インテリ、えせ紳士、えせ眼鏡ボーイめ! 好感度をマイナス30ポイントにしてやる!

 

 ブルー先生の特訓によって、僕はウェステニラの言語を頭の中に叩き込まれた。

 各種族ごとの言語を、まとめてだ。1つの言語をマスターしてから次の言語へ移るような勉強法は、先生に言わせれば『甘っちょろい、やり方』らしい。

 

「それでは、サブロー。ウェステニラの各種族ごとの言語で『ここはどこですか?』と述べてみてください」

 

 容赦(ようしゃ)なき詰め込みスタディーの結果、僕の脳内はパンク寸前だ。でも、各種族の言語の特徴は覚えた。

 見てろよ、先生。テスト前の一夜漬けで鍛え上げた、僕の暗記能力を見せつけてやる!

 

「まず、人間語」

『ここはどこですか(人間語)?』

「よし、続いてエルフ語」

『ここはどこですか(エルフ語)?』

「正解! ドワーフ語」

『ここはどこですか(ドワーフ語)?』

「やりますね、サブロー。加えて、魔族語」

 

 魔族語は、けっこう難解なんだよね。

 うろ覚えなんだけど……ええぃ、ままよ!

 

『ここはどこなんじゃろかい(魔族語)?』

「う~ん。イントネーションとニュアンスが、かなりオカしいですね。魔族にその言葉で話しかけたら、即座にぶち殺されそうですが、まぁ良いでしょう」

 

 良くないよ!

 

「更に獣人語を、代表的な猫族・犬族・兎族・馬族・猪族の順で喋ってみてください。これは難しいですよ。各部族の言語の特色を、正確に理解している必要があります。ではサブロー、どうぞ」

 

 よ~し、猫・犬・兎・馬・猪の順だな。一気にいくぞ!

 

『ここはどこですかニャン。

 ここはどこですかワン。

 ここはどこですかピョン。

 ここはどこですかヒン。

 ここはどこですかボア(獣人語)』

「全て正解です! 素晴らしい!!! サブローは凄いです。貴方は、語学の天才かもしれません!」

 

 先生が、僕を絶賛する。

 

「あの~、ブルー先生」

「何ですか?」

「獣人語の各部族ごとの違いは、語尾だけのような気がするんですが?」

「気のせいです」

 

 気のせいのようだ。

 

 

 ブルー先生による『勉学の特訓』の後に待っていたのは、イエロー様による訓練だ。

 

 5人の鬼の中で、イエローだけは〝様付け〟で呼ぶことにしている。

 いくら筋肉ムッキムキの胸無しでも、イエロー様は女性だからね。僕はフェミニストなのだ。男と勘違いした挙げ句、トゲトゲ金棒でぶっ叩かれそうになった出来事がトラウマになっている訳じゃ、決して無い。

 

 ブルー先生より『勉学の特訓』を受けたのとは別の部屋で、僕はイエロー様に教えを()う。

 

 それはそうと、訓練生は、また僕1人だ。特訓地獄における受刑者不足の状況は、深刻みたい。

 余計な心配だが、赤青黄黒緑の鬼たちは、リストラ対象にはならないのだろうか?

 

「私がサブローに教えるのは、魔法だ」

「『魔法の特訓』ですか!?」

 

 イエロー様の言葉にテンションが上がる。

 魔法の使用は、異世界ライフの醍醐味(だいごみ)だよね!

 

「イエロー様は、魔法を使えたんですね」

 

 どう考えても、武闘派系の外見なんだが。

 

 一応、女性の範疇(はんちゅう)に入るイエロー様が魔法を使えるとなると、彼女も立派な『魔女っ()』の一員と言うことか。

 ……イエロー様を〝魔女っ娘認定〟する行為は、日本のサブカルチャーが積み上げてきた魔女っ娘の歴史に対する冒涜(ぼうとく)のような気がするな。いや、これは容姿に対するアレコレでは無く、あくまで年齢を考慮してのことなんだけど。

 如何(いか)に観察の限りを尽くしても、イエロー様は10代では無い。

 

 僕が誰へ向けているのか良く分からない言い訳を心の中で並べ立てていると、イエロー様があっさり告げる。

 

「いや、私は魔法は使えない。だが、サブローがウェステニラへ行きたいと思うのなら、現地で活用されている魔法についての基礎知識は(あらかじ)め学んでおかなくてはならん。加えて、魔法を放てるように立派に鍛えあげてやる」

「え? 魔法が使えないイエロー様が、どうやって『魔法の特訓』を行うんですか?」

「〝自分で出来る・出来ない〟と〝他人に教えられる・教えられない〟は、関係ない。人間だって、別に散歩の達人で無くても、犬に散歩の仕方は教えられるだろう?」

「犬のしつけと魔法の訓練を、一緒にしないでくださいよ!」

「大丈夫。『なせば成る』だ」

 

 僕の抗議を、イエロー様は不敵な笑みとともに一蹴する。

 

 根拠なき楽観論は破滅への第一歩だと言うことを、イエロー様は知らないんだろうか? 僕も格言で対抗してやる。

 

「『やってみせ、言ってきかせて、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ』って昔の偉い人も述べてますし」

 

 だから、自分には出来ない事案(じあん)を、他人に強要しちゃいけないよ。それに、もっと僕を褒めて欲しい。僕は、褒められると伸びるタイプなので。

 

 僕がせっかく名言を引用しているにもかかわらず、イエロー様は興味の無いご様子。

 

「そんなセリフ、初めて耳にした。誰が言ったんだ?」

「ええと、山本五十六だったかな?」

 

 第2次世界大戦中の連合艦隊司令長官だよね。

五十六(いそろく)〟とか言う不思議な名前の由来は、父親が56歳の時に生まれたためだと聞いたことがある。イソロクだから、まだ格好が付くけど、1年遅く生まれていたらイソナナになっていた訳だ。僕だったら、ちょっと遠慮したい。

 

「会ったこともないヤツが、何を語ったところで、知ったこっちゃない。他人は他人、自分は自分だ」

 

 イエロー様は、この格言の内容が自分に不利と見て、無視する意向のようだ。

 言い逃れは許さないぞ! 徹底的に追求してやる。

 

「宜しいですか? イエロー様。この名言は『他人に教えるには、まず自分が実践してみせることが大事である』という意味を持っていまして……」

「それでは特訓を始める」

 

 イエロー様が、トゲトゲ付きの金棒を取り出した。

 

「イエス、マム!」

 

 で。

 

「ウェステニラの魔法は、基本的に光・闇・火・水・風・土の6系統に分かれている。大気や水、大地の中に存在している魔素(まそ)を体内に取り込み、エネルギーへと変えることで、魔法を使用できるようになるのだ」

「生まれつきの魔力とかは、関わりないんですね。それなら、ウェステニラに住む人々は、みんな魔法が使えるんですか?」

「いや、そうでは無い。体内で魔素を魔力に変換できなければ、魔法は発動しない。魔素を上手に己の身体の中へ取り込める生物は、ウェステニラでも限られている。魔力の生成に成功しても、そこから魔法として行使可能なレベルにまで錬磨(れんま)できるのは、更に一部の者だけだ。獣人やドワーフ族は、基本的に魔法を使えない。魔族やエルフ族は……上層階級になるほど、魔法を巧みに操れるようになる傾向にあるな」

 

「人間は、どうなんです?」

「人間の中では、修行を積んで魔素吸収と、そのパワー変換に適応した性質を持った者だけが魔法を扱える。多くの人間は、魔法使用とは無縁の生活を送っているよ」

鍛錬(たんれん)すれば、人間なら誰でも魔法が使えるようになりますか?」

「そうとも限らん。やはり生まれ持った能力、向き不向きが関係してくる」

 

 ……でしょうね。地球だって、努力すれば誰でもオリンピック選手になれる訳じゃなし。異世界でも、世知辛(せちがら)さは付きもののようだ。

 しかしながら僕は、この特訓地獄で魔法を身に付けてみせる!

 

 イエロー様は、どんな訓練をしてくれるんだろう? 

 少し期待しちゃうな。

 

「さぁ、サブローよ! 今この室内には、ウェステニラにあるのと同じ魔素が充満している。魔素を吸収して、魔法を放て!」

 

 イエロー様が、大仰(おおぎょう)に両手を振り上げる。ちなみに、金棒は持ったままだ。

 

「どうやって?」

「気合いと根性だ!」

「…………」

「気合いと根性だ!」

 

 2回、仰らなくても良いです。

 

 それにしても酷いな、イエロー様。レッドやブルー先生以上の脳筋だ! 

 特訓地獄行きの条件である『自分自身は特訓の苦しさを知らないくせに、他者に必要以上の非合理な訓練を強いる行為』って、まさに今、イエロー様がやっていることじゃないの?

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