異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~   作:東郷しのぶ

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6話 ブラックの武器特訓&グリーンの恋愛特訓

 イエロー様との〝ヒト対オニ(マンツーマン)〟――――『魔法の特訓』は(精神的に)熾烈(しれつ)を極めた。

 努力の成果が現れない理由を、気合いの無さや根性不足に求められるのって、精神にくる(・・)ものがあるよね。

 

〝気合いと根性〟だけでは魔法が発動しないと知ったイエロー様は「何が足りないんだろう?」と自問自答した挙げ句、「気合いと根性と熱意とほんの少しの勇気で魔法を放つのだ、サブロー!」と改めて僕を激励した。

 

 イエロー様! 不足しているのは僕の精神力では無くて、貴方の脳みその容量だと思うのですが! ……などと本音を口に出せるはずも無く、イエロー様による無理押しの魔法特訓を受けつづける。

 すると、驚くべきことに、指先にボッと炎が(とも)った。

 

「おお! よくやったな、サブロー。サブローの中にある、気合いと根性と熱意と勇気と未来への希望が、魔法の発動につながったのだ!」

 

 イエロー様が喜んでくれる。

 なんか、イエロー様の求める僕にとって必要な精神アイテムが、だんだん増えていくな。

 

 それにしても、何だコレ!? ホントに魔法を使えちゃったよ! イエロー様の特訓方針が正しかったなんて、信じたくないんですけど。

 

 魔法の発動を嬉しく感じつつも、僕は複雑な思いに(とら)われてしまった。

 

 

 イエロー様と2人きりの〝スイートタイム(かんなんしんく)〟から、ようやく解放される。次は、ブラックによる訓練の時間だ。

 

 ブラックは、僕を運動場のようなところに連れ出した。ブラックは口調も(くだ)けているし、付き合いやすい感じがするので、僕も比較的リラックスできている。

 

「ワイがするんは『武器の特訓』や。ウェステニラは、治安が悪いからなぁ。サブローがウェステニラに行ったあと、モンスターや盗賊とかに遭遇(そうぐう)しても無事に切り抜けられるように、イロイロな武器の使い方を教えたる」

 

 おお! 武器ですか。男子なら、武器と聞いてワクワクしてしまうのは、当然と言えば当然ですよね。日本で普通に生活している分には、武器を携帯するなんてあり得ないし。

 

 武器を手に取るのは、もちろん初体験だ。

 ブラックは、多くの種類の武器に関して、扱い方を教えてくれるらしい。

 

〝武芸十八般〟というヤツか。まずは、何を習おう? 

 西洋の剣と言えば、バスターソードとかクレイモアとか、良く耳にする名だな。ウェステニラはヨーロッパ中世風の世界みたいだから、そこで日本刀を用いれば、特別感が出て格好良いかもしれない。槍や弓矢についても、それなりに扱えるようになりたい。

 

 ウズウズしながら訓練開始を待ちわびていると、「サブロー、嬉しそうやな」とブラックが語りかけてきた。

 

「だって、武器を扱わせてもらえるんですよ! 剣や槍の達人になれるなんて、まさに夢のようです」

「達人になれることを当然視するサブローの頭の軽さに、ワイは恐怖を覚えるで……」

 ブラックが、ブツブツ言っている。

 

「武器に関しては、1つ1つ順番に教えていくさかいな。その武器に習熟してから、次の武器に移るんで頑張りや」

「はい! それで、最初に教えてもらえる武器は何ですか? 剣ですか? 槍ですか? 弓ですか? ちょっとひねって鎖鎌(くさりがま)とか……」

金棒(かなぼう)や」

 

 ブラックの言葉に、呆気にとられる。

 そりゃ、鬼に金棒は付きものだけど、記念すべき最初の武器が金棒とか、ガッカリ感が半端ない。

 

「サブロー、何か文句あるんか? 金棒は強力な武器やで。丈夫で壊れにくいし、敵を叩きつぶすのに最適な得物(えもの)や。(よろい)を着ている相手も、ぶっ飛ばせるしな。トゲトゲバージョンで、相手の痛みは倍増や!」

 

 ブラックが嬉しそうに、愛用の金棒を取り出して()で回す。

 

 ここで正直に「金棒は、ダサいのでイヤです」なんて言ったら、あの金棒の餌食(えじき)にされそうだ。おとなしく、特訓を受けることにしよう。

 なあに、ブラックも鬼だから、金棒を贔屓(ひいき)にしたんだろう。次の特訓は、武器の定番である剣に違いない!

 

 ぶんぶん。ぐるんぐるん。ドカ! バキ! ごっち~ん!

 

 金棒の訓練が一通り終わる。

 手に馴染む、金棒の感触。鬼になった気分だ。節分の日限定で、(まめ)恐怖症になりそう。

 

 僕が「マメ恐い、マメ恐い」と呟いているうちに、ブラックは変な空間へ金棒をしまい込んでしまった。そして、今度はそこから、雪かきに使うような巨大なシャベルを引っぱり出す。

 先端のスプーン状のところが、ピカピカ光っている。新品っぽい。

 

「次の特訓武器はシャベルや!」

 

 うん。どこからどう見ても、シャベルだよね。別名スコップ。

 

「なして、シャベル?」

「サブロー、良いツッコミや」

「シャベルは土を掘る道具であって、武器じゃ無いでしょう!?」

 

 ブラックが『ヤレヤレ、無知なことは罪よのう』とでも言うように、肩を(すく)めて首を振る。殴りたくなる顔だ。

 無論、衝動(しょうどう)に身を任せたりはしないけど。

 

「シャベルは、近接戦闘武器の中でも最強の部類やで。実際、2つの世界大戦における塹壕戦(ざんごうせん)では、武器として大活躍したんや」

「僕の異世界転移って、塹壕戦が想定されてるの!?」

 

 どんな特殊な状況に、僕を放り込むつもりなんだよ! 

 ああ……ウェステニラへ抱いていた夢と希望が、どんどん(しぼ)んでいく。この暗鬱(あんうつ)な思いを、シャベルを使って地面に埋めてしまいたい。

 

 ブラック直伝(じきでん)のシャベル格闘術を習う。シャベルを振り回していると、もはや自分が何のために何をしているのか分からなくなってくる。

 

 次は、次こそは、剣を教えてくれ! いや、この際、剣・槍・弓とかのメイン武器じゃなくても構わない。斧や(むち)とかのマイナー系でも、OKだ。ともかく、マトモな武器の特訓を受けさせてくれ!

 

「次に訓練する武器は、石や」

「ウワァァァァァァ!」

「サブロー、何を錯乱してるんや。石は手頃に調達できるにもかかわらず、敵の急所に当てることが出来れば大ダメージを与えられる優れた武器やで。費用対効果は、抜群や!」

「僕は、武器にコストパフォーマンスなんか求めていない!」

「落ち着くんや、サブロー。石を使った武器として、スリングの名は聞いたことあるやろ。ウェステニラにもスリングはあるで。習っといて損は無い」

 

 ガックリと、うな()れる僕の肩を、ブラックがポンポンと叩く。

 

「石を()めたら、あかん。かの名将、武田信玄も石つぶて専用の部隊を編成してたんや。剣豪の宮本武蔵を、島原の乱の一揆(いっき)兵が石を投げて負傷させた逸話も有名で……」

 

 ブラックは、歴史オタクのようだ。でも、僕はそのうんちくを傾ける顔を殴りたい気持ちで一杯です。

 殴っても良いよね?

 

 

 ブラックの武器特訓を終えたら(一応、剣や槍も教えてもらった)、次はグリーンの番だ。

 

 体力・勉学・魔法・武器ときて、最後は何の特訓だろう? 正直、思い付かない。

 訓練場所は室内だから、運動関係では無さそうだけど。

 

 工作技術や料理とかかな? 

 異世界で料理無双とか、少し憧れる。生前はカップラーメンへ、お湯を注ぐことくらいしか、したことはないが。

 特訓で腕を上げた僕の料理を食べた異世界人が「な、なんだ、この料理の味は!? 美味すぎる!」と驚愕するのを横目に「これは、ビーフストロガノフという肉料理でして……」なんて得意気に語ってみたい。

 

 料理の鉄人になった自分を妄想(もうそう)している僕に向かって、グリーンが言う。

 

「サブロー、僕は『貴方が望む事柄』の特訓をします」

「僕の望む特訓?」

「はい。異世界行きのために、貴方は何を上達しておきたいですか? やってみたい事を率直に述べてください。貴方が申し出た内容の訓練をします」

 

 グリーンは何て親切なんだ! さすが、1人称が僕と(かぶ)っているだけのことはある。他の4人の鬼たちとは全く違うね。

 あの4人は、見た目も教え方も、文字通りの鬼教官だったからなぁ……。

 

「さぁ、サブロー。遠慮は無しですよ。如何なる内容でも構いません」

 

 千載一遇の機会だ。料理や工作の技術も良いけど、ここはやっぱり1番レベルアップしたい事柄について教えてもらうべきだろう。

 僕は、思い切ってグリーンに望みを述べた。

 

「『恋愛の特訓』をしてください!」

 

 一瞬だけ、部屋に沈黙の(とばり)が下りる。

 

「『恋愛の特訓』ですか……」

 グリーンは額の眉を(しか)めつつ、(あご)を右手で撫でている。

 

「あの、難しいでしょうか?」

 僕は、グリーンが言い(よど)むのを見て不安になった。

 

「いえ、恥も外聞も無い要求だと思いまして」

 

 酷いよ! グリーン。遠慮は無しって言ったくせに!

 

「では、恋愛特訓をすることにしましょう」

「あの、自分で言っといて何ですが、大丈夫なんですか?」

 

 そもそも恋愛訓練の先生なんて、モテモテのプレイボーイにしか務まらないに違いない。

 グリーンの鬼の中でのモテ度がどれくらいなのか、僕にはサッパリ分からない。もし、グリーンが『彼女いない歴=生きてきた年数』の鬼だとしたら、僕はとても残酷な要請(ようせい)をグリーンにしていることになる。

 

「大船に乗った気でいてください。サブローは、異世界でモテモテハーレムを築きたいんですよね?」

「いえ。そんなにまで、高望みはしないと言うか……」

「そこで、(おく)するからダメなんです。自分の欲望を率直に認めることは、『モテ道』の初歩ですよ!」

 

『モテ道』か……。何かグリーンが、たった今こしらえたっぽい名称だね。けど、言ってることに間違いは無い。

 

「ハイ! 僕は、異世界でモテまくって、ハーレムを作りたいです!!!」

 

 僕の胸を張った宣言に、グリーンは(うわぁ、マジで言いやがった、コイツ。引くわ……)みたいな顔をする。

 何なの、グリーン。僕に(うら)みでもあるの?

 

「モテるために最も必要とされる要素とは何だと、サブローは思います?」

 

 グリーンの質問に、考える。

 

「顔ですかね?」

 

『イケメンはモテる』は、世の(ことわり)である。

 

「顔も大事なファクターですが、最重要ポイントではありません。それに、顔は生まれつきです。いくら特訓しても、サブローの顔面偏差値(へんさち)は変わりません」

 

 グリーンの指摘に、僕のライフポイントは下がりまくりだ。『グリーンは赤青黄黒の鬼たちより親切だ』などと思っていた僕が馬鹿だった。

 グリーンこそ、ホンマもんの鬼畜(きちく)だ(鬼だけに)。

 

「それなら、モテるための最重要ポイントとは何ですか?」

 

 ふて(くさ)れつつ尋ねる僕に、グリーンは断言する。

 

(かね)です」

「そんな身も(ふた)も無い……」

 

 金、金って! そりゃ、そうだろうけど、少しは女性とのお付き合いに夢を抱かせてくれても良いじゃないか! 

 僕は女の子とデートしたことすら無い、ピュアボーイなんだぞ!

 

「『色男、金と力は無かりけり』って文句もあるじゃないですか」

「そんなもん、生活力のない男の妄想です。女性は夜間の街灯に寄ってくる()のように、お金に群がるんです。だいたいハーレムは、作るのにも、維持するのにも、莫大な経費が掛かるんですよ。所詮(しょせん)、世の中、金を持ってるヤツが勝つんです」

 

 僕の反論に、グリーンはやさぐれながら答える。

 グリーンは、金銭関係で女性とトラブった経験でもあるのか?

 

「そうでなければ、なんでパープルは僕を捨てて、ゴールドのもとへ行ってしまったんですか!? 特訓地獄に送られてくる罪人の数が減って、僕の手取りが少なくなったのが原因としか考えられません!」

 

 鬼同士の痴情(ちじょう)のもつれなんて、知らんがな! 

 

 それにしても、ゴールドって名の鬼は、全身が金色なのだろうか? ちょっと見てみたい気もする。

 ゴールドは、ネーミングからしても肌の色からしても、お金持ちの(にお)いがプンプンするね。グリーンに勝ち目は無さそうだ。

 

「あの、つまり『恋愛の特訓』とは『お金を(かせ)ぐ特訓』ということで宜しいんでしょうか?」

 

 言ってて自分で悲しくなるな!

 

「サブローは、恋愛から夢を捨ててしまったんですね」

 

 アンタが捨てさせたんだろうが。

 

「ですが、サブロー。諦めてはいけません。世の中の女性の全てが、お金に目が(くら)むわけでは無いのです。愛に生きる女性も、居るはずです。きっと、そうです。僕と一緒に信じましょう」

 

 グリーンの何かに(すが)るような目つきが、ヤバすぎる。

 僕はグリーンに『恋愛の特訓』を頼んだことを、心底後悔した。

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