異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~   作:東郷しのぶ

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7話 ハムスター専用回転車の如く 

 一通りパープルへの未練(みれん)混じりの恨み(ぶし)を述べたあとに、グリーンは気を取り直したのか『恋愛の特訓』の話を再開する。

 

「ハーレムを夢見るサブローに参考にして欲しいのが、ハーレムフィクションに登場する男主人公です。現実世界でハーレムを構築しているのは権力者か、あるいは凄いお金持ちですから、サブローの目標にするのは難しいので」

 

 確かに異世界に行ったからといって、後宮持ちの中国皇帝や、大奥がある徳川将軍家みたいになるのは無理だよね。

 

「つまり、ラノベのハーレム系主人公のようになれば良いんですね?」

 

 生前、ラノベはたくさん読んだぞ。その中には、ハーレムを謳歌(おうか)している男キャラも、いっぱい居た。

 あれをマネれば良いのかな?

 

「いえ、違います。ハーレム系主人公が活躍するラノベの作者の多くは、男性です。そこに、女性の意見は反映されていません。したがって、現実世界でラノベのハーレム系主人公のように振る舞っても、モテはしないのです」

 

 手厳しいな、グリーン。

 しかし、女性作者の手になるライト文学のハーレム系と言うと、いわゆる逆ハーレムしか思い当たらないんだが……。あれって、参考になるのかな?

 

「サブローが何を考えているのか、分かりますよ。けれど、女性の望みがてんこ盛りだからと言って、逆ハーレム系のフィクションは参考になりません。そもそも、逆ハーレム小説に登場する男性は、イケメンでお金持ちで身分が高くて頭が良くて運動神経抜群でヒロインに一途(いちず)です。ハーレムを望むような下劣(げれつ)な男は、間違っても出てきません。ヒロインを囲む逆ハーレムメンバーとサブローとの間には、月とスッポンどころか、太陽とミジンコほどの違いがあるんです」

 

 グリーンの物言いに、悪意を感じるんだが。

 

「逆ハーレム小説ではなくても、女性が執筆した立派なハーレムノベルは存在します」

 

 グリーンの発言に、僕は首を傾げる。

 全然、思い付かない。勿体(もったい)ぶらずに教えてほしい。

 

「それは『源氏物語』です」

 

『源氏物語』!!! 盲点だった! 『源氏物語』の作者である紫式部は、確かに女性だよね。

 

「サブローは『源氏物語』に関して、どの程度、知っていますか?」

「作者が紫式部で、千年前に書かれた日本の有名古典だと言うことくらいしか……」

「それだけ承知していれば、充分です。主人公の光源氏は作品の中で、あらゆる女性の憧れを一身に浴びつづけます。まさに、女性が男性に求める全ての要素を凝縮(ぎょうしゅく)したような、日本一のモテ男です。サブローには、光源氏に少しでも近づくための特訓を受けてもらいます」

 

 グリーンの話には、なかなか説得力がある。『源氏物語』の主人公である光源氏とは、どのような男性なのだろうか?

 

「目標とすべき光源氏の人物像について、教えてください」

「光源氏は、天皇の息子という高貴な身分です。帝に愛されて、優遇(ゆうぐう)されまくりの人生を送りました。もちろん財産家で、絶世の美男子です」

「目標地点が、北極星くらいの高さなんですけど」

「案ずるには及びません。参照すべきは光源氏の身分や美貌(びぼう)では無く、その性格や行いです」

 

 なるほど。身分や容貌(ようぼう)は変えられなくても、行動や考え方は、モテる方向への改良が可能だよね。

 

「光源氏は、実母そっくりな義理の母親に恋します」

「マザコンだ」

「また、幼女を気に入って自分の屋敷へ連れ去ります」

「ロリコンの誘拐犯だ」

「ついでに、兄の婚約者に手を出します」

「お兄さんが、可哀そう」

「心配無用です。お兄さんは『源氏に女性が()れるのは当たり前で、仕方ない』と思っています。加えて『自分が女性だったら、源氏に抱かれるのに』なんてことを考えてもいます」

 

 え? 『源氏』って、そんなにカオスな物語なの?

 

「とても、源氏が恋愛特訓の参考例になるとは思えないんですが……」

肝心(かんじん)なのは、ここからです。サブローは、源氏のハーレムメンバーは美女だけだと思っているでしょう?」

「違うんですか?」

 

 ハーレムメンバーと言えば、美女・美少女限定。(まれ)に、ロリあり。

 それが、僕の知ってるラノベの定番設定だけど。

 

「源氏のハーレムには〝美しくない女性〟も複数人、混じっており、それぞれを源氏は大切にしています。もちろん源氏も美女好きですが、表面上の美醜(びしゅう)のみで、女性を判断したりはしないのです」

「つまり、美女や美少女ばっかり追いかける男はモテないと?」

「性別を逆転させて、考えてみてください。イケメンのみを追いかけて、非イケメンにつれなくする女性に、男は魅力を感じますか?」

 

 ふむふむ。確かにそうだ。

 

 グリーンが、光源氏の解説を続ける。

「過去に自分を拒絶した女性が零落(れいらく)しているのを見た源氏は、引き取って面倒をみてあげました」

「『ざまぁ』は、しないんだ」

 

 どうやらモテるためには、心の広さも必須(ひっす)のようだ。

 

「更に、老女も恋愛対象でした。源氏にとって、年齢など些細(ささい)な問題だったのです」

 

 何それ。光源氏が、偉大すぎる。尊敬と崇拝を通り越して、お近づきになりたくない。

 

 全力で、距離を取りたいのに……。 

 

「すなわち、女性にモテるための前提条件とは、容貌や年齢に関係なく女性を愛せる心を持つことなのです。光源氏に一歩でも近づくための訓練をしましょう」

〝逃がさない!〟とばかりに、グリーンが(もっと)もらしい論評や提案をしてくる。

 

 理屈は、まさしくその通りなんだろうね。でも、光源氏の性格や行動が(なな)め上すぎて、別の銀河からやって来た宇宙人としか思えないよ。

 それに『容貌や年齢に関係なく、女性を愛せる心を持つ』ための特訓って、何かイヤな予感がする……。

 

「さぁ、『ビキ』たちよ。入ってきてください」

 

 な――――っ!

 今、グリーン、『ビキ』って言ったよね。もしかして〝美姫(ビキ)〟!?

 

 え、美姫が特訓につきあってくれるの? ビューティフル・プリンセス降臨(こうりん)? ここは地獄なのに、天国気分を味わっちゃって良いのかな? 

 

 グリーンのこと、誤解していたのかも。彼はやっぱり、親切な鬼なんだ。

〝太陽の直下で光合成でもしていろ、このミドリムシ!〟なんて思ってて、ゴメンね。

 

 僕が脳内で『リンゴ~ン、リンゴ~ン』と祝福の(かね)を鳴らしつつ、入り口へ期待に満ちた眼差しを向けていると――

 

 グリーンの呼び出しに応えて、茶・(だいだい)・灰色の肌を持つ鬼たちが、ぞろぞろ室内に入ってきた。みんな長髪で、衣装は腰巻き以外に胸も寅縞(とらじま)の布で覆っている。

 

 ビキはビキでも、筋肉ムキムキの〝美鬼(ビキ)〟だった。

 

 そうだよね。ここは、地獄なんだよね。一瞬でも夢見た僕が、馬鹿だったよ。

 頭の中の鐘の音、よく聞くと『ゴ~リン~ジュウ~』って響いてるし。

 

「ブラウン・オレンジ・グレイは、鬼族の中でも()りすぐりの美女たちです。サブローは人間ですので、鬼である僕たちとは、美的価値観が異なることは分かっています。しかしモテる男になるためには、その違いを乗り越えなければなりません。彼女たちに心からの愛の言葉を(ささや)けるようになったら、合格です。さぁ、サブロー。〝異世界の光源氏〟を目指しましょう!! 恋愛特訓スタートです!」

 

 グリーンの掛け声とともに、茶橙灰色の美鬼たちが、僕を取り囲む。

 

「サブローって、名前だったかね。そんなに(おび)えなさんな」とブラウン。

「ふふ、可愛い顔をしてるじゃないか。イジメ甲斐があるよ」とオレンジ。

「鬼族の女の良さを、アタシたちがタップリ教えてあ・げ・る」とグレイ。

 

 まさに『地獄の特訓』だ。

 赤青黄黒の訓練は、何て心と身体に優しかったんだろう。

 

 スミマセン。ハーレムなどと寝言をほざいた、僕が間違っていました。

 僕は……僕は、ちょっと可愛い女の子と喫茶店で5分ばかりお喋り出来れば、それで充分です。

『光源氏になりたい』なんて身のほど知らずの目標は取り下げるので、特訓を中止してください。

 

 後悔と絶望の思いに包まれる僕に向かって、グリーンはにっこり笑う。

「どうしたんですか? サブロー。念願の美女たちとのイチャイチャですよ。もっと、楽しそうな顔をしてください」

 

 僕の女性との初イチャイチャは、恐怖と圧迫のヘルモードだった。

 

 

 特訓地獄における鬼たちのシゴキは、連日連夜、続いた。

 いや。地獄には、昼も夜も無いんだが。

 

 睡眠も無ければ、休憩(きゅうけい)も無い。ここが現世なら、身体をぶっ壊してアッと言う間にお陀仏(だぶつ)だろうが、幸いというべきか不運というべきか、地獄の亡者はどれほどの責め苦を受けても死なないのだ。

 何故なら、もう死んでいるから。

 

 あれ? 僕、いま自分のことを『亡者』呼びしなかったっけ? 

 オカしいな。特訓地獄に来た当初は、異世界への限りない夢を抱いている若人(わこうど)を自認していたのに、いつの間に彷徨(さまよ)える亡者に成り果てているんだろう。

 

 レッドから始まりグリーンで終わる特訓のターンは、5回程度までは(かろ)うじて耐えられた。

 我ながら、頑張ったと思う。

 

 10ターンを超える頃には、心身ともに限界を突破し、泣きわめきつつの特訓となってしまった。

 我ながら、みっともない。

 

 20ターンを超える頃には、疲労困憊(こんぱい)のあまり、考える力を失った。流す涙も()れ果てた。黙々と訓練を続けるオートメーションマシーンと化した僕。

 我ながら、人間を()めてるな。

 

 30ターンを超える頃には、特訓を受けるのが無性(むしょう)に楽しくなってきた。訓練中に笑顔を浮かべる機会が少しずつ増えている。

 我ながら、(うつ)ろな笑みだが。

 

 40ターンを超える頃には、訓練が快感になってきた。もっと厳しい指導をして欲しいと、鬼たちにお願いする。罵詈(ばり)雑言や鉄拳制裁もウェルカムですよ! 

 自分の身体の中で、変なホルモンがドバドバ分泌(ぶんぴつ)しているのが分かる。我ながら、ヤバすぎる。

 

 50ターンを超える頃には、僕の胸の内で鬼たちへの感謝の思いが(あふ)れだした。こんな(みじ)めでヘタレで最低な僕に、生まれ変われるチャンスを与えてくれて、ありがとう! 僕は必ず、みすぼらしいサナギから華麗な蝶へと脱皮してみせる。

 終わること無き訓練は、まさに僕にとって至福の経験だ。なんて幸運な僕! 

 我ながら……我ながら……。

 

 あれ? 何か僕の今の心理状態って、まさしく〝洗脳〟と称されるヤツじゃないのかな? 

 イヤイヤ、そんな馬鹿な……。

 

 

 レッドの体力特訓によって、僕はグラウンド100周を軽くこなせるようになった。今なら、フルマラソンにも出場できるだろう。

 しかし、良く考えると現世のマラソン選手たちは、こんな過酷な訓練を地獄に居る訳でもないのに当然のように行っているんだね。凄すぎるよ……。

 

 腹筋・背筋千回も、楽々さ! 

 

 但しウサギ跳びグラウンド100周に関しては、近代スポーツ科学の見解に基づいて中止を求めた。

 却下された上に、亀のごとき匍匐(ほふく)前進グラウンド100周を追加されたよ。

 レッドには、思考の柔軟性というものが欠けている。スポーツ指導者になるための適性は無いと、僕は判断した。

 

 ブルー先生の勉学特訓の成果は、ウェステニラの言語習得に顕著(けんちょ)に現れた。人間・エルフ族・ドワーフ族・魔族の基本言語の他に、獣人族の各部族の言葉をも、僕は巧みに操れるようになったのだ。

 ブルー先生に「(きつね)族と(たぬき)族が、どのような言葉を喋るか、分かりますか?」と尋ねられたので、「狐族は語尾に『コン』を、狸族は語尾に『ポン』を付けるんでしょう?」と答えたら、「凄い! サブローは語学の天才ですね!」と褒められた。

 

 ちっとも嬉しくなかった。

 

 ちなみに、獣人のブタ族とモンスターに分類されるオークは姿形(すがたかたち)がかなり似ているが、喋り方で見分けが付くそうだ。

 

「何も言わずに襲ってくるのがオーク、語尾に『ブー』を付けて友好的に語りかけてくるのがブタ族です」

 

 ブルー先生による心底どうでも良い雑学解説を聞きながら、その時の僕は〝ああ、豚カツが食べたい〟と思っていた。

 

 ウェステニラの通貨体系や度量衡(どりょうこう)についても、習う。一方で歴史や地理関連は『一から十まで何もかも知ってしまうと、転移したあとの楽しみが減ってしまう』とのブルー先生の考えにより、あまり詳しくは教えてもらえなかった。

 僕は旅行前にガイドブックをガッツリ読むタイプなんだけど、ここは先生の意見を尊重する。

 

 イエロー様による魔法特訓のおかげで、僕は光・闇・火・水・風・土という6系統の魔法を操れるようになった。イエロー様は『魔素の濃い場所では強力な魔法を放てるが、魔素の薄いところでは魔法の威力が弱まるので気を付けるように』と注意してくれた。

 

 ウェステニラへ行った後は、魔法を攻撃手段としてよりも、生活する上でのサポート役に活用しようと僕は考えている。ウェステニラは現代日本よりも、科学技術面が遅れていることは確実だからね。

 そのために頑張って光系統に属する回復魔法を覚えたし、自在に指先に火を(とも)したり、水を放出できるようにもなった。

 

 イエロー様の仰るところによると、火や水の魔法は別に指先にこだわらずとも、意識を集中させれば身体のどこからでも放てるようになるらしい。

 

「頭のてっぺんや口からでも、魔法の放出は可能だ。訓練してみるか?」とイエロー様に提案されたが、丁重にお断りした。

 頭頂部より炎を噴き出したり、口から大量に水を吐き出すなんて、魔法使いと言うより手品師か、下手すると変態扱いだよね?

 

 ブラックには、いろんな武器の使い方を教えてもらったなぁ……。

 剣・刀・槍・(ほこ)・弓、それに鞭・縄・手裏剣から吹き矢などなど。金棒や石に関しては初めは戸惑ったけど、慣れてくると『これも、なかなか役に立つな』なんて思えた。

 シャベルは……アレは、無かったことにしよう。

 

 習得した武器の中で僕が最も気に入ったのは、棒だ。金棒じゃないよ、〝棒〟……長さが2メートルぐらいで、太さが均一のヤツ。

 棒の何が良かったのかって、『突けば槍、払えば薙刀(なぎなた)、持たば太刀(たち)』と言われるように汎用(はんよう)性が高いこと。それに、敵対相手を殺さずに制圧できる点。

 

 爺さん神は『ウェステニラは、人の命が軽い』って言ってた。

 

 ウェステニラへ行ったら、イロイロな()めごとに出くわすかもしれない。

 その時、モンスター相手ならともかく、人間と戦ったとして、僕には相手を殺したり大怪我(けが)させるだけの度胸があるかどうか分からない。

 

 別に僕は人道主義者じゃ無いし、ウェステニラの価値観にイチャモンを付ける気もサラサラないけど、人の命を奪わずにすむなら、なるべくそうしたいのだ。

 そのための武器として、棒は最適だと思う。

 ラノベとかで主人公が棒を主要武器にするのをあんまり見たことは無いけど、『西遊記』の孫悟空が使っていた武器も〝如意(にょい)棒〟と呼ばれる棒だったし、棒は意外と由緒(ゆいしょ)正しい武具だよね。

 

 あとブラックからは、包丁の武器としての扱い方も伝授された。正直、習うのがイヤだった……。

 同じ刃物でも、剣や刀を振り回すのは格好良いのに、それが包丁だと途端に猟奇(りょうき)的になるのは何でだろう? 殺傷力は剣や刀のほうが大きいのに、変だよね?

 

 グリーンによる恋愛特訓は……うん……何て言うか……『鬼女相手に、愛を(ささや)きなさい』と言われてもなぁ……。

 無茶振りにも、ほどがあるだろう!!

 

「ブラウンの筋肉は、(たくま)しいですね」

「オレンジの筋肉は、美しいですね」

「グレイの筋肉は、しなやかですね」

 

 と苦心惨憺(さんたん)、賞賛のセリフを(ひね)りだしていたら、

 

「サブローは、褒め方が下手ですね。別の女性へ述べたのと同じポイントを、賛美するなんて。お世辞では無く本心からであったとしても、女性への褒め言葉として、それはタブーですよ」とか単細胞(ミドリムシ)の野郎、ほざきやがった。

 

 鬼女相手に、筋肉以外のどこを褒めろと!?

 

 それでも訓練を重ねていくにつれ、それぞれの美鬼(ビキ)たちの違いが、だんだん分かってきた。

 

 姉御(あねご)肌のブラウンは、自分の強さに自信を持っている。

 ちょっとした加虐(かぎゃく)趣味があるっぽいオレンジは比較的、身だしなみに気を配るタイプで、髪の手入れを欠かさない。

 グレイはユッタリした性格の持ち主で、人間のような弱い生物に対しても、偏見があんまり無いみたい。

 

 僕はブラウン・オレンジ・グレイ、各々(おのおの)へ掛ける賛辞(さんじ)の内容に変化をつけてみた。

 もちろん、会話は1人1人、別のタイミングで行う。

 

「この地獄で、僕が頼れるのはブラウンだけです」

「オレンジの髪はホントに(なめ)らかだね」

「グレイの側に居るとリラックスできるんだ」

 

 すると、どうだろう! 鬼女たちの僕に対する態度が、軟化(なんか)しはじめたのだ。

 え? なんで? これは、いったい……。

 

「サブローには、プレイボーイの素質がありますね。『モテ道』を(きわ)めることも、可能かもしれません」

 

 グリーンも、僕を評価してくれた。

 

「サブローのブラウンたちへの言葉に、嘘は無かった。だからこそ、相手の心に響いたのです。プレイボーイを目指すなら、〝女性に対する誠意〟と〝自己犠牲を恐れぬ勇気〟は必須です」

 

 恋愛特訓中、ひたすら自分に言い聞かせ続ける。

 ……やったぞ! このまま鋭意(えいい)努力を続ければ、ハーレムを築ける男になれるかもしれない! 僕は、出来る男なんだ!

 

『僕って、地獄にまで来て何をやってんだろう?』なんて、ふと我に返っちゃいけない! 目前の美鬼を口説くために、思考をハムスターが転がし続ける〝回し車(ホイール)〟のごとく回転させるんだ! 余計なことは考えるな! 筋肉ムキムキの鬼女に囲まれながら、それぞれの個性に合わせて、口説(くど)き文句を並べたてる自分を客観視しちゃダメだ! 鬼女との仲を深めつつある自分は、自分であって自分じゃない! 僕とは別の自分だ! つまりは〝別人〟だ! 

 

 回し車(ホイール)を回せ! 回せ! 全力で回せ! 死んでるけど、死にもの狂いで回せ! クルクル。狂狂(くるくる)。クルクル。狂狂(くるくる)。頭がクルクル。くるくるパー……。

 

 なに? もう、止めろって? 頭がパーになるって? 現実を直視しろって? 大きなお世話である。逃避は、ときには最も有効な自己防御手段なのだ。

 

 恋愛の訓練を続けるぞ! 恋愛の・訓練を・続ける・ぞ! 恋愛の! 恋愛の。恋愛。恋愛……レ・ン・ア・イ………………。

 

〝恋愛〟って、何だっけ?




 サブローが壊れ気味ですが、異世界に行ったら治ります(多分)。

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