「なるほど……そのアナティアという小人から技術を継承されたのね」
「恐らく」
俺の話を聞いたアストレア様は顎に手を当てて、深く考え込む。
「スキル…もしくは魔法かしら。とにかくあなたはアナティアの知識と技術を受け継いだ」
「彼女が言うには一週間ぐらいクエストで俺を鍛えるみたいです。……正直、長年鍛えられた技術を一週間で手に入れられるとは思えませんが、今の俺ならそれが可能です」
今の俺にはアナティアの知識と技術を知っている。
器用な俺なら彼女の『技』を完璧に再現可能だ。
「……ジュラ。あなたにこんなことを言うのは酷かもしれないけど……あえて言うわね」
「なんでしょう?」
「恐らくあなたに知識と技術を一瞬で受け継がせた力には……代償が支払われたと思うわ」
アストレア様の言葉を聞いて、俺は言葉を失う。
彼女は真剣な表情で言葉を続ける。
「どんなものにも代償はある。店で食べ物を買う時に金は払う。全力で走る時に体力を消耗する。……あなたのスキルや魔法もそう。メリットがあれば必ずデメリットも存在するわ」
「つまり……アナティアは……」
「ええ……『技』を一瞬で他者に渡す……そんなすごい能力が代償なしでできるとは思えないわ」
俺は呆然とした。
アストレア様の言う通りだ。
自分の全ての知識と技術を相手に継承させる。
それは何年もかけてやるもの。
しかしアナティアは一瞬で渡した。
『時間』という代償を支払わずに。
考えられるとすれば魔法を使う時に支払われる
あるいは……、
「ジュラ」
アストレア様の名前を呼ばれ、俺はハッと我に返る。
「なんでしょう?」
「彼女がどんな結末になっても……心を折れないで」
「!」
アストレア様は優しく両手で俺の手を包み込む。
「そしてその子の『技』を……ちゃんと受け継ぎなさい。それが彼女の望みなら」
俺は床を見つめながら、「はい」としか言えなかった。
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ジュラがいる部屋から出たアストレアはふぅと息を吐く。
「なんであの子に……こんな辛い運命を辿らせるのかしら」
アストレアは気付いていた。
ジュラに技と知識を一瞬で受け継がせたアナティアがなにを支払ったのか。
正義の女神は気付いていた。
これからジュラの襲い掛かる絶望を。
初めての眷属に苦難を与える運命に、正義の女神を恨んだ。
そして憎んだ。
「ジュラ……」
悲しそうに顔を歪める女神は、ただ初めての眷属の名を呼ぶことしかできなかった。
運命は現実よりも残酷。
運命は神よりも非情。
そしてアナティアがオラリオに来たばかりのジュラにとって初めての……悲劇となる。