俺が悪役に転生するのは間違っている   作:グレンリアスター

16 / 21
最後の仕事

「アナティア」

 

 血を吐き、気を失って倒れた小人族の少女のところに俺は駆け寄った。

 身体を抱き、軽く揺らす。

 

「しっかりしろ、おい!アナティア」

 

 俺は何度も呼びかけた。

 なんだよこれ、なんだよこれ、なんだよこれ!?

 アナティアの顔が青白く、呼吸も荒い。

 どうする?どすればいい?

 混乱していた俺は必死に考えた。

 そしてある答えに辿り着く。

 

「そうだ!【ディアンケヒト・ファミリア】のところに!!」

 

【ディアンケヒト・ファミリア】。

 オラリオの中で治療や回復製作、義肢製作などがトップクラスの大手ファミリア。 

 彼らならアナティアを治せるかもしれない。

 

「待ってろ、アナティア!すぐに【ディアンケヒト・ファミリア】のところに―――」

「無駄だよ。ジュラ」

 

 アナティアはゆっくりと目を開け、俺の服を強く掴んだ。

 

「この病気は……【ディアンケヒト・ファミリア】でも治せなかったの」

「そんな……」

 

 俺は言葉を失った。

 治療最強のファミリアでも治せないとなると、どうすれば。

 どうすればいいか焦っている俺に、アナティアは微笑みを向ける。

 

「いいの……もう残り…少ない命だったの……」

「だけど……こんな……」

「それに……ジュラに技術を継承させたことで残り少なかった寿命は……一気に削っちゃったし……」

「!」

 

 俺は言葉を失った。

 アナティアの知識と技術を俺は一瞬で継承した。

 スキルか魔法の効果なのはわかっていた。

 だけどその代償が、寿命なんて。

 

「なんで……なんで俺に『技』なんて受け継がせた!なんで……なんで……」

 

 俺は血が出るほど唇を強く噛んだ。

 なんでコイツは……寿命まで削ってまでクズの俺に『技』を継承させたんだよ。

 わからない。わからねぇよ!

 

「ジュラ……聞いて」

 

 アナティアは真っすぐな瞳で俺の目を見つめた。

 

「私は……本当は私は自分の子供に『技』を継承させたかったの。でも……結婚はできなかったし、子供が産める状態じゃなかったの」

「……」

「だけどね……受け継がせたかった。両親から学んだ技術と知識を。でも誰でもいいわけじゃない。すごく器用で、任せられる人じゃないとダメだった。それが……ジュラ、君だったんだよ」

 

 弱り切った声で言ったアナティアの言葉に、俺は目を大きく見開く。

 

「さて……最後の仕事……しないとね」

 

 アナティアはゆっくりと立ち上がり、机に置いてあるゴーグルと手袋をつける。

 おい、まさか!

 

「作るのか!武器を!?」

「うん。それが私の最後の仕事……ジュラの依頼の報酬」

「ダメだ!寝てろ。報酬なんて……もう……」

「たぶん……私は……今日で死ぬ」

 

 俺はまた言葉を失う。

 わかっている。気付いていた。

 彼女の身体は弱り切っている。

 もう助からないだろう。

 

「死ぬ前に……鍛冶師として誇りを……仕事をさせて」

 

 汗を大量に流し、だけど眩しいぐらいいい笑顔を浮かべるアナティアを俺は……止めることができなかった。

 ただ俺は、拳を強く握り締めながら俯いくことしかできなかった。

 

「わかった……」

「じゃあ……始めるよ」

 

 小人族の少女は金槌を握り締め、鍛冶場へと向かった。

 最後の仕事をするために。

 魂の武器を作るために。

 

<><><><>

 

 小人族の少女は赤熱化した金属を金槌で何度も叩いた。

 力強く、だけど繊細に。

 丁寧に、そして大胆に。

 

「ゲホゲホ……!」

 

 小人族の少女は何度も血を吐く。

 それでも金槌を振るうのをやめなかった。

 両親から受け継いだ『技』を、製作している武器に込める。

 己の命と魂で赤熱化した金属を叩く。

 本当の意味で魂を燃やす小人族の少女を、正義の女神の猫は見続けた。

 誰よりも眩しく、美しい鍛冶師の背中を……猫人の男は見続けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。