「アナティア」
血を吐き、気を失って倒れた小人族の少女のところに俺は駆け寄った。
身体を抱き、軽く揺らす。
「しっかりしろ、おい!アナティア」
俺は何度も呼びかけた。
なんだよこれ、なんだよこれ、なんだよこれ!?
アナティアの顔が青白く、呼吸も荒い。
どうする?どすればいい?
混乱していた俺は必死に考えた。
そしてある答えに辿り着く。
「そうだ!【ディアンケヒト・ファミリア】のところに!!」
【ディアンケヒト・ファミリア】。
オラリオの中で治療や回復製作、義肢製作などがトップクラスの大手ファミリア。
彼らならアナティアを治せるかもしれない。
「待ってろ、アナティア!すぐに【ディアンケヒト・ファミリア】のところに―――」
「無駄だよ。ジュラ」
アナティアはゆっくりと目を開け、俺の服を強く掴んだ。
「この病気は……【ディアンケヒト・ファミリア】でも治せなかったの」
「そんな……」
俺は言葉を失った。
治療最強のファミリアでも治せないとなると、どうすれば。
どうすればいいか焦っている俺に、アナティアは微笑みを向ける。
「いいの……もう残り…少ない命だったの……」
「だけど……こんな……」
「それに……ジュラに技術を継承させたことで残り少なかった寿命は……一気に削っちゃったし……」
「!」
俺は言葉を失った。
アナティアの知識と技術を俺は一瞬で継承した。
スキルか魔法の効果なのはわかっていた。
だけどその代償が、寿命なんて。
「なんで……なんで俺に『技』なんて受け継がせた!なんで……なんで……」
俺は血が出るほど唇を強く噛んだ。
なんでコイツは……寿命まで削ってまでクズの俺に『技』を継承させたんだよ。
わからない。わからねぇよ!
「ジュラ……聞いて」
アナティアは真っすぐな瞳で俺の目を見つめた。
「私は……本当は私は自分の子供に『技』を継承させたかったの。でも……結婚はできなかったし、子供が産める状態じゃなかったの」
「……」
「だけどね……受け継がせたかった。両親から学んだ技術と知識を。でも誰でもいいわけじゃない。すごく器用で、任せられる人じゃないとダメだった。それが……ジュラ、君だったんだよ」
弱り切った声で言ったアナティアの言葉に、俺は目を大きく見開く。
「さて……最後の仕事……しないとね」
アナティアはゆっくりと立ち上がり、机に置いてあるゴーグルと手袋をつける。
おい、まさか!
「作るのか!武器を!?」
「うん。それが私の最後の仕事……ジュラの依頼の報酬」
「ダメだ!寝てろ。報酬なんて……もう……」
「たぶん……私は……今日で死ぬ」
俺はまた言葉を失う。
わかっている。気付いていた。
彼女の身体は弱り切っている。
もう助からないだろう。
「死ぬ前に……鍛冶師として誇りを……仕事をさせて」
汗を大量に流し、だけど眩しいぐらいいい笑顔を浮かべるアナティアを俺は……止めることができなかった。
ただ俺は、拳を強く握り締めながら俯いくことしかできなかった。
「わかった……」
「じゃあ……始めるよ」
小人族の少女は金槌を握り締め、鍛冶場へと向かった。
最後の仕事をするために。
魂の武器を作るために。
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小人族の少女は赤熱化した金属を金槌で何度も叩いた。
力強く、だけど繊細に。
丁寧に、そして大胆に。
「ゲホゲホ……!」
小人族の少女は何度も血を吐く。
それでも金槌を振るうのをやめなかった。
両親から受け継いだ『技』を、製作している武器に込める。
己の命と魂で赤熱化した金属を叩く。
本当の意味で魂を燃やす小人族の少女を、正義の女神の猫は見続けた。
誰よりも眩しく、美しい鍛冶師の背中を……猫人の男は見続けた。