「できた……」
血を吐き、汗を流しながら鍛冶をした小人族の少女は満足そうに微笑みを浮かべた。
彼女が命を燃やして作ったのは、大きな黒と白の戦斧。
幻想的な美しさと破壊的な恐ろしさを宿した武器。
それをアナティアは俺に渡した。
「オリハルコンや深層に出てくるモンスターのレアドロップアイテムで作った私の最高作品……ジュラ……受け取って」
「ああ……」
俺は大戦斧を受け取った。
両手にどしりと重さが伝わってくる。
これはただ重いだけじゃない……アナティアの想いは宿っていた。
なんで……こんなすごいものを俺に。
「名前は《
アナティアはまるで自慢する子供のように武器の説明を始めた。
彼女の説明を俺は唇を強く噛みながらよく聞く。
「という感じ……気に入った?」
「ああ……とっても。すげぇよ」
「えへへ」
嬉しそうに微笑むアナティア。
彼女はゆっくりと地面に座り込み、ハァハァと荒い吐息を漏らした。
もう……アナティアに時間がない。立っている事すらできない。
ならせめて最後に……、
「アナティア……最後に一つ聞いても良いか?」
「なに?」
「どうして……どうして俺に『技』を継承させた?」
俺には分からなかった。
なぜあって間もない俺に『技』を継承させたのか。
このオラリオでは才能を持った奴らがうじゃうじゃといる。
俺と違って、もっとすごい奴がいる。
「俺は……ただ少し器用だけだ。才能じゃない。鍛冶や魔道具製作だって基本的なことしかできない……なのに……どうして!?」
「……」
アナティアは俺を見つめながら、ただ苦笑した。
まるで申し訳ないと。
「君が……私と
「同類?」
「そ……私と同じ……それは私にとって……才能以上に……大切なもの……」
アナティアは震える両手で、大戦斧を握り締める俺の手を包み込んだ。
「あとは…私の主神…ヘファイストス様に聞いて……」
彼女は最後の力を振り絞って、弱り切った声で呟く。
「ありがとう。そしてごめんね。私の『技』を受け継がせちゃって……」
その言葉を発した時、俺の手を包み込んでいたアナティアの両手が離れた。
ゆっくりと彼女は目を閉じ、地面に倒れる。
もう彼女の呼吸の音が聞こえない。
俺はただガリッと歯噛みし、アナティアが作った武器を握り締めることしかできなかった。
「バカ野郎が……」
<><><><>
暗い雲に覆われた空の下で、俺は一人の墓の前に立っていた。
その墓に眠るのは、一人の小人族の少女。
最後まで作ることに魂を注いだ鍛冶師にして、魔道具製作者。
俺はアナティアが眠る墓に、花束を置く。
「ありがとう……私の眷属に花を添えてくれて」
背後から女性の声が聞こえた。
振り返るとそこには紅の髪を伸ばした女神がいたのだ。
片目を眼帯で覆っており、髪と同じ紅色の瞳で俺のことを見つめる。
「ヘファイストス様……ですか?」
「そうよ」
ヘファイストス。
ダンまちでも重要なキャラとして活動していた女神。
多くの鍛冶師が所属している【ヘファイストス・ファミリア】の主神であり、『神匠』と呼ばれるほどの鍛冶の腕を持つ。
主人公のベル・クラネルが使っている《ヘスティア・ナイフ》を作った女神でもある。
原作のキャラに会えたから飛び跳ねるほど喜ぶところだが、今の俺にはそんな気にはなれなかった。
「……ヘファイストス様。質問、いいですか?」
「なにかしら?」
「どうして……彼女は出会ったばかりの俺に『技』を継承させたのですか?才能も実力もある彼女はなんで……冒険者になったばかりで、才能がない俺を同類って言ったのですか?」
ヘファイストスは静かに空を見上げた。
まるでなにかが見えているかのように。
彼女の美しい唇はゆっくりと動く。
「ジュラ……だったかしら?運命って……信じる?」
「え?」
言っている意味が分からず俺は間抜けな声を漏らす。
ヘファイストス様は言葉を続けた。
「下界の子供たちは無意識に気付いているのよ。ああ……近いうちに死ぬんだって」
「……」
「私の子供たちもそう。この暗黒期で……この地獄で死ぬんだろうって……絶望しているの。そして心のどこかでそれを受け入れている」
ヘファイストス様の言っていることはなんとなくわかる。
この暗黒期時代は最悪だ。
闇派閥共が攻めてきて、誰もが最悪の運命を想像してしまう。
それを受け入れてしまうのは仕方ないことだ。
「だけどね……アナティアはそんな絶望を受け入れなかった。自分の死の運命に抗っていた。死ぬ瞬間まで作り続けると魂を燃やし続けたの」
ヘファイストス様は真剣な表情で俺を見つめた。
「だからなの……あなたに『技』を継承させたのは」
「え?」
「アナティアが才能ある鍛冶師に『技』を継承させなかったのは、あって間もないあなたに『技』を継承させたのは……
「!」
俺は目を大きく見開いた。
運命に抗う者?
呆然としていると、ヘファイストス様は言葉を続ける。
「アナティアは探していたわ。そして候補もいた。でも……全員、心の中で自分の死の運命を受け入れていたの。だからどれだけ才能があっても自分の『技』を継承させなかった。だけどあなたは違う。……ジュラ、あなたは自分の死の運命に必死に抗っている。反逆している」
女神の言葉を聞いて、俺はまた驚いた。
その通りだ。
俺は自分の死を回避するために、抗うために必死にやってきた。
「『才能がなくてもいい。基本ができていれば文句は言わない。ただ……本気で運命に抗おうという人に自分の『技』を授ける』。アナティアは……そう言っていたわ」
「アナティア……」
「あなたと出会って……あなたの目を見て、思ったわ。あなたはアナティアと同じ、運命に抗う人の目をしているわ」
微笑みを浮かべながらヘファイストス様は俺の肩に手を置いた。
「できることがあったら言って。協力できることは協力するわ」
そう言い残して、ヘファイストス様は俺の前から去っていった。
残された俺はアナティアが眠っている墓に視線を向ける。
「アナティア……俺はお前が嫌いだ。才能がない俺に『技』を継承させたお前が……」
俺は強く歯噛みした。
「出会ったばかりの俺に……同類ってだからと言う理由で……命を削ってまで知識と技術を受け継がせた」
俺は右手で目を覆う。
「許さない。……絶対に許さない。だから……
俺は怒声を吐き出した。
「作り続けてやる!お前の『技』で色んなものを作って、自分の運命に抗ってやる!利用してやる!」
俺は叫び続けた。
「感謝してやる!お前を思い出しながら、武器や魔道具を作り続ける!何度もここに来て、『バカ野郎!』と言って花束を添えてやる!!俺が死ぬまで、俺はお前を忘れてやらない!!ずっと、ずっと……覚えてやる!!『お前は最高の職人だった』って!!」
俺は涙を流しながら、アナティアが眠る墓を睨んだ。
「嫌いだ!大っ嫌いだ!お前が作った武器を……大切に使ってやる!!」
俺は宣言する。
「絶対に……アナティアの『技』を……途絶えさせない!!絶対の……絶対だ!!」
ポタポタと雨が降り始める中、俺は怒りながら泣いた。
あの世で見ていろ、アナティア。
お前の『技』が最高で最強だって……このオラリオで轟かせてやる。
それが俺のできることだから。