バベルの塔の八階にある鍛冶場。
そこで俺は砥石で剣を研いでいた。
丁寧に、しかし力強く刃を磨く。
アナティアの主神であるヘファイストス様にお願いして、彼女の鍛冶場を売ってもらった。
値段は少々高かったが、今では俺専用の鍛冶場になっている。
少しでもアナティアのなにかを受け継ぎたかったから、買い取ったのだ。
剣が削れる音が、鍛冶場に響き渡った。
「……クソ、やっぱりキツイな」
作業を続けていると、俺はアナティアのことを思い出す。
彼女と話したこと。
彼女と製作の鍛錬したこと。
彼女が命をかけて武器を作っていたこと。
アナティアとの記憶が強制的に思い出させる。
「やっぱりスキルのせいだよな……これ」
スキル【小人族の製作技術】。
アナティアから受け継いだ技術であり、知識。
このスキルを発動中、俺は彼女の製作技術を再現できる。
そしてその代償として、作業中はアナティアのことを強制的に思い出させる。
「本当にキツイな……これ」
作業する度にアナティアのことを思い出し、胸が締め付けられるように痛い。
これが【小人族の製作技術】のデメリット。
精神的苦痛を与える力。
「本当……必ずデメリットあるよな、俺の魔法とスキルは」
アナティアのことを思い出し、精神的苦痛を感じながら俺は作業を続けた。
辛い。彼女のことを思い出すのは。
だがそれでもやらなければならない。
手を止めるわけにはいかない。
俺に許されるのは、運命に反逆すること。
そのためには力がいる。武器がいる。
故に作るのだ。
「絶対に……運命に抗ってやる」
俺は武器を作るのをやめなかった。
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武器を作り終えた俺はホームに向かって歩いていた。
外は薄暗く、空は黒い雲に覆われている。
微かに雨の臭いがする。
こりゃあ雨が降るな。
そう思いながら俺は街の中を歩いていた。
そして……ピタリと足を止める。
「……」
俺は周囲を見渡し、目を細める。
歩いてる途中まで人の気配があった。
だが今は人の気配がない。
周りには誰もいない。
あるのは静寂のみ。
「人払いの魔法……という感じか」
俺は右手首に付けた腕輪を指で撫でた。
すると私服姿の俺の身体を灰色と緑の軽装鎧が覆い、鎧の上に超硬金属製の装甲が追加される。
一瞬で鎧を纏った俺は呟く。
「三番武装・装備」
次の瞬間、なにもないところから黒い光沢を放つ戦斧―――《牛影》と円形の盾が出現。
戦斧を右手で握り締め、盾を左腕に装備した俺は構える。
周りを警戒し、敵の気配を探る。
敵の姿は見えない。
しかしなにかがいる。
そう思ったその時、
「遅いです」
女性の声が聞こえた。
振り返るとそこにいたのは仮面をつけた猫人。
全身を黒いスーツで覆い、両手から二本の短剣をぶら下げていた。
そしてその謎の猫人は短剣を素早く振るう。
音もなく迫りくる刃が俺に襲い掛かった。