「アルルさんの……正義?」
俺は彼女の言葉を理解できなかった。
新人殺しであるアルルさんに、闇派閥の暗殺者に正義があるのか?
正義の女神の眷属になった俺は、思わず怒鳴り声を上げようとした。
だが次のアルルさんの言葉を聞いて、俺の中にあった熱が一気に冷める。
「私には……弟たちがいるんです」
「!」
「親は早くに死んで……飢え死にしそうでした」
唇を噛み、拳を強く握り締めるアルルさん。
苦しい過去を思い出しているのか、彼女はとても辛そうに見えた。
「私は大切な弟たちを死なせないために、金が必要でした」
「まさか……」
「そうです」
俺はようやくわかった。
アルルさんの正義。
彼女の守りたいもの。
それは愛する弟たちだ。
「闇派閥の人たちは大金の代わりに私にギルドの受付嬢として働き、スパイと暗殺者をしろと命令してきました」
「アルルさん……」
「断る理由はありませんでした。おかげで弟たちは成人するまでの間は、ご飯に困らなくなりましたよ」
それを聞いて、俺は何も言えなかった。
ああ、勘違いをしていたぞ、俺は。
俺は正義の反対は、悪だと思っていた。
だが違う。
必ずしも正義の反対は悪ではない。
正義の反対は、別の正義であるときもある。
なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ。
俺は自分の愚かさを呪う。
「アルルさん……まだ、まだやり直せますよ」
「……無理ですよ」
アルルさんは悲しそうな顔で微笑みながら、首を左右に振る。
「私はたくさんの人を殺しました。今更……元には戻りませんし、後悔もしていません」
その言葉を告げたアルルさんは、二本の短剣を構える。
覚悟を決めた猫人の暗殺者。
鋭く細められた瞳が俺を見つめる。
「……そう、ですか……何を言っても無駄なんですね」
彼女には彼女の正義がある。
彼女には守りたいものがある。
それを理解した俺も、覚悟を決めた。
巨大な鋏を構え、俺はフゥーと息を吐く。
ポツリポツリと雨が降り、俺とアルルさんを濡らす。
「アルルさん……俺は正義の女神の眷属として」
これから行われるのは、猫人同士の正義の戦い。
互いの正義を貫くために、武器を構えて戦うだけ。
ならば俺はアストレア様の眷属として、これ以上の被害を出さないために俺は、
「あなたを殺します」
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冷たい雨が降る中、睨み合う二人の猫人。
そんな彼らを建物の上から見下ろす者がいた。
「……」
全身を黒衣で包んでいるその者は、ただ静かに見守る。
二人の猫人の決着を。
彼らがどう決着するか、誰もわからない。
神ですら知らない。
わかっている者がいるとすれば、それは運命以外ありえないだろう。