紅き魔王の燐廻転生 零(短編版) 作:るーしー
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第3話 魔王との旅路
サクラという魔族は私の中の魔族像を吹き飛ばした。
彼女は特徴的な耳と角以外は普通の人間だった。
初遭遇時の異常な魔力も鳴りをひそめ、そこそこ魔力が強い程度にしかわからない。
街道に出てから再び顔と頭を布で覆っており、たまにすれ違う旅人は誰も彼女を魔族だと気付かない。
そして話してみれば頭がまわり知識欲旺盛なのがわかる。
私から雑談まじりに現在地について聞き出し、そこからから派生して周辺の地理や国の事情から、日々を生きるための常識的なことまで尋ねて聞きた。
時折とても古い知識が垣間見え、いったい彼女はどれだけ長い時間を生きているのだろうかと疑問に思う。
そもそもなぜそんなに古い地上の知識を保有しているのか。
例を挙げよう。
サクラはどこからか金貨を取り出し「これはまだ使えるのか?」と聞いてきた。
手に取って調べてみれば、それは千年以上も前に滅んだ国のもので、私も現物を故郷の博物館でしか見たことがない。
寿命が五十年や百年程度しかない種族の国では、こんなもの誰一人わらからないだろう。
つまり美術品として扱うか、同質量の金としての価値しかない。
またある時は、世界樹を管理している一族の誰々はどうしているかだとか尋ねてくる。
それは本来であれば魔族どころか、他国の王族ですら知り得ない情報で、警戒や疑念よりも驚きの感情で心を埋め尽くされた。
気軽に雑談感覚で話題に上げていいものではない。
そんな中、私は一つの結論を導き出す。
「あなたは、魔界も天界もない時代から生きているのですか?」
何千年も昔────もともと、あらゆる種族は広大な大地、つまるところ今の地上で暮らしていた。
しかし繰り返される種族同士の戦争の過程で、大地は三つに分離してしまう。
それが天界、魔界、そして今私たち人類が暮らしている地上の成り立ちである。
どのような戦争であったかとか、どういった経緯だったのかとか、情報が散逸して細かいところはわからない。
故郷の最年長者も口を閉ざすし、女神の信徒で政治的側面が強い教会の口伝は信用ならなく、そのため神話の時代というのはもうただの物語でしかないのだ。
私たちが知る神話は誰かが作った創作物であり、歴史の真実を表したものではないのだ。
ゆえに当時を知る者の言は貴重である。
魔族の寿命は我々と同様に長いと聞く。
そのためサクラが昔々から、長い時間を生きている可能性は十分にあった。
神話の時代と言っても時代範囲はピンキリだし、そもそも神話なんて地上の人類が便宜上名付けているだけだが、それでも彼女は時代を生きた者だと私は思った。
「ああそうだね。他の魔族に比べて結構長生きしているよ」
答えは肯定。
予想通りであったが、であるなら以前感じた出鱈目な魔力量にも説明がつく。
積み上げた歴史が根本的に違うのだ。
何千年……下手すると1万年以上の積み上げと研鑽の結果、生身で大地の霊脈以上の魔力を保有している。
つまり彼女の魔力は大河であり、荘厳な山脈であり、大地の一部であった。
魔王ではないと言っていたが、もしかすると魔界では亜神や現人神のように崇められていたのではないだろうか。
地上では女神を信仰する一神教がほとんどだが、魔界の情報は少なく正確なところはわからない。
単純に考えれば地上と同じく邪神を信仰する一神教の可能性が一番高いが、地上にも精霊信仰や土地神信仰のようなものがあるため、正確なところは不明である。
「けれど長生きしているだけだよ。誰も私のいうこと聞いてくれないし、話を聞いてくれるのは仲の良い一部だけ」
サクラは少し困ったように笑みを浮かべた。
それはどういった感情なのだろうか。
やんちゃで困った弟妹を見る姉のようにも、愛弟子のダメなところが可愛くて仕方ない先生のようにも、はたまた大切な人に郷愁を感じるようにも見てとれた。
総じてわかるのは表情に出てしまうほどの深い愛情が込められていることだろう。
私たち人類にとって魔族とは不倶戴天の敵であるため、彼女が特別だといことは抜きにしても、魔族が他者に愛情を抱くなど考えてもいなかった。
……いや、考えても理解に及ばなかったのだろう。
百聞は一見にしかずというか、知識で知っているだけでは、そこからあるはずの当たり前に想像が及ばない。
知識ではわかるのだ。
魔族だって増えなければいけない。増えるのならそこに生殖行為があるのだろうし、であるならば愛情に類する何某かの感情が当事者間で存在する。
まさか何もないところから湧いて出るわけではあるまい。
だから疑問に思った。
そんな表情をするのに、その人たちは何故一緒にいないのか。
「その仲の良い人たちは一緒ではないのですか?」
単純な理屈として、大切なら一緒にいれば良いのに、と私は思った。
「うん。魔界に置いてきた。あまり地上の常識に馴染めそうになかったし、喧嘩や問題ばかり起こしそうだったしね」
サクラの知り合いがどんな魔族かはわからないが、一般的な魔族を想定して予想してみると、確かに彼女のいうような結末になりそうだった。
地上につれてこなかったのは正しい判断と言えるだろう。
「君はどう? 仲のいい人たちはいる?」
「家族とは仲が良いです。特に姉とは。
よく遊んだり、勉強を教えてもらって────」
家族のことならいくらでも話題が出てくる
そこで一拍あけてふと思った。
彼女の家族はどうなのだろうか。
「サクラは……ご家族はいらっしゃるのですか?」
視線を彼女に向け────
────瞬間、私は間違えを悟った
「どうだろうな……」
とても悲しそうな、心が締め付けられるような表情をサクラはしている。
そんな顔をしないで欲しいと言葉が出そうになった。
だってそれは、見ている方も寂しくて泣いてしまいそうになる……。
「……もう、思い出せない」
彼女は空を見上げ────
────どこかここではない遠い遠い場所に想いを馳せていた。
+++++++++++++++++++++++++
あれから数日。
野宿や小規模な村で寝床を借りながら移動し、ようやく私たちは大きな街にたどり着いた。
「ベッド、ふかふかだね」
「……そうですね」
帝国までの路銀を考えて贅沢はできないが、かといって節約するほど切羽詰まっているわけではないので、比較的品の良さそうな宿に止まることにした。
当初は魔王との戦いが目的だったので大した額を持ってこなかったが、こんなことになるならもっとお金を持っておけばよかったと少し後悔をする。
そうすればあと何段階か上の宿に泊まれただろう。
「本当はもっと良い部屋を借りたかったのですが。この部屋、魔法具も最低限しかありませんし」
ここの部屋に体を洗う水場やお手洗いはある。
しかしお湯を溜めて使える設備も、火を扱える料理ばない。
魔王討伐の軍事行動から、帝国への案内人になった今となっては、少々不満が出てしまう。
「私は構わないよ。そういったのには拘らない主義なんだ。
それよりほら。こっちにきて。気持ちいいよ」
サクラはベッドにうつ伏せに倒れながら、顔の半分をこちらに向けている。
私は部屋に付属していた椅子から立ち上がり、少し戸惑いながら彼女のベット腰をかけた。
「ぁ────」
そしてすぐに引き倒される。
抵抗する間もなくあっさりと。
「気持ちいいでしょ?」
顔がとても近い。
互いの吐息がかかる距離だ。
「ヘリアンの髪は綺麗だね」
サクラが私の髪に手を伸ばす。
普段頭頂部でまとめてポニーテールとしているが、部屋の中では解いていた。
さらにベッドに倒れ込んだことで私の髪は大きく広がっている。
彼女は広がる私の髪の一房を手にして、自身の手の中で遊び始めた。
「…………」
だがそれはサクラも同じだ。
もともと髪をまとめていなかったが、顔と頭を大布で覆っていたため部屋で解いていた。
彼女がベッドに倒れ込んだこともあわせて、普段全て見えない彼女の髪が解放されている。
真紅の髪。
紅い髪。
綺麗な髪だ。
私も触っていいのだろうか?
「まるで太陽みたいだ」
手を伸ばそうと意識した段階で、不意打ちがとんできて動揺する。
「まぁ、その金髪なので、はい……」
動揺から返答に困り曖昧に濁す。
しかし彼女は普段からこうなのだろうか。
ここ数日しか一緒にいないが、この僅かな時間でも相当距離感が近いことを感じてしまう。
出会って数日の私でこれなのだから、普段魔界で一緒にいる魔族にはどれだけ────
「ふふふ」
「どうしたのですか?」
「いや、太陽みたいって、通じたのがおかしくて」
そこ笑うところだろうか?
「いつもは通じないからね」
それはどういう意味か、この時は終ぞわからなかった。
+++++++++++++++++++++++++
私はともかく、サクラは地上に来たばかりで旅支度ができていない。
そのためこの街で旅に必要なものを買い揃えることになった。
最初は一緒に共用のものを買い揃え、途中から各々が必要な個々の必需品を買いに一時的に別行動となる。
そのため、今私は久しぶりに大通りで一人となっている。
「こういうのもの久しぶりですね」
故郷から出発して今の今まで単独行動はなかった。
だいたい寝てる時も起きている時も誰かが近くにいた。
いきなり一人になって寂しいとは感じなかったが、少しだけ違和感を覚えてしまう。
さっさと用事を済ませてしまおうと思い、確か魔法書を買うには────なんて考えていると人混みの中から悲鳴が聞こえてきた。
「────っ」
咄嗟に魔力で体を強化。
大きく飛び上がって悲鳴の主を探す。
「見つけた!」
街の中を流れる川。そこにかかる大きな橋の上に、悲鳴の主である女性が立っていた。
何事だろうかと女性の視線を探ると、どうやら川で誰かが溺れている。
小さい……おそらく、十歳にもなっていない子供だろう。
内陸の人間は泳ぐことが苦手だと聞く。
このままだと誰も助けられない。
私は二階建ての建物の屋根に魔法でゆっくり着地する。
次に川に飛び込むため足に力を込めたところで、誰かが私より早く川に飛び込んだ。
「っ──、サクラ!」
飛び込んだ人物は少し前に別行動をとっていたサクラだった。
溺れている子供さっと確保し、一息で橋の上まで飛び上がった。
まるで電光石火の救出劇。
悲鳴をあげた女性は子供の親というわけではなかったのか、駆け寄ることはせずほっと胸を撫で下ろしている。
周りの人たちも同様で、よかったよかったという空気になりながら、それぞれの目的地に足を向け始めていた。
「…………」
これ以上サクラが何かして注目されることもあるまい。
そう考えて、私は目立たないように路地裏に降りて、駆け足で橋の上に向かった。
「よしよし、もう大丈夫だよ」
サクラのそばに辿り着くと、彼女は川から助けた泣いている子供を慰めているところだった。
どうやら子供は女の子のようだ。
髪は茶髪で肩にかかるくらいの長さ。耳の形から猫系の獣人か。
珍しくもない、どこにでもいそうな平凡な童女。
彼女の両親はどこにいるのだろう。
「ヘリアン、いいところに来た。川に落ちて溺れているところを助けたんだ。
濡れた服をどうにかしたいから、何か魔法を使ってくれないかな?」
「構いませんが、それくらいサクラの方でできたのでは?」
疑問を覚えながら、ずぶ濡れの二人に対して私は温風を出す魔法を選択する。
範囲を指定して魔法を発動した。
最初は弱めで、少しずつ強くしていくのがコツだ。
「ああ、私は今魔法が使えないんだよ」
「────!」
瞬間、魔法の制御が狂いそうになる。
彼女は、今なんと言った?
魔法が使えない?
それだけ長く生きていてなぜ?
「あー気持ちいいな。
ほら、君も気持ちいいだろう。このお姉ちゃんの魔法だよ」
疑問はいくらでも浮かぶが、今のところは無視して目の前のことに集中する。
童女は魔法による温風に気づくと泣き止み、手をかざしたり、魔法発動の境界を触りながら遊び始めた。
制御の難易度が上がるので、あまりそういうことはしないで欲しいのだが、泣き止んだのならよしとしよう。
「……ほら、顔に巻いている布が取れていますよ」
私はほとんど取れていた布をサクラの顔と頭に巻き始めた
さっきの一連の動きでとれたのだろう。
今の所違和感を覚えた人間はいないようだが、あまり彼女の姿は晒していいものではない。
「…………」
おかしな魔族だ。
魔法が使えないと言ったのもそうだが、どういったメンタリティでここにいるのだろうか。
わざわざ目立って人間を助けるなんて普通ではあり得ない。
人類に敵対的ではないのはわかっていたが、見ず知らずの子供のためにリスクを犯すなんて……。
「ん? どうしたんだい?」
「…………いえ、何も」
サクラの顔に布を撒き終える。
同時に、二人ともあらかた乾いていたので魔法の方も止めた。
すると、ちょうど前方から童女を呼ぶ声が聞こえる。
名前は知らないが、まあ多分あっているだろう。
童女の方も近づいてくる女性に手を振っていた。
これにて一件落着か。
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「……魔法が使えないのは、意外でした」
頭を下げる女性と、その横で手を振る幼女。
それをサクラと並んで見送りながら、私は彼女に先ほどの言葉について話しかけていた。
「別おかしくもないだろう。誰だって得意なこと苦手なことはある」
「それはそうなのですが……」
魔法の利便性は凄まじい。
習得難易度は高いが、それに見合ったら利益が得られる。
長い時間生きている彼女がそれをわかっていないはずがないので、何か事情があるのだろうが。
「逆に君はとても魔法が上手いな。百年そこからではあの練度に到達しないだろう?」
「いえ、魔法を学び始めてまだ十年くらいです」
確かそれくらい前だ。
小さい頃は魔法に興味を持てなく、それに長命種特有のおおらかさで周りから何かを積極的に教えられるということがなかったのだ。
ただ同年代の子達はもっと小さい頃から学んでいたと思うが。
「十年!?」
しかしどうしてかサクラにとても驚かれた。
まだ数日程度の短い付き合いだが、ああこんな顔もするんだと感想を持つ。
「はい。十年です。子供の頃から体を動かすのが好きで、魔法に興味を持ったのは十三歳くらいでした」
剣、槍、弓、それ以外にも何かあれば手にとっていた気がする。
当時は神童とか呼ばれていたが、大成しなかったのだから才能がなかったのだろう。
こう言うのはなんだったか。
十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人、だったか。
まあ魔法の方で才能があって、どうにかこうにか「只の人」というのは避けられたが。
「なら二十三歳!?」
「あ、はい。そうですが」
何か問題でもあるのだろうか。
心当たりがあるとすれば短命種からすれば行き遅れの年齢だが、魔族である彼女が驚くことではないだろう。
「ご、ごめんねぇ……!」
そしてなぜかいきなり私は頭を彼女の胸の中に抱きしめられていた。
それもすっごい優しく甘やかすように。
わ、訳がわからない。本当に。
「二十三歳なんてまだまだ子供だろうに、連れ回したりしてぇ……!」
そ、そう言うことか。
故郷では子供扱いされていたが、まさか国の外でもこんな扱いを受けるとは。
見た目も中身ももう大人なのだから、こういうのは恥ずかしいからやめて欲しい。
おそらくさっきの童女の母親と私は年齢大差がないはずだ。
「あ、あの、やめてください。見られてます」
せっかく人が捌けてまばらになったのに、また視線がたくさん集まってきた。
この人は自分の立場をわかっているのだろうか?
「怖かったよね! ごめんねぇ!」
確かに初遭遇時には怖かったが……ってそうじゃない!
私にも羞恥心というものがある。
こんな道(橋)のど真ん中、幼女のように扱われるのは我慢ならない。
「あの、やめ、やめて、やめろぉっ!」
だからもう無理やり突き飛ばした。
本当バカじゃないのかこの人は!
「確かに二十三歳は我々にとって子供ですが、五十年しか生きれない短命種にとっては大人でしょう。それも一人前の」
ここは常識が違うのだからあわせて欲しい。
いや別に故郷なら問題無いかと言われると別の話で、そもそも恥ずかしいのでやめてくれという。
「それに私は早熟で体の成長も早かった。故郷では仕事にもついていました。子供扱いはやめてください」
このセリフは嫌いなのだから言わせないでほしい。
「子供扱いはやめてください」なんて、いかにも子供がいいそうで心から大切なものが削れていくのだ。
それに子供扱いというより、なんだか幼児扱いで変な気分になってしまう。
「そ、そうか……。でも本当に大丈夫か? 辛かったらすぐ言ってくれ。なんなら家まで送って────」
「もう、本当に大丈夫ですから!」
そんなこんなで街での一日目が終わっていった。
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「手も足も出なかった」
僕は地面に大の字に倒れ、空を見上げていた。
「あれより上がいるのか」
初めての大敗。
ここまで綺麗に負けたのはいつぶりか。
そもそもそんな経験あっただろうか。
目を瞑り、先ほど戦った魔族との会話を思い出す。
「凄まじい才能だ。女神から加護があることを差し引いても、十年そこらしか生きていいない人間の力じゃないよ」
褒められているが、その賞賛は素直に受け取れない。
何せ僕は彼女に一撃当てるどころか、かすり傷一つ負わせることができなかったのだ。
その結果、倒れて空を見上げて指一本動かせない。
「魔力量、質、操作、肉体操作、強度、あげればキリがないが、君より上の才能はそうそう見たことがない」
周りからよく言われる。
それを僕より強い人から言われるのだから内心少し照れてしまうも、直感が今の自分はまだまだだと言っている。
「あと数年もすれば私とも多少勝負になるはずだ」
どうだろう。
でも確かに少し時間はかかりそうだ。
こんなに他者を見上げることはなかったから彼女との距離感を把握しずらいけど、到達のための工程と道程はわかっている。
「鍛錬を積むといい。君なら、そもそも女神からの加護なんてなくともいくらでも成長できる。
あるいはその加護すら枷にしかならない」
それはちょっぴりわかった。
外付けの力を扱うより、自分自身を成長させるほうが強くなれる気がする。
唯一聖剣だけは役に立ちそうだ。
僕が強くなればなるほど聖剣も強くなっていく。
補助具としてはこれほど有用なものはない。
「これなら間に合うかもしれないな」
間に合うとは何にだろうか?
「さっきも言った通り私は魔王じゃない。本当の魔王はもっと後から来る」
そういえばそんなことを言っていたかもしれない。
しかし後から魔王がくるというのは初耳だ。
「そしてその魔王は私よりも強い」
驚愕────だったのかもしれない。
否定の言葉が浮かぶが、しかしここで彼女が嘘を言う理由はない。
であるなら本当なのだろう。
「軍勢は率いていないが質がいい。十人以上の最上級魔王が同時に攻めてくると考えてくれ」
魔王が十人以上……周りに教えても誰も信じてくれないだろう。
過去複数の魔王、あるいは魔王級が現れたことはない。
だからこそ勇者と魔王の一対一の均衡が保たれていたわけで、十体以上なんて想定外も甚だしい。
それとも勇者は複数選ばれるのだろうか。
僕以外にも何人も。
それはいいかもしれない。
楽しそうだ。
「今の君が一対一で戦っても、勝てるとは言えない」
強さは今の僕以上。
強敵だ。
あまりに絶望的だ。
僕以上の才能はそうそういないと目の前の彼女が言ったのだから、これから勇者が増えたとしても僕と同じく戦力不足。
ふと、魔族の女性が近づいていることに気づいた。
僕の横に腰を下ろして、手が伸びてくる。
「強くなりなさい」
髪を、頬を撫でられる。
「毎日努力を積み重ねなさい」
それがとても優しくて。
「守りたい人や物を思い浮かべなさい」
あまりに嬉しくて。
「君ならできるよ」
なんだか泣きそうになってしまって。
「救いたいモノを救うことが、守りたい世界を守ることが」
僕は動けないからだを無理やり動かし、彼女の手に手を重ねて────
「もし自信がついたなら会おう。また、戦ってあげる」
────強く頷いた。
「子供の君にとても大きなものを背負わせてしまうことを────許して欲しい」
手が離れていく。
寂寥感が溢れてくるが、彼女とはこれで最後じゃない。
「それじゃさようなら」
投げかけられた言葉を最後に、彼女は姿を消した
「…………」
悔しいし、寂しいし、悲しかった。
しかし次も会える。
また会えるのだ。
もっと強くなれば会ってもらえる。
何か言っていた難しい事情よりも、僕はまたあの魔族の女の人に会えることが嬉しかった。
「ああそうだ。地上は久々でよくわからないから、案内人として彼女を一年ほど借りていくよ」
しかし再会はすぐ果たされる。
すごく間抜けだけど、僕はとても嬉しかった。