紅き魔王の燐廻転生 零(短編版) 作:るーしー
あれから一年ほど経っただろうか。
私とサクラは帝国の都市にたどり着き、すっかりそこで溶け込んでいた。
定住先を見つけた時点で私は帰っていいと言われていたのだが、どうにもこの魔族を良くも悪くも放っておくことはできず、流れで同棲することになってしまった。
一応拠点がバレないように気を遣いつつ、あの手この手で関係各所と連絡はとっていただのが、どうやらサクラは相当に危険視されているらしい。
それもそうだろう。
ただ魔力で威圧しただけで神殿騎士の精鋭たちと、各国から集まった選りすぐりの実力者たちを完封して見せたのだ。
くわえて勇者も倒しているのだから、危険も危険、人類の危機的状況といわれてもそうだろうと同意しかできない。
だというのにこうしてサクラと仲良くしている私は人類の裏切り者なのだろうな。
では放り出したほうがよかったかというとそれは絶対に違うだろう。
心情的に寄り添いたくはあるし、人類側の実利的な視点でも目を離すなんてありえない。
秘密裏に潜伏場所を教えろとは非難されるだろうが、まあそれくらいだろう。
そんな平穏の中、サクラは唐突に告げた。
「そろそろ勇者に会いに行こう」
何がそろそろなのかわからない。
そもそもなぜ勇者に会いに行く必要があるのだろうか。
出会ったら真っ先に命を狙ってくるだろうし、ここまで隠れて潜伏していた意味がなくなる。
その旨を伝えたところ。
「一年前の約束でね。自信がついたらまた戦う約束なんだ」
初めて知った。
私は初めて知った。
「なんとなくもうよさそうだから、行こうかなって。あっちもその気みたいだし」
なんで一年も一緒にいてこんな大事なことを教えてくれなかったのだろうか。
それにあっちもその気とは、そしてなぜわかるのか……。
「それで、どこに向かうんですか?」
「あまり邪魔の入らないところがいいけど、この感じだと西の荒野部かな」
それなら比較的被害も出ず影響は少ないだろうが、だとしても戦いは周知のものとなり、後始末が大変なことになる。
主に私の仕事が増える。
睡眠時間が減る。
助けてほしい。
「ほどほどにしてくださいね。困るのは私ですから」
「ああ、ごめんごめん! そんなに怒らないでよ!」
怒ってない。
「怒ってないです」
「怒ってるじゃん! ごめんよぉ!」
だから怒ってない。
怒ってないぞ私は。
「怒ってないです」
もし怒ってたら手が出ているところだ。
「もし私が怒っていると思うなら反省してちゃんと教えてください」
「ほら当時はいろいろ大変だっただろ? 今回は大目に見てほしい」
当時というと一年前のことだろう。
確かにいろいろあって仕方なかったのだろうが、まぁ、うん。今回は不問にしよう。
「わかりましたよ」
今回は私が折れよう。
いや、今回も……か?
うん。考えるのはよそう。
「それでは勇者様を待たせるのもよくないのですぐ準備しましょう」
一年前、勇者はサクラに手も足も出なかったと聞く。
一年でその差が大きく縮まるとは思わないが、人類の希望の勇者の成長に少しだけ私は興味がわいた。
++++++++++++
目的地である帝国西の荒野に向かうと、すでに勇者は私たちを待っていた。
成長期だからか少し背が伸びたのだろうか。
少年というより童であったが、いまはしっかりと少年と認識できる
サクラは彼に声をかけた。
「一年ぶりだね」
「そうですね」
返事は簡素なものだ。
私は一年前のサクラと勇者の戦いを見ていない。
しかしサクラの圧勝というのは聞いているし、そうだろうなとも納得した。
だから、いくら勇者といえども一年ではまだまだ無理だろうと思っていたのだが、その予想は大きく覆されている。
「よく頑張ったね」
彼女もそれをわかっているのだろう。
心からの称賛を投げかけているように見受けられる。
研ぎ澄まされ、鍛え上げられた勇者は一年前とは別物だ。
はっきり言ってこれに勝てる存在がいるのだろうかと疑問に思う。
魔力は膨大、受ける圧から密度も極上、操作の正確さも一年前と同等以上であることを考慮すれば、彼は人外そのものだった。
魔法使いの視点から見るに、彼は人類のはるかはるか先を行っている。
サクラも規格外ではあるが、それに手が届くのではないか。
そう思わせる凄みが勇者にはあった。
「あなたに言ってもらえると頑張った甲斐がありました」
勇者は少年らしい照れた笑みを浮かべ、聖剣を鞘から抜いた。
「約束を果たします」
対してサクラは徒手空拳で構えをとった。
「ああ、私も約束を果たそう」
一瞬、間があき────
「っ…………!」
「っ…………!」
────両者は激突した。
++++++++++++
結果は語るべくもない。
「はぁはぁ……!」
「…………」
どれだけ勇者が鍛え、研ぎ澄まし、何度限界を超えた成長をしようとも────
「私の勝ちだ」
「はい……僕の、負けです…………」
────それでもサクラという規格外を超えることはできない。
勇者は大地に仰向けで倒れて一歩も動かない。
下手をしなくとも自力で立ち上がることすら困難なのだろう。
「…………すさまじい」
サクラに目を向ける。自然とため息がこぼれるように言葉が漏れた。
彼女は力量はこの大地そのものだ。
人の理では大地を壊せないように、勇者であったとしてもそれは同様である。
桁が違うし、方向性が違う。
彼女が保有する魔力は大地を潤し、霊脈をいくつも形作ることができるが、勇者はその領域にたどり着いていない。
「…………すさまじい」
勇者に目を向ける。自然と称賛の言葉がこぼれるように漏れた。
天賦の才だ。
来年はさらに強くなるだろう。
あるいはもっともっと強くなる。
遠くない未来に勇者がサクラに匹敵することは明らかだ。
将来戦えば、勝敗はわからない。
「…………しかし」
しかし今は無理だ。
サクラが一方的に動けず無防備であればどうにかなるだろうが、単純に何でもありの力量比べならどう足掻いても勝てはしない。
今回分かったことは勇者の潜在能力と将来のポテンシャル、そしてサクラという魔族がおそらくこの地上で最強の存在であるということ。
薄っすらとわかってはいたが、目の前で魅せられると、なんだか、その、感嘆のため息しか出てこなかった。
まるでおとぎ話の中にいるような日現実感。
例えるなら、私は語り部であり目の前で起こったことを読者に伝えるだけの地の分で、主人公はサクラと勇者の二人だろうか。
なんとも寂しい立ち位置だが不満はない。
まるで神話の英雄譚を垣間見れたかのような、そんな満足感が胸を打つ。
願わくば、どうか私もその英雄譚の一説になれるよう────