紅き魔王の燐廻転生 零(短編版)   作:るーしー

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本日2話目

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第5話 プロローグ

 

 

天を衝く摩天楼。

 

魔界には地上のように大地を照らす太陽などなく、争いで地形も変わるため方角を判断するための目印が乏しい。

広大な魔界で目指す方角がわからないというのは致命的で、場合によっては無限に等しい大地を永劫さまようことになる。

 

そんな魔界で永らく不変であり目につきやすいこの塔は、魔界に住む者にとって数少ない日々の印であった。

魔界で最も高い建造物であり、神話の時代よりも遥か昔から存在する遺物である。

 

天まで続く塔の階層は誰も知らず、頂点までたどり着いたものはいないと言われている。

加えて言うのであれば、この塔を根城としている複数の超越者たちにより、中に入ることすらままならない。

 

そんな塔の玉座の間で、魔界でもっとも剣呑な雰囲気を漂わせる黒い女が、十二名からなる配下と共に紅い女と相対していた。

 

「久しぶりね。愛しき親友。元気だった?」

 

玉座に座るのは黒く昏い女性だった。

闇というより闇の底を具現化したかのような暗黒性。

受ける印象はそのままに、髪も瞳も闇を思わせる深淵。

顔立ちは絶世の美女だが、纏う闇の属性を合わせて見てはいけないものを見てしまったかのような、何か致命的な一線を越えてしまった感覚を他者に与える。

 

言葉を選ばず評するならば────死の具現。

 

本来生きているのであれば、近づくことはあっても絶対に触れることのない禁忌の象徴。

それに触れるということは、一線を越えて戻れなくなる不可侵の不可逆性。

 

「少しやることがあってね。今回はその件であなたに逢いに来た」

 

相対するは草臥れ果てた虜囚のごとき紅き女。

 

相貌だけなら相対している美女と遜色ないほど整っているが、その裏側に見え隠れしてしまうのは擦り切れて四散しそうな襤褸切れだ。

時間という牢獄に捕らわれ、希望という拷問で摺りつぶされている。

終わりの見えない道を進む虜囚の女。

だが、その瞳だけは赤く紅く強い意志を宿し、そこから発する意志の力で壊れ果てようとする全身を繋ぎとめていた。

 

「噂では聞いているわ。地上へ向かうだとか」

 

「ああ」

 

黒い女の言葉に、紅い虜囚は肯定を返す。

 

「あなたは地上に出られないでしょう? 存在そのものが大きすぎて弾かれるわ」

 

どうするの? と黒い女は続ける。

 

対して虜囚は困った表情を浮かべながら返答した。

 

「私は魔力操作が得意だから、魔力を内部でとどめておけば問題ない」

 

魔界と地上の行き来は制限されている。

ただ一か所だけある闇に包まれた黒き大穴、そこだけが唯一正規の通路であり、それ以外では魔王であっても通行は不可能であった。

 

また、その大穴は常に大きくも小さくもなり、一定の大きさでとどまっていない。

矮小な魔族や人類であれば気に留めることでもないが、魔王や、魔王が率いる大軍勢は絶対に考慮に入れなければならない事象である。

 

「そう。寂しくなるわね」

 

玉座で女は本当に残念だと表情を曇らせる。

彼女にとって紅い虜囚は永年の親友であり朋友であり盟友であった。

互いに始まりを知る古参同士────だからこそ近くにいない状況は彼女にとって歓迎できるものでない。

 

「時が来れば私も地上へ向かうわ。────また逢いましょう」

 

魔界での両者の邂逅はこれで最後であった。

 

 

 

 

+++++++++++++++++++++

 

 

 

 

紅い虜囚────サクラが玉座の間を後にし、残ったのは玉座に座る黒い女と十二人配下だけであった。

 

その中の一人、全身をローブで隠した金髪の魔族の男が玉座に告げる。

 

「我が主、どうかあの女を殺す許可を」

 

男の目は憎悪と呪詛に濡れていた。

敬愛する主が愛しい恋人を迎えるように紅い虜囚を扱うことも、絶対の支配者である存在が他者を対等に慮ることも、友人との語らいを楽しそうにしていることも────すべてが気に入らない。

 

私怨であり、私情であり、主の想いを慮らない自己中心的な思考であった。

 

「良い。許可するわ」

 

だがそれを彼の主は躊躇なく許す。

 

そのどうしようもなさ、すべてが愛しいゆえに────

 

配下が愛しき親友に牙をむくといっても、結局のところ意味などないゆえに────

 

それがわからない魔族の男は大きく悍ましい笑みを作り、感謝の意を表すため平伏した。

 

「我が主の聡明な決断に感謝を。

つきましては、確実性を高めるため、誰かひとりお貸しいただければと思います」

 

「確かにあなたの『能力』では時間がかかるわね。であるなら必要なのは『剣』。

アルム・オクタウィウス=グラディウス────手伝ってあげて」

 

「御意」

 

並んだ配下の中から巨大なフルプレートアーマーを着込んだ大男が跪き肯定の言葉を返す。

 

「よろしい。ではすぐに始めなさい」

 

号令が下る。

 

金髪の魔族────ステラ=セクタス・ファートゥムと、アルム・オクタウィウス=グラディウスは玉座の前に出た。

 

「これから私がやつを一番殺しやすいタイミングに道を開く。

その時点で、ある程度弱らせることはできているはずだが、致命傷を与えるのは難しい」

 

ステラが虚空に手を伸ばしながらアルムに指示を出していく。

 

何もない空間に、何もない闇が現れた。

 

「だから弱らせたあの女におまえがとどめを刺せ。────その絶対の『剣』で」

 

闇が大きく開いていく。

直径三メートル以上だろうか、長身であるアルムでも問題なく呑み込めるほど穴は大きくなった。

その先には何も見えないが、ステラにはどうやら見えているらしい。

 

「行くぞ」

 

「…………」

 

闇の前にたたずんでいた両者は躊躇なく足を踏み出した。

当たり前だが玉座の間から消えてしまう。

 

そしてわずか二人になった闇の中で金色の魔族は呪いを紡ぐ────

 

「やつを見つけた」

 

それが始まりだった。

 

────勇者と紅き魔王サクラの二度目の邂逅に干渉する────

 

刹那、世界が震えた────まるで何か異物を流し込まれ不快感を覚えたかのように。

言葉ではない。だが意思はあった。呪いのごとき怨念でそれは世界の内側に形作られていく。

 

────両者は力試しで戦うが、心身が不調で意図しない事故が頻発する────

 

であればそれは世界に対する呪いだろうか? いいや違う。

運命を捻じ曲げながら金色の魔族はあらん限りの呪詛をサクラへ向けているのだ。

 

見たところ、その呪詛に最も近いのは聖剣のように見受けられるが、これは真逆の属性であり、同時に桁が違っていた。

 

────両者とも多数の傷を負い満身創痍となった────

 

ああ、では聖剣に集約される人々の祈りが尊いものであるのならば、彼が扱う呪いとはどこからくるどのようなものなのか。

根源は深く深く昏き闇につながっている。それを伺い知ることはきっと彼らにしかできはしない。

 

────特に紅き魔王サクラは聖剣の呪いで魔力を完全に破壊される────

 

そして呪詛は完成した────

 

本来起こりえないほどの小さな小さな奇跡を積み上げ、呪いで武装した超越者は因果の特異点を発生させた。

 

「できれば一太刀で殺せ。だめなら奥義で潰せ」

 

「ああ」

 

闇が開ける。

 

空は広く中空、眼下は荒野。

 

三人の人影が集まるそこへ、超越者が二柱舞い降りる────

 

 

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