先に行っておきます。某狼がボコボコにされるまで、後もうしばらくお待ち下さい。
✕月Å日 追記の追記
これはクロ姉ちゃんから以前聞いた話なのだが、かつてオラリオには正義と秩序を司る女神『アストレア』神を主神とする正義のファミリアがあったのだとか。
今でこそオラリオの治安維持と言えば『ガネーシャ・ファミリア』が取り仕切る事が当たり前となっているが、『アストレア・ファミリア』が活躍していた頃は、二つのファミリアが協同してオラリオの平和を守っていたらしい。
とは言え、この話が過去形で語られている通り、そのファミリアは壊滅したらしい。
噂によると
正義を語るファミリアが、その志すら打ち砕く暴力によって排除される。
結局いくら高潔な精神を持っていようが暴力で捻じ伏せられるという、実にオラリオらしい最期である。
やはり暴力……!! 暴力は全てを解決する……!!
さて、そんな正義のファミリアにかつて在籍していた『疾風』の二つ名を持つ高潔『だった』一人のエルフ。
それこそが今こうして、私の隣で殺意を漏らしながらも酌をしようとしている、浅葱色の髪をショートカットに整えた笹耳の美女。
「……お久しぶりですね。『
『リュー・リオン』さんである。
やや吊り目がちな大きな蒼い瞳は真っ直ぐに私を射貫いている。
恐らくだが必死で無表情を取り繕っているつもりなのだろうが、隠し切れぬ殺意と嫌悪が眉間の皺と、背後から漂う黒いオーラとして漏れ出ていた。
酒場の店員が出していい威圧感じゃないと思います。
「今日は何故わざわざこの店に。暫く音沙汰は無かったと思いますが」
音沙汰無かったのはアンタが怖かったからだよ。と突っ込みたい衝動に駆られながらも。
私はやんわりとした笑みを浮かべながら最近仲良くなった新人冒険者に誘われたので御同伴に預かった。と素直に答えた。
私の奥の席に座るベル君にチラリと目をやったリューさんは、バッと私に振り返り、再び険しい表情を浮かべた。
え? 何でよ?
「あのような純粋そうなヒューマンまで毒牙にかけるつもりですか、『
ちょっと待って欲しい。
もう色々と突っ込みたい事だらけではあるが、毒牙にかけるとはどういう事だろうか。
「知れた事! 貴方が散々に今までやって来た事だ。襲い掛かってきた冒険者だけならまだしも、命乞いする無力な女子供を容赦無く殺し、拐かし、売り飛ばす……見るからに新人である彼のような冒険者まで弄ぶなど、恥を知れ!」
まあ、何というか。想像通りの誤解をしていた。
ぶっちゃけ内心でかなり面倒臭く思っていたが、仲直りの場をセッティングしてくれたミアさんの顔を潰す訳にもいかない。
私はリューさんに根気強く弁明した。
彼は最近オラリオに来たばかりで右も左も知らない状態で、冒険者になる為に数々のファミリアを訪れたが上手くいかなかった事。
何処かの神の悪戯めいた言葉に従い、我がファミリアの悪評を知らずにニャンコ・ファミリアに入団を希望した事。
無責任な神々に騙されたままなのがあまりにも不憫だった為、我がファミリアの現状を教えた結果、やはり活動方針が合わなかったので、別のファミリアを紹介した事。
彼の所属するファミリアは立ち上げたばかりだが善良な女神が主神であり、結果的に私達が団員を紹介した事を強く感謝してくれた事。
そんな事情もあって、今ではファミリアぐるみの付き合いをしている。
つまりそこにいる彼、ベル君と私はレベル差こそあれど純粋な友人関係であるのだ。と。
「友人……? 殺戮と暴虐と女色に浸る事こそが生きる全てのような『
まるで珍妙な生物を見るような疑わしい半目で私を見やるリューさん。そろそろ怒っていいだろうか?
というか、女色に浸る。って何だ、女色って。
全く自慢にもならないが私はクロ姉ちゃんとイシュタル様の、一人と一柱としか夜を伴にした事は無い。
イシュタル・ファミリアの
……まあ、傭兵時代に娼婦で童貞を捨てようとしたら、実はそれが最近まで敵対していた傭兵グループが雇った暗殺者で、うっかり殺されかけた事がトラウマになっているだけだが。
それからリューさん『
『
「……貴方が同胞に行なってきた所業を見れば、妥当な通り名だと思いますが」
まあ、聞いて欲しい。恐らくだがリューさんは私という猫人を誤解している。
大体にして、その名前だと私が個人的にエルフを忌嫌い敵視しているように聞こえるではないか。
「貴方はエルフを憎んでいる訳では無い。と?」
当然だ。私は大きく頷き、リューさんの瞳を真っ直ぐに見つめながら誠心誠意、熱意を込めて語った。
私はエルフを特別憎んでいる訳でも無ければ、意識して殺害している訳でも無い。
私という猫人は本来なら、小心者の平和主義者であり、人畜無害の擬人化と言っても過言では無いのだ。
だがしかし、私の平和を壊そうとする愚かな敵対者ならば致し方なく。そう、致し方なく排除するしかないのだ。
どうせ排除すると決めた相手だ。最終的には私の目の前からいなくなるのだから、それに種族も性別も年齢も関係無い。
私は真の平等主義者である。故に敵対して来たファミリアに関する者ならば非戦闘員だろうが、戦う術を持たない幼い子供だろうが、神に無理やり恩恵を刻まれていた被害者だろうが、全て平等に排除する。
「貴方は……」
その手段で最も簡単で、最も後腐れの無い方法が殺害というだけなのだ。
故に私の平和を脅かす敵対者は須らく皆殺しにする。
とは言え私にも食わせなければならない主神と妹を持つ身。
生憎と生きていくには金が必要だ。だからこそ私は、こう考えたのだ。
ぶっ殺したならプラマイ0。でも売っ払ってしまえば大儲け出来るし、敵対した奴の顔も金輪際見なくて済むのだから実質、一石二鳥では?
本来なら敵対したなら皆等しく糞袋にすべきなのかもしれないが、家族と自身の最低限度文化的で幸福な生活の為ならば、私も寛容になろう。
故に低レベルの冒険者や特に器量の良い女子供は積極的に売っ払って来た。
私は大金を手にし、彼等は命を長らえる。
これぞ、まさにWin-Winの関係だ。
きっと今頃どこかの娼館で腰を振っている商品達も、私の慈悲深さに感謝すらしている事だろう。
「貴方は……!!」
さて、ここで話はエルフの事に戻る。
エルフという種族は総じて美しく美麗な顔立ちをしている。
どこに行っても美人は得。とばかりに非常に高値で売れるのだ。
男性冒険者の中には、普段は同性との性行為なんか興味無いけどエルフ程に綺麗な顔をしてるならイケる。なんて考えの人が意外と多いらしい。
つまり需要が他の種族よりも非常に大きいのだ。
そう、つまり私にとって敵対したエルフという存在は歩くアダマンタイト鉱山のような、大変有難い存在なのだ!!
故に私はエルフの事が嫌いでは無い。
いつかの戦争遊戯では無駄な出費を嫌って後先考えずに皆殺しにしてしまったが……
あれは本当に惜しいことをしたと思う。
高レベルのエルフならばイシュタル様もきっと相当な相当な高値で買い取って頂けたであろうに。
横着しないでちゃんと生け捕りにしておけば良かったと、未だに後悔しているぐらいなのだ。
そういった意味ではむしろ私はエルフに好意を寄せていると言っても間違いではない。
故に『
何故なら私はエルフが大好きだからだ!!
男も女も子供も老人さえも、高値が付くエルフという種族を私は愛していると言っても過言では無い!!
私はそう高らかにリューさんに宣言した。
「貴方は! 本当に……心の底から!! 軽蔑に値する
……えぇ? 何でぇ??
私の力説にリューさんは何故かめちゃくちゃブチ切れていらっしゃった。
「わざわざ気を使ってやったって言うのに盛大に喧嘩売ってるんじゃないよ! このバカ猫が!!」
更にはミアさんにまで理不尽な拳骨を喰らった。
私は当然、カウンターテーブルに顔面を埋める事となった。
「あの、モネコさん大丈夫ですか? 話自体は聞こえなかったんですけど、気が付いたらエルフの店員さんに怒鳴られてるし、店主さんからは殴られてるし……一体何があったんですか?」
「ベルさん、気にする必要無いですよ。こんな頭のおかしい人に近付き過ぎれば貴方の魂…じゃなくて、心が汚れてしまいます」
私が頭を抑えて悶絶しているとそんな声が聞こえて来た。
それにしてもシルさんはやけに仰々しい言い方をするものだ。
魂が汚れるなどと、神様でも無ければ分からない事情だろうに。
私が思わず半目になって睨んでいると、ふいに誰かに肩を叩かれた。
「これ、扉の前に落ちてたニャ。おミャーの落とし物に違いないニャ」
烏の濡羽よりも艷やかな黒髪とピンと立った耳が美しい、クロ姉ちゃんが素っ気無くそう言うと、私の手に素早く何かを握らせた。
「今は忙しいから無理だけど、後で相手をしてやるニャ。沢山ヴァリスを使わせてやるから覚悟しとくニャ」
早口でそう言うとクロ姉ちゃんは足早にテーブル席の方に向かって行く。
あまりの言葉少なさにどこか寂しい気持ちになっていると、ゾクゾクと背筋に鳥肌が立った。
別れ際に彼女のベルベットよりも極上の毛並みを持つ漆黒の尾が、私のソレにまるで舌を絡ませるように絡み付いて来たからだ。
思わず嬌声が漏れてしまいそうになる程の電撃的な快感に驚いた私は、咄嗟に彼女の背中を目で追った。
一瞬だけ私を振り返ったクロ姉ちゃんは置き土産とばかりに流し目に艶めかしいウィンク。
私の心臓がキュウッと音立てて小さくなり、顔が赤くなるのが自分でも分かる。
今のクロ姉ちゃんは、イシュタル・ファミリアが誇るどんな
今ではすっかり意識を切り替えたのだろう、脳天気な声を上げながらテーブル席で愛想を振り撒いている愛すべきお馬鹿キャラからは考えられない程の、いじらしさと妖艶さである。
やっぱり好きだなぁ。私は自分の恋心を再認識した。
と、ここでふいに視線を感じた。
思わず振り向くと、そこにはニヤニヤした悪戯な笑みを浮かべたシルさんと、顔を赤くして瞠目しているベル君の姿が。
どうやら恥ずかしい所を見られてしまったらしい。
「相変わらず熱々ですねー? クロエ目当てのお客さんって結構いらっしゃるんですよ? 全く、早くくっついちゃえばいいのにー」
「い、今のってそういう事。ですよね⁉ あの人がモネコさんがさっき言ってた片思いして人ですか……あれ? でも、あのお姉さんも満更でも無さそうな気が」
「そうなんですよベルさん!! この二人はお互い好き合っているというのに仲々くっつかないんです!! 彼女、クロエって名前なんですけど、あの娘ったらもう何度もモネコさんのホームで寝泊まりするぐらいの深い仲なのに!!」
「泊まり⁉ 深い仲⁉ ……お、大人の関係だぁ……!!」
止めて欲しい。ちょっと割と真剣に止めて欲しい。
先輩風を吹かせたいと思っていたベル君の前で、私の恋愛事情を話のネタにしないで欲しい。
それにシルさん。早くくっつけとは言うが、私はもう既に何度かクロ姉ちゃんに告白はしている。
だが残念ながら、全て断られている。
故に今は恋人未満、セックスフレンド以上の宙ぶらりんの関係なのだから。
「あれ? ……でも面接の時にモネコさん、とある美の女神と夜な夜なお泊り会をしてるって言ってた気が……」
「うわぁー堂々と浮気自慢ですかー流石はオラリオが誇るイカレポンチですねー最低ー」
「も、もしやモネコさんもハーレムを目指しているんじゃ……⁉」
「美の女神に夢中になる気持ちは分かりますけどー。よりにもよってイシュタルの下に通うなんて、品性が足りてないと思いまーす!!」
私は思わず天井を仰いだ。
何ということだ。勝手に顔を赤くして何やら誤解しているベル君はともかくとして、シルさんまで完全に悪ノリしてしまっている。
この流れはダメだ。延々に私が弄られ続けるヤツだ。
私は苦笑しながら、これ以上は勘弁して下さい!! と、頭を下げて頼み込む……フリをした。
カウンターテーブルの下にまで深く頭を下げた私は、然りげ無く右手に握った丸めた紙ゴミを静かに開く。
先程クロ姉ちゃんが「落とし物」と理由をつけて私に手渡して来たメモ書きだった。
果たしてそこにはこう書かれていた。
『道化/詮索/勇者/黒猫/対談/注意』
……成る程。
どうやらダンジョンであのファミリアと遭遇したアクシデントは尽く尾を引くらしい。
私は誰にも見られていない事をスキル
と同時に、足元に『ちびネコトカゲ』を召喚する。
ごく自然な動作で右手に握っていた丸めたメモ用紙を床に落とすと直ぐ様、ちびネコトカゲに小さく火を吹くように脳内で命令した。
ちびネコシリーズはどのキャラクターも掌サイズなので愛玩動物のような可愛らしさがある。
だがしかし、そんな愛嬌溢れるミニマムサイズからは考えられない火力を誇るファイヤーブレスを吐き出したちびネコトカゲは、命令通りに一瞬にして忠告が書かれたメモ用紙を灰にした。
すかさず召喚したばかりのちびネコトカゲを消滅させる。
これで証拠隠滅は完璧だろう。
とは言え面倒な事になった。
舌打ちを噛み殺し、どうにかせねば。と、これから先の対応を考え始めたその時。
「御予約のお客様ー御来店ニャー!!!!」
つい先日顔を合わせた面倒な集団が、再び姿を現したのだ。
-追記の追記のそのまた追記-
結局、この日は非常に長い一日となった。
次のページへ続く。
・ちびネコトカゲ
遠くの敵を攻撃できる遠距離型キャラ。
単発だけなら攻撃力はピカイチ、なキャラ。
を目指して成長中のちびにゃんこ。1500ヴァリス。
グロ描写
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入れろ。内臓抉り取れ。
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止めろ。自重しろ。