この回からアンチヘイト要素強くなりますのでロキ・ファミリアのファンの方はお気をつけ下さい。
✕月Å日 追記の追記の追記の追記
すっかり静寂の帳に包まれてしまった『豊饒の女主人』は、まるで嵐が過ぎ去ったような慌しさで、あっという間に人影が少なくなってしまった。
私はミアさんに内心で謝りつつも手拭いで火酒まみれになった右腕を拭い、愛用の猫の手グローブを付け直してから再び席に着く。
カウンターテーブルに肘をつきながら、だらしなくもたれ掛かるように脱力して、脚を組んだ。
我ながら毛並みの良い真っ白な尻尾を両腕の前まで持ち上げながら、チョンチョンと毛繕いをしつつ、私は穏やかな声色を意識してこう告げる。
あぁ。どうぞ、続けて下さい。
誰に言ったか。等とわざわざ書き記す必要も無いだろう。
既にこの店の中には従業員を除けば、私と偉大なる『ロキ・ファミリア』の面々しか居ないのだから。
「あ……? 何だテメェ喧嘩売ってんのかコラ?」
「止せベート! 座っていろ!!」
寂しくなった店内に何を思ったのか、酒が回っている狼人が私に向かって凄んで来たものの、高貴なるハイエルフ様の一言で制された。
はて? 遠慮する事など無いのだが。
私は努めて明るい微笑みを意識しながら続けた。
喧嘩を売るだなんてそんな恐ろしい真似はする筈も御座いません。
ただ先程からまるで舞台役者が歌い上げるかのような張りのある大声で、ロキ・ファミリアの皆さんが如何にして、見知らぬ新人冒険者を殺しかけたか。
その様子を面白可笑しく語っているものですから、続きが気になって仕方が無いのですよ。
最も、貴方達が一番聞かせてやりたかったであろう哀れな御本人様は、つい先程、今にも死んでしまいそうな顔色のまま逃げ出してしまいましたがね?
その瞬間、豊饒の女主人の空気は死んだ。
不思議な事である。
私は俗に言う男の娘。と称されるほどに女性的な顔立ちをしている猫人だ。
おまけに背丈も低く、ローブを被り耳と尻尾を隠してしまえば小人族と間違えられる程。
そんな見るからにひ弱で、劣弱で、虚弱で、薄弱な見た目の私を対し、天下の『ロキ・ファミリア』御一行様が何故、恐ろしい化物を見るような視線を送ってくるのか、とんと予想がつかない。
全く、世の中は不思議なことだらけである。
「話を遮って失礼するよ。済まないが、先ずはいくつか確認したい事があるんだ。質問しても構わないかな? 『
再び張り詰めたような静寂を破り、こうして行動を起こしたのは二つ名に相応しい勇者的な行いと言えるだろうか。
わざわざ席から立ち上がり、私の瞳を真っ直ぐに見詰める『フィン・ディムナ』さんからは酒気の残り香も宴の余韻もすっかり消え失せており、その表情は真剣そのものだった。
私はあえて彼から視線を外してミアさんにマタタビ酒を頼むと、尻尾を上下にプラプラさせるジェスチャーだけでフィンさんに先を促す。
都市を代表するロキ・ファミリアが誇る団長に対して、礼を失する態度だと思ったのだろうか。
幾人かの冒険者の視線に怒りが籠もっていくのが離れた席からでも分かるものの、フィンさんは表情一つ変える事なく私に問いかけた。
「今しがた店を飛び出して行った少年についてだよ。君の隣に座っていた彼は、友人か何かだろうか?」
私はミアさんから放り投げられたマタタビ酒を片手で受け取り、コルクを抜きながら答えた。
その通りだ。ファミリアの主神共々、仲良くさせて頂いている、まさにファミリア包みの付き合いをしている大切な。
……そう。とても大切な友人である。と。
そんな私の答えに何を思ったか、ロキ・ファミリアの中でも端に座っていたエルフの集団が何故かざわめいた。
恐らくだが、私に対してリューさんが抱いていた印象と同じようなモノを感じていたのだろう。
「そう、か。それからもう一つ。つい先程まで、無礼にも我々が笑い者にしていた新人冒険者と言うのは、やはり……」
何故か右手の親指をしきりに気にしているフィンさんを横目で眺めつつ、私はマタタビ酒をラッパ飲みした。
二度三度、喉を鳴らす音がどうにも大袈裟なくらいに店内に響き渡る。
嘆息一つ。私はどうにも気怠げな心持ちのまま、フィンさんの質問に肯定した。
仰る通り、彼が貴方達が殺しかけて、その上で嘲笑していたトマト野郎である。
「! ……やはり、か」
「うわちゃー、最悪やな」
頭痛を堪えるように顔をしかめたフィンさんの言葉に、独特の訛りが入った嘆きの声を上げたのはロキ神だ。
神に嘘は通じない。主神の反応に私が嘘偽りを申していない事を察したのかロキ・ファミリアの面々の反応は様々だった。
頭を抱えて嘆息したり、気不味そうに視線を床に落とす者はまだ良い。
だが緊迫した面持ちで戦闘態勢に入ろうとしたり、私を睨みつけている連中は一体どういうつもりなのだろう。
「はっ!! 何だ何だ? オトモダチを馬鹿にされてキレちまったって言うのかよ? 言いてぇ事があんだったら言ってみろよクズ野郎が!!」
「ベート!! いい加減にしないか!! 状況が分かっているのか⁉」
「あっ? うっせーよババア!! 喧嘩売って来たのは向こうだろうがぁっ!!」
そして特に酷いのが件の狼人である。
こちらに噛みついたと思ったら、今は止めに入ったハイエルフ様と口論している。
何と言うか、狂犬という言葉がピッタリだ。
「ベート、暫く黙っていろ。これは団長命令だ」
「あぁ!! テメェまで何を日和った事言ってんだよフィン!!」
「はぁ……ティオネ。暫く彼を抑えておいてくれ」
「はい! 団長!! ……テメェは団長に逆らってんじゃねえよ、この駄犬がっ!!」
フィンさんの一言で、ティオネ? というアマゾネスの女性がベートさんの後頭部を押し掴み、そのままテーブルに顔面を押し付けた。
ガツンッと勢いの良い音と共にテーブルに罅が入ったことから相当な力が込められているのだろう。
「ガッ⁉……テ、テメェ離しやがれバカゾネス⁉」
「馬鹿はテメェだろうが犬っころ。団長のお話の邪魔してんじゃねえ!! 黙って沈んでろ!!」
そのまま二度三度、激しく机に顔面を激突させる音が響いてようやく沈黙。
とは言え、未だに酔いが覚めてないであろう狼人は自らを押さえつけているアマゾネスと私を交互に睨みつけては唸声をあげているので、火種は燻りつつあるのだろうが。
と言うか彼は喧嘩を売られたと吠えているが、どちらかと言うと立場は真逆である事に気付いていないのだろうか?
いや、酔っ払いに理屈を説いたところで理解することを期待するのも無駄だろう。
さて、これからどうなるのか。
緊迫していた空気に、ほんの僅かな間が開いた、その瞬間だった。
文字通り、風のように金髪がたなびいた。
「ちょっ、アイズたん⁉」
「アイズ⁉」
時代に愛されていると言われれば納得してしまうような美しい少女、『アイズ・ヴァレンシュタイン』が疾風の如く駆け出し、そのまま吸い込まれるように店の入口に向かって行く。
どうやらロキ・ファミリア側も彼女のまさかの行動に困惑しているらしい。
事情は飲み込めないが、みすみすロキ・ファミリアの人間を逃がす訳にはいかないので、私は瞬時に入口の前に門番代わりとして『巨神ネコ』を召喚した。
「ニャッスルー!!」
「っ⁉」
2メートル超の人型で、おまけに筋骨隆々のにゃんこが両手を広げて通せん坊する様子に、流石に驚いたのだろう。
慌ててバックステップで距離を取ったアイズさんに私は問いかけた。
一体どこに行こうと言うのですか?
「謝らないと……あの子に、怖がらせちゃったから……!」
そう告げる彼女の表情は私から見ると殆ど変化が見られないものの、声色から判断するにどこか焦燥に駆られているようにも見える。
成る程。つまり貴方は店を飛び出した私の友人を追い掛けたいという訳ですね?
「そう、です。……だから、このモンスターを退けて下さいっ」
ふーん。ほーん。へー。
……それはひょっとしてギャグで言っているのか?
「……え?」
いや、普通に考えて無理に決まっているでしょうに。
私は目の前の少女のあまりの馬鹿馬鹿しい行動理由に酷い脱力感を感じると共に、すっかり呆れ返ってしまいマタタビ酒を喉に流し込んだ。
「ど、どうして⁉」
言うまでも無い。
大切な友人を始末しようという疑いがある人間を、ノコノコと追撃させはしないだけだ。
「始末って……え?」
そこまで捻くれた考えはしていないつもりなのだが。
何故か停止してしまったアイズさんに私は自分の考えを告げた。
そもそも、大前提として私はロキ・ファミリアに良い印象を持ってない。
今までは禄に関わりもなかった筈だというのに、昨日ダンジョンで遭遇した際はそこの気高いハイエルフ様に強引に問い詰められ、そこで這いつくばっている狼人にも絡まれた。
その場にはアイズさん。確か、貴女も居た筈なのだから私の言いたいことは分かるでしょう?
「えと、それは……ごめんなさい」
まあ別に貴女が謝る事では無い。
ちょっと困った顔で小さく頭を下げたアイズさんと、ついでに射殺さんとばかりに睨みつけている馬鹿なエルフの集団をスルーして私は話を続けた。
昨日の時点で、私はロキ・ファミリアという団体にこれ以上関わりたく無いと考えていた。
だと言うのに、ダメ押しのように、この有様だ。
故意でやったのか予想外のアクシデントに巻き込まれたかはともかくとして、結果としてあなた達ロキ・ファミリアの面々は他所の派閥の新人冒険者を殺しかけた。
にも関わらずその悪行を堂々と宣伝してやろうとばかりに、不特定多数のファミリアに属する様々な冒険者が集まる事で有名な酒場、豊饒の女主人にて自分達が殺しかけた未だ未熟な若葉をこっ酷くコケおろし、下劣な顔で嘲笑している。
しかもその相手はよりによって、私の大切な友人だ。
これで貴方達のファミリアに好印象を抱け。と言うのは土台無理な話だろう。
「返す言葉も無い。君の言う通りだよ『
フィンさんがそう言って頭を下げるも、ぶっちゃけ私に謝られても仕方ないという気持ちが強いし、今更である。
もはや、私の中でのロキ・ファミリアの印象は、最悪に近い。
大嫌いだからぶっちゃけ殺したいけど、敵対すると面倒臭いし返り討ち合う危険性も無きにしもあらずだし、まあ取り敢えず様子見で。
好感度で言うならば最底辺レベルと言ったところだろう。
悪印象を拭い去るのはこのままでは相当に難しい。というか普通に無理である。
私はマタタビ酒をラッパ飲みしながらこう続けた。
小人族の伝説的な勇者が団長をやっていようが。
高貴なるエルフの王族が副団長をやっていようが。
世界の中心、オラリオを代表する二大派閥の一つだろうが。
最強のファミリア候補だろうが何だろうが全くもって関係無い。
私から言わせてみれば貴方達ロキ・ファミリアという存在は、ただの品性下劣で邪悪極まり無い、性格破綻者の集団でしか無い。
そんな極悪人共の集まりに所属している人間が、逃げる友人をわざわざ追いかけようとしているのだ。
自分達の悪評を広げない為の口封じを疑うのも当然だろう。
「取り消して下さい!! 幾ら何でもその言葉だけは聞き捨てなりません!!」
立ち上がって声を張り上げたのは山吹色の髪色が目を引く、エルフの少女だった。
その眦は釣り上がり、顔が赤いのは怒りに染まっているからだろう。
「た、確かに私達は貴方の友人を悪く言ってしまいました。それは謝罪すべき事でしょう。ですが! アイズさんは口封じだなんて、そんな卑劣な真似をする人じゃありません!! そのような物言い、取り消して下さい!!」
エルフの少女はよっぽどアイズさんを慕っているのだろう。
年若い少女とは思えない剣幕で私に訴えかけた。
とは言え私の心は相変わらず平坦である。
あえて返事をするならば、そんなもん知っった事か。である。
「なっ、何ですって……⁉」
こちらからしてみれば、そこにいる『アイズ・ヴァレンシュタイン』という少女について知っている事など殆ど無い。というか無くて当然だろう。
さっきも言った通り、昨日まで私はそちらのファミリアに関わりが無かったのだ。
団長や副団長の情報や同じくレベル6である
「誰が下っ端だぶっ殺すぞ糞猫ォ゙!!」
「黙って聴いてりゃ散々に団長を侮辱しやがって!! ぶっ殺すぞテメェ!!」
「ちょっ⁉ ベートはともかくティオネまで⁉ 怒る気持ちは分かるけど落ち着いてよ⁉」
狼人とアマゾネスの姉妹らしき外野がうるさいが続ける。
私がそこに立っているアイズ・ヴァレンシュタインについて知っている事と言えば、その二つ名が『剣姫』である事。
そして私と同じレベル5である事。
それから何かレベルが上がるのが異様に早くてレコードホルダー? とかいう記録を持っている事ぐらい。
私が彼女について知っている事と言えばその程度である。
故に私は彼女の趣味も、趣向も、性格も、行動指針も知らないし、知った事では無い。
いくら貴方達がアイズさんは、闇討ちなどしない。と吠えたところで身内を必死こいて庇っているようにしか見えない。
貴方達はご自分達の事を誇り高く選ばれた集団に属していると信じているのかも知れないが、先程も言った通り私からしたらロキ・ファミリアは他所の派閥の新人冒険者を喜び勇んで窮地に陥れ、その痛ましい様を酒の肴に嘲笑する屑の集まりだ。
故にいくら貴方達がアイズさんを庇ったところで、私が彼女を信頼する動機にはなりははしないのだ。
「……っ!!」
山吹色のエルフに再び視線を合わせるも彼女は何が恐ろしいのか、先程まで真っ赤に染めていた表情を青白くしていた。
「いい加減にしろこの下劣な猫人め!!
「我らロキ・ファミリアに何たる暴言。抗争がしたいのか!」
「団長だけじゃなくてアイズまで……テメェ本気でぶっ殺すぞコラァ!!」
「ええい!! いい加減に落ち着かんかお主ら!! 許可無く口を開くでない! 何の為にフィンが頭を下げていると思っておるのじゃ!!」
山猿の如くキィキィ喚く外野を無視して私はアイズさんに以上の理由から貴女は信用出来ません。と告げた。
「違っ……うんです。私は、ただあの子に酷い事をしてしまったから……」
涙目になってまでそう訴えている彼女は本来なら悪い人間では無いのだろう。
だが私にとっては苛つくロキ・ファミリアに所属する彼女よりも、友人であるベル君の方が大切なのだ。
私はアイズさんに、彼の側には私の眷属も何人かつけているので防犯面にも心配は無い事を説明した。
故に貴女は余計な事をしないで、これ以上彼の心の安寧を乱さないでいて欲しいと素っ気無く告げた。
「私はっ……!!」
俯いて何やら落ち込んでいるアイズさんの横顔は相変わらず美しいものだった。
が、はっきり言ってあんまり興味がない。
正直、この時点でロキ・ファミリアに対しての怒りは殆ど冷めていた。
何というか、面倒臭くなってきたのだ。
「ちょい待ちや、自分。確かにウチらが悪いのは事実や。にしても……や。あんましウチの子イジメんなや」
酔いもすっかり覚め、そろそろお暇しようか。と考えていた時、アイズさんを庇うようにして私の目の前に立ったのはロキ神だった。
「ウチらが自分の連れを笑い者にしたのは確かや。そこはキチンとケジメつける。後日、あの子のとこのファミリア意地でも探し出して、そんできっちり頭下げさせて貰うつもりや」
結局ウチも一緒に笑ってしもたからなー。と大袈裟な動作で頭を振っていたロキ神は、ふいにゆっくりと私に視線を合わせると糸の様に細いその眼を開いた。
「でもな、こっちにも面子っつーものがあんねん。確かに自分もエエ気持ちはせんかったやろな。そこは詫び入れたるわ。でもな、自分。そろそろ言い過ぎやで。このままオドレにズケズケ文句言わせとったら、ウチらも『それなりな』オモテナシっちゅーのをせな、ならんくなる。ここらで、手打ちにしてくれんやろか?」
下手に出ているようなロキ神の言葉だが、所詮は神である。
まんじりと私の眼球を見詰める紅眼は苛立ちの炎が炯々と輝き、少しでも私を威圧しようと涙ぐましい努力をしていた。
故にマタタビ酒で喉を潤した後に、努めて柔らかな声色を意識してからこう言った。
子供の躾もロクに出来ない毒親の癖して、こういう時にだけしゃしゃり出て来るな。
そもそも地上における神の多くなど
何故か、この五分後。
私は顔面を蹴り飛ばされて路地裏に大の字で倒れていた。
-追記いっぱい-
戦闘開始
・巨神ネコ
超絶破壊力&強靭な体力を備えた最高級のキャラ(範囲攻撃)。1950ヴァリス。
グロ描写
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入れろ。内臓抉り取れ。
-
止めろ。自重しろ。