◯月‡日
昨日の入団希望者の面接について詳しく書き記そうと思う。
この世界で人間と呼ばれる存在はヒューマン以外にも様々である。
例えば私は猫の耳と尻尾を持った猫人だし、先日お世話になったイシュタル・ファミリアの戦闘娼婦は殆どが、褐色の肌と類稀なる闘争本能を持ったアマゾネスだ。
他にも小人族とかもいるのだが、目の前にチョコンと座る、見た目少年と青年の中間ぐらいの年頃の彼を兎人と勘違いした私は間違っているだろうか?
ふわふわの白い髪にルビーのような真っ赤な瞳の彼は、アルビノの兎人ではなく純粋なヒューマンだというから驚きだ。
華奢な身体に中性的な顔立ちが、ますます愛玩動物らしさを強調しているのだろう。
「べっ、ベル・クラネルです! よろしくお願いします!!」
元気が有って大変よろしい。入団希望者の『ベル・クラネル』君は14歳の少年だった。
オラリオから離れた小さな村で祖父と二人で暮らしていたが、唯一の家族であった祖父がつい最近他界。
それを契機に、小さい頃から読み聞かせられていた英雄譚に憧れて自らも冒険者となって、そうなるべし。と覚悟を決めてこのオラリオにやって来たらしい。
……うん。言っては何だが割と良くある話である。
「オラこんな村イヤだ」と都会に憧れるのは前世の日本でもこの異世界でも変わらないようだ。
そしてそんな人間は大抵都会の冷たい洗礼に心折られたり、悪人に骨の髄までしゃぶりつくされる運命になるというのも変わらない。
何と言うか、目の前にいるベル君は良くも悪くも冒険者に向いていない気がするのだ。
と、言うか英雄に夢見るタイプの冒険者志望なら、何で態々ウチみたいなキワモノのファミリアに来たのだろうか?
自慢では無いが我がファミリアはまともにダンジョンに潜ったことなどないのだが。
「えっと、こんな見た目だからかどこのファミリアでも殆ど門前払いでして……」
さもありなん。言ってはなんだが目の前のベル君は普通に弱そうである。
身体は細いし、背もそこまで高くない。田舎育ちの割には肌の色も白い。
おまけに小人族の次に不遇とされているヒューマン種なのだから、さぞ冷たい当たりをされて来たのだろう。
「それで、最後に面接して頂いた神様に『もしかしたら君でも受け入れてくれるかもしれないファミリアがある』って勧められてここに来ました」
ほうほう。なるほど。話は分かった。
うん。つまりアレだ。
ベル君。君、騙されてるよ?
「へ?」
いや、騙されているというか、からかわれたというか。
少なくともウチのファミリアを薦めたっていうその神様は悪意があってウチを紹介したと思うよ。
「そ、それってどういう……」
ポカンとしていたベル君の顔が、次第に青ざめていく様を見てると何だか可哀想になってきてしまう。
とりあえず私は目の前の哀れな少年に我がニャンコ・ファミリアについて丁寧に説明してあげた。
我がニャンコ・ファミリアは実質活動を休止している事。
ぶっちゃけダンジョンなんか潜るつもりもない事。
オラリオに移住した当初の『ヤンチャ』のせいで多くのファミリアから良く思われていない事。
何だったらつい最近も町中で殺されかけた事。
とまあ、割と善意で持って親切丁寧に説明をし、それでもどうしても望むなら神様に推薦してあげる旨を伝えると、ベル君はか細い声で。
「え、遠慮しておきます。あの、本当に失礼な事だとは思うんですけど……その、本当にごめんなさい」
と、真っ青な顔で深々と頭を下げて御断りをしてきた。
いや、まあ。英断だと思うよ?
ウチのファミリアにレベル1の新入りが入ったなんて聞いたら、逆恨みしている他所の連中に身柄を攫われて拷門のあげくメレンの港に沈められました。なんてオチになってもおかしくないし。
さて、ならば残念だけど話はここでオシマイ。とベル君を門前まで送ってあげようとしたところで、意外な事に我が妹が口を挟んで来た。
「あの……知り合いの神様が眷属を探してるみたいで。もし、良かったら……紹介しようかにゃ?」
この提案にベル君はパァッと顔を輝かせ。
「是非っ!! 是非お願いします!!」
と妹の両手をガシッと握って深々と頭を下げた。
男慣れしていない妹が顔を赤くしてワタワタしている様は何だか愉快だった。
と言うか妹よ。お前に神様の知り合いなんか居たのか?
「う、うん。買い出しに行く時、よく行く屋台の売り子を女神様がやっていてにゃ? 私も初対面の時に『良かったらボクの眷族にならないか?』って誘われたにゃ」
「オ、オラリオでは神様が屋台をやってるんですか?」
「バイトって言ってたにゃ? 居候先の神様に家を追い出されたからお金が無いって言ってたにゃ」
「えぇ……バイトって……神様がバイトですか……」
うん、まあ。地上では神様もご飯食べないと死んじゃうからね。
そういう事もあるのだろう。
ファンタジーな異世界なのに、神ですらバイトしなければ生活できないというのは、世知辛い世の中であるとは思うけど。
と言うわけで妹が件の神様に話を通しに行っている間、私はベル君と雑談しながら時間を潰していた。
私がレベル5であることや、割りと物騒な二つ名をつけられている事に驚かれたり。
ダンジョンに潜らずにどうやって生活しているのか? と聞かれたから素直に答えたり。
つい先程ベル君が手を握っていた我が妹も実はレベル2の上級冒険者である事に愕然としていたり。
我が主神の奇行について愚痴を聞いてもらったり。
そんな中で、私のツボに入った話がベル君の冒険者になりたい理由だった。
「英雄譚のような女の子との運命的な出逢いを求めてオラリオに来たんです!! お祖父ちゃんが言ってました!!『男ならハーレムを目指せ!!』って!!」
これには思わず飲んでいた赤マタタビ酒を吹き出した。
ハーレムの為にオラリオに来た。などと大真面目に宣言する少年がいるとは思わなかったからだ。
「ど、どうして笑うんですか⁉」
いやいや、これは誰でも笑うだろう。
もしも目の前の少年がもっと無骨で、男臭く、筋骨隆々な存在だったならその言葉にも納得してしまっただろうが、純真無垢という言葉がそっくりそのまま当て嵌まりそうな少年の口からまさか『ハーレム作りたいから上京しました』なんてニュアンスの言葉が飛び出すとは。
これが所謂ギャップ萌えというやつだろうか?
まあ、私の場合は萌えではなくただ笑えて来ただけなのだが。
何やら顔を真っ赤にしてプンプン怒りながらも、いかにハーレムが素晴らしいものかと語り続けるベル君を尻目に、私はしばらく腹を抱えて笑い転げるハメになった。
-追記-
なおこの後ヘソを曲げてしまったベル君への詫びも兼ねて、美の女神様との濃密な夜の思い出を聞かせてやった。
ベル君は先ほどとはまた別の意味で顔を真っ赤にしてモジモジしながら聴き入っており、妹が帰って来た時など、猥談に興じていたのが恥ずかしかったのか、露骨に動揺していた。
何と言うか、彼は冒険者だけではなくハーレムの主としての才能も無いのではないだろうか。
いくら何でも純粋過ぎやしないだろうか?
もちろんそんなベル君の純朴な反応が再びツボった私は暫く笑いが止まらなかった事を追記しておく。
◯月⇒日
最近、何やら本格的に神様がうるさい。
顔を合わせる度に。
「ダンジョンって、偉大だよねー」
「そうだ、ダンジョン、行こ」
「ダンジョンに出逢いを求めるのは間違いじゃないよね?」
「You!! ダンジョン行っちゃいなYo!!」
と非常にしつこくダンジョン探索を推してくるのだ。
一体全体どうしたことやら。割りと意味不明な言動が多い我が主神とは言え、今までこんなにも露骨に迷宮探索を薦めて来た事は無かったと言うのに。
そんな神様の反応にどうしたものかと頭を悩ませつつも酒を飲んでいた昼過ぎ、過去に私が召喚したキャラクターの一つである『飛脚ネコ』が手紙を持って来た。
この飛脚ネコは商売の関係上、何か用事ができた時にすぐに連絡が取れるようにとデメテル・ファミリアに常駐させている個体だ。
案の定、持ってきた手紙にはデメテル・ファミリアのマークが印字されており、その内容を要約すると『そちらの都合の良い時にお邪魔したい。また、デメテル様の神友にあたる一神を紹介したい』というものだった。
はて? 此方がデメテル・ファミリアに訪問する事はあっても、向こう側から此方に顔を出したいというのは滅多に無い。
おまけに神様の知り合いを紹介されたことなどこれまで一度も無かった。
色々と疑問が浮かんで来るものの、ヒキニートの私としては常日頃から暇をしているので『いつでもお待ちしてます』と返事をしたためて飛脚ネコに渡した。
その後も何度か飛脚ネコを介した手紙をやり取りの結果、明日の昼過ぎにデメテル様達が我がホームに来館なさることになった。
そうと決まれば妹と相談して御饗しの準備をしなければなるまい。
あと気がついたら神様は消えていた。
そう言えばデメテル様は我が主神と御会いしたことはあるのだろうか?
◯月⇔日
『窓辺の舞子にゃん』や『よいではにゃいか』、『ネコ七福神』に『ネコ舞踊ゴージャス』といった、和風建築である我がホーム『風雲にゃんこ塔』の景観にピッタリな我が眷属たるキャラクター達。
この世界で言う、極東風のキャラ達を配膳係と余興係と万が一の為の護衛を兼ねて宴会場に溢れんばかりに召喚。
仮にデメテル様がお連れになる神友とやらが良からぬ事を考えようとも、すぐさま鎮圧し、そのまま行方不明になって頂くには十分な戦力だろう。
昨日の晩から妹が必死に作り上げた料理の数々を神様の摘まみ食いから防衛したり。
窓際で召喚したせいで風に吹き飛ばされてしまった『凧にゃん』を慌てて回収したり。
照明代わりに召喚した『クリスタルネコビルダー』をうっかり妹が踏んでしまって大惨事を起こしたり。
予定時刻五分前になってから急に姿を消した神様にイライラしたり。
そんな感じでてんやわんやと騒いでいる間に、予定通りにお客様が我がホームへ御来場なさった。
「こんにちわ、モネコちゃん、ネネコちゃん。これ、ウチで取れたお野菜の盛り合わせよ。大した御土産じゃないけど是非食べてみてね」
そんな言葉と共に見惚れるような優しい笑顔を見せる女神デメテル様。
相変わらずの豊満なボディに目線が奪われそうになりつつも、デメテル様の御付きである眷属の女性から大きな籠いっぱいの野菜の詰め合わせを受けとった。
デメテル・ファミリアの野菜はとても美味しいので私も嬉しいが、何よりも妹がとても嬉しそうに尻尾を振っている。
調理を担当するものとして、やはり美味しい食材は有難いのだろう。
さて、デメテル様がこうして訪問されるのは予定通りだ。
お付きとして彼女の眷属が一緒に訪ねてくるのも、もちろん予想の範囲内である。
「モネコちゃん、紹介させてちょうだいな。彼女が私の神友の……」
「い、いやあ。常連のネネコ君はこの間ぶりだけど、君とは初めてだよね。ボ、ボクはヘスティア。デメテルの神友さ」
手紙に書いてあったデメテル様の神友の方がいるのも当然だ。
初めて見る神様だが、名前からしてギリシャ神話関係の一柱だろう。
アレだ、確か炉だか、釜だかを守っていて、慈愛とか家庭の円満だかを司っている神様だった気がする。
そんな慈愛に満ちている筈の女神様が、やけ怯えた様子でヒクついた作り笑顔を私に向けている気がするのだが。
まあ、そこは悲しいけれども、いつもの事とスルーをしようじゃないか。
「ええと、お久しぶりです。改めまして、『ヘスティア・ファミリア』団長になりました、ベル・クラネルです」
……うん。まあ、話の流れで。
というか、デメテル様と挨拶していた時から姿は見えていたから、ベル君とこうして再会するのも分かる。
と言うか、ハーレム目指してる少年がよりによってヘスティア神の眷属になるのは、ちょっとどうかと思うけど。
ギリシャ神話あんまり詳しくないけど彼女って確か処女神だよね? 確か。
処女神の率いるファミリアの団長が将来的にとは言え、女の子を囲う気満々って外聞が悪いなんてものじゃない気がするのだが。
まあ、そこら辺は後でツッコむとして。
うん、アレだ。問題はもう一組だ。
「『ヘファイストス・ファミリア』主神。『ヘファイストス』よ」
「手前はヘファイストス・ファミリア団長、『椿・コルブランド』だ。宜しく頼むぞ。オラリオ唯一の『
何故、この鍛冶師系ファミリア最大手の主神と、その団長であるレベル5まで我がホームに訪れたのだろうか?
あの、デメテル様? ちょっとご事情を説明願いたいのですが……?
ねえ、あの。ちょっと、目を逸らすの止めてもらっていいですかね、デメテル様?
……もしもーし?
-追記-
恐らくはそれなりに長い追記となるだろう。次のページへ続く。
・飛脚ネコ
昔ながらの荷運びを重んじる職人肌のネコ。
取り扱い厳重注意の大事な荷物を運送中(遠方範囲)。
赤い敵に超ダメージを与え、超獣特効を持つ。690ヴァリス。
・窓辺の舞妓にゃん
まだ見ぬ伊達男の旦那様を夢見るおてんば舞妓。
のつもりがいつの間にやらお局様。
天使をたまに止める(範囲攻撃)。825ヴァリス。
・よいではにゃいか
日本の伝統芸能を世界へ広めるために満を持してエキシビジョンで披露した。
お蔵入りのネタ(範囲攻撃)。1155ヴァリス。
・ネコ七福神
七つのありがたいご利益を一身に集めた福の神。
集めた福でみんなに幸せを振りまく、つもりはない。
属性を持つ敵に色んな妨害効果をたまに与える(遠方攻撃)。2400ヴァリス。
・ネコ舞踊ゴージャス
すべてのセニョリータに捧ぐ情熱のカルバナル。
日が昇るまで踊りあかそうミ・アモーレ。
超獣特効を持ち、生産コストが安い。75ヴァリス。
・凧にゃん
世の中をもっと笑顔にするためネコ達に遊ばれる人生を選んだキャラクター(遠方範囲攻撃)。
向かい風と美脚ネコからの苦情を一身に受ける。825ヴァリス。
・クリスタルネコビルダー
肉体にさらなる磨きをかけた永遠の輝きを放つネコ。
一瞬の輝きを大切にして生きている。属性を持たない。
敵をふっとばして動きを遅くする(一回攻撃)。450ヴァリス。
グロ描写
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入れろ。内臓抉り取れ。
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止めろ。自重しろ。