◯月※日 追記分
私には全く分からない感性なのだが、『ヘファイストス・ファミリア』団長こと、『椿・コルブランド』さんは工房に籠もって鍛冶仕事を終えた後に、どうにも無性に人恋しくなり、人肌に触れたくなるらしい。
「うーむ……想像以上に抱き心地が良いな。まさかフィン以上とは」
その結果がこの唐突な抱擁である。
かろうじて乳首をサラシで隠しただけの、ほぼ丸出しの双丘はゴム毬のような張りが有りつつ、それでいて沈み込むような柔らかさ。
クロ姉ちゃんが内心で血涙流して羨むだろう見事な大きさを誇る乳房に挟み込むような形で、私は暫くの間椿さんの胸元に抱き締められ続ける事となった。
私と同じレベル5の椿さんの腕力は中々に強烈で、少々息苦しさを感じる程に私の頭ごとグイグイと柔らかな肉の海に溺れさせんとばかりに引き込んで来る。
これ、多分一般人かレベル1相手だったら頭蓋がスイカ割りみたいな絵面になっていたのでは無いだろうか?
……まあ、私自身としては、彼女のような美しい女性に触れ合える事は役得だし、普通に嬉しい事ではある。
経験豊富。などと胸を張って言えるほどでは無いにしろ、女性とも女神とも一夜を供にした経験はあるので、初心丸出しのベル君のようにこの程度の触れ合いで慌てふためくような事も無い。
結局私は流されるまま、されるがままだった。
「よし、折角だからこのまま落ち着いて話が出来る場所まで案内してやろう。なーに、主神様の部屋ならじっくり話が出来るだろうて」
とは言え、まさか縫いぐるみの様に抱きしめられたままの状態で、バベル内を持ち運びされるとは思わなかったのだが。
ねえ、今の私完全に脚が宙ぶらりんなんですけど。
しかも今、椿さん。主神様の部屋って言わなかった?
え、私ヘファイストス様に、よりによって彼女の眷属の胸に頭を埋めた状態で御会いするのか?
大丈夫? キレられない? 金槌とかでぶん殴られないかしら。
偏見かもしれないが、職人は頑固で直ぐにキレるイメージがあるのだが。
「……で、気に入ったのもあって、抱き締めたまま此処まで連れて来た。と……はぁ。椿。貴女、他所のファミリアの団長相手に何をしてるのよ」
そんな心配をしつつ、柔肉に埋まって揺られること数分。
ようやく解放された私はヘファイストス様の私室? 神室? らしき部屋に居た。
主神が御座す一室として相応しい広さと荘厳さを放つ調度品の数々のせいか、どこか神聖な場所に思えてくる。
確かに腰を据えて話をするには向いているのかも知れない。
あくまで部屋主に許可を取った上での行動なら。の話ではあるのだが。
「何を言うか主神様。『
「……ねえ椿。確かその話は内密に。って私はしっかりと貴女に念を押した筈よね?]
「ふむ。どうだったかのう?」
そして私を置いてけ堀りにしたまま、なにやら意味深な会話が飛び交っているではないか。
何だろう。物凄く帰りたい。
と言うか前回の我がホームでの宴の時に察していたが、やはりヘファイストス様は私に思うところがあるらしい。
でもそう言う話は本人の居る所ではしてはいけないと思う。
「まあ主神様との小難しい話は後にするとして……何はともあれ、先ずはお主の武器の話だ。剣か? 槍か? それとも槌か? そう言えばお主の所のホームは中々ハイカラな極東風の造りであったなぁ。扱いは少々難しいが太刀や鎖鎌なんかでも良いぞ?」
ようやく話に交ざれると思ったのだが圧が凄い。
ヘファイストス・ファミリア一の鍛冶師の中の鍛冶師。
どうしよう。こんな美女にグイグイと迫られているのに、あんまり嬉しくない。
と言うか、本当にヘファイストス様の部屋で話を始めてしまうのか椿さんは。
神の前では嘘はつけない。堪忍した私は椿さんにある程度の事情を嘘偽りなく語った。
「何と、そうであったか。手前の早合点であったとは……」
神命でダンジョン探索を行うことになった事。
面談したギルド職員に装備を整えるように言われた事。
実は武器なんかは眷属となるキャラクターを召喚してから、借りてしまえば特に困らない事。
とは言え自分はダンジョン探索については全くの無知であり、どんな備えをしたら良いか分からなかった事。
そんな時に御土産で頂いた紹介状を思い出し軽い気持ちで店員に差し出したら、まさかのヘファイストス・ファミリア団長の登場に、驚き固まってる内にここまで連れて来られた事。
下手に神様に嘘認定され、ヘファイストス・ファミリアとの関係が悪くなるのを避ける為にも私は正直に全て吐いた。
「しかし、こう言っては何だが『戦争狂』よ。御主の召還する、その『にゃんこ』と言ったか? そいつらが使っている武器は使い物になるのか?」
そう首を傾げる椿さんの疑問についてはある程度予測していた。
まあ、実物を見てみないと疑われても仕方あるまい。
私は実際に『暗黒ネコ』を召喚してから包丁サイズの剣を取り上げて椿さんに渡した。
剣を取られて、ニャー……と悲しげな鳴き声をあげる暗黒ネコを一瞥する事すらせず、椿さんは興味深そうに暗黒ネコの剣を叩いたり眺めたりと何やら鑑定し始めた。
「ふむふむ。素材は何の変哲もない鉄に見えるが強度と切れ味は……面妖な。何故こんな粗い造りの数打ちが第一級武装にも劣らぬ切れ味を持っているのか」
剣を褒められたのが嬉しかったのか暗黒ネコが今度はニャー!と勢い良く鳴いた。
『バトルネコ』に経験値とプラス値をありったけ注ぎ込み、成長上限である+90まで育て上げた精鋭がこの暗黒ネコだ。
『にゃんこ大戦争』内では戦力的に弱い部類の基本キャラとは言え、中々に愛着のあるキャラクターでもある。
「これ程の武器を幾らでも召喚出来るとは……『戦争狂』は鍛冶師泣かせだな。ゴブニュ神の下に居る奴らが知ったら発狂しかねんぞ。それにしても、御主が迷宮探索に乗り出すとはなあ」
無言でこちらを観察するヘファイストス神の視線に内心で慄きつつも、取り敢えず全てゲロった私に対して、椿さんはこちらを眺めながら何やら唸り始めた。
私がダンジョンに潜ることに何やら思うことでもあるのだろう。
私自身も思うことはあるので気持ちは分かる。
全ては馬鹿な命令をしたウチの馬鹿神のせいだ。
まあ、とは言え。
武器は必要無い旨を説明しても、いきなり怒られたりしなくて良かったと私も内心では一安心だ。
「ふむ。ならば防具ならどうだ? 手前も試し切りの為にダンジョンへはよく潜るが、彼処は中々に油断出来ぬ場所よ。例えるなら千変万化の魑魅魍魎共の腹の中、と言ったところか。用心に用心を重ねたところで損はあるまい」
防具。防具と来たか。
防具という言葉でパッと思いつくのは小盾やカイトシールド、あとは金属鎧やチェーンメイル等だ。
ふむふむ、成る程。それらを装備した自分を想像してみる。
……どうしよう。やっぱりあんまり興味が無い。
ぶっちゃけこのまま普段着でダンジョン潜るつもりです。って言ったら流石に椿さんも怒るだろうか。
「防具と言えば、貴方や副団長のネネコも身につけているそのグローブは
内心で困り果てている私への助け船だろうか。
今までこちらを黙って観察するように単眼を向けていたヘファイストス様がそう尋ねて来た。
このグローブは物心ついた時から身に着けているもので、愛着はあるが防具というわけでは無い。私は素直に説明した。
妹も私と色違いのグローブを常に装着しているが、まさか
「そう言えば先日の宴の時にも兄妹揃って着けていたな。どれ、少し触らせて貰うぞ……ふむ。確かにモンスターの毛皮を使っている訳でも、特殊な金属を芯にしている訳でも無いな。ただの防寒具だな、これは」
仰るとおり。
防寒具としては中々優秀なのだ。夏場は逆に蒸れて暑いのだが。
「ならそのグローブを防具に変えてみたらどうかしら? せっかく身に着けている物なのだからある程度の防御力が無いと勿体無いわ」
「変わり種の籠手と考えれば……ふむ。なかなか面白いではないか」
いや、あのこれはキャラ的にも、私のアイデンティティー的なモノなので……。
あまり見た目を変えられると困ってしまうのですが。
「
「ほほう。随分と手前を持ち上げてくれるではないか主神様よ」
「あら? まさか出来ないの」
「それこそ、まさかであろう。さて、それでは早速作業に入るかな。先ずは素材をどうにかして収集せねばな」
何故か私を置いてけ堀りして話は纏まってしまったらしい。
まあ、見た目が変わらないなら問題は無い、か。
それにいい機会なのかも知れない。
もし良かったら。と前置きした上で私は椿さんにもう一つ注文をつける事にした。
「む? なんだ? やはり防具だけではなく武器も欲しくなったか?」
そうでは無い。立派な双球が押し付けられる程、ヤケにグイグイ来る椿さんをやんわりと押し退けつつ。
私は色違いの赤いグローブも一つ作ってくれないか、と頼んだ。
「ん? それ位なら手前は別に構わぬが……予備にでもするのか?」
それも違う。
ずっと先延ばしにしていたが、日頃の感謝の気持ちを込めて、妹へのプレゼントにしたいのだ。
「嗚呼、成る程な。お主の妹か。レベル2の副団長だったな。二つ名は……何だったかな? 主神様よ?」
「確か『
あの……頼むからその痛々しい二つ名で妹を呼ばないで欲しい。
オラリオに移住して来た時点で、非戦闘員ながらも既にレベル2に昇格していた妹につけられた二つ名なのだが、まあ痛々しいことこの上無い。
せめて♡を抜け♡を。オラリオの常識からすれば中々にカッコイイ二つ名に聴こえるらしいのだが、本人も嫌がっており、寧ろ最近になってようやく誰にも呼ばれなくなった事を喜んでいるぐらいなのだ。
「二つ名が気に食わない気持ちはよく理解る。手前も『
どうやら椿さんも自分の二つ名があまり好きでは無いらしい。
私も今でこそ『戦争狂』と呼ばれているが、最初につけられた二つ名は悲惨であった。
当時、私達が冒険者登録した翌日にタイミング悪くも
性別以外は『にゃんこ大戦争』のマスコットキャラクターの『もねこ』という存在に瓜二つの私は、容姿という点ではかなり目立った。
顔だけ見れば美少女なのだから、それはもう神々が騒ぎ立てた。
その結果初めて付けられた二つ名は『
……うん。取り敢えずこんな二つ名をつけた神は一発ぶん殴られても文句は言わせない。
私は自分達から戦争遊戯を吹っ掛けたことは無いが、念の為にウチの神様に誰が私にあんな二つ名をつけたのか聞いておいた方が良いかも知れない。
あくまでも念の為だが。
結局その後、直ぐに巻き込まれた初の戦争遊戯で私はレベル4に昇格。
改めて『
暫く経って戦争遊戯を繰り返し、連勝に次ぐ連戦を重ねた結果、レベル5に上がり現在の『戦争狂』という二つ名に落ち着いた。
……もはや慣れたとは言え、もうちょっと穏便な二つ名にならなかったのだろうか。
無理か。我ながら後半の戦争遊戯などでは、かなり『ヤンチャ』をした覚えもあるし。
「それにしても、妹へ揃いの装備をプレゼントだなんて、随分と可愛がっているのね。戦争遊戯での貴方からは想像も出来ないぐらい」
今までどこか真剣な面持ちだったヘファイストス様の口元が緩み、からかうような声色でそんな事を言った。
前々から妹へは何かしらプレゼントを贈ろうと考えていたのだが、女心が今一つ分からない私にはイイ物が思いつかないでいた。
以前イシュタル様を抱いた……というかほぼ抱かれた時にも相談してみたのだが。
「貴様……夜伽の時に他の女の名を出すな。戯けが」
と青筋を額に浮かせた美と性愛の女神に、更に苛烈に責め立てられることになってしまったのだ。
「まあ、褥の上での睦言の最中。肉親の事とは言え、確かに褒められた行為では無いな」
「イシュタルと親しいとは聞いてはいたけど……貴方、美の女神と一晩を過ごしたというのに、魅了されてないというの⁉」
腕を組み頷く椿さんには今では反省していると返したのだが、何やらヘファイストス様の様子がおかしい。
愕然とした面持ちのヘファイストス様に少々驚きながらも、私は正直にスキルの関係で魅了を含むあらゆる状態異常が効かない旨を伝えた。
「
ヘファイストス様は私に魅了が通じ無いことに、何やら非常に大きなショックを受けてしまったようだ。
何事か呟きながら完全に意識を遥か彼方に飛ばしてしまっている。
これは一体どういう事だろうか。
「嗚呼、神々の言う『じらいわーど』とやらか。迂闊であったわ。主神様の前にとって美の女神に関する話はでりけーと。な事であると言うのに」
何やらすっかり落ち込んでしまったのヘファイストス様を見て椿さんは、溜め息を履きながら頭を振った。
「腹立たしい……!! あの浮気者め……。嗚呼…子供ですら冷静な判断が出来ていると言うのに、何故あの時の私は! 殴りたい……切実に過去の自分をぶん殴ってやりたい!! いくら美しさに憧れたとは言え、あの女だけは止めておけと殴り飛ばしてでも止めてやりたい……!!」
……まあ、うん。あれだ。
どうやら私は無意識の内にヘファイストス様の地雷を踏んでしまったらしい。
「まあ、こうなってしまった主神様は暫く動けまい。ならば時間も勿体ない事だ。早速、手前の工房で籠手の設計について煮詰めようではないか」
怒り狂ったと思えば酷く落ち込んだりを繰り返す情緒不安定なヘファイストス様に、椿さんはあっさりと見切りをつけてしまったようだ。
早口でそう言うと、再び私を胸元に抱え込んだ。
ポヨンとした感触と共に、その優れたクッション性のせいで脳が物理的に揺れる。
それと同時に彼女の甘い薫りに蕩かされ、理性が比喩的にガクガクと揺れていく。
「さあさあ、善は急げよ。手前が運んでやるから『戦争狂』は大人しく運ばれておれ」
そんな言葉と共に、椿さんはレベル5の身体能力を存分に発揮しながら脱兎の如く駆け出した。
……いや、あの。 ヘファイストス様が態々、私を呼び出したという事は何か重要な話があったのでは?
大丈夫? このままフェードアウトして、後で文句とか言われない?
そんな私の疑問の声は。
椿さんの豊満な媚肉に遮られ、ついぞ誰にも聞き取られることは無かった。
-追記の追記-
結論から言うとこの日もダンジョンには潜れなかった。
そろそろ神様に文句を言われそうで憂鬱である。
・暗黒ネコ
ダークヒーローにも憧れた戦闘向きのキャラ。
「赤い敵」にめっぽう強い。300ヴァリス。
・バトルネコ
戦闘向きのキャラ。
「赤い敵」にめっぽう強い。300ヴァリス。
グロ描写
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入れろ。内臓抉り取れ。
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止めろ。自重しろ。